2024年11月16日土曜日

米国選挙の億万長者化(賀茂川耕助氏)

 賀茂川耕助氏が海外記事を紹介する「耕助のブログ」に掲題の記事が載りました。
 日本語の「億万長者」は「数億円の財産の所有者」という意味ですが、英語の「ビリオネア(billionaire)」は、10億ドル以上(1ドル約155円とすると1550億円以上)の純資産を持つ人々を指します。さすがに米国には大量の超金満家がいるものです。
 トランプ陣営に対する2番目支援者だったイーロン・マスクは1億2000万ドル(約186億円)を献金したということですが、ビジネスマンですから勿論無償の寄付をしたわけではありません。そうした献金の見返りについては記事の中で語られています。

 2024年の選挙では、民主党と共和党の両党が広告と選挙活動に159億ドル2兆4600億円)という驚異的な額を集めたということです。
 何もかもが破格ですが、結局は超金満家たち中心の政治が行われるというのが米国政治の実態で、まさに新自由主義が行き着いた姿を明示しています。その一方で貧困大国と呼ばれる米国の庶民は、食料品が2年間で倍に値上がりする中で生活に困窮しているわけです。
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米国選挙の億万長者化
              耕助のブログNo. 2330  2024年11月13日
The Billionaire-ification of the US Election
                     by Jake Hall
  数か月間もの間、超富裕層の選挙献金者が政治的な主張を指示し、その富を汚染産
      業の維持に利用した後、ドナルド・トランプが勝利し、そして、
              イーロン・マスクも勝った。

11月6日水曜日の朝、ドナルド・トランプは、有罪判決を受けた重罪犯として史上初めて米国大統領に就任した。国民のこのニュースで目覚めた時、この結果は、選挙期間中を通じて大きな存在感を示していた億万長者寄付者たちの影響力の大きさを浮き彫りにしている。
この事態は、10年以上前に始まった傾向を反映したものだ。2010年1月、最高裁判所は米国の選挙における資金調達規制を撤廃し、政治キャンペーンの様相を一変させた。この決定により、企業は政党と公式に「連携」しない限り、広告に無制限に資金を投じることが可能となった。
振り返ってみると、この画期的な判決は、今日の米国政治がビリオネア化した第一歩であった。2024年の選挙では、民主党と共和党の両党が広告と選挙活動に159億ドルという驚異的な額を費やし、史上最も高額な選挙となった。わずか1週間で、10億ドル近くが政治広告に注ぎ込まれた。
懸念されるのは、政治広告費の規模が膨大であることだけではなく、億万長者たちの不釣り合いな影響力である。全政治広告費の18%は、アメリカのごく一握りの超富裕層が直接ポケットマネーから出したものだった。実際、USAトゥデイ紙によると、ハリス候補には83人の億万長者が支援していた。これは彼女の選挙資金の6%にあたる。一方、アルジャジーラ紙によると、トランプ候補を支援した52人の億万長者は、非常に気前の良い寄付者で、トランプ候補の選挙資金の34%を占めていた。
つまり、この国の富裕層が選挙に資金を提供し、かつてないほどに政治的な力と影響力を振るっているのだ。これは民主主義にとって悪いニュースであるだけでなく、地球にとって壊滅的なことでもある。
カマラ・ハリス候補とドナルド・トランプ候補の他にもう一人、今回の選挙の主役となっている人物がイ―ロン・マスクだ。10月19日から11月5日までの間、億万長者のイーロン・マスクは、7つの主要なスイングステート⇒選挙ごとに支持政党が変わる州で、事実上トランプ支持の嘆願書に署名した有権者一人につき100万ドルを贈った。このプレゼントキャンペーンは、フィラデルフィアの地方検事によって「州の消費者保護法に違反する違法な抽選」であるとして、マスクと彼の政治委員会が訴えられる結果となった。マスクは言論の自由と銃所持の権利を強く主張している。赤のオリジナルの黒バージョンである「Dark MAGA」の帽子をかぶったマスクは、全米各地の集会でトランプ大統領の側に立ち、拳を突き上げ、楽しそうに飛びはねた。
合計すると、マスクはトランプ陣営に約1億2000万ドルを献金し、2番目に大きな支援者となっている。ニューヨーク・タイムズ紙によるとマスクは自身のソーシャルメディアプラットフォームであるXも利用して選挙に関する誤った情報を拡散しており、NBCはXを「トランプ支持のエコーチェンバー⇒共鳴箱」と表現している。それとは対照的に、マーク・ザッカーバーグは、メタを政治的なコンテンツから遠ざけたように見える。2020年に行ったように、誤解を招く政治広告を修正する動きは見られなかった。また、彼は「検閲」に関する右派の主張を暗に支持するような発言を公の場でし、ドナルド・トランプへの称賛の意も示した。

  米国で最も金持ちたちが選挙に資金を提供し、かつてないほど政治的な力と影響力を
                  振るった。

そして、トランプが勝利を収めた今、マスクはトランプへの資金援助により、莫大な利益を得ることになるだろう。ポリティコ誌によると、トランプはマスクに「政府効率化省」を率いることを約束したという。この役割は意図的に曖昧にされており、マスクに重大な政治的権限を与える可能性がある。すでにマスクは、この役割を利用して連邦予算から2兆ドルを削減できると述べている
巨額の献金は、いわゆるスーパーPACと呼ばれる政治活動委員会を通じて流れている。スーパーPACは、特定の候補者を「明確に支持」または「明確に反対」する広告に無制限の資金を費やすことができるが、厳密にはいかなる政党にも属さない独立した組織である。アメリカPAC(マスクによって設立)やMAGA PACは共和党に資金を提供しているが、民主党は、フェイスブックの共同創設者であるダスティン・モスコヴィッツやネットフリックスの共同創設者であるリード・ヘイスティングスのような億万長者たちが資金を提供している「秘密主義的な広告テスト工場」であるフューチャー・フォワードPACから約7億ドルを受け取っている。
こうしたスーパーPACは、億万長者の資産を使い選挙戦全体を破壊することも可能である。政策研究所の『Inequality』ニュースレターの共同編集者でベテランの労働ジャーナリストであるサム・ピジガティは、共和党支持で暗号通貨関連企業とつながりのあるフェアシェイクPACがカリフォルニア州の民主党予備選挙候補者ケイティ・ポーターを容赦なく標的にしたことを、「むき出しにされた力」が実際に機能している例として挙げている。
ポーターは、超富裕層に関する簡潔な分析で知られているが、彼女は「暗号通貨にはまったく注意を払っていなかった」とピジガティはアトモスに語った。それにもかかわらず、「フェアシェイク」は彼女の選挙運動を妨害するために「途方もなく多額の資金」を投じ、「嘘つき」や「いじめっ子」と非難する広告を流した。ピジガティは、彼らはポーターの評判を落とすために「でっちあげの告発」を行ったと語っており、スーパーPACの背後にいる暗号通貨の億万長者たちは、その目的を成功させた。当初は世論調査で好調だったものの、彼女はカリフォルニア州予備選挙で3位に終わった。
重要なのは、ポーターは下院天然資源委員会の委員で、気候危機の破壊的で悪化する影響について声を大にして訴えてきたことである。ポーターのマニフェストは、「石油大手と対決する」、「汚染者に責任を取らせる」、そして「クリーンエネルギーに投資する」ことを約束している。これは、エネルギー集約型のマイニングに依存している暗号通貨にとって災難となる可能性がある。この事実は、彼女の進歩的で気候に焦点を当てたキャンペーンが、億万長者から資金提供を受け、標的にされて陥れられたことの一因となっている。
ピジガティは、今回の選挙戦では気候危機は「表にでてこない問題」だったと述べているが、これは偶然ではない。ビリオネア10億ドル以上の財産保有者)たちは主流メディアに大きな影響力を持ち、どの問題を取り上げるかを事実上決定している。ワシントン・ポスト紙とロサンゼルス・タイムズ紙のスタッフは、ハリスを支持する社説を掲載しようとしたところ、大富豪のオーナーたちに阻止された。この動きは、それぞれの新聞社がトランプ氏に取り入ろうとしていると多くの人が受け取った。ピジガティも同様に、シンクタンクが同様に偏った形で公共の議論を形作る重要な存在であると指摘している。「シンクタンクは米国社会で何が『重要』かを定義する意見書を公表し、その資金源は億万長者たちだ。私たちが取り組むべき問題について、彼らは議論を独占している」と彼は言う。

 「億万長者たちは、政治的影響力を利用して、私たちがこれらの危険な産業分野による
     気候への影響を軽減するために必要な変化を遅らせているのだ」。
      サム・ピジガティ ベテラン労働ジャーナリスト、政策研究所

繰り返しになるが、気候危機が優先事項のリストの最下位に位置づけられているのは、大富豪の富が、規制や抑制のない、高汚染産業の成長を必要としているからである。そして、この富が、プライベートジェット機や豪華ヨット、宮殿のような豪邸への贅沢な出費を煽っているのだ。オックスファムが実施し、ガーディアン紙が報じた2023年の調査によると、「世界で最も裕福な大富豪12名が排出する温室効果ガスは、200万世帯の年間エネルギー排出量よりも多い」という。
世界にはこれまでにないほど多くの億万長者が存在する。世界的に所得格差は悪化の一途をたどっており、気候危機は、この貧富の差と密接に結びついている。携帯電話の製造に欠かせないコバルトの需要が、コンゴ民主共和国における広範囲にわたる森林伐採を招き、さらに劣悪な労働環境や、ますます明らかになっている人権侵害を引き起こしている。急速に変化し続けるファストファッションの仕組みは、かつては美しかった砂漠を衣類の不毛地帯へと変えつつあり、一方でガスや石油会社は、自社の産業が実際に排出している二酸化炭素排出量を軽視するよう、長年にわたって非公式にロビー活動を行ってきた。
マスクのような人物の場合、彼らは事実上、政治家そのものである。「ドナルド・トランプは、イーロン・マスクに全分野の運営を任せている」とピジガティは言う。「彼は選挙運動を億万長者に外注している」。つまり、格差を是正するために必要な変化、すなわち富裕層への課税、労働組合の再建と強化に焦点を当てることなどは、ほとんど話題に上らないということだ。
これはトランプ側だけではない。カマラ・ハリスは、ビヨンセやカーディ・Bといったスターを自身の選挙集会に招待し、超富裕層である一流セレブの支持が世論を動かすことを期待した。しかしビヨンセの400万ドルの献金は別として、これらのスーパースターの賛同は寄付ではなく単なる支持であり、注目すべきは、トランプとマスクの取引とは異なり米国政府の形成に関与する権利を約束したものではなかったということだ。
今日、超富裕層がメディアの支配、シンクタンクのレポート、そして選挙日までの容赦なくターゲットを絞った広告を通じて政治的な主張を数ヶ月にわたって主導し、米国政治の億万長者化が完全に露わになっている。トランプ勝利で、マスクも勝った。その結果は、減税、規制の欠如、労働組合の弱体化、環境の搾取と破壊から利益を得る立場にある超富裕層によって形作られる政治情勢を象徴している
同様に、ピジガティは悪化する気候危機を「富の経済的分配の結果」と表現している。富裕層は、数百万ドル、数十億ドルを稼ぎ、蓄えるという使命において、制限なく汚染を続けているが、一方で貧困層は気候危機の被害に苦しんでいる。こうした戦術はもはや秘密ではない。億万長者たちが「政治的影響力を利用して、こうした危険な産業による気候への影響を軽減するために必要な変化を遅らせている」ことは明らかであると、彼は結論づけている。