2022年3月4日金曜日

敵基地攻撃検討「危険な逆行」/「核共有」議論自体ありえない

 参院予算委は2日、ウクライナ情勢等に関する集中審議を行い、日本共産党から山添拓、井上哲士両議員が質問に立ち、ロシアのウクライナ侵略を利用した「国連・憲法9条無力論」や核武装=「核共有」を求める議論を厳しく批判しました。
 山添氏は「戦争の違法化は二つの大戦を経た重要な教訓だ。力の論理を否定し、紛争の平和的解決を求めたのが国連憲章であり憲法9条だ」として、政府が敵基地攻撃能力の保有を検討しているのは「危険な逆行」で、「相手をせん滅するような打撃力を持つ」とする安倍元首相の主張について、憲法や国際法に反しないのかとただしたのに対して。岸田首相は「国際法の観点からも憲法の観点からもそうした範囲内に収まるものでない」と述べ、憲法と相いれないとの認識を示しました。
 井上氏は、自民党の安倍元首相や福田達夫総務会長らが、日米が核兵器を共同運用する「核共有」(ニュークリア・シェアリング)を求めていることについて、「非核三原則は、本会議決議をへて国是とされているものだ」として「与党内で議論・検討すること自体あり得ない」と指摘したのについて、岸田首相は「(核共有は)非核三原則を堅持する立場からも、原子力基本法をはじめとする法体系からも、認められない」と答え、明確に否定しました。
 そもそも「核共有」はNPT(核不拡散条約)にも反するものですが、NATOではNPT以前に取り決められていたので例外的に認められていたのでした。

 いずれにしても「議論すること自体あり得ない」ものです。
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敵基地攻撃検討「危険な逆行」山添氏、「核共有」議論自体ありえない 井上氏
参院予算委 ウクライナ問題集中審議 共産党追及
                        しんぶん赤旗 2022年3月3日
 参院予算委員会は2日、ウクライナ情勢等に関する集中審議を行いました。日本共産党から山添拓、井上哲士両議員が質問に立ち、ロシアのウクライナ侵略を利用した「国連・憲法9条無力論」や核武装=「核共有」を求める議論を厳しく批判し、政府を追い詰めました。(下掲の記事参照)
 山添氏は、「国連は無力」「9条で国は守れるか」などとした一部の議論をあげ「力には力で対抗が必要と言わんばかりだ」と批判。「戦争の違法化は二つの大戦を経た重要な教訓だ。力の論理を否定し、紛争の平和的解決を求めたのが国連憲章であり憲法9条だ」として、岸田文雄首相の認識をただしました。
 岸田首相は「日本国憲法の掲げる平和主義の理念は国際の平和と安全の維持を目的とした国連憲章の考え方と理念的に軌を一にするもの」と答弁。山添氏は「いま求められるのは侵略やめよの世論でプーチン政権を包囲し、平和秩序を回復、再構築することだ」と主張しました。
 一方で政府が敵基地攻撃能力の保有を検討しているのは「危険な逆行だ」と指摘。「相手をせん滅するような打撃力を持つ」とする安倍晋三元首相の主張についてただしました。岸田首相は「国際法の観点からも憲法の観点からもそうした範囲内に収まるものでない」と述べ、安倍氏の議論は憲法と相いれないとの認識を示しました。
 山添氏は、紛争の平和的手段による解決などに努力する東南アジア諸国連合(ASEAN)の取り組みをあげ、「これが21世紀の世界が進む道だ。平和秩序が脅かされる中だからこそ、平和のルールを実効的にすることが問われている」と訴えました。
                   ◇
 井上氏は、ロシアのプーチン大統領が核兵器の先制使用も辞さないと威嚇しウクライナ侵略を進めている問題で、「第三の戦争被爆地を生むことは絶対にあってはならない」との広島・長崎市長の連名の抗議文を示し、核兵器の使用も威嚇も許されないと世界に呼びかけるよう岸田文雄首相に求めました。
 その上で、自民党の安倍晋三元首相や福田達夫総務会長らが、米軍の核を日本に配備し、日米が共同運用する「核共有」(ニュークリア・シェアリング)を求めていることを厳しく批判。「非核三原則は、時の政権の政策にとどまるものではない。本会議決議をへて国是とされているものだ」として「与党内で議論・検討すること自体あり得ない」と指摘しました。
 岸田首相は「(核共有は)非核三原則を堅持する立場からも、原子力の平和利用を前提とする原子力基本法をはじめとする法体系からも、認められない」と答え、明確に否定しました。
 井上氏は、米科学者団体の2013年の報告書に、秋葉剛男国家安全保障局長が外務省北米局審議官だった当時、「効果的な核抑止のオプション」として、「核共有」をあげ、中国と北朝鮮を念頭に、「日本が核使用を決定する」と述べたことが記されていることを指摘。「危機に乗じて核兵器を保有・配備する議論は許されない。日本は、核兵器のない世界をつくる先頭に立つべきだ」と主張しました。


論戦ハイライト 参院予算委 山添議員の追及
                        しんぶん赤旗 2022年3月3日
 日本共産党の山添拓議員は2日の参院予算委員会で、岸田文雄首相が保有を検討するとしている「敵基地攻撃能力」について、憲法や国際法に反する問題を追及しました。

山添 相手国せん滅の打撃力 憲法に反しないか
首相 憲法の範囲内に収まらない

 「力の論理を否定し、紛争の平和的解決を求めたのが国連憲章であり、憲法9条だ」―。山添氏は、ロシアによるウクライナ侵略のもとで、一部のメディアや政治家から「国連は無力」「憲法9条で国は守れるのか」などの言説があることにふれ、岸田文雄首相の認識をただしました。
 その上で、「軍事による対抗に頼ろうとするのは安直な戦前回帰だ」と指摘し、岸田首相が「敵基地攻撃能力の保有検討」と表明したのは「危険な逆行だ」と批判。安倍晋三元首相が昨年11月の講演で「敵基地だけに限定せず、『抑止力』として攻撃力を持つ」と述べたとして、岸田首相が検討しているのも「敵基地だけに限定しない打撃力か」と迫りました。

 首相 あらゆる選択肢を排除せず、憲法、国際法の範囲内で議論を行う。

 山添 安倍元首相の「相手国をせん滅するような打撃力」の考えは、憲法や国際法に反しないか。
 首相 相手国をせん滅する軍事力を持つことは、憲法の観点からも範囲内に収まるものではない。

 山添氏は、歴代政府が「専守防衛」を憲法9条と自衛隊の関係を説明する基本としてきたと指摘。『防衛白書』でも「武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使」「憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略」などとしているとして、「専守防衛は、維持するのか」と質問しました。
 岸信夫防衛相 防御するのに他に手段がないと認められる場合に限り、基地をたたくことは法的に自衛の範囲内だ。
 山添 敵基地攻撃能力は、攻撃を受ける前に打撃する。専守防衛を超えるのでは。
 防衛相 わが国に対する武力攻撃は、相手が着手したときに発生と見ている。何をもって「着手」と見るのかは具体的には言えない。

 岸氏はこう答弁し、国際法違反の先制攻撃との区別を明確に示すことができませんでした。山添氏は「抑止力は、脅しであり行使することが前提。専守防衛とは相いれない」と批判しました。
 山添氏は、2月16日の衆院予算委で岸防衛相が相手国の領空に入り、軍事拠点を爆撃する「海外での空爆」を認めたと厳しく批判。2020年11月13日の衆院安保委で、岸氏自身も「武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領空、領海に派遣する、いわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超える」と述べ、憲法違反との認識を示していたと指摘し、「いつ変わったのか」と追及しました。
 防衛相 考え方は変わっていない。
 山添 戦闘機で爆撃を可能にするという。これでは憲法の範囲内で議論をすると言ってもその範囲がどんどん拡大している。

 追及に対し岸氏は事実上、答弁不能に陥りました。山添氏は「他国の領域に入って爆撃などすれば全面戦争につながる。だから、歴代政権ですら憲法に反するとしてきた」と強調しました。
 さらに、日本が敵基地攻撃能力を持てば、日米の役割分担を変えることになるのではないかと追及。「憲法、国際法、日米の基本的な役割分担、いずれも政府の従来の見解すら踏み越え、戦争する自衛隊に変えようとするものにほかならない」と厳しく批判しました。

山添 外交努力尽くすことが政治の役割
首相 外交交渉で緊張緩和が基本

 山添氏は、政府が安倍・菅内閣のもとで安保戦略の策定や改変に関わった人たちと意見交換を重ね、折木良一元統合幕僚長らが昨年11月に発表した政策提言は、「専守防衛」の見直しと「非核三原則」の是非を問う議論まで呼びかけているとして、次のようにただしました。
 山添 憲法から積極的に逸脱しようという人を有識者として招いている。議事録も資料も公表されていない。秘密裏に進めるのか。
 加野幸司内閣官房内閣審議官 議事概要は行政文書として作成し保存している。
 山添 国民的に検証可能にするべきだ。開示を求める。

 さらに山添氏は、シンクタンク「日本戦略研究フォーラム」が昨年8月に行った台湾周辺で軍事緊張が高まった場合のシミュレーションにふれ、次のようにただしました。
 山添 元外務省国際法局長が「こんなシナリオに入ったら勝者は誰もいないということは、非常にはっきりしている」と述べたのはその通りだ。こんなシナリオに入らないために、外交努力を尽くすことが政治の役割だ。
 首相 いかなる事態においても、外交交渉を使って緊張を緩和するべく努力する。これが基本だ。

 山添氏は、日本が敵基地攻撃能力を持てば、北朝鮮であれ中国であれ、それを上回る軍拡を進め、際限のない軍拡競争になると指摘。東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国では友好協力条約(TAC)を結び、対話と協力の地域をつくる努力を重ねていることを紹介したうえで、ASEANが中心となってつくられた東アジアサミット(EAS)について、首相は重要な会議だと述べたとして、21世紀の国際社会が進むべき道だと強調。ロシアのウクライナ侵略を利用し、力に力で応える道に進んではならないと訴えました。



04- バイデンに一石五鳥のウクライナ紛争/バイデンが犯した一番の間違い

 イラクのフセイン大統領がクエートに侵攻したのは、当時イラク駐在の米国大使(女性)から、「クエートに侵攻しても米国は静観する」とそそのかされたからでした。

 しかしフセインが実際にクエート侵攻を始めると、彼女はすぐさまイラク空港から米本国に帰国しました。勿論その後の展開をよく承知していたからです。
 イラクはその後米国などの連合軍によって完膚なきまでに破壊され、アラビアンナイトの国「ペルシャ」は「石器時代に戻」されました。
 そうした経緯は、今回バイデンがロシアを「ウクライナ戦争」に誘導するに当たり、「米国は派兵しない」と繰り返し強調したことと符合します。
 植草一秀氏が、「バイデンに一石五鳥のウクライナ紛争」とする記事を出しました。バイデンにとってウクライナ戦争は起きて欲しいものでした。そしてウクライナがどんなに悲惨なことになるのかなども意に介さないのでした。
 以下に紹介します。
 併せて、グローバル・マクロリサーチの記事「ロシアのウクライナ侵攻でバイデン大統領が犯した一番の間違い」を紹介します。
 14年の米国が関与したクーデターで親米化したウクライナ政権は19年、NATOへの加入に努力することを憲法に明記しました。NATOへの加入は直ちに「武力をもってロシアに敵対する」ことを意味するもので、まさに「親米化は即反露化」であることを絵に画いたようなものでした、プーチンが繰り返しウクライナに「中立化」を求めている所以です。
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バイデンに一石五鳥のウクライナ紛争
                  植草一秀の『知られざる真実』 2022年3月 3日
平和はすべてのことに対して優先されるべき価値。日本国憲法の価値もここにある。
日本国憲法は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と明記した。
紛争を解決する手段として武力による威嚇と武力の行使を永久に放棄した。
正しい選択である。したがって、紛争の解決に武力を用いないこと。この大原則を守らねばならない。
この意味で、ウクライナで生じている現実は悲しむべきこと。ロシアは武力の行使を実行するべきでなかった。

しかし、この問題はロシアだけの問題でない。
つい最近も、極めて重大な問題が発生している。その問題を主導したのは米国である。
米国はアフガニスタンやイラクに軍事侵攻した。
2003年に勃発したイラク戦争は米国による軍事侵攻である。
米国はイラクが大量破壊兵器を保持していると主張し、これを大義名分にしてイラクに軍事侵攻した。国連決議違反の行為でもあった。
しかし、イラクから大量破壊兵器は発見されなかった。この戦争で大量のイラク市民が犠牲になっている。
確定した数値は存在しないが少ない推計で10万人、多い推計では60万人の市民が犠牲になっている。

英「BBC」の番組で、ウクライナの元検事が、「青い目と金髪のヨーロッパ人が、子供たちが殺されているのです」と語ったという記事を紹介した。
イギリス人の元欧州議会議員がウクライナ人について、
「彼らは私たちにそっくりだ。ゆえに、いま起きていることがたまらなく衝撃的だ。
戦争とはもはや貧困にあえぐ遠く離れた場所に暮らす人々の身に降りかかるものではなく、どこにでも起こり得るのだ。」と述べたことも同じ記事で紹介されている。
「「私たちみたいな青い瞳の金髪の人々が攻撃されるなんて」ウクライナ報道に見える“人種差別”」https://bit.ly/3sBgIdM 
イラクで民間人が犠牲になるのは構わないが、青い目と金髪の白色人種が犠牲になることは許せないということなのか。

ロシアがイラク戦争の事例を引くのは順当である。
こう表現する意味は、ロシアの行為が正しいということではなく、ロシアも間違っているが、米国も間違っていたということ。
米国がイラク戦争を棚に上げてロシアを悪魔のように表現することに正当性はない。

現在に至る経緯のなかで重要なものを羅列しておこう。
1990年 ドイツ統一問題での協議で米国がソ連に対してNATO東方不拡大の方針を明示
1994年 ブタペスト覚書 ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナが核不拡散条約に加盟したことに関連し、米、ロ、英の核保有3ヵ国が3国に安全保障を提供するというもの
2004年 オレンジ革命 ヤヌコヴィッチ大統領を選出した選挙に不正があるとして再選挙を行い、親西欧のユシチェンコを大統領に選出した政権転覆革命
2010年 大統領選でヤヌコヴィッチを大統領に選出
2014年 ヤヌコヴィッチ大統領を国外追放する暴力的革命が勃発し、大統領がポロシェンコに交代
この政変に連動してロシアがクリミアを併合
ロシア、ウクライナ、ドイツ、フランス4ヵ国により「ミンスク合意」調印。ウクライナ東部地区に自治権を付与することが定められた。
2019年 ゼレンスキー大統領選出 ミンスク合意履行を約束
2021年3月 ゼレンスキー大統領が軍事安全保障戦略に署名 内容は「ロシア連邦との地政学的対決において、国際社会がウクライナを政治的、経済的、軍事的に支援すること」を求めるというもの。背景にバイデン政権の発足があった。

その後、2022年まで、ロシアはウクライナにミンスク合意履行を求めたが、ゼレンスキー大統領はこの要請を無視するだけでなく、ロシアに対する軍事的敵対姿勢を鮮明にした。
この結果としてウクライナ紛争が勃発した。
バイデン大統領にとっては、
1.ロシアを悪者に仕立てる
2.米国産天然ガスを高値売却できる
3.軍産複合体に販売促進機会を与える
4.大統領支持率を引き上げる
5.子息のウクライナ疑惑を封殺する
という一石五鳥の成果を得られるのが、今回のウクライナ紛争である。

米国は派兵を早期に否定し、ロシアの軍事侵攻を扇動した側面を有する。
冷静に経緯を見極め、早期に停戦を実現するために、すべての国家が力を注ぐべきである。
米国、NATOが停戦を追求せずにウクライナへの軍事支援を優先することは、紛争の長期化、深刻化を招くことになる。

鳩山友紀夫元首相との対談(アジア共同体研究所主宰YouTube動画「UIチャンネル」)
https://bit.ly/39BTgmd 
10月5日発売の鳩山友紀夫元首相、孫崎享氏、前川喜平氏との共著『出る杭の世直し白書(ビジネス社)https://amzn.to/3hSer8a のご高覧も賜りたい。
             (以下は有料ブログのため非公開)

ロシアのウクライナ侵攻でバイデン大統領が犯した一番の間違い
                 グローバル・マクロリサーチ 2022年2月25日
ロシアのウクライナ侵攻が行われた。大手メディアでは最近の出来事しか報じられていないが、ロシアとウクライナ(そしてアメリカ)のこれまでの因縁をここで一度復習するとともに、この件でバイデン大統領が犯した決定的な間違いについて論じたい。

2014年ウクライナ騒乱
一連の問題の始まりは2014年のウクライナ騒乱である。2013年11月21日に首都キエフの欧州広場で始まった親EU派のデモが次第に暴徒化し、最終的には親ロシア派だったヤヌコビッチ大統領を追放したことからすべてが始まる。
ロシアはこれを違法なクーデターだと呼んだが、アメリカとEUはヤヌコビッチ大統領は暴徒化したデモとの交渉に応じるべきだとして、そうしない場合はウクライナ政府関係者に制裁を課すとして脅している。
奇妙なことだが西洋人は暴力的なデモに甘い。それが自国の利益になる場合にはなおさらで、そうした歪んだ政治観が例えばシリアの反政府武装勢力を「穏健な民主派」と呼ぶ精神を生んでいるのだろう。
一方で2020年のアメリカ大統領選挙に抗議したデモ隊がアメリカ議会を占領した時にはそれを非難するのだから、彼らの善悪の基準はよく分からない。他国での暴力は良いが、自国では嫌だということだろうか。
ともかく、欧米諸国はこうしてウクライナに新たに成立したポロシェンコ大統領率いる親EU派の新政権とともにウクライナを西洋化してゆく。
一方でロシアはこの騒乱に紛れてクリミア半島を併合し、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国としてウクライナからの独立を宣言したウクライナ東部を支援することで、ロシアと国境を接し、しかも首都モスクワにかなり近いウクライナが完全に反露勢力となってしまうことを防いだ。ここまでが第1ラウンドである。

ウクライナのEU・NATO化
その後親EU派のポロシェンコ大統領率いるウクライナはEUとNATOに傾斜してゆく。
最終的には2019年にEUとNATOへの加入努力をウクライナ憲法にまで明記しており、モスクワにミサイルを打ちやすい位置にあるウクライナがロシアをいまだに仮想敵国とするNATOに急速に近づいてゆくのを見て、プーチン氏は危機感を感じていただろう。
日本やアメリカのメディアを見ているとロシアがいきなりウクライナを攻めたように見えるが、そういう背景があるのである。今回のウクライナの一件については中国の王毅外相の以下のコメントが一番理性的であるように思う。

各国の主権、独立及び領土的一体性は尊重され、維持されてしかるべきであり、ウクライナも例外ではない。
だがウクライナ問題は複雑な歴史的経緯があり、ロシアの安全保障上の合理的な懸念を理解する。

大手メディアにやられた日本人の大半は、中国人の政治的発言を理性的だと思える理性を持たないだろうが。

関係の深いウクライナとバイデン氏
さて話をポロシェンコ大統領率いる新政権が元々の親ロシア政権に取って代わったところに話を戻すが、そのポロシェンコ氏を良いように使っていたのが当時オバマ大統領の副大統領だったバイデン氏である。
大半の人が思っているよりもバイデン氏とウクライナの因縁は深い。例えば2016年に解任されたウクライナの元検事総長ビクトル・ショーキン氏は、自分の解雇はバイデン氏の介入によるものだと主張し次のように述べている。

わたしの解任はポロシェンコ大統領の要求に従い辞表を提出した形で行われた。ポロシェンコがわたしに辞任を頼んだのは、アメリカ政府の特にジョー・バイデンによる圧力のためだった。
当時バイデンは副大統領で、わたしを解任するまでウクライナへの10億ドルの補助金は渡さないと脅していた。
わたしが解任された本当の理由は、わたしがジョー・バイデンの息子であるハンター・バイデンが取締役を勤めていた天然ガス企業であるブリスマ社に対する広範囲な汚職捜査を行なっていたからだ。

ちなみにこのバイデン氏の息子問題はトランプ氏が大統領時代にウクライナに対して中止された捜査を再開するよう圧力をかけ、その後アメリカ民主党に自分の政治的利益のためにウクライナに圧力をかけたと批判されている。民主党はバイデン氏のやったことは良いというのだろうか?

バイデン政権とウクライナ
さて、バイデン氏はその後大統領となり、アフガニスタンから米軍を引き上げる際に民間人と米軍の武器より先に米軍を引き上げてしまい、すべてタリバンに奪われるという失態で支持率を大きく急落させた。
バイデン氏はもうご老体なのだから、民間人と武器を忘れてくることぐらいアメリカ国民は想定しておかなければならなかったに違いない。ジェフリー・ガンドラック氏はこの件を「あなたの税金がタリバンの武器に生きている」と皮肉っている。
 ・ガンドラック氏: あなたの税金がタリバンの兵器に

こうして支持率を減らし、窮地に陥ったバイデン氏が思い浮かべたのが、何処までもアメリカに翻弄された哀れなウクライナだったに違いない。
バイデン氏は恐らくウクライナ問題を大きく喧伝した後に自分が華麗に解決することで支持率を回復させる算段だったのだろう。
「明日にもロシアが来る」「プーチン大統領はもう決心した」とどうやって行なったのか分からない読心術(誰も突っ込まなかった)を用いてロシアの脅威を煽るバイデン氏に対し、ウクライナのゼレンスキー大統領自身が煽るのを止めてくれと遠回しにお願いしている。
一方でプーチン大統領は軍を展開しながら何処までやれるのか見極めていただろう。バイデン氏はプーチン氏の心を読んでいたが、交渉は通常相手の出方を見ながらやるものである。
ロシアとしては当然ながらアメリカと戦争をやる気はない。韓国と同じ経済規模のロシアがアメリカに勝てるはずがない。
だからプーチン氏はアメリカの出方を伺っていたはずだ。そこでバイデン氏が口を開いて次のように言った。

 米軍をウクライナ国内に派兵することはない。

間違いなくプーチン氏は「え? いいの?」と思ったはずである。筆者も心底びっくりした。それはウクライナに侵攻してもアメリカは攻めてこないというアメリカ大統領からの意思表示である。
バイデン氏はその少し前にプーチン氏の心を読んでいたが、プーチン氏が本当に決心したのはこのタイミングだと筆者は確信している。

結 論
仮にウクライナ派兵がアメリカにとって間違った決断だとしても、派兵をしないなどとは絶対に言ってはいけない。交渉とはそういうものである。
バイデン氏に何かを期待するのが無理というものなのだが、プーチン氏にとってはあまりに簡単なゲームだっただろう。
一方でウクライナは欧米の圧力によって親EU・親NATOにされた挙げ句、実際に戦争になったらウクライナに加勢をする国は1つも無かった。ウクライナは最後まで遊ばれたということである。上記のガンドラック氏は現在の状況についてこうツイートしている。
ジョー・バイデンはアメリカの納税者に対し、そもそもウクライナでどうなればアメリカの成功になるのか直ちに説明する必要がある。
あるいはその前に何故アメリカの納税者がウクライナの国境を守るために金を払わなければならないのか説得力ある説明をしなければならない。
ここから日本が得られる教訓が1つある。日本が戦争になったらアメリカが助けに来てくれると思っている日本人に言っておくが、少なくない数のアメリカ人は日本が何処にあるかさえ知らず、世界地図を見せられたらインドを指差す人も少なくないだろう。アメリカに行ったことさえない大半の日本人には信じられないかもしれないが、本当の話である。
大体日本はアメリカに攻められたのであり、何故戦時中に自分が侵攻した中国から、自分を攻めてきたアメリカに守ってもらうという意味不明な発想になるのだろう? 何が起こってもアメリカ人は日本に来ないか、あるいは滅びゆく日本を偲んでインド旅行ぐらいはしてくれるかもしれない。

2022年3月3日木曜日

プーチンの常軌を逸した肚のうち/苦しむのは市井の人々 経済制裁しか道はないのか

 日刊ゲンダイが「正気か狂気か、抵抗は誤算か織り込み済みか 誰も読めない プーチンの常軌を逸した肚のうち」とする記事を出しました。

 ロシアがウクライナとの停戦交渉のテーブルに着いたのは、想定外の戦況が影響していると見られています。2回目の停戦交渉が模索されていますが、プーチン大統領は、問題解決にはウクライナの「非武装化」、「中立的地位」、「クリミアにおけるロシアの主権承認」が条件だとしているので、ウクライナはとても受け入れられないでしょう。
 当然のことですが、侵攻が行われてからの交渉はロシアも成果無しでは引き下がれないし、事実上の降伏を求めているウクライナもそうでしょう。
 ロシアの非は明らかですが、こうなる以前に周囲は・・・といってもそれは唯一米国なのですが、何故ここまで進むことを止められなかったのでしょうか。むしろ米国はロシアが侵攻し泥沼に嵌ることを望んでいた感があります。
 プーチンが「変質した」とする論調もあります。昨年7月にプーチンは「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」と題した論文を発表しました。「我々の精神的、人間的、文化的な絆は一つの起源にさかのぼる」と説き、ロシア人とウクライナ人、ベラルーシ人は一つの民族であり、ウクライナの首都キエフはロシアの各都市の母だとしているということです。プーチンにすれば1991年の旧ソ連崩壊後の30年は“間違った”歴史だったという意識だとして、五野井郁夫・高千穂大教授は、「プーチンの主張は民族の一体化を目指すということで、ウクライナにベラルーシも加えた『大ロシア主義』とでも言うようなロシア帝国の復活です。~ マクロン大統領らから『かつてのプーチンではない』との声が出るのは、プーチンが自らのプロパガンダに酔いしれているうちに、思考をむしばまれ、現実が見えなくなっているのではないか」と痛烈に批判しています。
 NATO加盟を目指すゼレンスキー大統領はプーチン氏の論文に嫌悪感をあらわにして「ひとつの民族ではない」と完全に否定したということです。
 日刊ゲンダイの記事を紹介します。
 同紙はまた、「苦しむのは市井の人々 ゼレンスキーは英雄なのか 経済制裁しか道はないのか」とする記事を出しました。つくづく事ここに至った悲劇の大きさを思い、「ことあれかし」と煽った米国への違和感を禁じ得ません。併せて紹介します。
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正気か狂気か、抵抗は誤算か織り込み済みか 
      誰も読めない プーチンの常軌を逸した肚のうち
                          日刊ゲンダイ 2022/3/1
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 ロシアとウクライナの停戦交渉が28日、ウクライナとの国境に近いベラルーシ南東部で行われた。ロシア通信によると、両国代表団はこの日の成果をそれぞれ本国に持ち帰って検討の上、改めて交渉に臨む見通し。ロシア代表団は、次回交渉が数日中にポーランドとベラルーシの国境地帯で行われると明らかにした。
 ただ、プーチン大統領は、問題解決にはウクライナの「非武装化」や「中立的地位」、クリミアにおけるロシアの主権承認が条件だと、28日に電話会談したマクロン仏大統領に伝えている。ウクライナに事実上の降伏を求めるものであり、とてもウクライナ側は受け入れられない。交渉は難航必至である。
 もっとも、ロシアが停戦交渉のテーブルに着いたのは、想定外の戦況が影響しているのかもしれない。
 北部、東部、南部の3方向からウクライナを取り囲んでいたロシア軍が24日に侵攻した際は、一両日中の首都キエフ陥落もあり得るとされたが、そうはならなかった。米英当局は「ロシア軍は兵站の問題とウクライナ側の強い抵抗に苦しんでいる」「ウクライナ軍の抗戦はロシア側の予想を上回る」と分析。ウクライナ軍も28日、「ロシア軍による首都キエフの占領工作は失敗した」との声明を発表した。
 ここまでのウクライナの抵抗は誤算なのか織り込み済みなのか。プーチン大統領が焦っている、との見方が出てきている。
 今回のロシアの侵攻は、情報戦や首脳外交で抑制を求めてきた欧米各国にとって「まさか本当にやるとは」だった。国際社会を完全に敵に回せば、経済的にも打撃が大きい。実際、ロシアの特定の銀行は国際的な決済ネットワーク「SWIFT」から締め出されることが決まった。経済制裁の強化を受け、ロシア中央銀行は28日、主要政策金利を10.5%引き上げ、20%にすると決めている。ルーブル暴落とハイパーインフレ対策だ。
 国民を経済的困窮に陥らせる恐れがあってもお構いなし。禁じ手の核兵器使用まで示唆するプーチンはいまや、正気か、狂気か、の異次元にいる。プーチンがここまで常軌を逸した行動に至った背景に何があるのか。

プロパガンダに酔うプーチンのとめどない野望
 「2019年12月の首脳会談で会っていた人物とは、もはや同じではなかった」
 マクロンのこの発言は注目だ。最後まで侵攻回避の仲介役を目指したマクロンの見たプーチンは、2年前と比べ「よりかたくなになり、孤立している」印象で、「イデオロギーや国家安全保障にこだわる傾向がうかがえた」という。
 米国からも「何かおかしい」との声が上がる。ブッシュ(子)政権で国務長官を務めたライス氏は「以前の彼とは違う。不安定に見え、違う人物になってしまっている」と、メディアの取材に語った。
 プーチンの変質──。その一端を表すとされるのが、昨年7月にプーチンが発表した「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」と題された論文だ。「我々の精神的、人間的、文化的な絆は一つの起源にさかのぼる」と説き、ロシア人とウクライナ人、ベラルーシ人は一つの民族であり、ウクライナの首都キエフはロシアの各都市の母だとしている。つまり、1991年の旧ソビエト連邦崩壊後の30年はプーチンにとって“間違った”歴史だということなのだ。
 高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。
「旧ソ連復活というのは領土の問題だけではない。ナショナリズムの高まりも関係しているでしょう。プーチンの主張は、新たな帝国をつくるにあたり、民族の一体化を目指すということ。ウクライナにベラルーシも加えた『大ロシア主義』とでも言うようなロシア帝国の復活です。そこには、人道や人権といった価値観は存在しない。マクロン大統領らから『かつてのプーチンではない』との声が出るのは、プーチンが自らのプロパガンダに酔いしれているうちに、思考をむしばまれ、現実が見えなくなっているのではないか」
 英誌「エコノミスト」元編集長のビル・エモット氏は毎日新聞のコラム(27日付)で、<プーチン大統領が目標としてきたのは、ロシアが通常のルールを適用されない超大国と見なされることだった>と書いた。“超大国”の野望はとどまるところを知らない。<ウクライナだけで、ことは終わらないだろう>として、<欧州の安全保障全体を左右する発言力と影響力を持つことだ>と予測した。
 ソ連復活を夢見る独裁者をどうやったら止められるのだろうか。

KGBスパイとして目の当たりにした東西冷戦終結のトラウマ
 プーチンはソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的大惨事」と呼んだ。ソ連の復活、強いロシアを再び、という思考に至ったのには、KGBのスパイとして東西冷戦終結を目の当たりにしたトラウマがあると専門家らは分析する。
 東西ドイツを分断していた「ベルリンの壁」が崩壊した1989年。プーチンは旧東ドイツのドレスデンで暮らしていた。壁崩壊により自由を求める群衆は、ドレスデンのKGBのビルにも押し寄せ、プーチンはその群衆と対峙した原体験を持つ。
 1990年にプーチンはソ連に戻ったが、翌91年、ソ連は崩壊。冷戦の勝者は米国を代表とする西側諸国という屈辱。90年代以降、世界秩序は米国一極体制となり、かつてのソ連邦構成国からもバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)などが米主導の軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)に加盟するまでになった。
 しかし、米国は2000年代にアフガニスタンやイラクに派兵した「対テロ戦争」で疲弊。オバマ大統領時代に「世界の警察官ではいられない」と宣言した。米国の明らかな弱体化だった。そしてトランプ大統領が登場し、米国内の分断が進む。それはバイデン政権となってますます加速し、バイデンは国内対策でアフガン駐留米軍を完全撤退させた。中国の台頭もあり、米国の指導力が著しく低下したいまが、ソ連復活の好機到来とプーチンは捉えたのだろう。
 国際ジャーナリストの春名幹男氏は言う。
「プーチンはソ連崩壊以降の西側に対して、強い報復の念を抱いてきた。2014年にウクライナ南部のクリミアを併合したことで一定の目的を果たしましたが、トランプ大統領誕生やブレグジット(英国のEU離脱)による欧州の分断、米のアフガン撤退で欧米の結束が揺らいだことなど、報復を実行に移すさらなるチャンスが来たとプーチンは見た。ただ、ウクライナをナメてかかり、いきなり全面戦争を仕掛けたものの、ウクライナ側の徹底的な抵抗に遭って苦戦を強いられている。大きな誤算でしょう」
 国際社会との協調など微塵も考えていないプーチンに対し、世界中で大規模な反戦デモが湧き起こっている。ドイツ・ベルリン中心部のブランデンブルク門付近には27日、10万人以上がウクライナ国旗を表す青と黄の装束で行進し、連帯を表明した。こうした国際世論がプーチンに通じるのか。ウクライナにおいて、さらなる流血が続けば、国際社会は元の鞘に戻れない袋小路に入り込んでしまう。
「48時間以内のキエフ制圧がかなわなかった。反戦デモの拡大を受け、ドイツはロシアの銀行のSWIFT締め出しに同意した。いずれもロシアにとって想定外で、プーチンは追い込まれている。最悪シナリオは『小型核の使用』です。平気で国際法を犯せる指導者なのですから、ここまで来たらもう失うものはない、となってもおかしくありません」(五野井郁夫氏=前出)
 それだけは避けなければならないが、この先、何が起こるのか。プーチンの肚のうちは誰にも読めない。プーチンにしかこの戦争は止められない。


苦しむのは市井の人々 ゼレンスキーは英雄なのか 経済制裁しか道はないのか
                           日刊ゲンダイ 2022/3/2
                        (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 ロシアのプーチン大統領が仕掛けた無謀なウクライナ侵攻は2日で1週間となる。圧倒的な戦力の違いから、当初は2日ほどで首都キエフは陥落するとみられていた。2月末までにウクライナ軍の一部を武装解除させ、3月初めにはロシア軍の支援を受けた勢力が主要都市を制圧、数カ月以内に傀儡の新政権が発足──。プーチン政権寄りの政治学者はこうした見立てを披露していたほどだ。
 ところが、ウクライナ軍の徹底抗戦によってロシア軍の進軍は減速。攻防は長期化の様相だ。無慈悲な大国を相手に一歩も引かないゼレンスキー大統領は英雄なのか。プーチンの野望を断つには経済制裁しか道はないのか。わかっているのは、戦禍に苦しむのはいつだって市井の人々だということだ。
 プーチンの影響下にあるベラルーシで28日に行われたロシアとウクライナ代表団による停戦協議は、平行線のまま終了。ロシアは併合したクリミア半島に対する主権の承認、ウクライナの非武装中立化を主張。「中立の確約」によってウクライナのNATO(北大西洋条約機構)入りを阻むためだ。
 しかし、ウクライナがそんな勝手な要求をのむはずもない。即時停戦とロシア軍の撤退を求めて譲らず、決着はつかなかった。2日にも2回目の協議が行われる見通しだが、ロシアは攻撃の手を緩めていない。
 米国防総省などによると、ロシア軍は国境付近に集結させた戦闘部隊のうち8割強をウクライナに投入。一部はキエフから25キロほどの地点まで前進し、装甲車や戦車などからなる車列は全長60キロ超に及ぶという。数日中にキエフを包囲する狙いとみられ、1日はテレビ塔が攻撃されて大きな爆発が起きた。第2の都市ハリコフ中心部の広場も爆撃され、巻き込まれた州庁舎は3分の1が崩壊。各地で多数の死傷者が出ているという。
 マルカロワ駐米ウクライナ大使は、戦術核兵器に次ぐ威力を持つ、燃料気化爆弾(サーモバリック爆弾)が使用されたと訴えている。ゼレンスキーはSNSにアップしたビデオメッセージで「ロシアはテロ国家だ。誰も許さない。誰も忘れない」と怒りを爆発させたが、ロシアのショイグ国防相は「目標が達成されるまで特別軍事作戦を続ける」と揺さぶりをかけている。

元自衛官も「義勇兵」に志願
「パパは、軍隊の人、英雄たちに物を売ったりして助けるんだって。もしかしたら戦うこともあるかも」
 少年が涙をぬぐいながらこう話す映像をロイター通信が配信し、世界の悲しみを深めている。少年の父親はロシア軍と戦うウクライナ軍を支援するため、戦火を逃れて国境を目指す家族と別れ、キエフに残ったという。ロシア軍の侵攻が始まった24日、ゼレンスキーは90日間有効の総動員令に署名。18~60歳の男性の出国を禁じたため、少年の父親は国外脱出を断念したのだろうか。ウクライナ政府は全土の兵士と予備役を招集したほか、希望する市民に武器を配布し、総力戦で首都を防衛する構えだ。元プロボクシング世界ヘビー級王者のクリチコ兄弟(兄ビタリはキエフ市長)や元世界3階級制覇王者のワシル・ロマチェンコをはじめ、国民的スターが「国を守るために戦う」などと訴える動画がメディアを通じて世界中に拡散している。一部の女性たちが銃を手にし、軍の呼びかけに応じて火炎瓶を作る様子も伝えられる。
 たとえ家族が離散しても、国のために命をかけて戦う市民の姿から目を背ける人は少ない。形容しがたい感情が見る者を刺激するからこそ、在日ウクライナ大使館には20億円もの寄付が集まっているのだろう。しかし、狂った独裁者プーチンは論外として、大メディアには戦争で苦しむのは常に庶民だという視点が欠け、煽る一方なのではないか。ゼレンスキーはこの事態を外交努力で避けられなかったのか。「戦時指導者」として求心力を高め、支持率は95%に達したというが、60歳以下の男性の出国を禁じ、国民に武器を取れというのが褒められるのか。NATO加盟国は次々にウクライナに武器を供与し、泥沼化にいざなっているようにも見える。在日ウクライナ大使館によると、外国人の「義勇兵」の募集に元自衛官を含む約70人の日本人が志願しているという。

腰引けたバイデン、ノーベル賞狙いのマクロン
 筑波大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう言う。
「ゼレンスキー大統領はもはや引くに引けず、とことんやるつもりなのでしょうが、ロシア側の要求は3点セットのパッケージで取引はできない。ウクライナ側の選択肢はのむか、のまないか。交渉の余地はありません。ロシア中央銀行の取引制限や『金融上の核兵器』といわれるSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除は効果がテキメンで、ルーブルは大暴落して過去最安値を更新しています。制裁強化で追い込まれるプーチン大統領はさらにかたくなになり、より大きな軍事的報復に向かわせてしまうのではないか。人生最後の賭けに出たプーチン大統領を西側の論理で止めることが果たしてできるのか」
 対ロ制裁はエスカレートの一途だ。ロシア中銀の外貨準備の半分は資産凍結を行った国で管理されているため、ルーブル買い支えの手は尽きつつある。欧米企業のロシア離れも加速。世界の主要金融機関が加盟するIIF(国際金融協会)はロシア経済がデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が「極めて高い」としており、現実になれば世界経済も「返り血」を浴びることになる。そうでなくても、ロシアは原油やガスの産出国であることから、需給逼迫不安でエネルギー価格は高騰し、物価高を深刻化させている。経済制裁の前に欧米の首脳のうち誰が本気でプーチンと直談判したのか。
「停戦合意の仲介者を自任するフランスのマクロン大統領は、侵攻前からプーチン大統領と会談を重ね、米ロ首脳会談のセットにこぎつけたものの、ちゃぶ台をひっくり返された。プーチン大統領と非常に近しいベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介役を担っていることから見ても、手玉に取られているのは明らかです。再選を目指す大統領選を来月に控えるマクロン大統領はノーベル平和賞を狙っているともいわれますから、足元を見透かされたのでしょう。天然ガス消費量の6割以上をロシアに頼るドイツのショルツ首相も国内事情を抱え、メルケル前首相のような重しの役割は果たせませんでした」(中村逸郎氏=前出)
 アフガン撤退の失敗や物価高などから逆風にあえぐ米国のバイデン大統領の腰が引けていたのは、言うまでもない。

武器供与は残弾処理のためか
 米国の退役軍人らでつくる平和団体「ベテランズ・フォー・ピース」(VFP)はウクライナ侵攻への抗議のみならず、対ロ制裁にも反対を表明。「戦争ではなく外交を」と題した声明はこう指摘している。
〈米国とロシアにとって、現在の唯一の正気の行動は、真摯な交渉を伴う、真の外交です。さもなくば、事態は制御不能になり、世界が核戦争に陥ることにもなりかねません〉
〈制裁は、戦争の責任者に打撃を与えるものでなく、生活に最低限必要なものが手に入りにくくなってしまうことにより、弱い市民に打撃を与える〉
 VFPジャパン共同代表で、元陸自レンジャー隊員の井筒高雄氏は言う。
「米国をはじめとするNATO加盟国がウクライナへの武器供与に積極的なのは、プーチン大統領の暴挙を止める目的だけではなく、各国軍が抱える残弾処理の思惑も見え隠れします。武器弾薬は一定の期限を迎えたら入れ替える必要があり、何らかの形で処分しなければなりません。ウクライナに提供すれば手間暇もコストも省ける。戦争は一部の国にとって公共事業のようなもので、長引くほど軍需産業は儲かり、投資する金融機関も潤う。しかし、プーチン大統領の焦りが示しているように、戦端が開いてしまえば主体的にコントロールすることはできません。だからこそ真摯な外交が求められるのです」
 ウクライナでは無辜の市民が戦闘に駆り出され、命を奪われている。国連は、今後数カ月で500万人近い難民が発生するとみている。世界の指導者の怠慢と無能で、全世界の人々が未曽有の危機に直面しつつある。