世に倦む日々氏が掲題の記事を出しました。前回記事↓の続編です。
⇒(1月8日)救出活動やる気がない自衛隊と岸田官邸 なぜ施設科を本格投入しないのか
今回も多くのデータを読み込み、それらを緻密に整理した文章に仕上げていますが、一つひとつが迫力を持っているので、残念ながら簡単に要約することはできません。
世に倦む日々氏は今回も渾身の怒りを込めて、生き埋めになった人たちの生存限度とされている3日以内に自衛隊が現地に入るというのは最早無意味な願望になっているし、〝消防″もまた同様であると述べています。
そしてそれは「岸田文雄の無能や過失の所為ではな」く、安倍政権以来の「政策上の必然であり、現在の日本政府の災害対応の真実なのである」としています。
とはいうものの岸田首相に国のトップとしての自覚があるならば、同時に自衛隊のトップに居るものとしてかなりのことが出来た筈なのですが、そもそもそんな人物ではなかったことを現実が示しました。
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陸自普通科は3連隊のみ、消防も活動規模を増やさず - 資料検証で一目瞭然の政府の不作為
世に倦む日日 2024年1月9日
週末のTBSの番組で、輪島市で家屋倒壊によって妻と長女を失った男性が、「もっと早く来て欲しかったよ。来てたら助かったよ」と嘆く場面があった。土曜の報道特集と日曜のサンデーモーニングと二度放送された。取材する村瀬健介に詰問するような口調で訴えていた。あの現場は、7階建てのビルが倒壊して隣の家が押し潰された場所だ。大阪の緊急消防援助隊大隊が入って救出救助活動をしていた被災住居で、テレビがずっと張り付いて定点報道のニュースソース(報道番組のオカズ)にしていた。1/3 午後には消防が入っていたが、男性からすれば、救助部隊が来ない48時間が長すぎたのだろう。テレビがあの場所に張り付いた理由は、倒壊ビルが絵になる点と、生存者情報が確かで、すなわち「お手柄」の映像を期待できたからである。エキスパートの大阪大隊が選ばれたのもその所為だろう。
男性の憤りは、明らかに自衛隊に対して向けられていた。普通の人間なら、発災から48時間も経てば自衛隊が救出に来ると当然思う。あの場所は山奥ではなく輪島市の中心街で、1/2 にはマスコミ記者が大勢入って歩き回っていた。今回、本当に自衛隊の活動が少ない。救助活動をしていない。単に遅すぎるだけでなく、投入量が圧倒的に少ない。ビジビリティ(⇒可視性、視認性)がない。いつも「自衛隊の災害救助」を持ち上げて宣伝しまくるマスコミの絵の中に、今回は自衛隊の活動がほとんど入って来ない。倒壊家屋の救助活動現場の絵に迷彩服がない。消防と警察だけだ。一般の目からも異常に見える。発災から7日経った時点で、自衛隊による入浴支援提供の絵がテレビに出ないのも不思議だ。仮設浴場の設置は、自衛隊が救出救命活動をやらなくなった代替で始まった、自衛隊の人気維持目的のサービスだった。
本来、普通科の若く純粋な隊員は、夜通しでスコップをガツガツ地面に突き当てて、泥に埋まった土の中から生存者を掘り出す救出活動をやりたくて、国民に喝采される英雄になりたくて自衛隊に入ったのではないか。風呂焚きや瓦礫の片づけだけの奉仕は不本意だっただろう。今回は風呂焚きもなく、金沢の物資集配倉庫での物流作業と給水に勤しんでいる。自衛隊が少ない、動いてないという批判は、1/4 の時点でFLASHが上げていた。この記事は、東日本大震災時と比較して、今回の動員の規模の小ささと速度の遅さを指摘している。1/6 には東京新聞が批判記事を書いた。こちらは熊本地震時と初動と対照させ、今回はその僅か5分の1の人数でしかない事実を明らかにしている。今度の能登地震では自衛隊が動いてない。救助活動の主力を担っていない。この結論は明白で否定しようがないだろう。
だが、それに対して毎日新聞が政府の肩を持ち、熊本地震との違いがどうのと陳腐な言い訳を配信してやっている。普段はどんな記事でも有料で大半を隠すのに、自衛隊と政府の弁解を撒くときは無料で読ませている。毎日の系列のTBSは、1/7 深夜に報じた世論調査で、「政府の対応は迅速だと思う」が57%の多数という数字を出した。きわめて意外な結果であり、被災地能登の人々を傷つける卑劣な報道だ。1/6 の報道特集と 1/7 のサンモニを見ても、政府の災害対応について「迅速だ」という評価は持てなかった。現地取材した村瀬健介の感想を聴きたい。おそらく、上から、TBSの幹部が数字を工作して正当化しているのだろうし、政府がマスコミに指導しているのだろう。私の意見や推論を常に否定して貶めたい右翼や左翼や工作員は、誹謗中傷の常套句である「陰謀論」を使ってくれて結構である。
政府と自衛隊は、1/4 中に4600人まで増強だとか、1/6 に5400人体制に増強したとか、一生懸命に数字を作って釈明に精を上げてきた。だが、この中身が空っぽで粉飾された虚構である事実は、政府が公表した報告資料を検証すれば簡単に判明する。誰でも一目瞭然で分かる。前回記事と同様に、1/7 のPDFに注目しよう。92ページあり、P.50 から自衛隊についての記述がある。注目するべきは、派遣された部隊の内容である。前回、普通科(歩兵)が、第14・第44・第35の3連隊(金沢・久居・守山)しか派遣されてない問題点を指摘した。被災現場の倒壊家屋に入って救出救助活動を担当してきたのは、基本的に普通科の若い隊員である。今回、初動以来、普通科の派遣が全く追加されてない事実が分かる。1/4 のPDFと 1/7 のPDFを見比べてみよう。陸自で増派されているのは、第10飛行隊(八尾)、第10後方支援連隊(春日井)、第13後方支援隊(海田市)の3隊だ。
後方支援隊、すなわち兵站補給の部隊しか増派されていない。司馬遼太郎の言葉を使えば「輜重」の部隊だ。1/4 から 1/7 の3日間に普通科の増派がない。驚くべき事実であり、自衛隊の不作為を証明する決定的証拠だろう。だから、捜索現場に迷彩服の姿が現れないのである。今回の災害対応の任務に就いた自衛隊員の数は、1/3で1000人、1/4に2000人、1/5に4600人、1/6に5400人と発表され報道されている。が、中身を見ると、歩兵の数は 1/3 の時点から増えておらず変わってない。つまり、膨らし粉で膨らまされている。膨らし粉は何かと凝視すると、海自と空自の航空隊の追加が確認され、予備自衛官の招集の記述がある。まさか、招集通知した予備自衛官の数を含めたのだろうか。疑念を抱かされる。政府の公式資料を吟味検討するかぎり、派遣された自衛隊の隊員数は、1/3 から 1/6 の3日間で物理的に5倍になる規模ではない。普通科に増派の出動命令が下されていない。
政府の初動が遅かった問題は、ぜひ野党に国会で質問して追及していただきたい。私は、この問題は単なる失策の類ではなく、判断ミスに起因する結果ではないと考えている。政府の災害対策の根本にネオリベラリズムの棄民政策思想が居座っていて、初動での救助が意図的に回避されているのだ。安倍政権を中心とする15年ほどの間に、明らかに政府の災害対策の思想は変わった。救出救命救助に冷淡になり、部隊が迅速十分に出動しなくなった。アリバイ口実をマスコミで撒き、不作為を正当化する世論工作に精を出し、生存者の命が絶えるのを待って捜索活動を始めるようになった。自衛隊が典型的だが、今回、自衛隊だけでなく消防も同じく消極的で、小出しで見掛け倒しだった点が看取できる。具体的に、1/4 から 1/7 の間に現場で救助活動する隊員数が増えていない。1/4 資料の P.41 には2080人、1/7 資料の P.44 には2111人とある。記録には嘘を書けない。増派してないではないか。
この3日間、何があったかと言うと、輪島市が繰り返し悲鳴を上げていた。1/4 から 1/5 にかけて「輪島で生き埋め多数」という報道が出た。1/4 午前に北国新聞と共同とTBSが発している。おそらく輪島市長が訴えたのだろう。1/5 午前には時事が続いた。1/5 には輪島市長がマスコミの前に出て、下敷きで生き埋めになっている人数が100人超という見通しを言及している。この 1/4 から 1/5 の「輪島で生き埋め多数」という事態が、1/8 の安否不明者の急増に繋がっているのだ。輪島市だけで一気に250人増えた。1/8 の輪島市の安否不明者は、明らかに 1/4 の「生き埋め多数」の被災者のことだ。輪島市はずっと救助要請を出していたのである。それに応える救助隊の規模がなかった。救助隊を政府が派遣しなかった。その結果、4日後に安否不明者の激増となった。冒頭に紹介した男性の「来てたら助かったよ」の言葉は、まさにその救助隊不在(政府の不作為)への恨みを示している。
自衛隊だけでなく消防もやる気がないのだ。救出救助活動を本気でする気がないのだ。派遣の実働規模を増やしていない。1/6 のNHKのニュースを見ていたら、東京消防庁の出初式の様子が放送され、オレンジの制服を来たレスキュー隊が行進する図があった。衝撃で仰天した。能登で過酷な本番任務に就いているはずの、日本で最も高度な技能と装備を持った災害レスキュー隊である東京消防庁のエキスパート集団が、能登ではなく東京ビックサイト駐車場で旗を持って歩いていた。輪島市長が「生き埋めは三桁いく」と悲痛に訴えた翌日の出来事である。しかも、こっそり隠れてやるならいざ知らず、堂々とNHKのニュースで行進を見せて国民の前で不作為正当化のデモンストレーションを演じたのだ。被災者と被災地に対する愚弄と挑発ではないか。憤りを抑えられない。消防と政府の本音が見える。野党には、通常国会で消防庁長官にこの問題を問い質していただきたい。NHKも裏切りの共犯だ。
前回書いたように、緊急消防援助隊は全国で6000人の体制である。少なくとも初動で半分、2日後に3分の2を動員していいし、今回の能登の震災ではその規模のリソース投入が必要だっただろう。この任務のために平素訓練を重ねている組織なのだ。自衛隊が(米軍の意向で)災害出動に消極化している状況は誰の目にも歴然だったから、尚の事、消防と警察が救助活動の主役になるべきで、消防レスキューが機動力を発揮すべきだった。何で東京で出初式イベントなどに興じているのか。迂闊とか勘違いでは説明できない。そこには政策的不作為の本質があり、上からの方針と決定がある。消防の緊急消防援助隊も、警察の広域緊急援助隊も、1995年の阪神大震災を契機に新設された取り組みであり、制度設計された当初の理念はまともで、本気で国民を救助する国の実働部隊だった。それが見せかけのアリバイ組織に変質して役立たずになるのは安倍政権のときである。災害時の政府対応が自己責任原理に転換した。
だから、御嶽山噴火でも、熊本地震でも、西日本豪雨でも、国のレスキュー隊は初動が遅く、投入規模が小さく、様子見と言い訳ばかりに終始していた。生存者の可能性がなくなった後で、オレンジとブルーと迷彩服が仲良く遺体回収作業を始め、その絵をマスコミに撮らせていた。今回、民間はそれなりに頑張って救助救援活動を行っている。伊藤忠商事の会長は、ファミリーマートの社員が100人物資を担いで被災地に届けていると、1/4 にテレビで語っていた。能登北部のコンビニはファミリーマートしかないという事情があるらしい。人力徒歩で物資搬送とは立派ではないか。「道路が寸断されているから入れない」などと言い訳をしていない。山崎製パンと敷島製パンとフジパンの3社は、1/2 から 1/6 までに20万個のパンをトラックで届けた。どうして民間がここまでやっているのに、自衛隊や消防がこの体たらくなのか。そして、政府を監視する使命を持つはずのマスコミが、政府の怠慢と不作為を批判しないのか。
実際、自衛隊が全く救出救援の部隊を出さないのも、消防が増派の手抜きをしているのも、偶然ではなく、また岸田文雄の無能や過失の所為ではないのだ。政策上の必然であり、現在の日本政府の災害対応の真実なのである。読者の皆様は、昨年 3/4 にNHKで放送されたドラマ『南海トラフ巨大地震』をご記憶だろうか。高知県の黒潮町が被災舞台に設定され、鈴木保奈美や高橋克己が出演していた。ドラマには明確なメッセージがあり、すなわち発災から3日間は国(自衛隊や消防等)は救助救援に来ないから、国民が自己責任で命を守れという示達と教導が強調されていた。1週間分の水と食料を備蓄しておきましょうという義務(努力目標)を何度も言っていた記憶がある。3/11 を前にしての、政府からの「教育啓蒙番組」であり、国の方針を国民に告知させる放送だった。私はすぐにX(ツイッター)に投稿して、政府の棄民政策の刷り込みだと批判した記憶がある。
NHKの昨年のドラマには解説のページがあり、関西大学の永田尚三が登場して政府の棄民政策を代弁している。南海トラフ巨大地震のシミュレーションという仕立てだが、要するに、列島の辺鄙な地域で地震・津波が起きたときは、72時間以内に(自衛隊は無論のこと)緊急消防援助隊が来るという可能性はないから、国民はそんな甘い期待と想定はせず、それぞれ自己責任で準備し覚悟しとけという冷酷な行政メッセージだ。1年も経たぬ間に、能登でその本番を迎え、NHKで予告したとおりの(棄民)政策が遂行されてしまった。偶然や過失ではないのだ。元旦だから救助が遅れたわけではない。国は最早従来イメージの救助活動そのものをしないのだ。政策として打ち切ったのだ。「無駄なコスト」だから。昨年のNHKドラマこそ、まさしく今回の救助活動不全の種明かしであり、政府の本心を証拠づける重要資料だ。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。