日刊ゲンダイが「正気か狂気か、抵抗は誤算か織り込み済みか 誰も読めない プーチンの常軌を逸した肚のうち」とする記事を出しました。
ロシアがウクライナとの停戦交渉のテーブルに着いたのは、想定外の戦況が影響していると見られています。2回目の停戦交渉が模索されていますが、プーチン大統領は、問題解決にはウクライナの「非武装化」、「中立的地位」、「クリミアにおけるロシアの主権承認」が条件だとしているので、ウクライナはとても受け入れられないでしょう。
当然のことですが、侵攻が行われてからの交渉はロシアも成果無しでは引き下がれないし、事実上の降伏を求めているウクライナもそうでしょう。
ロシアの非は明らかですが、こうなる以前に周囲は・・・といってもそれは唯一米国なのですが、何故ここまで進むことを止められなかったのでしょうか。むしろ米国はロシアが侵攻し泥沼に嵌ることを望んでいた感があります。
プーチンが「変質した」とする論調もあります。昨年7月にプーチンは「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」と題した論文を発表しました。「我々の精神的、人間的、文化的な絆は一つの起源にさかのぼる」と説き、ロシア人とウクライナ人、ベラルーシ人は一つの民族であり、ウクライナの首都キエフはロシアの各都市の母だとしているということです。プーチンにすれば1991年の旧ソ連崩壊後の30年は“間違った”歴史だったという意識だとして、五野井郁夫・高千穂大教授は、「プーチンの主張は民族の一体化を目指すということで、ウクライナにベラルーシも加えた『大ロシア主義』とでも言うようなロシア帝国の復活です。~ マクロン大統領らから『かつてのプーチンではない』との声が出るのは、プーチンが自らのプロパガンダに酔いしれているうちに、思考をむしばまれ、現実が見えなくなっているのではないか」と痛烈に批判しています。
NATO加盟を目指すゼレンスキー大統領はプーチン氏の論文に嫌悪感をあらわにして「ひとつの民族ではない」と完全に否定したということです。
日刊ゲンダイの記事を紹介します。
同紙はまた、「苦しむのは市井の人々 ゼレンスキーは英雄なのか 経済制裁しか道はないのか」とする記事を出しました。つくづく事ここに至った悲劇の大きさを思い、「ことあれかし」と煽った米国への違和感を禁じ得ません。併せて紹介します。
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正気か狂気か、抵抗は誤算か織り込み済みか
誰も読めない プーチンの常軌を逸した肚のうち
日刊ゲンダイ 2022/3/1
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
ロシアとウクライナの停戦交渉が28日、ウクライナとの国境に近いベラルーシ南東部で行われた。ロシア通信によると、両国代表団はこの日の成果をそれぞれ本国に持ち帰って検討の上、改めて交渉に臨む見通し。ロシア代表団は、次回交渉が数日中にポーランドとベラルーシの国境地帯で行われると明らかにした。
ただ、プーチン大統領は、問題解決にはウクライナの「非武装化」や「中立的地位」、クリミアにおけるロシアの主権承認が条件だと、28日に電話会談したマクロン仏大統領に伝えている。ウクライナに事実上の降伏を求めるものであり、とてもウクライナ側は受け入れられない。交渉は難航必至である。
もっとも、ロシアが停戦交渉のテーブルに着いたのは、想定外の戦況が影響しているのかもしれない。
北部、東部、南部の3方向からウクライナを取り囲んでいたロシア軍が24日に侵攻した際は、一両日中の首都キエフ陥落もあり得るとされたが、そうはならなかった。米英当局は「ロシア軍は兵站の問題とウクライナ側の強い抵抗に苦しんでいる」「ウクライナ軍の抗戦はロシア側の予想を上回る」と分析。ウクライナ軍も28日、「ロシア軍による首都キエフの占領工作は失敗した」との声明を発表した。
ここまでのウクライナの抵抗は誤算なのか織り込み済みなのか。プーチン大統領が焦っている、との見方が出てきている。
今回のロシアの侵攻は、情報戦や首脳外交で抑制を求めてきた欧米各国にとって「まさか本当にやるとは」だった。国際社会を完全に敵に回せば、経済的にも打撃が大きい。実際、ロシアの特定の銀行は国際的な決済ネットワーク「SWIFT」から締め出されることが決まった。経済制裁の強化を受け、ロシア中央銀行は28日、主要政策金利を10.5%引き上げ、20%にすると決めている。ルーブル暴落とハイパーインフレ対策だ。
国民を経済的困窮に陥らせる恐れがあってもお構いなし。禁じ手の核兵器使用まで示唆するプーチンはいまや、正気か、狂気か、の異次元にいる。プーチンがここまで常軌を逸した行動に至った背景に何があるのか。
プロパガンダに酔うプーチンのとめどない野望
「2019年12月の首脳会談で会っていた人物とは、もはや同じではなかった」
マクロンのこの発言は注目だ。最後まで侵攻回避の仲介役を目指したマクロンの見たプーチンは、2年前と比べ「よりかたくなになり、孤立している」印象で、「イデオロギーや国家安全保障にこだわる傾向がうかがえた」という。
米国からも「何かおかしい」との声が上がる。ブッシュ(子)政権で国務長官を務めたライス氏は「以前の彼とは違う。不安定に見え、違う人物になってしまっている」と、メディアの取材に語った。
プーチンの変質──。その一端を表すとされるのが、昨年7月にプーチンが発表した「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」と題された論文だ。「我々の精神的、人間的、文化的な絆は一つの起源にさかのぼる」と説き、ロシア人とウクライナ人、ベラルーシ人は一つの民族であり、ウクライナの首都キエフはロシアの各都市の母だとしている。つまり、1991年の旧ソビエト連邦崩壊後の30年はプーチンにとって“間違った”歴史だということなのだ。
高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。
「旧ソ連復活というのは領土の問題だけではない。ナショナリズムの高まりも関係しているでしょう。プーチンの主張は、新たな帝国をつくるにあたり、民族の一体化を目指すということ。ウクライナにベラルーシも加えた『大ロシア主義』とでも言うようなロシア帝国の復活です。そこには、人道や人権といった価値観は存在しない。マクロン大統領らから『かつてのプーチンではない』との声が出るのは、プーチンが自らのプロパガンダに酔いしれているうちに、思考をむしばまれ、現実が見えなくなっているのではないか」
英誌「エコノミスト」元編集長のビル・エモット氏は毎日新聞のコラム(27日付)で、<プーチン大統領が目標としてきたのは、ロシアが通常のルールを適用されない超大国と見なされることだった>と書いた。“超大国”の野望はとどまるところを知らない。<ウクライナだけで、ことは終わらないだろう>として、<欧州の安全保障全体を左右する発言力と影響力を持つことだ>と予測した。
ソ連復活を夢見る独裁者をどうやったら止められるのだろうか。
KGBスパイとして目の当たりにした東西冷戦終結のトラウマ
プーチンはソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的大惨事」と呼んだ。ソ連の復活、強いロシアを再び、という思考に至ったのには、KGBのスパイとして東西冷戦終結を目の当たりにしたトラウマがあると専門家らは分析する。
東西ドイツを分断していた「ベルリンの壁」が崩壊した1989年。プーチンは旧東ドイツのドレスデンで暮らしていた。壁崩壊により自由を求める群衆は、ドレスデンのKGBのビルにも押し寄せ、プーチンはその群衆と対峙した原体験を持つ。
1990年にプーチンはソ連に戻ったが、翌91年、ソ連は崩壊。冷戦の勝者は米国を代表とする西側諸国という屈辱。90年代以降、世界秩序は米国一極体制となり、かつてのソ連邦構成国からもバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)などが米主導の軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)に加盟するまでになった。
しかし、米国は2000年代にアフガニスタンやイラクに派兵した「対テロ戦争」で疲弊。オバマ大統領時代に「世界の警察官ではいられない」と宣言した。米国の明らかな弱体化だった。そしてトランプ大統領が登場し、米国内の分断が進む。それはバイデン政権となってますます加速し、バイデンは国内対策でアフガン駐留米軍を完全撤退させた。中国の台頭もあり、米国の指導力が著しく低下したいまが、ソ連復活の好機到来とプーチンは捉えたのだろう。
国際ジャーナリストの春名幹男氏は言う。
「プーチンはソ連崩壊以降の西側に対して、強い報復の念を抱いてきた。2014年にウクライナ南部のクリミアを併合したことで一定の目的を果たしましたが、トランプ大統領誕生やブレグジット(英国のEU離脱)による欧州の分断、米のアフガン撤退で欧米の結束が揺らいだことなど、報復を実行に移すさらなるチャンスが来たとプーチンは見た。ただ、ウクライナをナメてかかり、いきなり全面戦争を仕掛けたものの、ウクライナ側の徹底的な抵抗に遭って苦戦を強いられている。大きな誤算でしょう」
国際社会との協調など微塵も考えていないプーチンに対し、世界中で大規模な反戦デモが湧き起こっている。ドイツ・ベルリン中心部のブランデンブルク門付近には27日、10万人以上がウクライナ国旗を表す青と黄の装束で行進し、連帯を表明した。こうした国際世論がプーチンに通じるのか。ウクライナにおいて、さらなる流血が続けば、国際社会は元の鞘に戻れない袋小路に入り込んでしまう。
「48時間以内のキエフ制圧がかなわなかった。反戦デモの拡大を受け、ドイツはロシアの銀行のSWIFT締め出しに同意した。いずれもロシアにとって想定外で、プーチンは追い込まれている。最悪シナリオは『小型核の使用』です。平気で国際法を犯せる指導者なのですから、ここまで来たらもう失うものはない、となってもおかしくありません」(五野井郁夫氏=前出)
それだけは避けなければならないが、この先、何が起こるのか。プーチンの肚のうちは誰にも読めない。プーチンにしかこの戦争は止められない。
苦しむのは市井の人々 ゼレンスキーは英雄なのか 経済制裁しか道はないのか
日刊ゲンダイ 2022/3/2
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
ロシアのプーチン大統領が仕掛けた無謀なウクライナ侵攻は2日で1週間となる。圧倒的な戦力の違いから、当初は2日ほどで首都キエフは陥落するとみられていた。2月末までにウクライナ軍の一部を武装解除させ、3月初めにはロシア軍の支援を受けた勢力が主要都市を制圧、数カ月以内に傀儡の新政権が発足──。プーチン政権寄りの政治学者はこうした見立てを披露していたほどだ。
ところが、ウクライナ軍の徹底抗戦によってロシア軍の進軍は減速。攻防は長期化の様相だ。無慈悲な大国を相手に一歩も引かないゼレンスキー大統領は英雄なのか。プーチンの野望を断つには経済制裁しか道はないのか。わかっているのは、戦禍に苦しむのはいつだって市井の人々だということだ。
プーチンの影響下にあるベラルーシで28日に行われたロシアとウクライナ代表団による停戦協議は、平行線のまま終了。ロシアは併合したクリミア半島に対する主権の承認、ウクライナの非武装中立化を主張。「中立の確約」によってウクライナのNATO(北大西洋条約機構)入りを阻むためだ。
しかし、ウクライナがそんな勝手な要求をのむはずもない。即時停戦とロシア軍の撤退を求めて譲らず、決着はつかなかった。2日にも2回目の協議が行われる見通しだが、ロシアは攻撃の手を緩めていない。
米国防総省などによると、ロシア軍は国境付近に集結させた戦闘部隊のうち8割強をウクライナに投入。一部はキエフから25キロほどの地点まで前進し、装甲車や戦車などからなる車列は全長60キロ超に及ぶという。数日中にキエフを包囲する狙いとみられ、1日はテレビ塔が攻撃されて大きな爆発が起きた。第2の都市ハリコフ中心部の広場も爆撃され、巻き込まれた州庁舎は3分の1が崩壊。各地で多数の死傷者が出ているという。
マルカロワ駐米ウクライナ大使は、戦術核兵器に次ぐ威力を持つ、燃料気化爆弾(サーモバリック爆弾)が使用されたと訴えている。ゼレンスキーはSNSにアップしたビデオメッセージで「ロシアはテロ国家だ。誰も許さない。誰も忘れない」と怒りを爆発させたが、ロシアのショイグ国防相は「目標が達成されるまで特別軍事作戦を続ける」と揺さぶりをかけている。
元自衛官も「義勇兵」に志願
「パパは、軍隊の人、英雄たちに物を売ったりして助けるんだって。もしかしたら戦うこともあるかも」
少年が涙をぬぐいながらこう話す映像をロイター通信が配信し、世界の悲しみを深めている。少年の父親はロシア軍と戦うウクライナ軍を支援するため、戦火を逃れて国境を目指す家族と別れ、キエフに残ったという。ロシア軍の侵攻が始まった24日、ゼレンスキーは90日間有効の総動員令に署名。18~60歳の男性の出国を禁じたため、少年の父親は国外脱出を断念したのだろうか。ウクライナ政府は全土の兵士と予備役を招集したほか、希望する市民に武器を配布し、総力戦で首都を防衛する構えだ。元プロボクシング世界ヘビー級王者のクリチコ兄弟(兄ビタリはキエフ市長)や元世界3階級制覇王者のワシル・ロマチェンコをはじめ、国民的スターが「国を守るために戦う」などと訴える動画がメディアを通じて世界中に拡散している。一部の女性たちが銃を手にし、軍の呼びかけに応じて火炎瓶を作る様子も伝えられる。
たとえ家族が離散しても、国のために命をかけて戦う市民の姿から目を背ける人は少ない。形容しがたい感情が見る者を刺激するからこそ、在日ウクライナ大使館には20億円もの寄付が集まっているのだろう。しかし、狂った独裁者プーチンは論外として、大メディアには戦争で苦しむのは常に庶民だという視点が欠け、煽る一方なのではないか。ゼレンスキーはこの事態を外交努力で避けられなかったのか。「戦時指導者」として求心力を高め、支持率は95%に達したというが、60歳以下の男性の出国を禁じ、国民に武器を取れというのが褒められるのか。NATO加盟国は次々にウクライナに武器を供与し、泥沼化にいざなっているようにも見える。在日ウクライナ大使館によると、外国人の「義勇兵」の募集に元自衛官を含む約70人の日本人が志願しているという。
腰引けたバイデン、ノーベル賞狙いのマクロン
筑波大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう言う。
「ゼレンスキー大統領はもはや引くに引けず、とことんやるつもりなのでしょうが、ロシア側の要求は3点セットのパッケージで取引はできない。ウクライナ側の選択肢はのむか、のまないか。交渉の余地はありません。ロシア中央銀行の取引制限や『金融上の核兵器』といわれるSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除は効果がテキメンで、ルーブルは大暴落して過去最安値を更新しています。制裁強化で追い込まれるプーチン大統領はさらにかたくなになり、より大きな軍事的報復に向かわせてしまうのではないか。人生最後の賭けに出たプーチン大統領を西側の論理で止めることが果たしてできるのか」
対ロ制裁はエスカレートの一途だ。ロシア中銀の外貨準備の半分は資産凍結を行った国で管理されているため、ルーブル買い支えの手は尽きつつある。欧米企業のロシア離れも加速。世界の主要金融機関が加盟するIIF(国際金融協会)はロシア経済がデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が「極めて高い」としており、現実になれば世界経済も「返り血」を浴びることになる。そうでなくても、ロシアは原油やガスの産出国であることから、需給逼迫不安でエネルギー価格は高騰し、物価高を深刻化させている。経済制裁の前に欧米の首脳のうち誰が本気でプーチンと直談判したのか。
「停戦合意の仲介者を自任するフランスのマクロン大統領は、侵攻前からプーチン大統領と会談を重ね、米ロ首脳会談のセットにこぎつけたものの、ちゃぶ台をひっくり返された。プーチン大統領と非常に近しいベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介役を担っていることから見ても、手玉に取られているのは明らかです。再選を目指す大統領選を来月に控えるマクロン大統領はノーベル平和賞を狙っているともいわれますから、足元を見透かされたのでしょう。天然ガス消費量の6割以上をロシアに頼るドイツのショルツ首相も国内事情を抱え、メルケル前首相のような重しの役割は果たせませんでした」(中村逸郎氏=前出)
アフガン撤退の失敗や物価高などから逆風にあえぐ米国のバイデン大統領の腰が引けていたのは、言うまでもない。
武器供与は残弾処理のためか
米国の退役軍人らでつくる平和団体「ベテランズ・フォー・ピース」(VFP)はウクライナ侵攻への抗議のみならず、対ロ制裁にも反対を表明。「戦争ではなく外交を」と題した声明はこう指摘している。
〈米国とロシアにとって、現在の唯一の正気の行動は、真摯な交渉を伴う、真の外交です。さもなくば、事態は制御不能になり、世界が核戦争に陥ることにもなりかねません〉
〈制裁は、戦争の責任者に打撃を与えるものでなく、生活に最低限必要なものが手に入りにくくなってしまうことにより、弱い市民に打撃を与える〉
VFPジャパン共同代表で、元陸自レンジャー隊員の井筒高雄氏は言う。
「米国をはじめとするNATO加盟国がウクライナへの武器供与に積極的なのは、プーチン大統領の暴挙を止める目的だけではなく、各国軍が抱える残弾処理の思惑も見え隠れします。武器弾薬は一定の期限を迎えたら入れ替える必要があり、何らかの形で処分しなければなりません。ウクライナに提供すれば手間暇もコストも省ける。戦争は一部の国にとって公共事業のようなもので、長引くほど軍需産業は儲かり、投資する金融機関も潤う。しかし、プーチン大統領の焦りが示しているように、戦端が開いてしまえば主体的にコントロールすることはできません。だからこそ真摯な外交が求められるのです」
ウクライナでは無辜の市民が戦闘に駆り出され、命を奪われている。国連は、今後数カ月で500万人近い難民が発生するとみている。世界の指導者の怠慢と無能で、全世界の人々が未曽有の危機に直面しつつある。