2018年6月3日日曜日

米朝会談の不安定要因は米政権の内部分裂

 安倍首相をはじめ日本のメディアは、ひたすら北朝鮮の非をあげつらう(論う)のに急であり、その一方で米国のことは絶対善とでも思っているようです。北朝鮮に対する米国の姿勢が180度変化しようが、ただただ追随して世界に醜態をさらしている安倍首相がそのいい例です。
 しかし敵対国に対する米国の態度ほど不安定なものはないので、米国が信用できるのかどうかは当事国にとっては文字通り死活問題です。
 トランプ氏は、現在はホワイトハウス内の強硬右派を抑え米朝合意に向けての熱心さを見せていますが、これもホワイトハウス内の力関係次第で、中間選挙が済めばどうなるのかさえも実は分かりません。
 政府もメディアもいたずらに北朝鮮に対して猜疑心を抱くのではなく、そうした実態を正しく見る必要があります。
 
 元外交官の孫崎享氏の主張を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 日本外交と政治の正体  
米朝会談の不安定 要因は北でなくトランプ政権の内部分裂
孫崎享 日刊ゲンダイ 2018年6月2日
 米朝首脳会談が6月12日、シンガポールで開催される予定である。だが、開催そのものに関するトランプ大統領の発言が揺れ動いている。トランプは5月24日、米朝首脳会談の中止を発表したが、その翌々日、「(従来の予定通り)開催を目指す方針に変わりはない」と語った。
 こうなると、対米追随を旨とする安倍外交も支離滅裂になってきた。
 
「トランプ大統領は会談を断った。会談を開くことが重要なのではない。核・ミサイル、拉致問題を前に進めていくことが重要だ。だから安倍首相が、トランプ氏の決断を支持すると言った。たった1カ国です」
 菅官房長官はトランプの首脳会談中止を受け、それを支持したのは世界で「たった1カ国」だったと自慢した。
 
 ところが、トランプが一転して開催再検討を発表すると、安倍首相は「米朝首脳会談は『必要不可欠』」などとロシアで演説した。
 北朝鮮に対する米国の姿勢が百八十度変化しようが、ただただ追随する安倍外交は世界に醜態をさらしただけである。
 
 米朝首脳会談に臨む米国の基本姿勢は定まっている。北朝鮮の「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄」であり、かつ長期交渉はしないというものだ。問題は北朝鮮にとって「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄」を行うことは容易なことではないことである。
 北朝鮮から見れば、米国は、政権破壊のためにいつ攻めてくるか分からない。それを止めるには、米国の同盟国である韓国に耐えがたい被害を与えるしか手段がない。核開発は政権生き残りの命綱であり、簡単に「はい、完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄をします」と言える問題ではない
 
 米国が真に合意を達成したいのであれば、何らかの形で「米国は北朝鮮を軍事攻撃しない」という保証を与える必要がある。もっともあり得るのは、今の朝鮮戦争の「停戦状況」を「完全終了」にして平和条約を結び、そこに相互不可侵条項を盛り込むことである。
 だが、米国には、北朝鮮との合意を望まない強力な勢力がある。それを代弁するのがボルトン国家安全保障担当大統領補佐官であり、ペンス副大統領だ。ペンスはイラク戦争支持、イスラエルにイラン攻撃の権利があると主張するなど、強硬右派である。トランプを辞任させ、ペンスの昇格をはかるグループも存在している。
 米朝会談の不安定さの要因は北朝鮮にあるのではなく、トランプ政権の内部分裂にある。
 
 孫崎享  外交評論家
  1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。 

憲法改正手続法の抜本的改正を求める東京弁護士会会長声明

「憲法改正手続法」については、075月の成立時においても参議院で18項目にわたる附帯決議が行われ、146月の一部改正の際にも参院憲法審査会で20項目もの附帯決議がなされる等、多くの問題点が指摘されています。
 特に「改正項目ごとの個別投票方式」「テレビ・ラジオ等における有料意見広告放送の公平性」「最低投票率」「無効票を含めた過半数」等の問題については重大であるとして、日弁連や東京弁護士会は、度々見直しを求めてきました。
 ところが5月中旬、与党自民党と公明党は、こうした問題点を具体的に検討することもなく、公職選挙法との整合を図る程度の改正案を作り、通常国会中にそれを成立させようとしています。付帯決議等で示された根本的な問題を放置したまま、投票所増設などの思い付きを追加するなどで事足りるとする考え方は許されません。
 
 東京弁護士会が特に
  1 テレビ・ラジオ等における有料意見広告放送の在り方について
  2 「最低投票率」と「投票の過半数」について
2点に関する改正は必要不可欠とする声明を出しました。
 
 憲法改正手続法という国家の根幹にかかわる法律が欠陥法であることは、もはや放置できない状況を迎えました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
憲法改正手続法の「有料意見広告規制」「最低投票率」「過半数の意味」
等について抜本的改正を求める会長声明
2018年05月30日
東京弁護士会会長 安井規雄
 「日本国憲法の改正手続に関する法律」(以下「憲法改正手続法」という。)については、2007年5月の成立時においても参議院で18項目にわたる附帯決議が成され、2014年6月の一部改正の際にも参議院憲法審査会で20項目もの附帯決議がなされる等、多くの問題点が指摘されてきた。
 特に、「改正項目ごとの個別投票方式」「テレビ・ラジオ等における有料意見広告放送の公平性」「最低投票率」「無効票を含めた過半数」等の問題については、日本弁護士連合会は2009年11月の「憲法改正手続法の見直しを求める意見書」においてその見直しを求め、2014年6月の一部改正の際にも「改めて憲法改正手続法の見直しを求める会長声明」を発表している。
 当会においても、2005年9月・2007年2月・同年4月・同年5月・2010年4月・2011年11月と、日本弁護士連合会と同様の問題点を指摘しその見直しを求める会長声明を、繰り返し発表してきた。
 
 ところが、2018年5月中旬、与党である自由民主党と公明党は、これまで弁護士会が繰り返し見直しを求めてきた上記の各問題点を具体的に検討することもなく、投票対象者や投票方法について公職選挙法との調整程度の改正案を衆議院憲法審査会の幹事会で示し、同年6月20日終了の通常国会中にその改正を行おうとしている。しかし、その程度の改正のみで条件が整ったとして憲法改正手続を行おうとすることは、自らの附帯決議に反する国会の重大な怠慢行為であり、国会の役割を自ら放棄するものと言わざるを得ない。
 特に、以下の各項目については、現行制度のままで憲法改正手続としての国民投票が行われた場合、主権者たる国民の意思を公平・公正に反映したものとは到底言い難い事態が生じるおそれがあり、抜本的な改正が必要である。
 
1 テレビ・ラジオ等における有料意見広告放送の在り方について
 現行の憲法改正手続法は、公的機関(広報協議会)の広報以外の個人や団体(政党を含む)による有料の私的な意見広告に関しては、賛成・反対の投票を勧誘する意見広告(国民投票運動)は投票の14日前から禁止されるものの、それ以外の広告について一切規制はなく、単なる意見表明広告に至っては投票当日でも許されている。
 これは、表現の自由を考慮してのものと思われるが、テレビ・ラジオ等を利用した意見広告は、非常に大きな影響力を有する一方、莫大な費用がかかるものであり、誰でも自由にできる表現方法ではなく、資金力のある側が圧倒的に有利に利用できるという不公平な事態が生じ得る。特に、テレビやラジオのCM枠は、時間帯やCM時間によって大きな影響力の差が出るものでありながら、単に資金力の問題ばかりでなく、大手広告代理店を通じてでなければこれを押さえられないという特殊な構造があり、誰もが自由に利用できる表現媒体ではない。従って、これらのテレビやラジオの放送CMについては、その影響力の強さを考えれば、私的な有料意見広告についても、憲法改正の賛成・反対の両方の意見を公平(同一時間帯に同一の量)に放送できるような仕組みを作る必要がある。
 本来的には、そのような公平な仕組みは民間の放送事業体の方で自主的に作成することが望ましいが、CM広告等が収益の中で大きな割合を占める民間の放送事業体においては自主規制にも限界があると思われる。それゆえ、そのような特殊な構造を持つ表現媒体としてのテレビ・ラジオによる憲法改正意見広告については、上記のように公平なシステムにするための法規制も検討されるべきである。
 
2 「最低投票率」と「投票の過半数」について
 憲法第96条第1項は、国民投票の議決については「投票の過半数の賛成」と定めるだけである。したがって、現行法上は、有効投票(白票は除く)の過半数と解釈され、また投票率についても何ら法的な規定はないということになる。
 しかし、これでは、例えば白票が多数投じられた場合には、有効投票(白票は除く)の過半数で決せられる結果、投票権者全体の中の少数者の賛成により憲法改正が行われることとなってしまうことにもなりかねない。それでは主権者たる国民の意思が十分反映された改正と言えるのか、その正当性に重大な疑義が生じてしまう。
 憲法改正の重大性を考えれば、憲法改正の国民投票においては白票もまた改正の是非に関する国民の意思表示の一つと見るべきであり(少なくとも改正に是でない)、白票も含めた過半数とされるべきである。
 また、そもそも憲法改正は主権者たる国民の多くの意思に基づくべきであるところ、投票率に何らの規制もない現行の改正手続法は、やはり大きな不備があるものと言わざるを得ない。
 日本弁護士連合会では、かつて「全有権者の3分の2」という投票率を提案しているが、いずれにしても「国民の意思が十分反映された」と評価できる国民投票となるような「最低投票率」を法により定めることは不可欠であり、その法改正を強く求める。もっとも、「最低投票率」を定めるとボイコット運動が起こりかねないという反対論もあるが、ボイコット(棄権)もまた白票と同様、「改正に是でない」という意思表示の一つであり、何ら否定されることではない。
 
 以上のとおり、当会は、上記で指摘した点を含め、憲法改正手続法の各問題点の抜本的改正を求めるものである。

「いわば」「まさに」… 安倍首相が使う“不快ワード”

 「意味のないことをダラダラと述べるだけで、聞かれたことにまったく答えていない」
 30日に1年半ぶりに行われた党首討論で、立憲民主党の枝野幸男代表はこう憤慨しました。安倍首相の国会での答弁は、役人が書いた答弁書を読み上げる以外は全てがコレ(論点をすり替えたり、時間稼ぎのために関係ないことを延々と述べる)なので、これまで何百回も(千回を超えたかも)野党議員から指摘されてきたことでした。
 ところがメディアはそのことをまともに指摘せず、いつも「議論は平行線」とか、「議論が深まらない」などの慣用句で済ませています。それでは真実は伝わりません。さすがに「メディアの政府からの自由度」が世界で72位だけのことはあります。
 
 安倍首相が多弁になる理由は決まっていて、論点をすり替えゴマかそうとするためです。
 そのためにこれまでどれだけ貴重な時間が空費されてきたか分かりません。
     (15年6月19日) 党首討論 安倍首相の答弁は言葉の空費
     (15年7月12日) 首相の答弁は駄弁の洪水
 
 日刊ゲンダイが、第二次安倍内閣が発足して以降、安倍首相が、「まさにつまり」、「そもそも」「いわば」「中において」「その上において」などを使った回数を調べ、そうした語句を好んで使う理由を解明しました。
 それらは駄弁を構成するのにも便利な言葉なので、いわば駄弁の増量剤として使っているのですが、それを聞かされる方の苦痛は限界を超えています。
 短い記事ですが労作と呼べます。
 
追記
 15617日の岡田民主党代表との党首討論から一例を示します。とても文章の体をなしていません。
 安倍首相
 「そこで、そこで、よろしいでしょうか。そこでですね、まさに、どういう事態になるかということは、その事態が起こってさまざまな状況を判断をしなければならない。今、あらかじめ、こうした、こうして、こうした事態があるということを今ここで申し上げるということはいかがなものかと思うわけである。つまり、そうならなければ、いわば、そうならなければ、われわれは武力行使をしないということは、これが明らかになってくるわけである。そこで、その上で、その上で申し上げれば、いわば朝鮮半島で、朝鮮半島で有事が起こる中において、米艦船がその対応にあたっていく。これが重要影響事態に・・・」
 速記録はとても文章の体をなしていません。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「いわば」「まさに」… 安倍首相が使う“不快ワード”の意味
日刊ゲンダイ 2018年6月2日
「意味のないことをダラダラと述べるだけで、聞かれたことにまったく答えていない」
 約1年半ぶりに行われた安倍首相との党首討論後、立憲民主党の枝野幸男代表はこう声を荒らげて怒っていた。一部の御用メディアは「安倍論法」とか「すりかえ論法」などと報じ、攻め手を欠いた野党――などと論評しているが、あれは「論法」でも何でもない。
 
 安倍首相の答弁を聞けば聞くほど胸クソが悪くなるのはなぜなのか。歴代首相の演説を研究してきた東照二氏(社会言語学)はこう分析する。
「(安倍首相は)『まさに』や『つまり』といった言葉を使っている。これらの言葉は、同じ意味を繰り返したり、別の表現に言い換えたりする表現です。おそらく同じ意味を別の表現にして話をはぐらかそう、自分を良く見せようとしているのではないか」
 確かに安倍首相の国会答弁を聞いていると、「まさに」や「つまり」の多用が目立つ。「さあ、いよいよ結論を言うのか」と聞き手の注意を引きつけながら、全く関係ないことをダラダラと話し始めるからウンザリするのだ。
 安倍首相はほかにも、答弁をはぐらかす前に「そもそも」「いわば」「中において」「その上において」という言葉も頻繁に使っている。
 
 日刊ゲンダイが2012年12月に第2次安倍政権が発足してから現在に至るまでの間、安倍が国会答弁でこれらの6つの「不快ワード」を一体、何回使ったのかを調べたところ、「まさに」が341件、「中において」が298件、「つまり」が257件、「そもそも」が232件、「その上において」が178件、「いわば」が144件もあった。
 ちなみに、1回の答弁中にこれら6つの「不快ワード」が全てあったのは3件。これじゃあ、質問者も国民も胸クソが悪くなるわけだ。
 安倍首相の「不快ワード」に要注意だ。

03- <もうひとつの沖縄戦>(4)(東京新聞)

 東京新聞の「シリーズ <もうひとつの沖縄戦>」(4)を紹介します。
※ 原記事にアクセスすれば当時の写真もご覧になれます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<もうひとつの沖縄戦>(4)
      なぜ沖縄県民だけが
東京新聞 2018年6月2日
 沖縄戦から七十三年。沖縄県北中城村(きたなかぐすくそん)に住む元飲料会社会長、安里祥徳(あさとしょうとく)さん(88)は今も思う。「われわれはなぜあのように異国を転々とさせられたのか」
 
 一九四五年三月。当時十五歳。現在の那覇市首里(しゅり)にあった旧制県立第一中(現首里高)二年だった安里さんは、米軍の沖縄本島上陸が迫る中、陸軍二等兵扱いの少年通信兵として召集された。しかし所属中隊は米軍に追い詰められ、糸満市の摩文仁(まぶに)まで一気に撤退、六月下旬に投降した。
 米軍の兵員輸送船でハワイに送られ、ホノウリウリ収容所に。間もなく米国本土に移されることになり、シアトルに向かう船上で敗戦を迎えた。その後、サンフランシスコの収容所へ移され、さらにテキサスへと移されそうになったときにその移送は中止となった。
 米軍はホノウリウリで捕虜をボーイ(年少者)とオールド(年長者)にえり分け、ボーイの安里さんら百人余りはほかの捕虜よりも早く、四五年の秋に沖縄に帰された。安里さんは「当時は分からなかったが、ハワイでの労働に適さない者を外したのかな」と思う。
 沖縄戦の捕虜移送は未解明な部分が多い。最大の謎は「なぜ沖縄県民だけがハワイに移送されたのか」という点だ。
 米軍は戦場で捕まえた者を戦闘員と非戦闘員に分け、さらに戦闘員を(1)本土出身の日本兵(2)朝鮮半島出身の軍夫ら(3)沖縄県民-の三つに分けた。安里さんのような少年もこの選別の対象になった。沖縄県史などによると、ハワイに送られた三千人余の捕虜は、ほとんどが沖縄県民だった。
 
 戦時中のハワイ日系人の強制収容を研究する国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)外来研究員の秋山かおりさんは、ハワイに連行された県民の捕虜リストを沖縄県公文書館で見つけた。リストには海外戦地の捕虜も含め約三千六百人が記載されていた。
 「移送の謎に答える決定的な史料はまだ見つかっていない」と話す秋山さん。当時のハワイは労働力不足で、米本国から日本人捕虜も使えという指令が出ていたというが、秋山さんは「理由はそれだけではない可能性が高い」と推察する。
 学徒兵として捕虜になった古堅実吉(ふるげんさねよし)さん(88)は「米軍は戦後の沖縄占領を円滑に進めるために、沖縄の男を沖縄から切り離したかったのではないか」と考える。「軍隊にいた男は邪魔になる。だから僕みたいな少年も容赦しなかった」
 四六年の秋以降、ハワイに一年以上抑留された捕虜たちが帰り着いた沖縄は「アメリカ世(ゆ)」に変貌していた。沖縄の生活のすべては米軍の指揮下にあった。 (編集委員・佐藤直子)

2018年6月2日土曜日

<もうひとつの沖縄戦>(3)(東京新聞)

 東京新聞の「シリーズ <もうひとつの沖縄戦>」(3)を紹介します。
※ 原記事にアクセスすれば当時の写真もご覧になれます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<もうひとつの沖縄戦>(3)
        敗戦 帰れない日々
東京新聞 2018年6月1日
 沖縄県民の捕虜が集められた米国ハワイの収容所で、十八歳未満には軽作業が割り当てられた。沖縄からの輸送船で十六歳になった元衆院議員の古堅実吉(ふるげんさねよし)さん(88)に命じられたのは、指揮班のお使い役や捕虜の起床係だった。
 
 戦争の終結も収容所で知った。監視役の米兵が部屋の壁をたたき、金属製の食器をぶつけ合って歓声を上げている。「何があったのか」と古堅さんが尋ねると、「日本が戦争に負けた」と教えてくれた。
 ポツダム宣言の受諾によって日本は無条件降伏を受け入れ、アジア全域での戦闘も終わった。だが古堅さんに悔しさはなかった。戦場からずっと「いつ殺されるか」とおびえ続けた毎日。「これで命拾いした」という、ほっとした気持ちが勝ったという。
 一九二九年、沖縄本島北部の国頭村安田(くにがみそんあだ)の貧しい家に生まれた古堅さんの少年時代は、命さえもが「お国のため」にあった。四四年に当時の最高学府だった沖縄師範学校に入学したものの、授業は一学期で終了。防空壕(ごう)掘りや陣地構築の毎日に変わった。沖縄戦では二等兵扱いの学生部隊「鉄血勤皇隊」として、日本軍司令部壕の発電用冷却水の運搬を任された。
 戦争は惨めだった。足に被弾し「アンマー(お母さん)」と叫び絶命した先輩。至近弾で即死した同級生。最後は道に転がる無数の死体に胸を痛めながら、敗走するしかなかった。
 
 「君たちは戦後の沖縄を担ってほしい」。この戦争を生き延びることなど考えもしなかったが、師範学校の校長が戦場での別れに残した言葉を、収容所で反すうした。「これからどう生きるか」を考え始めた。
 日本の敗戦は古堅さんら沖縄の捕虜たちに「帰国」の夢をもたらした。四五年秋からフィラリア菌の保持が疑われる捕虜らが沖縄に送還されるようになった。だが他の捕虜に帰還指令はない。さらに一年以上、収容所を転々としながらハワイに留めおかれた
 そのうち現地の沖縄出身の日系人の中で「沖縄から捕虜が連れられてきている」という情報が伝わり、監視兵に賄賂を渡して食料などを差し入れる人も現れた。古堅さんにも捜し当てた親類が、弁当や英和辞典を届けに訪ねてくれた。
 
 それでも帰れない日々はつらい。故郷での別れ際に「命(ぬち)どぅ宝ど(命は宝よ)」と言った母を思った。沖縄から戻った軍用機の掃除をしながら「ここに隠れていたら沖縄に帰れるんじゃないか」と涙ぐんだ。ようやく帰国の途に就けたのは四六年の秋を過ぎてからのことだった。 (編集委員・佐藤直子)

大統領がホワイトハウス内「タカ派」を制し 「米朝会談」実現へ

 トランプ大統領は、日本時間の2日早朝、米朝会談を予定通り12日に行うと発表しました。
 北朝鮮から、ボルトンは下打合せのメンバーとして不適任で、ペンス副大統領も愚かであると批判されました。彼ら二人から逆に焚きつけられたトランプ大統領は、一旦は会談の中止を口にしましたが、北朝鮮の熱意もあって会談に漕ぎつけることが出来ました。
 
 もともと北との交渉において、米側は核やミサイルで何の譲歩もしないのに対して、その二つを放棄すると明言している北に対して、さらに無茶苦茶な要求をするのは米朝会談の決裂・中止を狙ったものと見られても仕方がないのでした。
 ひとまずはトランプ氏がホワイトハウス内のCIA系の右派強硬路線を制して、会談の実現に漕ぎつけたのは喜ばしいことです。
 大統領は1回目の会談では合意に至らずに、複数回に及ぶ可能性にも言及しました。別に戦勝国と降伏国との会談ではないので当然のことです。
 
 ここで注目されるのが、CIA長官から国務長官に転じ、いまはトランプ大統領の下で米朝会談の実現に向けて努力しているポンペオ氏の立ち位置です。
 同氏は、陸軍士官学校をトップの成績で卒業し陸軍に5年在籍、その後法律事務所などを経て下院議員になりました。そして16年11月トランプ次期大統領からCIA長官に指名され、それから1年余り経った18年3月にティラーソンあとを継いで国務長官に就任しました。
 もともと柔軟性を持った人物のようなのですが、生粋のCIAメンバーではないという身軽さが、3月に金正恩氏と極秘会談を行ったり、自然体で米朝会談の実現に取り組むことを可能にさせているようです。
 
 日経新聞の記事:「米朝会談揺さぶる『タカ派』の暗闘」を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
米朝会談揺さぶる「タカ派」の暗闘
日本経済新聞 2018年6月1日
ワシントン支局 永沢毅
 5月30日夜、ニューヨークの国連本部近くにある57階建てマンション。マンハッタンの夜景を眺望できる一室で、米国務長官マイク・ポンペオと北朝鮮の朝鮮労働党副委員長、金英哲(キム・ヨンチョル)がヒレミニョン・ステーキにイタリア原産のチーズ、バニラアイスクリームの夕食をともにした。英哲は党委員長、金正恩(キム・ジョンウン)側近の一人。31日とあわせて2日間で約4時間に及ぶ話し合いを通じ、6月12日の開催をめざす米朝首脳会談に向けて最大の焦点である非核化の具体的な進め方を巡って突っ込んだやり取りをしたもようだ。
 
 ポンペオは極東の独裁者の肉声を直接知る数少ないトランプ政権高官の一人である。護衛は何人連れて行っていいのか。シンガポールまでの飛行機の燃料はどのくらい要るのか――。5月9日、大統領トランプの名代として3月末に続いて平壌を訪れたポンペオは正恩からこんな質問を立て続けに受けた。「彼は博識で、複雑な議論をこなせる人物だ」。ポンペオによると、正恩は手元に書類を用意することもなく、細かな質問にも答えた。
 
 ニューヨークにシンガポール、板門店…世界各地で開催に向けた調整が同時並行で進む史上初の米朝首脳会談。正恩やその側近である金英哲といった政権最高幹部との協議を一手に担っているのがポンペオだ。
 
 陸軍士官学校(ウエスト・ポイント)をトップの成績で卒業したポンペオ。陸軍に5年在籍した後にハーバード大ロースクール、法律事務所などを経て政界入りした。4期務めた下院議員時代は保守強硬派の若手として名をはせた。それがトランプの目に留まり、米中央情報局(CIA)長官に抜てきされた。同長官として機密情報に関する日々のブリーフィングを通じ、さらに信頼を得る。陸軍仕込みの堂々たる体格もトランプ好みといえる。
 
 その強みは風見鶏的ともいえる柔軟性にある。下院議員だった2012年9月、リビア東部のベンガジで駐リビア米大使らが武装集団に殺害された事件がおきると国務長官のヒラリー・クリントンを鋭く追及。しかし自身が国務長官に指名されると、ヒラリーに面会を求めて国務長官の心得について教えを請うた。閣僚就任に必要な上院での承認を確実にするため、民主党の協力を得る打算が透ける。CIA長官時代には北朝鮮の政権転覆に含みを持たせたが、国務長官としてはそうした主張を封印している。
 前国務長官のティラーソンはトランプと政策面での溝があっただけでなく、肌が合わなかった。訪朝時に金正恩と平然とした表情で写真におさまるポンペオには、権力者に巧みに取り入る如才なさがうかがえる。
 トランプの命を受けて首脳会談実現にまい進するポンペオ。これに対し、対北朝鮮で同じ「タカ派」でも国家安全保障問題担当の大統領補佐官ジョン・ボルトンは少し立ち位置を異にする。
 
「首脳会談がうまくいくとは思えない」。米朝関係筋によると、ボルトンは周辺にたびたびこう漏らす。6カ国協議を推進したブッシュ(子)政権時代に国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)、国連大使として北朝鮮の核問題に対処した経験から、北朝鮮が本気で完全な非核化に応じるとは全く信じていないためだ。北朝鮮の核兵器を除去するには軍事行動が必要というのが持論。見返りよりも核放棄を先行させる「リビア方式」にテレビ番組でたびたび言及するのも、「破談」になるのを見越して北朝鮮をあえて挑発したフシがある。
 
 5月23日夜、ボルトンは北朝鮮による副大統領ペンスや自身への激しい批判などを受けて米朝首脳会談の中止をトランプに進言した。トランプが中止を決めてからポンペオに伝えたため、ポンペオとボルトンとの関係が緊張しているともささやかれる。
 
 ポンペオにとって米朝首脳会談はリスクとチャンスが同居する。正恩と直接面会しているポンペオは非核化に関する正恩の意図を把握すべき立場にあるが、その真意はなおおぼろげだ。54歳のポンペオはワシントンで将来の大統領候補としても名が挙がり、首脳会談と北朝鮮の非核化の成否は彼自身の「野心」の行方をも左右する
 
 一方、69歳のボルトンは「本音では首脳会談の実現を望まず、むしろ決裂すれば軍事行動への道が開けると考えている」(米政府関係者)との見方すらつきまとう。2人の暗闘は6月12日を過ぎた後も続くことになる。(敬称略)

危機管理学部は安倍首相の旗振りで作られた

 例のアメフトタックル問題で日大は「危機管理学を有しているにもかかわらず、大学としてのリスクマネジメントが全くできていないことが話題になりました。
「危機管理」というと、普通は企業・組織防衛上のテクニックというイメージを持ちますが、16年に新設された日大危機管理学部が教育の目標に掲げている学問領域は、犯罪やテロに対するセキュリティ、国際紛争や戦争に対するセキュリティなどで、日本会議系の極右学者が強調する「国家の危機管理」がメインだということです。
 
 その原型は、2004年加計学園銚子市に開校した千葉科学大学で、同大学は開校時点で日本で最初の危機管理学部」を持ちました。そこの「危機管理システム学科」には、「警察官・犯罪科学コース」や「自衛官・安全保障コース」などが設けられ教授陣に自衛隊出身者や元警察官などが天下っています。安倍首相の右腕である萩生田光一幹事長代行が、落選中に名誉客員教授を務めていたのも千葉科学大の危機管理学部でした。
 
 2004年といえば安倍氏が北朝鮮日本人拉致問題で名を売り、総理への道を着実に登っていた時期でした。千葉科学大学開校の翌2005年には安倍氏は「日本安全保障・危機管理学会」なる団体立ち上げ、いまもその団体の名誉会長におさまってます(「学会」の名称がついていますが、別にアカデミックな組織ではありません)。
 LITERAの記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
日大騒動で話題「危機管理学部」は安倍首相が旗振り役だった! 
加計学園に作らせ、警察・自衛隊の天下り学会の名誉会長も
LITERA 2018年6月1日
 日本大学のアメフトタックル問題で「危機管理学」がにわかに注目されている。周知の通り、日大には危機管理学部なる珍しい学部があるのだが、タックル問題での日大上層部の対応のお粗末さが満天下に示されるや、「危機管理学部があるのにまったく危機管理ができていない」というツッコミが相次いだのである。
 だが、そうしたツッコミはちょっと的外れかもしれない。というのも、2016年に新設された日大危機管理学部が教育の目標に掲げている学問領域は、犯罪やテロに対するセキュリティ、国際紛争や戦争に対するセキュリティ、災害や大規模事故のマネジメント、情報セキュリティの4つ。「危機管理」といっても、企業のリスクマネジメントや不祥事対応などではなく、保守論壇誌で櫻井よしこサンや日本会議系の極右学者が叫んでいる「国家の危機管理」がメインなのだ。
 
 そのことは、教授陣の顔ぶれからもうかがえる。現在、日大危機管理学部には20人の教授がいるが、実に約半数にあたる9人が官僚出身。しかも、そのほとんどが、警察、公安調査庁、自衛隊など、治安組織のOBである。
 たとえば安部川元伸教授は公安調査庁で37年勤務し、東北公安調査局長も務めた。太田茂教授は検察出身で法務省司法法制課長などを歴任。金山泰介教授は元警察官僚で内閣安全保障室参事官補や警視庁公安部参事官等の経験がある。川中敬一教授は総理府(現・内閣府)でキャリアを積んだ。河本志朗教授は外務省への出向経験もある元警察官。木原淳教授は元防衛官僚。茂田忠良教授は警察庁出身で内閣官房にも勤務した。髙宅茂教授は法務官僚で入国管理局長などを歴任。吉富望教授は元幹部自衛官(最終階級は陸将補)で内閣情報調査室での勤務経験もある。
 
 ようするに、日大危機管理学部は、一部のメディアから指摘されているように、警察、公安、自衛隊出身者の「天下り学部」になってしまっているのだ。不祥事対応どころか、不祥事を力ずくで隠蔽しようとしてきたお役所出身の官僚たちが教授では、民間組織のリスクマネジメントに何の役にも立たないのは当然だろう。
 それどころか、こんな顔ぶれでは、学問というより、自分たちの出身省庁の利害の代弁に陥ってしまう危険性さえある。警察官僚や公安庁、防衛官僚たちが自分たちの省庁の権勢拡大と予算拡大のためにありもしない危機を煽ってきたことは周知の事実だが、そうした省庁のOBが教員になることで、その手法がアカデミズムの場にもち込まれかねないだろう。
 
 だが、「危機管理学」のこうしたありようは何も日大だけではない。本サイトが調べた限り、危機管理学部が設置されている大学は日大を含めて3校。残る2校は、加計学園が運営する千葉科学大学と倉敷芸術科学大学なのだが、こちらにも同じような構造がある。
 というか、危機管理学部は、むしろ加計学園が原型で、しかも、言い出しっぺは安倍首相らしいのだ。
 
加計学園の「危機管理学部」は安倍首相の発案で生まれた
 2004年、加計学園は千葉県銚子市に千葉科学大を開校しているが、同大学は開校時点で、危機管理学部と薬学部の2つの学部を擁していた。同校ホームページによれば、日本で「危機管理学」という名称の学部を置いたのは千葉科学大が初だという。
 同大の危機管理学部には「危機管理システム学科」「環境危機管理学科」「医療危機管理学科」「航空技術危機管理学科」「動物危機管理学科」なる5つの学科が用意されているが、そのうちのひとつ、危機管理システム学科には「警察官・犯罪科学コース」や「自衛官・安全保障コース」などが設けられている。「自衛官・安全保障コース」では「安全保障概論」なる講義で〈国家安全保障戦略〉や〈平和安全保障法制〉、〈対テロ対策〉などを学ぶという。まるで自衛隊や警察学校みたいだが、実際、卒業後の進路は自衛官や警察官が多いらしい。
 そして、教授陣にもやはり、自衛隊出身者や元警察官が顔を揃えている。
 ようするに、日本で初めて「危機管理学部」を置いた千葉科学大にも、自衛隊や警察の天下りが見え隠れし、治安や安全保障など「国家の危機管理」について教えるという教育方針があるのだが、さらに興味深いのは、この千葉科学大の危機管理学部の“生みの親”がなんと、安倍首相だという事実だ。
 
 丹念な取材と調査で加計学園疑惑の真相に肉薄したノンフィクション作家・森功氏の著書『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』(文藝春秋)には、このように書かれている。
〈ある千葉科学大の元教員は、危機管理学部そのものが、安倍の発案で設置された学部なのだと打ち明けてくれた。この元教員本人も、安倍から頼まれて千葉科学大で働き始めた口らしい。〉
 ほかにも同書には〈危機管理学部については、安倍が大学教育における安全保障の重要性を訴え、提唱してつくらせたともいわれる〉との記述もある。ちなみに、安倍首相の右腕である萩生田光一幹事長代行が、落選中に名誉客員教授を務めていたのも千葉科学大の危機管理学部だった。
 これらの証言や記述によれば、まさに安倍晋三こそが「危機管理学部」の創始者だと言えるだろう。そもそも千葉科学大が開学した2004年といえば、安倍氏が北朝鮮日本人拉致問題で名を売り、総理への道を着実に登っていた時期だ。安倍氏がその後、北朝鮮や中国脅威論の旗振り役となり、集団的自衛権の行使容認など、戦後日本の安全保障政策を180度変えたことは言うまでもない。その意味でも、安倍首相が「危機管理学部」の“生みの親”だというのはたしかに腑に落ちるのである。
 
 しかも、安倍首相にはもうひとつ、「危機管理学」との深く関係を示す事実がある。
 千葉科学大学開校の翌2005年、「日本安全保障・危機管理学会」なる団体が立ち上がった。現在は一般社団法人化している。実は、安倍首相はこの「危機管理学」の名前を冠した団体の名誉会長を務めているのだ。
 
安倍首相が名誉会長を務める「日本安全保障・危機管理学会」なる団体
 では、その「日本安全保障・危機管理学会」とはいかなる組織なのか。同会HPによれば、〈安全保障および危機管理に関する理論とその応用・実践についての研究を深めつつ、有為な人材を育成し、大学、自治体および企業等へ送り込むことに寄与することを目的〉とされ、学位論文作成支援や修士・博士取得に関わる協力もしているという。また、前述した公安調査庁出身の安部川元伸・日本大学危機管理学部教授も同会に参加し、講演などを行なっている。
 もっとも、同会はいわゆる大学アカデミズムの系譜にある団体ではなく、日本学術会議や日本学術協力財団、科学技術振興機構が共同で公開している学会名鑑にも登録されていない。
 
 実は、月刊情報誌「テーミス」が同会について報じたことがあるのだが(2015年5月号)、その際は〈陸上自衛隊OBを中心にした集まりから発展して、警察OBや公安調査庁OBらが加わり、05年に設立された団体〉と紹介されていた。実際に同会の役員名簿(2017年6月1日現在)を見ても、理事には元警視総監や元幹部自衛官などの防衛人脈が多数名前を連ねており、組織出身者の受け皿となっていることがうかがえる。
 また、保守系政治家との結びつきも強いらしく、名誉会長の安倍首相だけでなく、名誉顧問には渡辺喜美参院議員、顧問には自民党の中谷元・元防衛相や菅原一秀衆院議員、“ヒゲの隊長”こと佐藤正久外務副大臣、さらにはあの党広報副本部長・和田政宗参院議員の名前もある。
 過去には防衛利権がらみの民間シェルター業者との癒着が取り沙汰されたこともあった同会だが、その印象は「学会」というよりはやはり、自衛隊、警察の天下りの受け皿を狙った可能性が高い。
 
 本サイトが5月30日、安倍首相が名誉会長になった経緯について同会事務局に尋ねたところ、担当者はこのように回答した。
「安倍さんがまだ総理になる前、第二次安倍政権の前の民主党政権のときに、渡辺喜美さんの紹介で入ってこられたんですよ。当時、渡辺さんはまだ自民党員だったからですね、そういうことで、同会に入っていろいろ勉強したり情報をもらったりされたらいかがですか、ということで」
 実際には、渡辺氏は2009年に麻生内閣が不信任案を出された直後に自民党を離党しているが、いずれにしても安倍首相が2000年代はじめに、こうした「危機管理学」に並々ならぬ関心を寄せ、自衛隊や警察OBとともに、それを「学問」として確立するための動きを見せていたことは間違いないだろう。
 
日大危機管理学部はどういう経緯で生まれたのか
 そして、それから約10年後、今度は日本一のマンモス大学・日本大学に危機管理学部が誕生した。
 日大の問題を追及してきた月刊誌「FACTA」(ファクタ出版)は、この危機管理学部が“日大のドン”田中英壽理事長と警察官僚出身の亀井静香・元衆院議員の仕掛けによって誕生したと指摘している。
〈田中氏に國松(孝次・元警察庁長官)、野田(健・元警視総監)両氏ら警察人脈を紹介したのも亀井氏だ。霞が関とパイプを深めた田中氏は、警察庁、法務省、防衛省、国土交通省のサポートを受けることで、文系初の危機管理学部の体制を整えることに成功した〉〈ようするに理事長が亀井さんに丸投げした、霞が関に恩を売る天下り学部〉(2016年5月号)
 実際、日大危機管理学部の開校式典には、亀井氏や國松元警察庁長官や野田元警視総監ら、警察官僚出身の大物警察OBが出席していた。
 また、昨日発売の「週刊文春」(文藝春秋)では、亀井氏が取材を受け「もともと危機管理学部は、俺が田中理事長に『俺がお前の用心棒になってやるから、お前は用心棒を作る学部を作れ。今の時代、危機管理学部を作らにゃいかん』と言って作らせたんだ」と語っている。
 
 日大のほうは安倍首相は関係なさそうだが、政界関係者が動いて、警察の天下りの場としてつくられたというのは間違いないだろう。
 あちらこちらで組織のガバナンスにおける「危機管理」の重要性が叫ばれている昨今だが、そのリスクマネジメントを学ぶはずの「危機管理学部」が、実際は警察や自衛隊の実質的な「天下り団体」と化しているというのは、明らかにおかしい。マスコミは日大のタックル問題を契機に、この危機管理利権というものにもメスを入れるべきだろう。 (編集部)