「無慮」という莫大な数字に冠する言葉がありますが、まさしく「無慮51兆円!」想像を絶する金額です。なぜそれを需要不足で低成長にあえぐ日本の施策に用いないのでしょうか。なぜ日本で増大の一途をたどる貧困問題の改善のために用いないのでしょうか。いずれにしてもなぜそんなことをしたのかを徹底的に追及するべきです。
東洋経済によれば問題は更にあって、それはニクソン元大統領直伝の「マッドマン・セオリー」(ゲーム理論に於ける狂人理論=狂人のように猛々しいことを装って相手を委縮させ従わせようとするテクニック)に引っかかった結果であるということです(詳細は添付の記事を参照ください)。
実際に日本国民は政府筋から、「トランプは何を言い出すかわからないから・・・」ということを事前に十分に宣伝されました。そして結果的にそんなことにならなくて良かったとも・・・
トランプ氏にすれば今回の大戦果を思えば、安倍首相を別荘に泊めて二人でゴルフに興じることなどはお安い御用という訳です。
こうした事情はいずれ世界に知れ渡るので安倍首相の大満足もそう長くは続かないし、繰り返し使えるテクニックではありませんが、51兆円もの貢物は1回で十分とトランプ氏も思っていることでしょう。
トランプ氏は勿論日本にだけそれを用いているわけではありません。その観点からトランプ氏の言動を見直すとその意味も見えてくるし、彼なりに選挙公約を実現しようとしていることも理解できます。
彼が「一つの中国論はおかしい」としてまず台湾の蔡英文総統と異例の電話会談をしたのも、中国が最も困ることをしておいてからそれを脅しにして中国に対して優位に立とうとしたもので、実際にその後は一転して習主席に親書を送り、その後電話会談を行って「一つの中国」を認めました。そうした中で(詳しい内容は不明であるものの)中国からもそれなりの譲歩を引き出したのでしょう。
安倍首相も、トランプ氏が中国との電話首脳会談を1日違いでバッティングさせた意味合いを考えてみるべきでしょう。
東洋経済オンラインの記事を紹介します。
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日米首脳会談で安倍首相は「罠」にハマった
「マッドマン・セオリー」に騙される日本
高橋 浩祐 東洋経済オンライン 2017年02月11日
(国際ジャーナリスト)
ドナルド・トランプ米大統領は型破りで突飛なことをする。予測不可能で衝動的なので、日本をはじめ、世界は注意しなくてはいけない――。もし、あなたがこう信じているならば、すでにトランプ大統領に騙されているかもしれない。
「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領は、これまでに通商問題や為替政策、在日米軍の駐留経費問題でさんざんと日本を批判してきた。しかし、2月10日の日米首脳会談後の記者会見では「われわれは自由で公平、両国にとって利益をもたらす貿易関係を目指す」「日本は重要な同盟国であり、日米同盟は平和と繁栄の礎だ」と日本を持ち上げた。
ニクソン元大統領の「マッドマン・セオリー」を実践
「狂気」を装いながら、結果的に極めて合理的に振舞っている。駆け引きの一環として、常軌を逸した過激な言動を意図的に繰り返し、交渉相手国に要求や条件を吞ませることに成功している。日本のメディアではあまり報じられていないが、これは、トランプ大統領が尊敬するニクソン元大統領の「マッドマン・セオリー」(狂人理論)を実践しているにすぎない。
安倍晋三首相はそんなトランプ大統領の「狂気な演技」に、外国首脳の中で、いの一番に騙されてしまったかもしれない。安倍首相はトランプ氏の大統領選挙当選後には、極めて異例となる大統領就任前の直接会談をニューヨークで急ぎ足に敢行。さらに、今回の日米首脳会談前には、米国で4500億ドル(約51兆円)規模の市場と70万人の雇用創出を目指す超巨大プロジェクトを矢継ぎ早にとりまとめた。
51兆円と言えば、日本のGDPのほぼ10分の1、日本の防衛費の約10倍にあたる相当な額だ。この投資の原資の一部としては、私たち日本人の老後の蓄えとなる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の積立金をあてる案も検討されている。米国ではなく、需要不足で低成長にあえぐ日本の地でこそ必要な施策ではないかと思えるほどだ。
トランプ大統領は選挙中から、自動車をやり玉に対日貿易赤字を問題視し、日本が輸出を増やすために為替操作で円安に誘導していると批判してきた。日本など同盟国の駐留経費負担が「不公平だ」と主張してきた。安倍首相は、そんな強硬な新大統領を何とかなだめるために、米国にすり寄る形で手持ちのカードを最初から大きく切ってしまった。一方、「マッドマン」を演じるトランプ氏は、一見すると突飛で非合理な行動でも、実に合理的な経済利得を得た。
安倍首相のほか、トヨタ自動車も、大統領就任前のトランプ氏からメキシコでつくる新工場についてツイッターで非難されたことから、豊田章男社長自ら米国に5年間で100億ドル(1.1兆円)を投資する計画を発表した(この投資計画自体は以前から策定されていたものであり、トランプ発言とは関係ないようだが)。
安倍首相も豊田社長も、トランプ氏の雇用創出の要求にすかさず応じる姿勢をみせることで、関係を良好に維持したいとの思いがあったのだろう。
おじけづいて次々と三振
しかし、野球で例えれば、米国人投手が最初に思いっきり日本人打者にビンボールを投げ、ひるませる。そして、「次もどんなビンボールが来るかもわからない」とおじけづいた日本人打者が次々と三振をしてしまったようなものだ。そして、官民そろって次々と米国に得点を献上している。
「思いやり予算」と呼ばれる在日米軍駐留経費負担も日本の財政難を受け、1999年度の2756億円をピークに減少傾向に転じ、現在は約1900億円で推移している。トランプ大統領の負担増を求める先制攻撃があり、日本側としてはこれ以上、減額することが事実上難しくなってしまった。
さて、トランプ大統領の行動にみられる「マッドマン・セオリー」とはいかなるものか。もともとはウォーターゲート事件で失脚したニクソン元米大統領が、外交交渉で重宝していた戦略だ。国家安全保障政策やビジネスなど様々な場で用いられるゲーム理論の1つとして知られる。
ニクソン元大統領の首席補佐官だったハリー・ハルデマン氏はウォーターゲート事件後に出版した回顧録”The Ends of Power”の中で、ニクソン氏が「マッドマン・セオリー」について次のように語ったことを打ち明けている。
「北ベトナムに、私が戦争を終わらせるためなら、どんなことでもやりかねない男だと信じ込ませて欲しい。我々は彼らにほんの一言、口を滑らせればいい。『あなたもニクソンが反共に取りつかれていることは知っているだろう。彼は怒ると手に負えない。彼なら核ボタンを押しかねない』とね。そうすれば、2日後にはホーチミン自身がパリに来て和平を求めるだろう」
このニクソン氏の策略通り、米国はパリ和平会議で北ベトナムに米国側の条件を承諾させることに成功した。ニクソンがクレイジーだから核ボタンを押しかねないと北ベトナムの指導者に思い込ませることによって、米国は効果的に外交的成果を得たのだ。
2016年12月20日付のワシントンポスト紙の記事によると、トランプ大統領はこのニクソン元大統領の「マッドマン・セオリー」を信奉している。トランプ氏は、予測不能で、長年にわたる国際規範に敬意を払わないという自らの評判を利用し、米国の敵対国をおじけづかせて譲歩するよううまく追い込んでいる。
なぜトランプ氏はニクソン氏を尊敬するようになったのか。
実は、実業家時代のトランプ氏は、ニクソン氏から手紙をもらったことがある。1987年12月のことだ。この手紙の中で、ニクソン氏は、元ファーストレディーの妻が、テレビ出演をしていたトランプ氏を「素晴らしい」と語ったと伝え、「トランプ氏が選挙に立候補すれば勝つ」と称賛した。トランプ氏はこの手紙を大切に保管し、現在はホワイトハウスの執務室に飾っている。
また、トランプ氏は、そのニクソン政権で、国家安全保障問題担当大統領補佐官や国務長官を歴任したキッシンジャー氏とも選挙中からたびたび会談してきた。中国との歴史的な和解を実現させるなど、米国の利益を最優先に置いた「現実主義の外交」を貫いたキッシンジャー氏から教えを乞うている。
トランプ氏の国家安全保障問題担当の大統領副補佐官には、キッシンジャー氏の側近で、FOXニュースのコメンテーターも務めた女性の保守論客、キャスリーン・マクファーランド氏が就いている。このため、トランプ政権には、新設の国家通商会議(NTC)のトップに指名されたピーター・ナヴァロ氏といった対中強硬派が多い一方で、ニクソン政権下のキッシンジャー外交戦略を受け継ぎ、米中融和を目指すのではないかとの見方もある。
中国に対しても揺さぶり
トランプ大統領は就任前、正式な外交関係がない台湾の蔡英文総統と異例の電話会談を実施し、「台湾は中国の一部」だとする中国政府の「1つの中国」政策の見直しを示唆した。そして、台湾問題を核心的利益とみなす中国政府の強い反発を招いた。
結局、9日の習近平国家主席との電話会談で、「1つの中国」の政策を尊重することで合意したが、トランプ政権はこの「1つの中国」問題を材料にし、中国に為替や通商面で米国の要求に応じるようゆさぶりをかけたとみられている。
前述のワシントンポスト紙の記事は、トランプ大統領の蔡総統への電話が突発的なものではなく、事前に十分に計画された計算尽くしのものだったと指摘している。
米国などとの環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)締結交渉にあたった甘利明前経済再生担当相もこうした見方に与する。甘利氏は10日夜のBSフジ番組「プライムニュース」で、「トランプ大統領は割とその時の思い付きで、極めて重要なことに簡単に触れるように言われがちだが、相当したたかにスタッフが戦略戦術を仕組んでいるのではないかという見方がある」と指摘した。
さらに、「あの大統領だから本当にやりかねないという雰囲気の中で、一番中国が嫌なことをあえてぶつけておいて、ある種、観測気球のように、貿易赤字の解消について真面目に取り組む意志があるのかどうか、踏み絵を踏ませながら行っている戦術ではないか」と述べた。
日本政府には、トランプ大統領の度重なる批判や挑発に踊らされることなく、「マッドマン・セオリーに基づくトランプ政権の次なる手」を見抜く眼力が必要とされているのである。