トランプ大統領は、日本時間の2日早朝、米朝会談を予定通り12日に行うと発表しました。
北朝鮮から、ボルトンは下打合せのメンバーとして不適任で、ペンス副大統領も愚かであると批判されました。彼ら二人から逆に焚きつけられたトランプ大統領は、一旦は会談の中止を口にしましたが、北朝鮮の熱意もあって会談に漕ぎつけることが出来ました。
もともと北との交渉において、米側は核やミサイルで何の譲歩もしないのに対して、その二つを放棄すると明言している北に対して、さらに無茶苦茶な要求をするのは米朝会談の決裂・中止を狙ったものと見られても仕方がないのでした。
ひとまずはトランプ氏がホワイトハウス内のCIA系の右派強硬路線を制して、会談の実現に漕ぎつけたのは喜ばしいことです。
大統領は1回目の会談では合意に至らずに、複数回に及ぶ可能性にも言及しました。別に戦勝国と降伏国との会談ではないので当然のことです。
ここで注目されるのが、CIA長官から国務長官に転じ、いまはトランプ大統領の下で米朝会談の実現に向けて努力しているポンペオ氏の立ち位置です。
同氏は、陸軍士官学校をトップの成績で卒業し、陸軍に5年在籍、その後法律事務所などを経て下院議員になりました。そして16年11月、トランプ次期大統領からCIA長官に指名され、それから1年余り経った18年3月にティラーソン氏のあとを継いで国務長官に就任しました。
もともと柔軟性を持った人物のようなのですが、生粋のCIAメンバーではないという身軽さが、3月に金正恩氏と極秘会談を行ったり、自然体で米朝会談の実現に取り組むことを可能にさせているようです。
日経新聞の記事:「米朝会談揺さぶる『タカ派』の暗闘」を紹介します。
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米朝会談揺さぶる「タカ派」の暗闘
日本経済新聞 2018年6月1日
ワシントン支局 永沢毅
5月30日夜、ニューヨークの国連本部近くにある57階建てマンション。マンハッタンの夜景を眺望できる一室で、米国務長官マイク・ポンペオと北朝鮮の朝鮮労働党副委員長、金英哲(キム・ヨンチョル)がヒレミニョン・ステーキにイタリア原産のチーズ、バニラアイスクリームの夕食をともにした。英哲は党委員長、金正恩(キム・ジョンウン)側近の一人。31日とあわせて2日間で約4時間に及ぶ話し合いを通じ、6月12日の開催をめざす米朝首脳会談に向けて最大の焦点である非核化の具体的な進め方を巡って突っ込んだやり取りをしたもようだ。
ポンペオは極東の独裁者の肉声を直接知る数少ないトランプ政権高官の一人である。護衛は何人連れて行っていいのか。シンガポールまでの飛行機の燃料はどのくらい要るのか――。5月9日、大統領トランプの名代として3月末に続いて平壌を訪れたポンペオは正恩からこんな質問を立て続けに受けた。「彼は博識で、複雑な議論をこなせる人物だ」。ポンペオによると、正恩は手元に書類を用意することもなく、細かな質問にも答えた。
ニューヨークにシンガポール、板門店…世界各地で開催に向けた調整が同時並行で進む史上初の米朝首脳会談。正恩やその側近である金英哲といった政権最高幹部との協議を一手に担っているのがポンペオだ。
陸軍士官学校(ウエスト・ポイント)をトップの成績で卒業したポンペオ。陸軍に5年在籍した後にハーバード大ロースクール、法律事務所などを経て政界入りした。4期務めた下院議員時代は保守強硬派の若手として名をはせた。それがトランプの目に留まり、米中央情報局(CIA)長官に抜てきされた。同長官として機密情報に関する日々のブリーフィングを通じ、さらに信頼を得る。陸軍仕込みの堂々たる体格もトランプ好みといえる。
その強みは風見鶏的ともいえる柔軟性にある。下院議員だった2012年9月、リビア東部のベンガジで駐リビア米大使らが武装集団に殺害された事件がおきると国務長官のヒラリー・クリントンを鋭く追及。しかし自身が国務長官に指名されると、ヒラリーに面会を求めて国務長官の心得について教えを請うた。閣僚就任に必要な上院での承認を確実にするため、民主党の協力を得る打算が透ける。CIA長官時代には北朝鮮の政権転覆に含みを持たせたが、国務長官としてはそうした主張を封印している。
前国務長官のティラーソンはトランプと政策面での溝があっただけでなく、肌が合わなかった。訪朝時に金正恩と平然とした表情で写真におさまるポンペオには、権力者に巧みに取り入る如才なさがうかがえる。
トランプの命を受けて首脳会談実現にまい進するポンペオ。これに対し、対北朝鮮で同じ「タカ派」でも国家安全保障問題担当の大統領補佐官ジョン・ボルトンは少し立ち位置を異にする。
「首脳会談がうまくいくとは思えない」。米朝関係筋によると、ボルトンは周辺にたびたびこう漏らす。6カ国協議を推進したブッシュ(子)政権時代に国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)、国連大使として北朝鮮の核問題に対処した経験から、北朝鮮が本気で完全な非核化に応じるとは全く信じていないためだ。北朝鮮の核兵器を除去するには軍事行動が必要というのが持論。見返りよりも核放棄を先行させる「リビア方式」にテレビ番組でたびたび言及するのも、「破談」になるのを見越して北朝鮮をあえて挑発したフシがある。
5月23日夜、ボルトンは北朝鮮による副大統領ペンスや自身への激しい批判などを受けて米朝首脳会談の中止をトランプに進言した。トランプが中止を決めてからポンペオに伝えたため、ポンペオとボルトンとの関係が緊張しているともささやかれる。
ポンペオにとって米朝首脳会談はリスクとチャンスが同居する。正恩と直接面会しているポンペオは非核化に関する正恩の意図を把握すべき立場にあるが、その真意はなおおぼろげだ。54歳のポンペオはワシントンで将来の大統領候補としても名が挙がり、首脳会談と北朝鮮の非核化の成否は彼自身の「野心」の行方をも左右する。
一方、69歳のボルトンは「本音では首脳会談の実現を望まず、むしろ決裂すれば軍事行動への道が開けると考えている」(米政府関係者)との見方すらつきまとう。2人の暗闘は6月12日を過ぎた後も続くことになる。(敬称略)