2018年6月3日日曜日

憲法改正手続法の抜本的改正を求める東京弁護士会会長声明

「憲法改正手続法」については、075月の成立時においても参議院で18項目にわたる附帯決議が行われ、146月の一部改正の際にも参院憲法審査会で20項目もの附帯決議がなされる等、多くの問題点が指摘されています。
 特に「改正項目ごとの個別投票方式」「テレビ・ラジオ等における有料意見広告放送の公平性」「最低投票率」「無効票を含めた過半数」等の問題については重大であるとして、日弁連や東京弁護士会は、度々見直しを求めてきました。
 ところが5月中旬、与党自民党と公明党は、こうした問題点を具体的に検討することもなく、公職選挙法との整合を図る程度の改正案を作り、通常国会中にそれを成立させようとしています。付帯決議等で示された根本的な問題を放置したまま、投票所増設などの思い付きを追加するなどで事足りるとする考え方は許されません。
 
 東京弁護士会が特に
  1 テレビ・ラジオ等における有料意見広告放送の在り方について
  2 「最低投票率」と「投票の過半数」について
2点に関する改正は必要不可欠とする声明を出しました。
 
 憲法改正手続法という国家の根幹にかかわる法律が欠陥法であることは、もはや放置できない状況を迎えました。
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憲法改正手続法の「有料意見広告規制」「最低投票率」「過半数の意味」
等について抜本的改正を求める会長声明
2018年05月30日
東京弁護士会会長 安井規雄
 「日本国憲法の改正手続に関する法律」(以下「憲法改正手続法」という。)については、2007年5月の成立時においても参議院で18項目にわたる附帯決議が成され、2014年6月の一部改正の際にも参議院憲法審査会で20項目もの附帯決議がなされる等、多くの問題点が指摘されてきた。
 特に、「改正項目ごとの個別投票方式」「テレビ・ラジオ等における有料意見広告放送の公平性」「最低投票率」「無効票を含めた過半数」等の問題については、日本弁護士連合会は2009年11月の「憲法改正手続法の見直しを求める意見書」においてその見直しを求め、2014年6月の一部改正の際にも「改めて憲法改正手続法の見直しを求める会長声明」を発表している。
 当会においても、2005年9月・2007年2月・同年4月・同年5月・2010年4月・2011年11月と、日本弁護士連合会と同様の問題点を指摘しその見直しを求める会長声明を、繰り返し発表してきた。
 
 ところが、2018年5月中旬、与党である自由民主党と公明党は、これまで弁護士会が繰り返し見直しを求めてきた上記の各問題点を具体的に検討することもなく、投票対象者や投票方法について公職選挙法との調整程度の改正案を衆議院憲法審査会の幹事会で示し、同年6月20日終了の通常国会中にその改正を行おうとしている。しかし、その程度の改正のみで条件が整ったとして憲法改正手続を行おうとすることは、自らの附帯決議に反する国会の重大な怠慢行為であり、国会の役割を自ら放棄するものと言わざるを得ない。
 特に、以下の各項目については、現行制度のままで憲法改正手続としての国民投票が行われた場合、主権者たる国民の意思を公平・公正に反映したものとは到底言い難い事態が生じるおそれがあり、抜本的な改正が必要である。
 
1 テレビ・ラジオ等における有料意見広告放送の在り方について
 現行の憲法改正手続法は、公的機関(広報協議会)の広報以外の個人や団体(政党を含む)による有料の私的な意見広告に関しては、賛成・反対の投票を勧誘する意見広告(国民投票運動)は投票の14日前から禁止されるものの、それ以外の広告について一切規制はなく、単なる意見表明広告に至っては投票当日でも許されている。
 これは、表現の自由を考慮してのものと思われるが、テレビ・ラジオ等を利用した意見広告は、非常に大きな影響力を有する一方、莫大な費用がかかるものであり、誰でも自由にできる表現方法ではなく、資金力のある側が圧倒的に有利に利用できるという不公平な事態が生じ得る。特に、テレビやラジオのCM枠は、時間帯やCM時間によって大きな影響力の差が出るものでありながら、単に資金力の問題ばかりでなく、大手広告代理店を通じてでなければこれを押さえられないという特殊な構造があり、誰もが自由に利用できる表現媒体ではない。従って、これらのテレビやラジオの放送CMについては、その影響力の強さを考えれば、私的な有料意見広告についても、憲法改正の賛成・反対の両方の意見を公平(同一時間帯に同一の量)に放送できるような仕組みを作る必要がある。
 本来的には、そのような公平な仕組みは民間の放送事業体の方で自主的に作成することが望ましいが、CM広告等が収益の中で大きな割合を占める民間の放送事業体においては自主規制にも限界があると思われる。それゆえ、そのような特殊な構造を持つ表現媒体としてのテレビ・ラジオによる憲法改正意見広告については、上記のように公平なシステムにするための法規制も検討されるべきである。
 
2 「最低投票率」と「投票の過半数」について
 憲法第96条第1項は、国民投票の議決については「投票の過半数の賛成」と定めるだけである。したがって、現行法上は、有効投票(白票は除く)の過半数と解釈され、また投票率についても何ら法的な規定はないということになる。
 しかし、これでは、例えば白票が多数投じられた場合には、有効投票(白票は除く)の過半数で決せられる結果、投票権者全体の中の少数者の賛成により憲法改正が行われることとなってしまうことにもなりかねない。それでは主権者たる国民の意思が十分反映された改正と言えるのか、その正当性に重大な疑義が生じてしまう。
 憲法改正の重大性を考えれば、憲法改正の国民投票においては白票もまた改正の是非に関する国民の意思表示の一つと見るべきであり(少なくとも改正に是でない)、白票も含めた過半数とされるべきである。
 また、そもそも憲法改正は主権者たる国民の多くの意思に基づくべきであるところ、投票率に何らの規制もない現行の改正手続法は、やはり大きな不備があるものと言わざるを得ない。
 日本弁護士連合会では、かつて「全有権者の3分の2」という投票率を提案しているが、いずれにしても「国民の意思が十分反映された」と評価できる国民投票となるような「最低投票率」を法により定めることは不可欠であり、その法改正を強く求める。もっとも、「最低投票率」を定めるとボイコット運動が起こりかねないという反対論もあるが、ボイコット(棄権)もまた白票と同様、「改正に是でない」という意思表示の一つであり、何ら否定されることではない。
 
 以上のとおり、当会は、上記で指摘した点を含め、憲法改正手続法の各問題点の抜本的改正を求めるものである。