既報のように2016年度の国の税収が前年度実績に比べ約1兆円減少しましたが、税収が前年度実績を割り込むのは、リーマン・ショックのあった09年度以来7年ぶりのことで、アベノミクスの限界が露呈されました。
総務省が30日に発表した5月の2人以上世帯の家計調査によると、1世帯当たりの消費支出が実質で前年同月比0・1%減で、マイナスは15カ月連続で、比較可能な2001年以降では最長を更新しました。その詳細は、「被服および履物」が13・1%減、「食料」ガ2・2%減、「住居」が8・8%減で、衣食住の全てで後退しています。
異次元緩和と称して日銀には年額80兆円もの国債を買わせ、株式を買い支えるために年金積立金を投じているほかに、年間6兆円をETFの買入れに向けながらも国民の生活実態はこの有様です。
そもそもアベノミクスは、経済の実態や国民の購買力は無視して、ひたすら物価の上昇のみを目的意識的に目指すものになっているのでこうなるのは当然です。
日銀による国債の買入れ額は既に300兆円を超え国債総額の4割に達しています。この状態を継続させることは勿論不可能なのでいずれ異次元緩和は中止しなければなりませんが、その時には悲惨な事態が生じます※。
アベノミクスはことの始まりからその危険性を伴っていました。安倍政権はそれを承知のうえで始めているわけです。
※ 6月30日 異次元緩和の破綻 一刻も早く脱却すべし
エコノミストの高橋乗宣氏が、日刊ゲンダイの「日本経済一歩先の真相」のシリーズで、「明治以来の”市場経済”を死なせたアベ・クロコンビ」とする評論を掲げました。
東京新聞、日刊ゲンダイの記事と天木直人氏のブログを紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
消費支出減、最長を更新 5月で15カ月連続
東京新聞 2017年6月30日
総務省が三十日発表した五月の二人以上世帯の家計調査によると、一世帯当たりの消費支出は二十八万三千五十六円となり、物価変動を除いた実質で前年同月比0・1%減だった。マイナスは十五カ月連続で、比較可能な二〇〇一年以降では最長を更新した。衣料や外食への支出低迷が目立ち、節約志向で消費の停滞が長引いていることを裏付けた。
これまでの最長はリーマン・ショックを挟んだ〇八年三月~〇九年四月の十四カ月連続。ただ、今年五月は前年より日曜日が一日少なかった割にマイナス幅が四月の1・4%より縮小し、基調判断を従来の「弱い動きが見られる」から「弱い状況ながら回復の動きが見られる」に引き上げた。
支出の内訳では婦人服が不調だった「被服および履物」は13・1%減と大幅に落ち込んだ。外食不振で「食料」は2・2%減と十カ月連続で減少。住宅の設備修繕・維持などの「住居」も8・8%減だった。
日本経済一歩先の真相
明治以来の「市場経済」を死なせたアベ・クロコンビ
高橋乗宣 日刊ゲンダイ 2017年6月30日
当欄は「日本経済一歩先の真相」と題している以上、ぜひ「経済」をテーマに取り上げたいのだが、最近は「安倍政治」を扱うことが多い。日々のニュースも「経済」がちっとも話題にならない。
グローバルな視点でみれば、トランプ米政権の経済政策の動きや、EU離脱の背景にある英国経済の問題など「経済」が話題になることもある。とはいえ、それも「政治」に大きく左右された話である。
その理由はハッキリしている。経済が「死んだ」も同然だからだ。とりわけ、国内経済の実情はヒドイ。市場経済の動きと流れが全く見えなくなっている。これだけ、おかしなことになっているのもアベ・クロコンビの政治責任だ。それこそ、黒田日銀のマイナス金利導入という禁じ手が招いたマイナス効果である。
とにかく、日銀が手当たり次第に国債を買い漁り、事実上、安倍政権のバラマキ策を支えるというイビツな構造を長らく放置。株式市場にもETF買い入れで資金をジャンジャン投入してきた。
6月に入ってからのETFの購入額は28日現在、計3140億円に上る。今年は年間6兆円の購入を予定する。このペースで買い続ければ、日銀のETF残高は来年末に約20兆円を超える。年間税収の半分に匹敵する額がアベ・クロコンビの株価維持策に消える計算だ。
つまり、国内の債券市場や株式市場は、もはや日銀が管理しているも同然なのだ。アダム・スミスが「見えざる手」を唱えてから、約240年。日本も、明治以降は欧州にならって、モノやサービスの売買をマーケットの自由な取引に任せる「市場経済」に移行したが、アベ・クロコンビはその歴史に終止符を打ってしまったのである。
以前なら、日銀の金融政策は公定歩合の上げ下げ程度に限られていた。さも全能感に支配されているかのように、アベ・クロコンビが市場を管理下に置き、自由な取引を蹂躙する姿は異常だ。
自由な経済活動を通じて、お金が回らなくなれば、人体に血が流れていないのと同じ。絶対に健全とは言えない。牽引役不在の実体経済には、おのずと限界が生じる。ある程度、決まったレベルの低成長しか得られない。
しょせん、異次元緩和とは生命維持装置のようなものだ。既に経済は「死後硬直」が進んでいるのに、生命維持装置を外さず「まだ生きている」と見せかけているのに等しい。
不健全な形で生き永らえさせている経済に未来はない。日本経済が動いていなければ「一歩先」も「半歩先」もないのである。
安倍・黒田コンビが日本経済を死なせたと喝破した高橋乗宣
天木直人のブログ 2017-06-30
私の専門は外交だから、外交批評については誰にも負けないと自負して安倍外交の誤りを厳しく指摘して来た。
私の安倍外交批判は正しく、いまや安倍外交は、誰がどのように弁護しようと、国際政治の激しいせめぎ合いの中で、敗れ、完全に行き詰まってしまった。
しかし、安倍政権の行き詰まりは外交だけではないはずだ。おそらくそのすべての分野でおかしくなっているに違いない。
特に、安倍政権の一丁目一番地であるアベノミクスこそ、完全に失敗に終わったのではないか。
きのう29日に発表された、平成28年度の税収がリーマンショック以来、7年ぶりに前年度を1兆円も割り込んだ、というニュースを見てそう思った。
しかし、私は経済の専門家ではない。だから私がそう大声を出して批判しても迫力はない。
いまこそ経済専門家は、安倍政権の経済政策の破綻を国民の前で明らかにすべきではないか。
そう思っていたら高橋乗宣というエコノミストが昨日(6月30日号)の日刊ゲンダイの連載で書いた。
自分は経済が専門で、当欄は「日本経済一歩先の経済」と題しているので、「経済」をテーマに取り上げたいのだが、最近は「安倍政治」を扱う事が多い、と。
なぜそうなるのか、彼が書いたその理由がふるっている。それは、安倍首相と黒田日銀総裁のアベ・クロコンビのせいで、市場経済の動きと流れがまったく見えなくなってしまったからだと。経済が死んだも同然になってしまったからだと。日銀のマイナス金利、国債の買い漁り、株式市場介入などが、マーケットの自由な取引を終わらせたと。死んでしまった経済には「一歩先」も「半歩先」もないと。
これを要するに、経済の事を書きたくても書けなくなったと言っているのだ。
高橋乗宣氏は三菱総合研究所主席研究員、理事などをへて明海大学大学院教授、相愛大学学長などを歴任した経済の専門家だ。その専門家が経済で書くことがなくなったと言っているのだ。これ以上の厳しい批判はない。
なぜそうなったのか。人事だ。なれるはずがなかった日銀総裁の座を手に入れた黒田総裁は、黒を白と言い続ける安倍首相に、何があっても従わざるを得ない。
まさしく政治によって行政が歪められたのだ。それは文科省だけではない。外務省も財務省も、いや、その他のすべての省庁がそうだ。これでは正い政策が行えるはずがない。
この国の政治と行政の関係は、根本的に見直されなければいけない。そして、それは待ったなしだ。
さもなければ日本という国が死んでしまう(了)