2017年2月7日火曜日

山下幸夫弁護士が警鐘 共謀罪「一般人に適用しない」の罠

 日刊ゲンダイが、日弁連の共謀罪法案対策本部事務局長の山下幸夫弁護士にインタビューしました。
 山下氏は「共謀罪」法案問題に関する第一人者です。
 政府は、「国際組織犯罪防止条約」批准のたには共謀罪を作らなければならないという、既に虚偽であることが明らかにされている使い古された口実を盾にしていますが、特定秘密保護法、安保法制に続く、市民弾圧の総仕上げに当たる法案に位置づけて、700近い共謀罪を設定して(=適用範囲を極めて広くして)市民を監視下に置くことによって、政府に対して反対の声を出せないようにするというのが安倍政権の本心です。平成の治安維持法と言われる所以です。
 同法案3月に予算案が成立した後の最初の重要法案として提出され、その後は多数を頼んで短期間であっという間に通ってしまう恐れが高いということです。
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山下幸夫弁護士が警鐘 共謀罪「一般人に適用しない」の罠
日刊ゲンダイ 2017年2月6日
 安倍政権が今国会に提出しようとしている「共謀罪」法案。犯罪を計画段階から、つまり内心を処罰するもので、「平成の治安維持法」と呼ばれる悪法なのだが、政府は「一般の人には適用されない」などと毎度のだましの手口で、スピード成立を狙っている。「法案を提出されたらおしまい。その前に、世論で止めなければ」と危機感をあらわにするのは、この法案の問題点を知り尽くしている日弁連の共謀罪法案対策本部事務局長の山下幸夫氏。知れば知るほど、政府の恐ろしい企みが見えてくる。
 
■「組織的犯罪集団」「準備行為」は歯止めにならない
 
――「共謀罪」法案が今国会に提出されそうです。過去3回廃案になったものを、「テロ等準備罪」と名前を変え、政府の成立への強い意気込みが感じられます。
「国際組織犯罪防止条約」批准のため、条約が求める「長期4年以上の懲役・禁錮刑」の全ての犯罪(現在676)に共謀罪を作らなければならないというのが政府の言い分です。国連では187カ国が批准していて日本はG7で唯一批准していない。2000年の採択から16年経ち、FATF(金融活動作業部会)からも早期の批准を勧告されています。この条約は署名式をした場所から別名「パレルモ条約」と呼ばれますが、今年7月とされるG7サミットが行われるのが、そのパレルモ(イタリア)なのです。サミットで日本が批准していないことが話題になったら恥ずかしい。政府にそうした焦りもあり、今国会の法案提出を決めたのだと思います。
 
――187カ国が批准しているという理屈を出されると、ならば日本もと、納得させられてしまいますが…。
 この条約を批准するために新たな立法は必要ないというのが日弁連の見解です。187カ国の中で新たに共謀罪を立法した国は外務省の説明でも2カ国だけですし、600以上もの対象犯罪に共謀罪を新設しなければならないと言っている国は、日本以外にありません。条約の批准は、各国が自国の法律が条約を満たしているかどうかを自身で判断すべきもの。既に日本には共謀罪も23(例えば内乱罪など)あり、予備罪・準備罪が46あるので、条約が求めている法整備は十分になされています。ですから、条約はいつでも批准できる。実際、国会は03年に批准することを決議しているので、あとは外務省が通知すれば済む話なのです。
 
――条約は共謀罪を新設するための方便ということですか?
 主に警察ですが、600以上の共謀罪を持ちたい、という目的が先にある。そのために条約を名目にし、外圧を利用すれば法案を通しやすいというのが本当のところでしょう。実は日本政府は、起草段階では、「600以上の共謀罪を作ることは日本の法体系に反する」として、この条約5条に反対していたのです。600もの共謀罪を作るのは無謀だと分かっていたわけです。結局、条約に「組織的犯罪集団の関与」や「準備行為を必要とする」というオプションを加えることが認められたので、日本政府が条約5条を受け入れたという経緯があります。
 
――反対していたのですか! 驚きました。つまり当初は純粋な条約の批准と考えていた日本政府が、途中から条約を利用してやろうというスタンスに変わった
 おそらく日本政府は最初、オプションを適用すれば、いくつかの共謀罪を新設するだけで批准できるだろうと考えていたと思うんです。しかし、国内法を作る段階で考えが変わって、この条約を形式的に当てはめて600以上の共謀罪を作ろうということになった。だから過去の法案には、条約が認めていた「組織的犯罪集団の関与」や「準備行為」というオプションを全く使わずに、適用範囲を極めて広くして幅広く罰することができるものにしようとしたのです。
 
――今回の法案はそのオプションを入れて適用要件を限定するようです。それで何か変わりますか?
 オプションを入れてもほとんど歯止めにはなりません。実は、06年に自公が「組織的犯罪集団」と「準備行為」を要件に加えた参考試案を衆議院法務委員会に提出しています。今、政府は「組織的犯罪集団に限定するから普通の市民団体や労働組合には適用されない」と言っていますが、当時の審議で法務省の大林刑事局長は「共謀したとされる時点での組織の実態を見て判断する」と答弁して、団体の共同目的が変質することを認めています。「準備行為」にしても、共謀があったことを裏付ける何らかの客観的な行為があればいいということで、それ自体が犯罪的な行為である必要はないといわれています。例えば、ATMでお金を下ろすという行為は、武器を買うための準備行為になる。しかし普通は、お金を下ろして生活費にしたり、別の何かを買うかもしれないので、その行為だけを見ても共謀を裏付けるかどうかは判断できません。それでも、捜査機関がそれが共謀を裏付ける行為だと判断すれば準備行為にされてしまいます
 
――自公協議で対象犯罪を300に絞り込むという議論もありますが、それも無意味ですか。
 共謀罪の本質的な問題は何ら変わりません。公明党が賛成してくれなければ強行採決できないので、そのための方便ですよ。たとえ300で成立させても、条約を盾に後に法律改正して600まで広げる、つまり「小さく産んで大きく育てる」つもりでしょう。
 
――結局、そこまでして600もの数の共謀罪を作りたいというのには、政府に別の目的があるとしか思えません。
 私は共謀罪法案は、特定秘密保護法、安保法制に続く、第2次安倍政権の総仕上げに当たる法案だと思っています。安倍政権は「日本を戦争のできる国」「戦争をする国」にしたい。今後、集団的自衛権に基づいて、自衛隊が海外派兵され、現地での戦闘行為が予想されます。自衛隊員に死者が出るかもしれない。そうすると国民から戦争反対の声が上がりますよね。そこで、戦争反対という運動を弾圧する手段が必要であり、そのための武器が共謀罪なのです。共謀罪法案の成立後は、運動団体の構成員が日常的に監視され、通信傍受の拡大や室内盗聴を可能にする法律も作る。国民を監視下に置くことによって、反対の声を上げることすらできない暗黒の世界を作ろうとしているのです。何か政府にとって都合の悪い運動があれば、その構成員を摘発する。そういう形で政府に歯向かうことを許さず、国民を政府の言うなりにする。まさに独裁国家の完成です。この法案を認めたら、もう後には戻れない。私たちは極めて重大な岐路に立っていると思います。
 
■スピード成立阻止するには法案提出を止めるしかない
 
――そんな恐ろしい法案を成立させてはならないと思いますが、安倍政権は安保法同様、強行採決してでも通す。
 おそらく法案は3月に出ます。予算案が成立した後、最初の重要法案として共謀罪法案の審議をするでしょう。法案が提出されたら、短期間であっという間に通ってしまう恐れが高いと思います。
 
――問題点が浮き彫りになるから深い議論をしたくない。
 共謀罪法案については過去にかなりの時間をかけて審議しているので、今回は言葉が変わった部分だけ、ちょこちょこっと審議して、「十分に審議は尽くされた」として、強行採決に踏み切ると思います。法案が出されたら終わり。だから、法案を出させないように運動するしかありません。
 
――政府が法案提出を躊躇するような状況にさせると?
 政府はこれまで何回も政治的判断で法案提出を見送ってきた。世論が反発して国会前が人で埋まるようなことになると考えたら、政府は法案を出しづらい。法案を出すかどうかは、最終的に世論動向を見極めると思うので、法案を出さない可能性はゼロではないと思います。
 
――そのためには、反対世論の盛り上がりが必要ですが、法案に対する世論の危機意識は薄い。テロとか組織的犯罪集団というので、一般には関係ないと思ってしまっています。
 3月までにどれだけメディアが報道し、国民の関心が高まるか、だと思います。政府は「一般の人に適用されることはない」と言っていますが、法律というのは一般人かどうかを区別しません。戦前の治安維持法が作られた時も同じでした。「一般の人に適用することはない。共産主義者にしか適用しない」と。しかし気が付けば、宗教者や自由主義者、ありとあらゆる人たちに適用されるようになった。「一般の人には適用しない」という言葉ほど危険なものはありません。 (聞き手=本紙・小塚かおる)
 
▽やました・ゆきお 1962年、香川県生まれ。創価大卒。89年に弁護士登録(東京弁
護士会) 最新の編著に「『共謀罪』なんていらない?!」(合同出版)