日本経済一歩先の真相
地方選連敗 国民の意思表示にゴマカシ政権は反省の色なし
日刊ゲンダイ 2017年7月28日
かつて見たことのないくらい穏やかな口調ではあった。24、25両日に開かれた衆参予算委員会の閉会中審査。安倍首相はかんで含めるような説明に努めたが、結局はうわべを取り繕うのみ。話の内容はとんでもなかった。とりわけ聞いた瞬間にウソだと思ったのが、加計学園の獣医学部新設計画を知ったのは「今年1月20日」という答弁だ。
加計学園は獣医学部の新設について愛媛・今治市と手を組み、2007年から実に15回にわたって「特区として規制緩和を」と国に願い出たが、ことごとく断られてきた。加計学園の理事長は、安倍首相が自ら「30年来の腹心の友」と呼ぶ加計孝太郎氏だ。安倍首相は加計氏と昨年だけでも7回、第2次政権の発足以来、20回近くも会食やゴルフを共にしていた。
常識で考えれば「腹心の友」と呼ぶ人物と、これだけ頻繁に顔を合わせながら、15回もトライした「野望」について、ひと言も話題に上らなかったとは考えにくい。野党議員にこの件で過去の答弁との矛盾を突かれても、安倍首相は「知りうる立場にあったが、知らなかった」などとデタラメな答弁で、あくまでシラを切りとおした。
「今年1月20日に初めて知った」と答えた直前、安倍首相は野党議員に加計氏との関係を問われ、「食事をおごってもらうこともある」という趣旨の答弁をしていた。「腹心の友の野望」を古くから知りながら、ごちそうになれば大臣規範に抵触しかねない。そんな危機意識から、どう考えても不自然な答弁が飛び出したのかも知れないが、いずれにしろ、安倍首相が何か後ろ暗いことを隠している印象はさらに強まった。
前文科次官の前川喜平氏に「総理は自分の口から言えないから、私が代わって言う」と迫った首相補佐官の和泉洋人氏をはじめ、関係している役人たちは皆、「記憶にない」「覚えてない」を連発。特区申請の直前、今治市の担当者が、そう簡単に入れない官邸を訪れ、めったにアポの取れない首相秘書官と面会したと指摘されても、「訪問者の記録は破棄した」の一点張り。事前相談の疑いをボカし続ける。
政権の中枢を担う面々の記憶力がここまで頼りなく、重要な記録も次々破棄されるようでは国家の危機管理上、大問題だと思うが、彼らにすれば「疑惑にフタ」が最優先。こうしたゴマカシの姿が国民の前にさらされているから、内閣支持率は暴落、仙台市長選でも野党連合に敗北を喫したのだ。それでも反省の色は全くない。
地方選でどんどん自民候補が敗れるのは、国民の率直な気持ちの表れだ。内閣改造でいかなる目玉人事を打ち出しても、安倍首相が居座る限り、この内閣は継続できない。安倍首相は潔く内閣総辞職に踏み切り、解散総選挙に打って出るしか道はない。
高橋乗宣 エコノミスト
1940年広島生まれ。崇徳学園高から東京教育大(現・筑波大)に進学。1970年、同大大学院博士課程を修了。大学講師を経て、73年に三菱総合研究所に入社。主席研究員、参与、研究理事など景気予測チームの主査を長く務める。バブル崩壊後の長期デフレを的確に言い当てるなど、景気予測の実績は多数。三菱総研顧問となった2000年より明海大学大学院教授。01年から崇徳学園理事長。05年から10年まで相愛大学学長を務めた。