例のアメフトタックル問題で日大は「危機管理学部」を有しているにもかかわらず、大学としてのリスクマネジメントが全くできていないことが話題になりました。
「危機管理」というと、普通は企業・組織防衛上のテクニックというイメージを持ちますが、16年に新設された日大の危機管理学部が教育の目標に掲げている学問領域は、犯罪やテロに対するセキュリティ、国際紛争や戦争に対するセキュリティなどで、日本会議系の極右学者が強調する「国家の危機管理」がメインだということです。
その原型は、2004年に加計学園が銚子市に開校した千葉科学大学で、同大学は開校時点で日本で最初の危機管理「学部」を持ちました。そこの「危機管理システム学科」には、「警察官・犯罪科学コース」や「自衛官・安全保障コース」などが設けられ、教授陣には自衛隊出身者や元警察官などが天下っています。安倍首相の右腕である萩生田光一幹事長代行が、落選中に名誉客員教授を務めていたのも千葉科学大の危機管理学部でした。
2004年といえば安倍氏が北朝鮮日本人拉致問題で名を売り、総理への道を着実に登っていた時期でした。千葉科学大学開校の翌2005年には安倍氏は「日本安全保障・危機管理学会」なる団体を立ち上げ、いまもその団体の名誉会長におさまっています(「学会」の名称がついていますが、別にアカデミックな組織ではありません)。
LITERAの記事を紹介します。
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日大騒動で話題「危機管理学部」は安倍首相が旗振り役だった!
加計学園に作らせ、警察・自衛隊の天下り学会の名誉会長も
LITERA 2018年6月1日
日本大学のアメフトタックル問題で「危機管理学」がにわかに注目されている。周知の通り、日大には危機管理学部なる珍しい学部があるのだが、タックル問題での日大上層部の対応のお粗末さが満天下に示されるや、「危機管理学部があるのにまったく危機管理ができていない」というツッコミが相次いだのである。
だが、そうしたツッコミはちょっと的外れかもしれない。というのも、2016年に新設された日大危機管理学部が教育の目標に掲げている学問領域は、犯罪やテロに対するセキュリティ、国際紛争や戦争に対するセキュリティ、災害や大規模事故のマネジメント、情報セキュリティの4つ。「危機管理」といっても、企業のリスクマネジメントや不祥事対応などではなく、保守論壇誌で櫻井よしこサンや日本会議系の極右学者が叫んでいる「国家の危機管理」がメインなのだ。
そのことは、教授陣の顔ぶれからもうかがえる。現在、日大危機管理学部には20人の教授がいるが、実に約半数にあたる9人が官僚出身。しかも、そのほとんどが、警察、公安調査庁、自衛隊など、治安組織のOBである。
たとえば安部川元伸教授は公安調査庁で37年勤務し、東北公安調査局長も務めた。太田茂教授は検察出身で法務省司法法制課長などを歴任。金山泰介教授は元警察官僚で内閣安全保障室参事官補や警視庁公安部参事官等の経験がある。川中敬一教授は総理府(現・内閣府)でキャリアを積んだ。河本志朗教授は外務省への出向経験もある元警察官。木原淳教授は元防衛官僚。茂田忠良教授は警察庁出身で内閣官房にも勤務した。髙宅茂教授は法務官僚で入国管理局長などを歴任。吉富望教授は元幹部自衛官(最終階級は陸将補)で内閣情報調査室での勤務経験もある。
ようするに、日大危機管理学部は、一部のメディアから指摘されているように、警察、公安、自衛隊出身者の「天下り学部」になってしまっているのだ。不祥事対応どころか、不祥事を力ずくで隠蔽しようとしてきたお役所出身の官僚たちが教授では、民間組織のリスクマネジメントに何の役にも立たないのは当然だろう。
それどころか、こんな顔ぶれでは、学問というより、自分たちの出身省庁の利害の代弁に陥ってしまう危険性さえある。警察官僚や公安庁、防衛官僚たちが自分たちの省庁の権勢拡大と予算拡大のためにありもしない危機を煽ってきたことは周知の事実だが、そうした省庁のOBが教員になることで、その手法がアカデミズムの場にもち込まれかねないだろう。
だが、「危機管理学」のこうしたありようは何も日大だけではない。本サイトが調べた限り、危機管理学部が設置されている大学は日大を含めて3校。残る2校は、加計学園が運営する千葉科学大学と倉敷芸術科学大学なのだが、こちらにも同じような構造がある。
というか、危機管理学部は、むしろ加計学園が原型で、しかも、言い出しっぺは安倍首相らしいのだ。
加計学園の「危機管理学部」は安倍首相の発案で生まれた
2004年、加計学園は千葉県銚子市に千葉科学大を開校しているが、同大学は開校時点で、危機管理学部と薬学部の2つの学部を擁していた。同校ホームページによれば、日本で「危機管理学」という名称の学部を置いたのは千葉科学大が初だという。
同大の危機管理学部には「危機管理システム学科」「環境危機管理学科」「医療危機管理学科」「航空技術危機管理学科」「動物危機管理学科」なる5つの学科が用意されているが、そのうちのひとつ、危機管理システム学科には「警察官・犯罪科学コース」や「自衛官・安全保障コース」などが設けられている。「自衛官・安全保障コース」では「安全保障概論」なる講義で〈国家安全保障戦略〉や〈平和安全保障法制〉、〈対テロ対策〉などを学ぶという。まるで自衛隊や警察学校みたいだが、実際、卒業後の進路は自衛官や警察官が多いらしい。
そして、教授陣にもやはり、自衛隊出身者や元警察官が顔を揃えている。
ようするに、日本で初めて「危機管理学部」を置いた千葉科学大にも、自衛隊や警察の天下りが見え隠れし、治安や安全保障など「国家の危機管理」について教えるという教育方針があるのだが、さらに興味深いのは、この千葉科学大の危機管理学部の“生みの親”がなんと、安倍首相だという事実だ。
丹念な取材と調査で加計学園疑惑の真相に肉薄したノンフィクション作家・森功氏の著書『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』(文藝春秋)には、このように書かれている。
〈ある千葉科学大の元教員は、危機管理学部そのものが、安倍の発案で設置された学部なのだと打ち明けてくれた。この元教員本人も、安倍から頼まれて千葉科学大で働き始めた口らしい。〉
ほかにも同書には〈危機管理学部については、安倍が大学教育における安全保障の重要性を訴え、提唱してつくらせたともいわれる〉との記述もある。ちなみに、安倍首相の右腕である萩生田光一幹事長代行が、落選中に名誉客員教授を務めていたのも千葉科学大の危機管理学部だった。
これらの証言や記述によれば、まさに安倍晋三こそが「危機管理学部」の創始者だと言えるだろう。そもそも千葉科学大が開学した2004年といえば、安倍氏が北朝鮮日本人拉致問題で名を売り、総理への道を着実に登っていた時期だ。安倍氏がその後、北朝鮮や中国脅威論の旗振り役となり、集団的自衛権の行使容認など、戦後日本の安全保障政策を180度変えたことは言うまでもない。その意味でも、安倍首相が「危機管理学部」の“生みの親”だというのはたしかに腑に落ちるのである。
しかも、安倍首相にはもうひとつ、「危機管理学」との深く関係を示す事実がある。
千葉科学大学開校の翌2005年、「日本安全保障・危機管理学会」なる団体が立ち上がった。現在は一般社団法人化している。実は、安倍首相はこの「危機管理学」の名前を冠した団体の名誉会長を務めているのだ。
安倍首相が名誉会長を務める「日本安全保障・危機管理学会」なる団体
では、その「日本安全保障・危機管理学会」とはいかなる組織なのか。同会HPによれば、〈安全保障および危機管理に関する理論とその応用・実践についての研究を深めつつ、有為な人材を育成し、大学、自治体および企業等へ送り込むことに寄与することを目的〉とされ、学位論文作成支援や修士・博士取得に関わる協力もしているという。また、前述した公安調査庁出身の安部川元伸・日本大学危機管理学部教授も同会に参加し、講演などを行なっている。
もっとも、同会はいわゆる大学アカデミズムの系譜にある団体ではなく、日本学術会議や日本学術協力財団、科学技術振興機構が共同で公開している学会名鑑にも登録されていない。
実は、月刊情報誌「テーミス」が同会について報じたことがあるのだが(2015年5月号)、その際は〈陸上自衛隊OBを中心にした集まりから発展して、警察OBや公安調査庁OBらが加わり、05年に設立された団体〉と紹介されていた。実際に同会の役員名簿(2017年6月1日現在)を見ても、理事には元警視総監や元幹部自衛官などの防衛人脈が多数名前を連ねており、組織出身者の受け皿となっていることがうかがえる。
また、保守系政治家との結びつきも強いらしく、名誉会長の安倍首相だけでなく、名誉顧問には渡辺喜美参院議員、顧問には自民党の中谷元・元防衛相や菅原一秀衆院議員、“ヒゲの隊長”こと佐藤正久外務副大臣、さらにはあの党広報副本部長・和田政宗参院議員の名前もある。
過去には防衛利権がらみの民間シェルター業者との癒着が取り沙汰されたこともあった同会だが、その印象は「学会」というよりはやはり、自衛隊、警察の天下りの受け皿を狙った可能性が高い。
本サイトが5月30日、安倍首相が名誉会長になった経緯について同会事務局に尋ねたところ、担当者はこのように回答した。
「安倍さんがまだ総理になる前、第二次安倍政権の前の民主党政権のときに、渡辺喜美さんの紹介で入ってこられたんですよ。当時、渡辺さんはまだ自民党員だったからですね、そういうことで、同会に入っていろいろ勉強したり情報をもらったりされたらいかがですか、ということで」
実際には、渡辺氏は2009年に麻生内閣が不信任案を出された直後に自民党を離党しているが、いずれにしても安倍首相が2000年代はじめに、こうした「危機管理学」に並々ならぬ関心を寄せ、自衛隊や警察OBとともに、それを「学問」として確立するための動きを見せていたことは間違いないだろう。
日大危機管理学部はどういう経緯で生まれたのか
そして、それから約10年後、今度は日本一のマンモス大学・日本大学に危機管理学部が誕生した。
日大の問題を追及してきた月刊誌「FACTA」(ファクタ出版)は、この危機管理学部が“日大のドン”田中英壽理事長と警察官僚出身の亀井静香・元衆院議員の仕掛けによって誕生したと指摘している。
〈田中氏に國松(孝次・元警察庁長官)、野田(健・元警視総監)両氏ら警察人脈を紹介したのも亀井氏だ。霞が関とパイプを深めた田中氏は、警察庁、法務省、防衛省、国土交通省のサポートを受けることで、文系初の危機管理学部の体制を整えることに成功した〉〈ようするに理事長が亀井さんに丸投げした、霞が関に恩を売る天下り学部〉(2016年5月号)
実際、日大危機管理学部の開校式典には、亀井氏や國松元警察庁長官や野田元警視総監ら、警察官僚出身の大物警察OBが出席していた。
また、昨日発売の「週刊文春」(文藝春秋)では、亀井氏が取材を受け「もともと危機管理学部は、俺が田中理事長に『俺がお前の用心棒になってやるから、お前は用心棒を作る学部を作れ。今の時代、危機管理学部を作らにゃいかん』と言って作らせたんだ」と語っている。
日大のほうは安倍首相は関係なさそうだが、政界関係者が動いて、警察の天下りの場としてつくられたというのは間違いないだろう。
あちらこちらで組織のガバナンスにおける「危機管理」の重要性が叫ばれている昨今だが、そのリスクマネジメントを学ぶはずの「危機管理学部」が、実際は警察や自衛隊の実質的な「天下り団体」と化しているというのは、明らかにおかしい。マスコミは日大のタックル問題を契機に、この危機管理利権というものにもメスを入れるべきだろう。 (編集部)