ハマスがテロ組織ではなく選挙によって正式に成立した政権与党であることは、パレスチナに関心を持つ人たちには周知のことなのでしょうが、米国・英国をはじめとする西側諸国(日本も含めて)は、恰もハマスは「パレスチナのテロ組織」であるかのような報じ方をして来ました。
ハマスのイスラエル侵攻以来、イスラエル軍は連日ガザを猛攻撃しそれをメディアは連日報じていますが、肝心のハマスについて説明は殆どなく、「テロ組織」だと明言はしないもののそう誤解されても構わないかのような報じ方をしています。
これについて「世に倦む日々」氏が掲題の記事を出し、イスラエルが敢えてハマス=テロ組織であるかのよう述べているのは、それによってパレスチナ人民を抹殺することに批判が集中しないように計算してのことだと述べています。同氏はイスラエルによるパレスチナ人民抹殺への執念を正確に見通しています。
ところで極右政治家ネタニヤフは、ガザ攻撃を開始する前には汚職がバレて不利な立場にあったので、それを挽回するために敢えてガザを徹底的に攻撃しているという見方もあります。それもある程度正しいのでしょうが、ネタニヤフは本気でガザからパレスチナ人を排除して全域をイスラエル国家にしようと考えている徹底したシオニストです。
15日付の「耕助のブログ」:No.1975 イスラエル・パレスチナの背景を理解する:イスラエルの「最終的な解決策」とは何か?
に、「ネタニヤフがサムエル記上15章3節(旧約聖書)を引用する映像が最近拡散した」として、聖書の以下の2行を紹介しています。
『いま行って、アマレクびとを撃ち滅ぼし、またそのものとすべてのもの、すなわち男
も女も、幼な子も、乳のみ子も、牛も羊も、らくだも、ろばもみな、ことごとく殺せ』
ここに「アマレクびと」とは、エジプトを逃れてきたイスラエル人がユダヤの地に入ろうとした際に既にそこを占拠していた遊牧民族のことで、イスラエル人はそのため50年間 砂漠を彷徨って時を待っていたのでした。
『いま行って・・・ことごとく殺せ』は、後にイスラエルの王となる少年サムエルが当時の王サウルに主の御告げとして伝えた言葉です。
もしもネタニヤフが、サウル王(や後のサムエル王)に自分を準えているのであれば、飛んでもない誇大妄想です。それこそはイスラエルによる大虐殺・ジェノサイド(大量殺害)であって非人道の極致と評されるものです。
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ハマスはテロ組織ではない - ハマスとは誰なのか、ハマスの概念定義をめぐる言説工作と情報戦
世に倦む日日 2023年11月21日
ハマスはテロリストではない。民主的な選挙を通じて過半数を得たパレスチナの政権体であり政治勢力である。10/7 の事件の後、この指摘を最初に私が聞いた発信者は岡真理であり、トルコのエルドアンだった。エルドアンは「ハマスはテロ組織ではなく、パレスチナ市民と土地を守るために戦う解放グループだ」と定義している。当を得た認識だ。ハマスについて表象を思い描くとき、最も分かりやすいのはIRA(アイルランド共和国軍)だろう。ポールとジョンの歌の中に登場する。1972年3月に発表された『アイルランドに平和を』は、とても衝撃的で、日本において影響力の大きなヒットソングだった。その少し前に「血の日曜日事件」があり、北アイルランド紛争が最も激化した時期で、当時日本のマスコミはIRAを暴力的な危険なテロ組織として報道していた。
中学生だった私も、世間常識に従ってIRAを恐いテロ組織と捉えていたが、ポールの歌詞に一発で感化され、印象が変わり、IRAの抵抗闘争を応援する一人になった。思春期の少年とカリスマのヒット曲とはそんな関係だろう。曲は英国では発売禁止となり、日本では洋楽チャート1位を数週間独走する市場結果を得た。解散して個々に活動を始めたビートルの活躍を誰もが夢中で追いかけていた。名曲である。そしてその後の政治展開も、ポールとジョンの主張が正しかったことを証明している。1993年、英国政府はシン・フェイン党の地位を認め、正式な交渉相手として和平協議を開始する。IRAは停戦に応じて武装闘争をやめた。現在、シン・フェイン党は北アイルランド自治議会で27議席を占めている。ハマスはまさにIRAと同じで、今後もIRAと同じ進路と境遇を辿るべき存在なのだ。
紛争勃発から1か月半。ガザの死者数は1万2000人を超え、うち子どもが5000人以上となった。世界は徐々に、ハマスを対話相手として認めよという空気に変わり始めている。日本でも 11/12 のNHK日曜討論で、防衛大名誉教授の立山良司がその旨の発言をした。11/14 に放送されたTBS報道1930も、『ハマスが変えた世界地図』のタイトルどおりの内容で、10/7 からの事態が世界政治を大きく動かした点を直視、ハマスの行動が目的を半ば達成させている現実を放送で認めていた。ハマスの意義を評価する意見が番組に浮上し、10月のようにハマスをテロ組織として全否定し一蹴する見方が退いていた。テレ朝が昼に放送している大下容子の番組も、ガザに同情的でイスラエルに批判的な論調に変わっている。昨日 11/19 のNHKの7時のニュースは、新宿で行われたデモを冒頭で紹介した。
日本のマスコミの論調の変化を確認できる。先週のハイライトは、ガザから帰国した日本赤十字社の河瀬佐知子の 11/17 の記者会見で、「私たちは悲劇の傍観者であってはいけない」という感動的なメッセージである。同夜のNHKの9時のニュースで放送されたが、ガザの病院の同僚の言葉は胸に染みた。大量殺戮が正当化されてショーのように延々と行われている。国連も国際人道法も何の役にも立っていない。歯止めになっていない。国際刑事裁判所はウクライナにのみ資源と精力を集中させ、ガザについては無視と不作為に徹し、不作為を正当化する言い訳に腐心している。国連人権高等弁務官もまるで存在感がない。マネキン人形のような男で、ジュネーブの部屋の奥に籠って官僚仕事に勤しんでいる。これほどのジェノサイドの中で、国連人権高等弁務官がマスコミに登場しない。緒方貞子は何と言うだろう。
先週、伊勢崎賢治が長周新聞に上げたインタビューを見た。力作だ。岡真理の講演に次ぐ見事な日本人の work であり、ぜひ英語やフランス語やスペイン語やアラビア語に翻訳されて世界中の人々に読んでもらいたい。外交実務や国際政治学の関係者にレビューしてもらいたい。3日かけて書き上げたらしいが、ボリュームがあって気迫が籠っている。分析の中身も秀逸だけれど、メッセージの表現に説得力がある。ストレートでラディカルな結論が力強く、世界の人々の想念を代弁している。岡真理の渾身の講演もそうだが、この知的迫力は今回の問題で登場する欧米の専門家には感じられないものだ。政治学の古典となるものは、アジテーションとして優れた作品が多い。シェイエスやマルクスもそうだし、ウェーバーの『職業としての政治』もそうだし、丸山真男の『近代日本の知識人』もそうである。引用しよう。(下記の紫色部分が引用個所)
イスラエル軍のガザ侵攻の成果がこれからどうなろうと、ハマスはすでに勝利しているのだ。(略)アメリカがやったこの20年間の対テロ戦は結局どうなったか? ISIS を生み、セルは世界に派生、拡大した。それ以前からも、世界中のムスリムを団結させるものは、やはりパレスチナ問題なのだ。
今、パレスチナの半世紀の苦悩の歴史を凝縮したような虐殺が、あの狭い地域で起きている。それをメディアが実況中継に近い形で全世界に可視化している。この強烈な負の記憶の蓄積と継承が、これから、どういう次の世代を生んでいくのか。それは、どんな大きな力が手を尽くしても止められないのだ。
パレスチナは、世界中のムスリムの心を一つにするCause(大義)だ。その抵抗の象徴ガザで、あれだけの世紀末的な悲劇が可視化されている。イスラム教徒を多く抱える国の民衆の団結は言うに及ばず、政府がアメリカと歩調を合わせる国々でも民衆運動の波は止まらない。
世界を巻き込む二つの大きな戦争が進行する現在、ことさら“正義”を言い募る言説空間が荒れ狂うなかで、今ほどに「停戦」を希求する言論空間が必要なときはないと僕は思う。ウクライナ戦争に関する本紙の論考で、再三再四、強調してきたが、停戦は“正義”を否定する営みではない。
今稿の本論は、ハマスとは誰かという問題だ。この政治言説の意味と真相は、未だよく掘り下げて分析されてないように思われる。イスラエルとアメリカは、そして親米親イスラエルのマスコミ論者は、ハマスを恐怖のテロ組織と決めつけて悪玉視し、恰もハマスというテロリストがガザ住民やガザ自治とは別に存在しているように言い上げている。ハマスに対して ISIS の表象を被せて中傷し、悪魔化したイメージでセメント化している。だが、よく考えてみよう。マスコミ報道に登場する「ガザ保健省」とはどういう機関なのだ。保健省と呼ぶ以上、その行政を統括する上部組織すなわち政府があることが想定されている。国連が運営しているわけでも、ファタハ自治政府が管轄しているわけでもない。曖昧な形式と態様だが、ガザには自治の公共政府機関がある。保険当局だけではない。警察があり、エネルギー機関があった。
ガザ警察の職員とハマス戦闘員とはどう違うのだろう。事実は、ガザの「自治政府」はハマスが運営しているのだ。ハマスは単に軍事部門だけの組織ではなく、ガザの日常の行政と統治を担う政権体なのである。西岸地区のファタハと同じ位置づけであり、選挙に勝利して以来、また(アメリカに武器支援された)ファタハとの内戦に勝利して以来、ガザの実効支配を続けてきた。国際社会がハマスを認めてないだけで、パレスチナ人はハマスを支持し、ハマスを現在の国家の正統政権だと認めている。われわれは第一に、その事実認識を確定させる必要がある。220万人も住民がいて、政府機構のない自治地区などない。つまり、アメリカやイスラエルやEUが、無条件に無前提に、殺害してよしと処刑許可証にハンコを押しているハマス組織員とは、ガザの自治機構の公務員なのである。実数で4-5万人いると言われている。
イスラエルと西側の言説は巧妙で、そうやって、恰もハマスとガザ住民とは別の存在であるようにフィクションを仮構し、ハマスはテロ組織だから構成員は皆殺しにしていいという世論を醸成して納得させている。けれども、問題はここからで、イスラエルの情報戦は、一方で、ハマスとガザ住民を区別する言説を撒きながら、同時に、ハマスとガザ住民を一体化し同一視する言説も吐いているのだ。ハマスとガザ住民は同じだと言い、「人間のような獣」だと言って無差別大量虐殺を正当化している。ハマスとガザ住民の概念区分をめぐるイスラエルのプロパガンダは、かく矛盾した構造となっていて、戦略的に使い分けがされているのだ。同一視は、イスラエルに本来的な認識で、国内向けであり、またある意味でこちらが真実と言っていい。ハマスとガザ住民は別物ではないのだから。別物視は、国際社会向けの情報戦である。
要するに、イスラエルはガザ住民を全員殺戮する意思だということだ。その目的と目標を実現するため、ハマスは恐怖のテロリストでガザ住民から浮き上がっているとプロパガンダを言ったり、ハマスもガザ住民も同じ「獣」だと(彼らのホンネだが)矛盾した断定を言ったり、言説の使い分けをしている。その帰結が、ハマスを殲滅すると言いつつ、1か月半で5000人の子どもを大量虐殺するという作戦結果なのである。犠牲者1万2千人の3分の2が女性と子ども。われわれは、まず、ハマスを ISIS と同じ悪魔のテロ組織と観念させるイスラエルの言説を、虚偽のプロパガンダ工作だと見抜かないといけない。その次に、われわれは、ハマスとガザ住民を一体視して「獣」と規定し、人権のない処刑対象にして攻撃殺害に狂奔するイスラエルのホンネの言説を暴露しないとけない。ハマスをめぐる矛盾した二つの言説を解剖しないといけない。
ハマスを悪魔化する言説は二重構造のレトリックで出来上がっている。その言説は、われわれをしてハマスの誤解に導き、われわれの意識をガザ無差別大量虐殺の容認に傾ける機能を持ったプロパガンダだ。ハマスについての正しい認識は、岡真理とエルドアンがシンプルに提供している。その対抗認識を普遍的真実として確立させよう。われわれは、ハマスをパレスチナ民族国家の正統政権と認め、嘗てのIRAの地位を与えないといけない。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。