13日、連合の神津会長は官邸で安倍総首相と会談し、労働基準法改正案は長時間労働を助長しかねないとして、対象となる労働者の健康を確保する措置を強化するための修正を求めました。
その内容は使用者に対して年間104日以上の休日の確保を義務化する、仕事を終えてから次の日の仕事を始めるまでに一定の休息時間を確保する、など※1で、安倍首相は「しっかりと受け止めて検討する。政労使の3者での合意が必要なので、経団連とも調整する」と述べ、修正に応じる考えを示しました。
※1 7月13日 連合が「残業代ゼロ」法案受入れに労組からも異論
前日の12日夜、非正規労働者などで作る「全国コミュニティ・ユニオン連合会(全国ユニオン)」は連合本部に反対声明を送りました。
そこでは、時間外労働時間の上限規制と労働時間規制の除外が盛り込まれた労働基準法改正案とを「取引」することを厳しく批判していますが、驚かされるのはそうした決定が連合のトップだけで決められ、有無を言わせないやり方で連合中央委員(会)に通知されたことです。
声明によれば、
7月8日に共同通信のインターネットニュースで報じられたのを皮切りに、連合トップの労働基準法改正案に対する修正案構想がまず新聞各紙で報道されました。
週明けの7月10日、突如として「『連合中央執行委員会懇談会』の開催について」という書面が届き、翌11日、「労働基準法改正への対応について」の懇談会が開かれました。
そこで「企画業務型裁量労働制※2」と「高度プロフェッショナル制度」を容認することを前提にした修正案の説明が行われ、逢見事務局長は「これまで指摘してきた問題点を文字にしただけで方針の転換ではない」などと述べ、「三役会議や中央執行委員会での議論は必要ない」としたということです。
声明は、そうした説明は詭弁以外何物でもなく、民主的で強固な組織の確立を謳った「連合行動指針」を逸脱したものである、と述べています。
連合本部のまことに異常な実態が明らかにされました。
※2 「裁量労働制」
労働基準法の定めるみなし労働時間制の1つとして位置づけられており、この制度が適用された場合、労働者は実際の労働時間とは関係なく、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなされる。 業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務に適用できるとされる。(ウィキペディアより)
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労働基準法等改正法案に関する要請書(案)に反対する声明
日本労働組合総連合会
事務局長 逢見直人殿
2017年7月12日
全国コミュニティユニオン連合会
(全国ユニオン)
会長 鈴木 剛
7月8日、共同通信のインターネットニュースで、現在、国会に提出されたままになっている労働基準法改正案について、連合が政府に修正を申し入れることが報じられました。その後、他の新聞各紙で同様の報道が相次ぎます。
週が明けて7月10日、突如として「『連合中央執行委員会懇談会』の開催について」という書面が届き、出席の呼びかけがありました。開催は翌11日で、議題は「労働基準法改正への対応について」です。
異例ともいえる「懇談会」で提案された内容は、報道どおり労働基準法改正案に盛り込まれている「企画業務型裁量労働制」と「高度プロフェッショナル制度」を容認することを前提にした修正案を要請書にまとめ内閣総理大臣宛に提出するということでした。
しかし、連合「2018~2019年度 政策・制度 要求と提言(第75回中央執行委員会確認/2017年6月1日)」では、雇用・労働政策(※長時間労働を是正し、ワーク・ライフ・バランスを実現する。)の項目で「長時間労働につながる高度プロフェッショナル制度の導入や裁量労働制の対象業務の拡大は行わない。」と明言しており、明らかにこれまで議論を進めてきた方針に反するものです。労働政策審議会の建議の際にも明確に反対しました。
ところが、逢見事務局長は「これまで指摘してきた問題点を文字にしただけで方針の転換ではない」など説明し、「三役会議や中央執行委員会での議論は必要ない」と語りました。まさに、詭弁以外何物でもなく、民主的で強固な組織の確立を謳った「連合行動指針」を逸脱した発言と言っても過言ではありません。しかも、その理由は「働き方改革法案として、時間外労働時間の上限規制や同一労働同一賃金と一緒に議論されてしまう」「圧倒的多数の与党によって、労働基準法改正案も現在提案されている内容で成立してしまう」ために、修正の要請が必要であるとのことでした。
直近の時間外労働時間の上限規制を設ける政労使合意の際も、私たちはマスメディアによって内容を知り、その後、修正不能の状況になってから中央執行委員会などの議論の場に提案されるというありさまでした。その時間外労働時間の上限規制と、すでに提出されている高度プロフェッショナル制度に代表される労働時間規制の除外を創設する労働基準法改正案とを取引するような今回の要請書(案)は、労働政策審議会さえ有名無実化しかねず、加えて、連合内部においては修正内容以前に組織的意思決定の経緯及び手続きが非民主的で極めて問題です。また、政府に依存した要請は、連合の存在感を失わせかねません。
さらに言えば、高度プロフェッショナル制度については、法案提出当初の2015年4月24日には、塩崎厚生労働大臣が経済人の集まる会合の場で「小さく生んで大きく育てる」などと語ったことが報じられています。こうした発言を鑑みても法律が成立してしまえば、労働者派遣法のように対象者が拡大していくことは火を見るよりも明らかです。また、裁量労働制についても、年収要件などがなく対象者が多いだけに問題が大きいと考えます。
私たち全国ユニオンは、日々、長時間労働に苦しむ労働者からの相談を受けており、時には過労死の遺族からの相談もあります。過労死・過労自死が蔓延する社会の中、長時間労働を助長する制度を容認する要請書を内閣総理大臣宛に提出するという行為は、働く者の現場感覚とはあまりにもかい離した行為です。加えて、各地で高度プロフェッショナル制度と企画業務型裁量労働制の反対運動を続けてきた構成組織・単組、地方連合会を始め、長時間労働の是正を呼び掛けてきた組合員に対する裏切り行為であり、断じて認めるわけにはいきません。また、このままでは連合は国民・世論の支持を失ってしまうおそれがあります。
シカゴの血のメーデーを例にとるまでもなく、労働時間規制は先人の血と汗の上に積み上げられてきました。私たち労働組合にかかわる者は、安心して働くことができる社会と職場を後世に伝えていくことが義務であると考えます。今回の政府に対する要請書の提出は、こうした義務を軽視・放棄するものに他なりません。全国ユニオンは、連合の構成組織の一員としても、政府への要請書の提出に強く反対します。
以 上
安倍首相と連合会長会談 労働基準法改正案修正へ
NHK NEWS WEB 2017年7月13日
安倍総理大臣は連合の神津会長と会談し、働いた時間ではなく、成果で評価するとした労働基準法の改正案について、連合側が求めている年間104日以上の休日確保の義務化などの要望を踏まえ、修正に応じる考えを示しました。
働いた時間ではなく成果で評価するとして、労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を盛り込んだ労働基準法の改正案は、おととし4月に国会に提出されたものの、民進党は「残業代ゼロ法案だ」などとして撤回を求めていて、審議入りしないまま、継続審議となっています。
こうした中、安倍総理大臣は連合の神津会長と総理大臣官邸で会談し、神津会長は、改正案は長時間労働を助長しかねないとして、対象となる労働者の健康を確保する措置を強化するための修正を求めました。
具体的には、使用者に対して年間104日以上の休日の確保を義務化することに加え、仕事を終えてから次の日の仕事を始めるまでに一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル」の確保や臨時の健康診断などを、使用者が選択的に実施すべきだなどとしています。
これに対し、安倍総理大臣は「しっかりと受け止めて検討する。政労使の3者での合意が必要なので、経団連とも調整する」と述べ、修正に応じる考えを示しました。
政府は近く経団連の榊原会長も加わった政労使の3者によるトップ会談で、こうした方針を確認することにしていて、修正に向けた協議が本格化する見通しです。
連合会長「最低限の健康確保措置を」
連合の神津会長は、記者団に対し、「長時間労働を拡大しかねない制度の導入を盛り込んだ改正案が、そのままの形で成立するのは耐えられず、できるかぎり是正を求めることが連合としての責任だ。そもそも制度が必要なのかという疑念は根底にあり、撤回が望ましいが、過労死がある現実を見たときに、最低限の健康確保措置だけでもお願いしたい」と述べました。
そのうえで、神津会長は「改正案の賛否は、きょうの要請の結果も含めて、全体がどういう法案になるのかを見たうえで、内部の議論も丁寧に進めながら総合的に判断することになる」と述べました。
高度プロフェッショナル制度とは
高度プロフェッショナル制度は、高度な専門的知識があり、年収が一定以上の人が対象となります。
労働基準法では企業が従業員に1日8時間、もしくは週40時間を超えて働かせた場合は、一定の割増賃金を支払わなければならないと定めています。
一方、高度プロフェッショナル制度の対象者は、働いた時間ではなく成果で評価されるため、労働時間の規制から外れ、残業や休日出勤をしても割増賃金は支払われません。
この制度の対象は、年収が1075万円以上で、証券会社のアナリストやコンサルタント、医薬品開発の研究者などが想定されていて、具体的には法案の成立後、厚生労働省の省令で定められる予定です。
制度を導入することによって効率的な働き方が可能となり、生産性が高まるという考えがある一方で、企業が残業代を支払わなくてもよくなることで、働く側は、より長時間労働を強いられることになるのではないかという指摘もあります。
同友会代表幹事「最終的に妥協点を」
(中 略)
連合傘下の一部労組から反発の声
連合が労働基準法改正案の修正を政府に要請したことについて、傘下の労働組合の一部からは反発の声が上がっています。
労働組合がない企業の正社員や非正規労働者などで作る「全国コミュニティ・ユニオン連合会」は12日夜、連合本部に反対声明を送りました。
この中で鈴木剛会長は「連合はこれまで高度プロフェッショナル制度の導入は行わないと明言していたのに、制度の容認を前提とした修正案を政府に提出することは、これまでの方針に反する」などとしています。
そのうえで「長時間労働の是正を呼びかけてきた組合員に対する裏切り行為で、断じて認めるわけにはいかない」として強く批判しています。