櫻井ジャーナルに掲題の記事が載りました。
天然ガスは単に暖房用の燃料になるだけでなく、アンモニア、メタノール、エチレンなどの様々な化学製品の原料でもあります(その点は原油なども同じです)。
EUおいて経済的に優等生であったドイツは、米英によってロシアからドイツに天然ガスを送る「ノードストリーム(NS1)」と「ノードストリーム2(NS2)」が爆破されたことで、豊富で安価なロシア産の天然ガスの供給がなくなり急速に経済が悪化し、いまは大変な困窮状態に陥っています。
日本は、ウクライナ侵攻で米国がロシアへの経済封鎖を行った際にも、安定的なエネルギー供給を確保するためにサハリン1の運営権益の30%を維持し、LNG(液化天然ガス)の輸入を継続してきました。
それについて米国のスコット・ベッセント財務長官は10月15日、「日本がロシアからのエネルギー輸入を停止することを期待する」と加藤勝信財務大臣に伝えたということです。日本がロシアからの輸入を続けていることにトランプが苛立っているというわけです。
彼が今月下旬に日本を訪問したときに、この問題でどんな要求がされるのか注目されます。
それとは別に、耕助のブログに「トランプは認知機能が低下しているのか?」という記事が載りましたので併せて紹介します。トランプの思考パターンが認知機能の低下によるものなのか、それとも本来の個性に過ぎないのかはまだ釈然としませんが。
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米財務長官が加藤財務大臣にロシア産エネルギーの輸入を停止するように伝えた
櫻井ジャーナル 2025.10.17
アメリカのスコット・ベッセント財務長官10月15日、日本がロシアからのエネルギー輸入を停止することを期待すると加藤勝信財務大臣に伝えたという。日本がロシアからLNG(液化天然ガス)を輸入していることにドナルド・トランプ大統領が苛立っているようだ。そのトランプは今月下旬に東京を訪問する。
この件に関し、加藤大臣は「ウクライナ和平を公正な方法で実現するため、G7諸国と連携するという基本原則に基づき、日本としてできることはすべて行う」と述べた。
ロシアからドイツへ天然ガスをバルト海経由で輸送するために建設されたパイプライン、「ノードストリーム(NS1)」と「ノードストリーム2(NS2)」が爆破されたのは2022年9月26日から27日にかけてのこと。このテロ工作でドイツの製造業は壊滅的な打撃を受け、社会は崩壊しつつあるが、その影響はヨーロッパ全域に広がっている。この冬の寒波が襲来した場合、壊滅的な状況になりかねない。
調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュは2023年2月8日、アメリカ海軍のダイバーがノルウェーの手を借りてノードストリームを破壊したとする記事を発表している。ジョー・バイデン大統領は2021年後半にジェイク・サリバン国家安全保障補佐官を中心とする対ロシア工作のためのチームを編成、そして2022年初頭にはCIAがサリバンのチームに対し、パイプライン爆破を進言して実行させたというのだ。
ロシア連邦保安庁(FSB)の元長官で、現在は大統領補佐官を務めているニコライ・パトルシェフは9月7日、NS1とNS2の爆破テロは高度に訓練されたNATO特殊部隊の関与のもとで計画、監督、実行された可能性が高く、実行犯は深海での作戦経験が豊富で、バルト海での活動にも精通していたとしている。こうした条件に合致する情報機関として彼はイギリスの特殊舟艇部隊(SBS)を挙げている。
状況を考えると、アメリカかイギリスの情報機関や特殊部隊が実行した可能性が高いのだが、そもそもバラク・オバマ政権が2013年11月から14年2月にかけてキエフでクーデターを仕掛けた理由のひとつは、ロシア産天然ガスをヨーロッパへ運ぶパイプラインを抑えることにあったと見られている。そのウクライナを迂回するために建設されたのがNS1とNS2だった。
その2022年、サハリンでの天然ガス開発に参加している日本にもアメリカから圧力がかかっていた。このプロジェクトから手を引くように日本や欧米の企業にアメリカ政府は圧力をかけ、エクソンモービルは2022年3月にロシア事業からの撤退を決めているのだが、日本は継続を決めている。
プロジェクトのひとつであるサハリン1の場合、エクソンモービルが運営権益30%を保有、日本のサハリン石油ガス開発も同じく30%を保有していた。サハリン石油ガス開発には経済産業省、伊藤忠商事、丸紅、石油資源開発などが共同出資している。エクソンモービルはアメリカ政府の圧力で撤退を決めた。
もうひとつのプロジェクトであるサハリン2では2022年8月に三井物産と三菱商事が新たな運営会社であるサハリンスカヤ・エネルギヤに出資参画することを明らかにした。出資比率はそれぞれ12.5%と10%。27.5%を保有していたイギリスのシェルは同年2月に撤退、ロシアのガスプロムが50%プラスから77.5%へ増加している。
日本はロシア産天然ガスの開発を重要だと認識、アメリカの圧力を跳ね除けて出資を継続したのだろうが、その決定が発表される直前、2022年7月8日に安倍晋三は射殺された。
ウクライナではロシア軍の進撃スピードが速まり、NATO/アメリカは苛立っている。2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」で西側諸国に煮湯を飲まされたロシアは停戦に応じる気配は感じられない。
アンゲラ・メルケル元独首相やフランソワ・オランド元仏大統領は、ミンスク1やミンスク2はキエフ政権の戦力を増強する時間稼ぎが目的にすぎなかったことを認めている。
ドナルド・トランプ米大統領は、ロシアの収入源である天然ガスや石油のマーケットを潰し、クレムリンに圧力を加えて停戦に持ち込もうとしているのだろうが、すでにアメリカの「制裁」がロシアや中国より西側諸国に大きなダメージを与えることが明確になっている。
日本にとって、2023年時点でロシアからのLNG輸入量はオーストラリアとマレーシアに次ぐ第3位。総輸入量の9.3%を占めていた。日本がロシアからのエネルギー輸入を停止した場合、日本も厳しい冬を過ごさなければならない。
トランプはインドのナレンドラ・モディ首相がロシアから石油を購入しなくなることを確約したと宣伝したが、これまでの流れから考えて疑問だ。これが事実なら、インドのエネルギー戦略が劇的に転換することを意味するのだが、この発言の翌日、エネルギー政策の選択は国民の利益に基づいているとインド政府は改めて表明した。エネルギー価格の安定と安定供給の確保がエネルギー政策の優先事項だとしているインド政府は割安なロシア産原油に依存している。この状況が変化したとは思えない。トランプ大統領はプロレスのマイクパフォーマンスをまた行ったという見方もある。
【追加】
インド外務省のランディール・ジャイスワル報道官は10月16日の記者会見で、10月15日にインドとアメリカの首脳が会談したとは承知していないと語った。BRICSが崩壊するという話も含め、ドナルド・トランプ米大統領の話は何者かの作り話だということであろう。
トランプは認知機能が低下しているのか?
耕助のブログNo. 2686 2025年10月16日
Is Trump in Cognition Decline?
内部の見解では大統領は衰えを見せているという。 by Seymour Hersh
「固執」とは、心理学、精神医学、言語病理学の分野で使用される医学用語であり、特定の反応、例えば繰り返されるフレーズや不適切な身振りなどを指す。この症状は、PTSD、自閉症、外傷性脳損傷、認知症の患者に最もよく見られる。この用語は近親者が認知症の進行に苦しんでいた数年にわたって何度も耳にした。9月30日、バージニア州クアンティコにある海兵隊基地で、ドナルド・トランプ大統領が71分間にわたる演説を行った。その演説は、理由は明らかになっていないが、ピート・ヘグセス(陸軍州兵予備役少佐、現在は戦争長官)の指示により800人もの米軍の指導者が集まったものだった。
ヘグセスによる熱狂的な開会のスピーチの後、大統領はいつものように、個人的な歴史と不満を織り交ぜたスピーチを行った。特に、自分が解決していない国際的な危機を解決したと繰り返し主張したことに、ホワイトハウスの側近たちの中には彼の精神的な混乱がさらに進み、ハイレベルな会議に集中できなくなっていることの兆候だと理解している者もいる。
最も重要なのは、大小問わず群衆を巧みに操ることに長けていたトランプが、もはや「場の空気を読む」ことができなくなった、つまり、聴衆を素早く見極めて、ショーマンとしての本能で聴衆を魅了することができなくなったことだ。トランプが外交政策に関する見解を概説し、集まった将軍や提督たちに大統領に質問する機会を与えることは、新鮮で、おそらく前例のないことだっただろう。ところが実際は、トランプの最大の功績を再演する結果となった。大統領は自らの最も誤った見解の一つ、すなわち「戦争終結者」としての自己像を聞かされたのだ。「大統領になってから私は数多くの戦争を終結させてきた」とトランプは言った。「7つの戦争を終結させ、昨日も史上最大の戦争を終結させかけた」と、イスラエルとハマス間の継続中の協議に言及した。「とはいえ」とトランプは付け加えた。「パキスタンとインドの件は別だ。両国とも核保有国で、非常に重大だった。あれも私が解決した」世界中の新聞がトランプの主張する問題の経緯や、紛争を「解決する」という定義そのものに異議を唱える記事を数多く報じている。
数分後、トランプは軍隊の募集問題解決の成功談から話題を変え、ジョー・バイデンが在任中に書類や手紙にオートペン(自動署名機)を使用していたとする報道について長々と非難を始めた。
この暴露から、バイデン政権下で最善を尽くして勤務したと思われる上級将校たちの前で数分間にわたる前大統領に対する理性を失った軽蔑の言葉を浴びせた。トランプはオートペンの使用に怒りを表した。オートペンは政府関係者や民間人で大量の郵便物を受け取る者には一般的な手法だ。トランプは、軍隊の募集状況は、「オートペンの4年間、私はバイデンをオートペンと呼ぼう」に激減したと述べた。そして集まった将軍や提督たちに問いかけた。「あなたがたの書類をオートペンで署名されたらどう思う?」
議事録によれば、彼はこう続けた:
将軍の書類に署名する時、私たちは美しい紙を使う。豪華な紙だ。もっと金箔を足せと言った。彼らはそれだけの価値がある。A級の紙をくれ、D級じゃない。昔はゴミみたいな紙に署名してた。この男は将軍になるんだろう?
そうだ。こんな紙は使いたくない。分厚くて美しい高級紙を使いたい。地位にふさわしい本物の金箔文字を使いたい。それらは美しいが――だが、君たちの署名が、裏方の子供がオートペンで代筆するなんてどう思う?私はまず君たち、提督や将軍たちのことを考えた。
誰かが一生をかけて努力し、士官学校かどこかに進む。どうやってそこにたどり着いたかはともかく、何年も努力を重ねて、ついに提督や将軍になる。そうなると、ご存知の通りアメリカ合衆国大統領が任命状に署名する。その任命状は美しく飾られる。
そして私がサインする――実は、自分のサインが本当に好きなんだ。皆、私のサインを気に入ってる。だから私は誇りを持って署名した。そしていつも思う、どうしてこれをオートペンで済ませられるのか?まったく失礼極まりない。私にとって完全に無礼だ。そして結局、バイデンがやったことのほとんどはオートペンで処理されていた。息子のハンターに恩赦を与えた時だけは例外で、あれだけは彼が自ら署名した。
そしてその署名は、私が見た中で最悪だった。ひどいものだ――オートペンの署名の方がずっとマシだ。だが指導者として、我々が軍服を着る全ての愛国者に対して誓うべきは、アメリカ軍が単に数年ではなく、今後何十年、何世代にもわたり、何世紀にもわたって、地球上で最も強力で圧倒的な存在であり続けることを保証することだ。
上記の段落は、トランプ政権内部の一部関係者が「大統領の能力が明らかに衰え、場の空気を読めなくなった」と確信するに至った根拠を補強するものである。
ここで付記しておくが、このコラム読者なら覚えているかもしれない。私はジョー・バイデンが在任最後の数年間に能力が衰えたことについて繰り返し論じてきた。当時と現在には重要な違いがある。バイデン政権では、大統領の認知機能の低下(その兆候は二期目の終わり頃に現れ始めた)について公に真実を語る内部関係者は一人もいなかった。私の情報は間接的なもので、大統領と会談したりエアフォースワンで交流した者たちから得たものだった。ごく少数のケースでは大統領の精神的疲労や文章を完結できない様子を直接目撃したジャーナリストや元上院議員からの情報もあった。
トランプ政権下では、内部関係者が外部に懸念を共有する姿が私にも伝わっている。これは新鮮な体験だった。バイデン政権下では決して起こらなかったことだ。大統領と副大統領に仕えた高官たちは懸念を胸に秘めたまま、昨年6月の大統領討論会でジョー・バイデンがトランプと苦戦する姿を国民と世界に見せることになったのだ。
今や我々の大統領は衰えを見せ、分断された国家を統治しつつ、その政策に対する国民の強い不安を招いている。上記の記述は、今後数年にわたる混乱期において、大統領の精神的健康状態が決して楽観できない現実を映している。これを疑う者には、クアンティコで米軍指導部に対し行った演説の記録を注意深く読むことを勧める。
大統領の最も顕著な欠陥のいくつかは当初から存在し、彼の反移民的見解(世論調査での支持率を支えてきた問題)と共に、何百万ものアメリカ人にとって愛すべき、誠実なものと見なされていた。
9年前、アウトサイダーだったトランプが共和党の大統領候補指名を獲得し、プロの政治家を驚かせた後、ワシントン・ポスト紙の保守派コラムニスト、チャールズ・クラウタマー(2018年に死去)は、「ドナルド・トランプと適性基準」という見出しのコラムを書いた。クラウタマーは、ハーバード大学医学部の1年次に水泳中の事故で下半身不随となった医師であり、精神科医として活動し、カーター政権に短期間参加した後、ウォルター・モンデール副大統領のスピーチライターを務めた。彼の広く配信されたコラムは、1987年にピューリッツァー賞を受賞した。晩年には右派に転向し、フォックスニュースのコメンテーターとなった。
クラウタマーはトランプのファンではなく、特にトランプが、トランプを批判したゴールドスターファミリー(戦闘で亡くなった軍人の親族)をことあるごとに攻撃したことを特に憤慨した:
「なぜトランプはそんなことをしたのだろう?」とクラウトハマーに尋ねた。「彼は自制できないのだ。彼の人生の鉄則は、攻撃されたり軽視されたり、侮辱されたりしたら、必ず反撃することだ… 彼はあらゆる行動、発言、人物を単一の基準で判断する――それがトランプにとって『好ましい』かどうかだ。」
「かつて私はトランプを11歳の未熟な学校のいじめっ子だと思っていた。実際は10年ほど年上だった。彼の欲求はもっと原始的で、承認と称賛への幼児的な渇望であり、決して満たされない欲望だ。彼は自己中心的な繭の中に生きている。彼にとって外の世界は、自分を支え、膨らませる限りにおいてのみ価値があり、存在する。
「ほとんどの政治家は承認欲求がある。だがトランプは称賛されるために生きている。彼はそれを隠そうともせず、絶え間なく自身の集会の規模、スタンディングオベーション、テレビ視聴率、世論調査の数値、予備選挙での勝利を自慢し続けるのだ。」
そして彼の筆跡(ペンマンシップ)も。
https://seymourhersh.substack.com/p/is-trump-in-cognitive-decline
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。