2017年2月25日土曜日

共謀罪 安倍政権が目指す国民監視国家

 現代ビジネスに、「共謀罪の狙いはテロ対策ではない! スノーデンの警告に耳を傾けよ 合法化される政府の国民監視」と題された記事が載りました。  
 
 共謀罪の狙いはテロの対策などではなく、政府が合法的に国民を監視し検挙出来るようにするためのものです。
 著者の小笠原みどり氏は、「いまから急いで共謀罪が自分にどうかかわるかを知るために、公開中の画『スノーデン』を見ることをおすすめしたい」として、スノーデンが実体験した米国の国家安全保障局(NSA)の国民監視システムの実態を語っています(スノーデンはそのあまりのおぞましさに、アメリカを逃れてからその実態を暴露=内部告発し、現在はロシアに亡命しています)。
 勿論、そこでは並行して安倍政権が目指している共謀罪の危険性についても語られています。
 以下に紹介します。
 
追記)
 原文は約7200字で長文のため一部を省略して5700字ほどにまとめました。全文をご覧になりたい方は、記載のURLからアクセスしてください。
 
 文中に「マルウェア (malware)」という言葉が出てきますが、それは「不正かつ有害に動作させる意図で作成された悪意のあるソフトウェアや悪質なコードの総称」で、具体的には、コンピュータウイルスやワーム、トロイの木馬などを言います
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共謀罪の狙いはテロ対策ではない!
スノーデンの警告に耳を傾けよ 合法化される政府の国民監視  
小笠原みどり  現代ビジネス 2017年2月23日
トランプ米大統領の就任と同時に、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』が米国でベストセラーに躍り出た、と複数のメディアが報じている。
(中 略)
真実を書き換える
『1984年』は作家の出身地である英国や、米国では高校の課題図書となっていることが多く、日本よりも若い年齢で広く読まれている。
(中 略)
明らかな嘘を「もう一つの事実」と呼ぶ政権——黒を白と呼び、白を黒と受け入れる、この「新語法」は「二重思考(ダブルシンク)」によって支えられている、とオーウェルは書く。
だから(「1984年の主人公の)ウィンストンは嘘を同時に真実として受け入れ、真実を嘘にすり替えることができる。この小説のなかの国、オセアニアのあまりにも有名なスローガンを見て、読者がいま思い描くのは海の向こうの国アメリカだけだろうか。
(中 略)
話し合うことはテロ?
「平和のため」と言いながら、大半の憲法学者が違憲性を表明し、世論の反対が強かった集団的自衛権を合法化して、戦争参加への道を大きく開いた政権が、日本にも存在する。
この政権が、今国会で成立を目指しているのが「共謀罪」新設法案である。
共謀罪という概念にもまた、多くの刑事法研究者が反対している。「実行行為がなければ犯罪は成立しない」という歴史的に確立された刑法の大原則を、この法案がおかまいなしにひっくり返そうとしているからだ。
共謀罪は、二人以上の人間が犯罪行為について話し合った時点で、なんと犯罪が成立してしまう。
法務省刑事局長の国会答弁によれば、言葉とは限らず、目配せでも成立するというから、成立要件は限りなく捜査機関の「解釈」の問題になる。しかも犯罪と規定されるもの全般、676もの犯罪が対象になる!(政府はこの対象項目の削減を国会での駆け引き材料にするらしいが、項目の拡大は後から簡単にできる
「犯罪」の概念を密かに書き換え、犯罪行為に至るかもどうかもわからない時点で、むしろ実際には単なる会話に終わることが大半でも、人々を「犯罪者」に変えてしまう恐るべき強権性から、これまで国会で三度も廃案になってきた。
 
その共謀罪を安倍政権は「テロ等準備罪」とラベルを張り替えて、今国会に提出する方針だ。
オリンピックを前にした「テロ対策」だと主張しているが、オリンピックと無関係に過去三度提案されたことを考えても、窃盗から公職選挙法違反まで刑法全体の書き換えに近いということを考えても、「テロ」とは噛み合わない。
共謀罪の核心は、人々の日常のコミュニケーションが犯罪化される、という点にある。合意すること、相談すること、言葉に出すことで犯罪が成立するのだから、警察は私たちのコミュニケーションそのものを捜査対象とすることになる。
それが「テロ対策」というなら、人々が会話すること、集まって表現すること、発言することそのものが犯罪の温床なのだろうか? 話し合うこと=テロ? これぞ危険な「新語法」である。
だが、「戦争」を「平和」と呼ぶ政権が出してきた「オリンピック」と「テロ対策」の二枚看板の前に、世論はなんとなく懐柔されているか、口ごもっているようにみえる。
(中 略)
すべての通信が捜査対象に
そこで、いまから急いで共謀罪が自分にどうかかわるかを知るために、公開中の映画『スノーデン』を見ることをおすすめしたい
 
オリバー・ストーン脚本・監督のこの作品は、米国防総省の国家安全保障局(NSA)の契約職員だったエドワード・スノーデンを主人公に、彼が2013年6月、全世界に衝撃を与える内部告発を遂げるまでを描いている。
(中 略)
なぜ映画に描かれた監視システムが共謀罪と関係するのか。
それは、共謀罪の取り締まりとは犯罪行為以前のコミュニケーションを取り締まることであり、犯罪に関係するコミュニケーションを警察が割り出すには、すべてのコミュニケーションを捜査対象とせざるをえないからである。
すべてのコミュニケーションを警察が把握するなんてありえない、とあなたは思うだろうか? そういう人ほどこの映画を見てほしい。
米政府を始めとする国家権力がすでにそれだけの技術的な能力を備えていることがわかるからだ。ビッグ・ブラザー(小説『1984年』に登場する指導者)もうらやむであろうほどの—。
 
想像をはるかに超えた「監視の力」
映画は2013年6月、29歳のスノーデン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)が、香港のホテルでジャーナリスト3人と面会し、NSAが電子通信網に張り巡らせた監視装置の数々について内部文書を見せる場面から幕を開ける。
 
世界を震撼させた連続スクープが公表されるまでの手に汗握る1週間の合間に、スノーデンの過去と、極秘裏に拡大していった監視プログラムが解き明かされる。
たとえば、「エックスキースコア」。米中央情報局(CIA)にエンジニアとして採用されたスノーデンは、2007年にスイス・ジュネーヴへ派遣され、そこでこのプログラムを知る。
NSAの調査員が「攻撃」「殺し」「ブッシュ」とキーワードを入力して、大統領への敵対的な発言をネット上から検索している。メール、チャット、ブログ、フェイスブックはもちろん、非公開のネット情報も含めて世界中の人々の通信と投稿が対象だ。有名人や政治関係者の発言ではない、すべての「フツーの人々」の私信から洗い出しているのだ。
当然、日本の首相への怒りや警察への批判、企業への不満などを示す発言を捜し出すことも可能だ。
特定の人物について知りたければ、エックスキースコアでその人物が送受信したメールからフェイスブック上の人間関係までを把握することもできる。
 
映画では、なんの罪もないパキスタンの銀行家をCIAが情報提供者として取り込むために、エックスキースコアを使って家族や友人、知人の弱味を捜し出し、それをネタに揺さぶりをかけ、脅迫していくさまが描かれる。
この経験は、国家の正義を信じていたスノーデンにとって、諜報機関に疑問を抱くきっかけとなる。
 
次に、ウェブカメラや携帯電話による盗撮、盗聴。個人のパソコンに内蔵されたウェブカメラを使って、NSAの調査員が上記銀行家の親族が着替えている場面を盗み見る。
パソコンがオフ状態にあっても、NSAが遠隔起動させ、監視カメラとして使用できるのだ。また、香港で3人のジャーナリストに会ったスノーデンは、3人の携帯電話を電子レンジのなかに保管する。
これはたとえ携帯電話の電源が切れていても、NSAがやはり遠隔操作によって電源を入れ、盗聴マイクとして音声を収集することができるから、それを防止するため。最初はあきれ顔だったジャーナリストたちが、スノーデンから監視技術の進化を聞くにつれ、驚愕していく。
 
そして、「プリズム」。これはNSAがグーグル、ヤフー、フェイスブック、マイクロソフト、アップル、ユーチューブ、スカイプなど米大手インターネット9社のサーバーにアクセスし、一日数百万件にも上る利用者の通信記録を入手していたプログラムで、2013年6月に暴露された事実のうち最も反響を呼んだといっていいだろう。
というのも、それまでも米政府がネット上の個人情報を大量に収集しているという動向は伝えられてはいたが、インターネット・サービス・プロバイダーは民間会社なので政府が直接介入するのには限界があると考えられていたからだ。
ところが実際には、政府は秘密裏に企業に協力を要請し、企業側は顧客にプライバシー保護を約束しながら、政府に大量の顧客情報を提供していた。
これらの米大手企業の事業は世界規模で、日本でも上記企業のサービスをまったく使わずにインターネットを使用している人はほとんどいないだろう。
さらに、無人機(ドローン)攻撃。監視は最終的にだれかを破壊することに行き着く。スノーデンが暴いたNSAの監視システムはすべて「対テロ戦争」の下で巨大な権限を手にした諜報機関が、法律や議会の監督なしに、公衆の目の届かないところで強化させた。
米軍は携帯電話に搭載されたSIMカードから持ち主の位置情報を特定し、無人機を遠隔操作して爆撃する。日本のNSA代表部がある米空軍横田基地で、またハワイの暗号解読センターで、スノーデンは米軍のドローンによって建物もろとも木っ端微塵に破壊される人間の映像を見た。
空爆による砂埃のなか、救助に駆けつける車両を再び、ドローンが襲う。ドローンを操作した女性空軍兵士の声がNSAの技術開発者たちに届く。
「ショーにご満足いただけたかしら?」
 
この監視システムは狂気じみている
インターネットと携帯電話という、ほとんどの人にとって便利で快適で、必要不可欠ですらある技術が、いまやこれだけの監視の能力を政府と企業に与えている。
すべての人々のコミュニケーションを収集することは可能だし、現に実行されている。犯罪者や犯罪に関係していそうな人たちだけではない、まったく無関係な人たちの通信が検索され、弱味をつかむべく重箱の隅をつつかれ、ある者は陥れられて「犯罪者」にされ、ある者は殺される。
共謀罪は、こうしたコミュニケーションの把握を捜査の前提とし、したがって盗聴、盗撮、無制限な個人情報の収集を合法化する基盤をつくりだすのだ。
私は昨春、スノーデンにネット上の回線を通じてインタビューし、昨年末に『スノーデン、監視社会の恐怖を語る:独占インタビュー全記録』(毎日新聞出版)を刊行した。
 
彼がインタビューで語った「世界の諜報機関は集めた個人情報をまるで野球カードかなにかのように交換する。けれど彼らが実際にやり取りしているのは人々のいのちなのです」という言葉を、私はこの映画で真に理解することができた。
スノーデンはエックスキースコアを「スパイのグーグル」と私に説明した。
調べる側にとっては、グーグルにキーワードを入れてクリックするのと同じ、軽い行為かもしれない。だが、調べられる側にとってその結果は、ある日突然、自分や家族が災難に見舞われ、最悪の場合は軍にいきなり襲われる。自分がどうしてそんな目に遭うのか、本人にはわからない。
五感で感じ取ることのできないデジタル監視の暗躍と、すべての人々を巻き込んでいく、その狂気じみた壮大なまでのスケール、そして一人ひとりに及ぼす深刻な被害を、ストーン監督はドキュメンタリーの手法やCGも駆使し、実感のある物語として映像化することに成功している。
 
映画のなかのスノーデンはつぶやく。
テロを防ぐ仕事として、1人の標的がかけたすべての電話番号の相手も監視するよう指示された。さらにその相手の通話先40人も監視すると、最初の標的から3人先には総勢250万人になった、と。
「そしてその規模に気づき、愕然とする瞬間が来る。NSAは世界中の携帯電話を監視しています。誰もがデータベースのなかにいて、日々監視される可能性がある。テロリストや国や企業だけじゃない、あなたもです」
 
日本を機能停止させるマルウエア?
映画はさらに、日本の観客のために特別に重大な情報を織り込んでいる。
スノーデンは2009年から2年間、日本の米空軍横田基地内のNSAで勤務していたが、その場面で、自衛隊の制服組が彼の職場を訪れ、上司は自衛隊を感心させようと戦場のドローン映像を見せる。
NSAは日本国民の監視について協力を求めるが、日本側は「法律に反するから」と断った。その結果、NSAは日本の監視をあきらめるのではなく、さらに侵害的、一方的な監視に踏み込んだ。
それは日本の通信網を監視するだけでなく、送電網やダム、病院などの物理的ライフラインと大規模施設をマルウエア(不正プログラム)によって乗っ取りにかかったというのだ。
これは普段はスリープ状態にあるが、いったん起動すればすべてのコンピュータ・システムを誤作動させ、施設の機能を停止させることができるという。
米国は日本だけではなく、メキシコ、ドイツ、ブラジル、オーストリアにも、このマルウエアを仕掛けた、とスノーデンは明かす。
 
これが本当なら、米国の「同盟国」とは名ばかりで、ただの人質に過ぎない。日本政府は性急に調査する必要があるだろう。
もうお気づきだろうか。これらの監視能力はビッグ・ブラザーをはるかに超えている。
そしてこれはSF映画ではない。ハリウッドには9.11後の監視社会を予見したかのような『マイノリティ・リポート』を始め、『トゥルーマン・ショー』『ガタカ』『エネミー・オブ・アメリカ』など、高度に発達した技術によって個人の身体が管理され、心理が操作され、記憶が捏造される近未来を描いた作品が数多くある。
だが『スノーデン』は、いま起きていることを描いているのだ。
この現実をさらに深く理解するためには、ぜひスノーデンの告発をその場で撮影し、他の内部告発者の姿も追ったドキュメンタリー映画『シチズンフォー』(ローラ・ポイトラス監督、2015年、第87回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞受賞)を見てほしい。
 
手放してはならない法の守り
そして私たちは、8年前の日本政府が国民監視に消極的だったからといって毛頭安心することはできない。
スノーデンが日本にいた時期はちょうど民主党(当時)を中心とする連立政権期であり、その後の自民・公明政権は特定秘密保護法、新安保法、盗聴法の大幅拡大を続けざまに成立させている。
つまり、当時の日本政府は国民監視が国内法に違反することを理由にNSAへの協力を断ったが、その法律による規制はいまや次々と取り払われ、政府による盗聴と盗撮と国民監視は合法化の一途をたどっているからだ。
共謀罪が私たちにとってのこれまでの法の守りを、一気に突き崩すものであることはもはや論を待たない。
だからこそスノーデンは、私のインタビューで「特定秘密保護法は実はアメリカがデザインしたものです」「その後、日本の監視法制が拡大していることを、僕は本気で心配しています」と語ったのだ(拙稿『スノーデンの警告「僕は日本のみなさんを本気で心配しています」なぜ私たちは米国の「監視」を許すのか』参照)。
『シチズンフォー』で彼は、NSAがテロではなく、「国家権力に反対する力を削ぎ落とし続けている」と語っている。
(後 略)