2022年12月29日木曜日

「安保3文書」抗議の官邸前行動/宗教虐待問題 野党ヒアリング/学術会議の独立性侵すな

・小原隆治・早大教授らが呼びかけた「安保3文書」に対する抗議行動が27日夜、首相官邸前で行われ、東大の本田由紀教授、共産党の山添拓参院議員、立憲民主党の石川大我参院議員が参加しました。
・12月10日、国会の最終日にギリギリで成立した旧統一協会被害者救済法はないよりはマシという程度の殆ど実効性のないものでした。27日、野党は国会で、エホバの証人の元3世信者や統一協会の元2世信者からヒアリングを行いました。法律を可及的速やかに実効性のあるものに改正されるよう、野党の努力が期待されます。
・学者・文化人・ジャーナリスト・宗教者ら127人による「学問と表現の自由を守る会」は27日、日本学術会議の独立性を侵害する政府の法改悪方針を即時撤回することを求める声明を発表しました。
 同会議の人事に事実上介入したのは菅政権でしたが、岸田政権はそれを制度上可能にしようとするものです。「政治が学問に介入してはならない」という古来の鉄則を何故この両人は理解できないのか、情けないことです。
 しんぶん赤旗の3つの記事を紹介します。
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軍拡やめ平和外交を 「安保3文書」抗議の官邸前行動
                       しんぶん赤旗 2022年12月28日
 岸田政権が閣議決定した「安保3文書」に対する抗議行動が27日夜、首相官邸前で行われ、集まった市民150人(主催者発表)が「軍拡より平和外交を」と声をあげました。
 呼びかけ人の小原隆治氏(早稲田大学教授)は「『安保3文書』の閣議決定は15年の安保法制の強行以後、最も大きい日本政治を揺るがす大問題だ」と指摘。内容でも手続きでも問題を抱える安保3文書に対し抗議の声を上げようと呼ぴかけました。
 学者や政治家がマイクを握り訴え。東京大学の本田由紀教授は、「貧困格差などで社会の維持可能性さえも脅かされる状況で、今度は軍備のために増税をする。こんな社会とは決別すべきだ」と述ぺました。
 日本共産党の山添拓参院議員は、同日、秋葉賢也復異相と杉田水脈政務官が辞任したことに触れ、「政権として体をなしていない。そんな岸田政権が大軍拡と大増税を推し進めようとしている。黙っているわけにはいかない」と訴え。「〝年を越したら忘れる″などと絶対に言わせない。そのための共同を広げよう」と呼ぴかけました。
 立憲民主党の石川大我参院議員は「敵基地攻撃能力ま憲法違反だと言っていこう。憲法9条をないがしろにする『安保3文書』は認められない」と訴えました。
 埼玉から娘と一緒に参加した母親(50代)は、「敵基地攻撃能力を持つのは絶対だめ。日本を守る盾は軍事力ではなく外交です」と語りました。


宗教虐待への厚労省指針 苦しむ2世救うものに 野党ヒアリング
                       しんぶん赤旗 2022年12月28日
 統一協会問題に関する野党国対ヒアリングが27日、国会内で開かれました。元エホバの証人3世で宗教2世問題ネットワークの夏野ななさん(仮名)らが証言し、同日、厚生労働省が公表した宗教を背景とする児童虐待への対応指針について関係省庁に聞き取りを行いました。
 同省の指針は、Q&A形式で宗教などの信仰に基づく子どもへの行為が、児童虐待防止法の定める虐待(身体的、性的、ネグレクト=育児放棄、心理的)のどれに当たるかを明記。虐待の事例として、宗教活動を強制するようにむちで打つことや、「地獄に落ちる」と恐怖をあおる、子どもの進路や就労、結婚などを阻むために脅すことなどを例示。その上で、必要な場合には、児童相談所がためらわずに一時保護するよう求めています。

 夏野さんは「指針で明示されているほとんどをこの身で経験した。指針の周知を広く行い、私のような思いをする子どもが二度と現れない社会を目指してほしい」と語りました。
 統一協会2世の高橋みゆきさん(仮名)は「宗教に基づく虐待は親子の問題とされがちだが、組織的指導が信者である親になされていることが特徴だ。組織的指導に対応してほしい」と訴えました。
 野党議員が「指針を周知し、苦しむ2世の声をすくいあげることが重要だ。児童相談所の体制強化などをすべきでは」と質問。厚労省の担当者は「今後、SNSでの相談を検討している。虐待だと思ったら相談窓口に遠慮なく連絡してほしい」と回答しました。


学術会議の独立性侵すな 学者・文化人127人、政府方針撤回要求
「学問と表現の自由を守る会」声明
                      しんぶん赤旗 2022年12月28日
 幅広い学者や文化人、ジャーナリスト、宗教者ら127人による「学問と表現の自由を守る会」は27日、日本学術会議の独立性を侵害する政府の法改悪方針を即時撤回することを求める声明を発表しました。
 政府は今月、来年の通常国会に、日本学術会議の会員選考に第三者を関与させるとする改悪法案を提出すると表明。次期会員の改選は改定法のもとで行う方針を示しています。
 声明は、政府方針は憲法が定める学問の自由を侵害し、思想・良心、表現の自由を脅かすものだと強調。「世界のアカデミーの常識」である会員選考方法と活動の独立性の原則を蹂躙(じゅうりん)し、学術会議を「政府の御用機関」に改変すれば、国民の幸福と人類福祉、日本の国益に反することになりかねないと危惧しています。「方針」は首相による会員6人の任命拒否を合法化すると指摘。軍事優先の学術総動員体制に道を開く法改正に反対し、改めて任命拒否の理由の説明と速やかな任命を要求しています。
 同日、東京都内で同会の発起人らが会見しました。隠岐さや香・東京大学教授は「独裁的な方向に向かう時、学者の任命権や発言権が真っ先に攻撃の対象になる」と述べ、「民主主義の危機」を指摘。翻訳家の池田香代子氏は、19世紀にドイツの大学教授が国王に異議を唱え国外追放になった事件を紹介し、危機感を表明しました。
 大沢真理・東京大学名誉教授は、新型コロナによる死者数の増大は政府による「大人災」だと述べ、政府と距離をとる学術がなければ「国民の生命が危うい」と強調。医療制度研究会副理事長の本田宏氏は、医療界を例に異論の重要性を訴えました。
 元岩波書店社長の岡本厚氏は政府が次に介入してくるのはメディアだと警鐘を鳴らし、元「朝日」論説委員の藤森研氏は軍拡を急ぐ政府を批判。日本キリスト教協議会の金性済(キム・ソンジェ)総幹事は、日本のキリスト教が戦前、政府を翼賛した歴史を振り返り、いま抗議の声を上げる必要性を訴えました。

 佐藤学・東京大学名誉教授は、政府方針は「学術会議つぶし」だと抗議しました。 

注目の人:岸本聡子杉並区長 「新しい政治に取り組む」

 今年6月、杉並区長選に公共政策研究者から転じて立候補した岸本聡子氏が、4選を目指した現職を187票差で制して当選しました。

 日刊ゲンダイが「注目の人」として「直撃インタビュー」しました。
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注目の人 直撃インタビュー
杉並区長・岸本聡子氏が取り組む“新しい政治”のカタチ「住民が行政、街づくりにかかわり続ける」
                          日刊ゲンダイ 2022/12/26
■岸本聡子(杉並区長)
 今年6月の杉並区長選で、4選を目指した現職を187票差で制した。区政刷新を求める市民団体の要請で公共政策研究者から転身。同区初となる女性区長が掲げるのは、住民主導型の区政だ。今月9日に開かれた市民団体主催の「ローカル・イニシアチブ・ミーティング」では、来春の統一地方選に向け、志を共にする都内の首長や地方議員、立候補予定者との連携で合意。地方自治から政治を変えるビジョンとは何か。ざっくばらんに聞いた。
                ◇  ◇  ◇
 ──区長就任から半年が経ちました。
 日々新しい課題や気付きがあります。就任以来、区内の児童館や学校などの再編や、西荻窪と高円寺で進んでいる道路計画について、住民と対話集会や説明会を繰り返してきました。すべての会に参加しているので大変ですが、住民との対話が私にとって最も大切な仕事だと思っています。

 ──意見を集約したうえで、公正な判断が求められます。
 計画に関して対話集会を行った結果、意見を聞く前と同じ結論に至ったとしても、そのプロセスが重要だと考えています。施設再編や道路計画に限らず、そもそも何のための計画なのか、住民が理解できていない状態が長く続いていました。区として説明を重ねてきたとしても、住民に届いていなかったんですよね。

 ──行政からの一方通行だった。
 形式的には結論が決まっていたとしても、住民対話を通じて、ここは修正できるとか、ここは地域の人たちと協力しながらできるとか、計画をより良い方向へと導いていけるはずです。可能なところは見直し、道筋をつくることが、対話と熟議の良いところ。住民に街づくりにかかわっていただくことにより、住民側にも主体性やオーナーシップが生まれます。最後はリーダーが責任を持って判断しなさいと言われますが、今の新しい政治は、区長である私が責任を負うのはもちろん、みんなで責任を負っていきましょう、と。住民が行政、街づくりにかかわり続ける。施設再編や道路計画は、その良いキッカケになるのではないかと思っています。

 ──行政側と住民側がキャッチボールできる仕組みづくりですね。
 役所に手紙を書いたり、陳情したり、あるいは業界団体や自治会などに所属して区政につながっている住民の方も多くいらっしゃるので、必ずしもキャッチボールができていなかったわけではありません。しかし、多くの住民はそのようなつながりを持っていないのが現状です。行政が一方通行にならないためには、住民が参加したからこういうふうに変わったのだと、対話や議論の結果をフィードバックしていかなければいけません。その方が行政側も地域のために良い仕事ができます。

■議員送り出しまでが「ミュニシパリズム」(地域自治主義)
 ──住民の主体性の高さは感じますか。
 杉並区も含め東京西部は地域活動に熱心な住民が多いと耳にすることもありますが、投票率が突出して高いわけではありません。政治や行政が自分の生活に全然関係ないと思っているという方は、特に若い世代で山のようにいると思います。ただ、そんな方でも、区長選を通じて自分の住んでいる地域が実は道路計画予定地だと初めて知ったり、政治的な問題を話し合う「政治カフェ」を主催するようになったり。
「区政とか政治って、自分たちの生活とマジ直結してるじゃん」という話を聞いた時はうれしかったですね。選挙期間だけではなく、選挙と選挙の間に行政や政治に少しでもかかわることのできる場をつくることが、私のチャレンジのひとつだと思っています。行政が主導する形ではなく、住民独自の取り組みが多発している状態が理想です。

 ──「草の根」や「ミュニシパリズム」(地域自治主義)に通じる考え方ですね。
「ミュニシパリズム」の特徴のひとつは、「草の根の政治参加」です。ただ、地域住民を交えた対話と熟議を通じて生み出された計画であっても、執行にはお金や人材が必要。となると、地域での対話や集会がある程度の政治的な力になっていかなければいけないと思います。したがって、「ミュニシパリズム」は、単なる草の根の政治参加にとどまらず、住民の意見を議会の場に提案して議論できる議員を出していくところまでつながっているのです。

■保育民営化で見えた国の政策誘導
 ──区政において公共政策研究のプロとして積んだ経験が生かされている?
 公共政策を行政の外側から研究して見える問題点と、内側から見える問題点は異なります。例えば、保育園の民営化問題。水道などと同様、保育園もコモンズ(公共財)のひとつであるにもかかわらず、民営化が進んでいます。保育需要の逼迫や待機児童問題は何年も前から全国的に横たわってきたのに、民間事業者にお願いして急いで対策しなくてはいけない状態まで手をこまねいていたことが問題です。共働き世帯が増えるなど、生活様式の変化に対応しきれなかったのです。
 労働集約的であり、決して儲かる産業ではない保育事業を民営化したことによって、労働条件の悪化や保育の質が低下する可能性が高まります。民営の場合、収益やコスト削減を優先して、非正規や非常勤の若い職員に頼らざるを得なくなってしまう。つまり、経験や技能の継承が難しくなってしまうのです。しかし、保育園の運営は民営でも公営でも、かかる費用は基本的に変わりません。ほとんどが施設維持費や人件費です。
 だったら、同じ施設を使って保育職員を区職員として雇用し、区がきちんと人件費を払っていけばよい。それにもかかわらず、民営化が進んでいるのは、民営化をすれば、国から補助が出るからです。本当に国が待機児童ゼロを目指すのであれば、民営だろうが公営だろうが、同じ額の補助金を出せばいいのに、国は保育分野にまで民営化の手法を持ち込みたい。このような国の政策誘導は、行政の内側にいなかったら見えてこなかっただろうと思います。

 ──収益性を優先する民間の論理は、保育事業になじまない。
 保育士さんの雇用の安定や保育の質の維持は、公営でも改善できるはずです。「民」に委ねるのではなく、「公」を良くしていく。これが私の研究テーマでもあった「公の民主化」です。公を良くしていくためには、積極的に情報を公開し、いろんな意見を吸い上げていくことが重要です。公の改善はいくらでも可能なのに、保育園を民営化して公から民にオーナーシップを変えてしまうと、公共政策の及ぶ範囲が著しく減ってしまいます。地域社会や保育士さん、子どもたちにとって何が最善なのか、民営化ありきではなく、立ち止まって検証するべきです。

■政治の優先順位を変え「ケア中心」に
 ──保育士や福祉士など、誰かをケアする側の職業において、待遇の悪さが目立ちます。
 問題は、国や自治体が社会的なビジョンをきちんと描けているのかどうか。私が言い続けているひとつのビジョンが、脱炭素化社会はケア社会であるということ。これから先、化石燃料を使い、二酸化炭素を排出するような生産や輸送、仕事などは減っていかざるを得ません。時代の要請です。
 その一方、どう考えても、ケアの仕事は増えていく。ニーズも多様化しています。発達障害や引きこもりの子に丁寧に寄り添う専門職が必要ですし、認知症の高齢者が患者として収容されるのではなく、のびのびと生活できる環境づくりも大事。政治家は、そういうケア社会のビジョンを持たなければいけないと思います。ケアする側として働く若い世代が、仕事に誇りを持ち、専門性を持って続けられるようにしなければなりません。
 そのためには、政治の優先順位を変える必要があります。脱炭素化社会に向け、政治の優先順位をケア中心に変えて、ケアする側にお金が払われるような社会にする。人の命を中心にして政治の優先順位を変えることが「ミュニシパリズム」の根幹です。

 ──岸田政権は防衛増税を推し進める一方、子ども予算倍増の財源確保を先送りしました。
「命の政治」とは何かを考えなければいけません。だからこそ、民主主義の最高の練習場である地方自治が大切なのです。結局、住民の命を最後に守るのは、防災も含め自治体です。地域単位から政治の順位を変えていき、首長として国のアジェンダに物申していきたいですね。

*この記事の関連【動画】もご覧いただけます。
                       (聞き手=高月太樹/日刊ゲンダイ)

▽岸本聡子(きしもと・さとこ) 1974年、東京都生まれ。日大文理学部卒業後、国際青年環境NGO「A SEED JAPAN」に参加。2003年からオランダ・アムステルダムに本拠地を置く政策シンクタンクNGO「トランスナショナル研究所(TNI)」に所属。公共サービスの民営化や再公営化の事例を研究。無所属で杉並区長選挙に立候補し、初当選(立憲、共産、れいわ、社民推薦)。著書に「水道、再び公営化!」(集英社新書)、「私がつかんだコモンと民主主義」(晶文社)。年明けに「地域主権という希望」(大月書店)を刊行予定。

29- 適菜収「それでもバカとは戦えトップ10」番外編

 適菜収氏は先に「今年のバカトップ10」を発表しましたが、その後一部の人たちから「あのバカが漏れている」というクレーム?がついたということです。それで適菜氏は急遽、杉田水脈以下の「番外編」を発表しました。見落としていて紹介が遅くなりましたことをお詫びします。

 関連記事
  (12月11日)適菜収「それでもバカとは戦え」2022年振り返り「今年のバカ」トップ10
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適菜収「それでもバカとは戦え」
2022年振り返り「今年のバカ」番外編  旧統一教会と安倍派、ほんこん
                          日刊ゲンダイ 2022/12/24
 年末の恒例企画「今年のバカ」。一部から「あのバカが漏れている」といったお叱りを受けたので、番外編をお届けする。

【細田博之】
 2019年10月、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)系の団体「UPF(天宙平和連合)」の国際会議で「安倍(晋三)総理に早速ご報告したいと考えております。韓鶴子総裁の提唱によって実現したこの国際指導者会議の場は、大変意義が深いわけでございます」と発言。

【岸信夫】
「統一教会に手伝ってもらったというよりは、メンバーの方にお力をいただいたということだ」と発言。岸は「私は、幅広く募っているという認識だった。募集しているという認識ではなかった」と言った安倍晋三の弟。

【萩生田光一】
 統一教会との深いつながりを報道されると「2009年から12年の間に、毎月2回教会を訪れて私が講演をしたり、青年部の皆さんに説教していたと書いてあるんですけど、こういう事実は全くありません」と否定。TBS「報道特集」は萩生田が統一教会の青年部の若者らを相手に講演を行っていた記録を入手。嘘がバレた。

【ほんこん】
 安倍銃撃事件当日のニュース映像に映りこんでいた商業ビルの屋上に、白いテント小屋が映っており、これが3時間後になくなっていたことから、「小屋はプロのスナイパーが狙撃のために利用した」というデマが発生。これを真に受けて拡散したのがネトウヨのほんこん。過去のネット記事が発掘されたのも面白かった。「ツイッターで発信するうえでは、どんなことに気をつけていますか?」という質問に対し、「計算に基づいた数字的な根拠を出してツイートすること。文系だと感情論でツイートする方も多いけど、ツイッターは理系のやり方でやった方がいいと思います。そしてフェイクに騙されない。これが一番大事やね」。

【杉田水脈】
 保育所の待機児童問題に関し「子供を家庭から引き離し、保育所などの施設で洗脳教育をする。旧ソ連が共産主義体制の中で取り組み、失敗したモデルを21世紀の日本で実践しようとしているわけです」などとコラムで述べていたが「事実として確認できず、不用意な発言だった」と国会で認めた。「事実として確認」できないことを書く国会議員とそれを掲載する産経新聞。

◆本コラム待望の書籍化!重版決定!kindle版も発売中です。
「それでもバカとは戦え」(日刊現代・講談社 1430円)

適菜収 作家
近著に「ニッポンを蝕む全体主義」「日本人は豚になる」「思想の免疫力」(評論家・中野剛志氏との対談)など、著書45冊以上。「適菜収のメールマガジン」も始動。詳細は適菜収のメールマガジンへ。本紙連載が書籍化「それでもバカとは戦え」好評発売中

2022年12月28日水曜日

「日本は世界屈指の防衛能力を手に入れる」シン安保戦略の衝撃の中身

 安全保障関連の3文書の改定により戦後の「専守防衛」という安全保障の基本方針が完全に終わりました。イトモス研究所所長・小倉健一氏が、「 ~ シン安保戦略の衝撃の中身」という記事を出しました。
 政府は「敵基地攻撃能力」のことを「反撃能力」と言い換えましたがゴマカシに過ぎません。そうした能力を持てば「相手が実際にミサイルを撃っていない状態であっても、攻撃に着手しさえすれば、日本に対する武力攻撃が発生したと見なすことができる」し、そもそも相手が「攻撃に着手したかどうかの判断は日本政府が行う」ために、判断を誤れば国際法違反の先制攻撃になります(攻撃をしたが最後 日本は火の海です)。
 実際問題として「相手が攻撃に着手した」と証明するのが不可能に近いことは容易に想像できるところです。日本は、そんな身勝手な理屈をつけて27年には世界屈指(第3位)の防衛能力=攻撃能力を持つ国になろうとしています。
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「日本は世界屈指の防衛能力を手に入れる」シン安保戦略の衝撃の中身
               小倉健一 ダイヤモンドオンライン 2022.12.27
                          イトモス研究所所長
日本政府は12月16日、安全保障関連の3文書を閣議決定した。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記したことから、国内のみならず同盟国や周辺国にとっても極めて大きな関心事となっている。この安保3文書の改定に携わった自民党議員の解説とともに、戦後の「専守防衛」という安全保障の基本方針が完全に終わったことを示唆する「シン安保戦略」の衝撃の内容をお伝えしたい。(イトモス研究所所長 小倉健一)

「反撃能力」か「敵基地攻撃能力」か
安保3文書改定で大きな波紋
 岸田文雄首相は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3文書を同時に改定した。自衛隊の体制を規定してきた「防衛計画の大綱」(防衛大綱)を「国家防衛戦略」に移行するなど、大胆かつ大幅な見直しを行った。
 特に画期的だったのは2点。自衛目的で敵ミサイル発射拠点などを破壊する「敵基地攻撃能力」の保有明記と「ODA(政府開発援助)の根本的な戦略変更」だ。今回は「敵基地攻撃能力」について、米国と、中国・韓国など周辺諸国の反応を交えて解説したい。

「敵基地攻撃能力」は、3文書内では「反撃能力」と明記されているものだ。政府はあくまで「反撃能力」と強調するが、朝日新聞や共産党は「敵基地攻撃能力」のことだと強調している。
 朝日新聞は12月16日に、わざわざ「引き続き、『敵基地攻撃能力(反撃能力)』と表記します」と題する記事を掲載。その中で、「おことわり 閣議決定した安保関連3文書で、政府は敵基地攻撃能力を『反撃能力』と表記しています。『反撃』とは攻撃を受けた側が逆に攻撃に転ずる意味ですが、実際には攻撃を受けていなくても、相手が攻撃に着手した段階で、その領域内のミサイル発射拠点などを攻撃することも想定しています。このため、朝日新聞では引き続き、『敵基地攻撃能力(反撃能力)』と表記します」と読者に丁寧な注意喚起を行っている。
 私もどちらで表記しようかと考えたが、上記の朝日の「おことわり」にもあるように、「実際には攻撃を受けていなくても、相手が攻撃に着手した段階で、その領域内のミサイル発射拠点などを攻撃すること」を理論上は可能にしている。これは国際法上、どの国にも認められた権利であるにもかかわらず、日本が一方的に考えないようにしてきた安全保障上の制約であった。
 そのことから考えても、「敵基地攻撃能力」と表記した方がよいと考えたので、本稿において、私自身は「反撃能力」とはあえて記さないことにした。ただし、かぎかっこ内で引用したコメントや文書では、話者次第、引用元次第とする。

「これまでの安保戦略とは全く違う
革命的といっていい転換」
 今回の安保3文書の改定に関わった自民党中堅議員は、運用上の問題について、こう明かす。
「反撃能力とは、これまでの安保戦略とは全く違う、革命的といっていい転換です。専守防衛を掲げてきた日本が、まさか敵の領土内にある基地やミサイルを攻撃するという発想は出てこなかった。集団的自衛権は、攻撃されたら対応する、日本の存立を脅かす場合のみというかなり狭い範囲にしか適用されていなかった」
 敵基地攻撃能力について政府は、「誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」(1956年2月29日・政府見解)としてはいた。しかし、これまで政策判断として保有することとしてこなかった能力だ。
 問題は、どの時点から日本は敵基地を攻撃していいかというタイミングである。そのタイミングのことを外交・防衛関係者ら安保界隈(かいわい)では、「(わが国に対する攻撃の)着手」と呼んでいる。
 今回の3文書の一つ、国家安全保障戦略には、「(反撃能力とは)我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力(編集部注:脅威圏外の離れた位置から対処を行える防衛能力)等を活用した自衛隊の能力」と記されている。
 ちょっと堅い表現なので、意味が分かりにくいかもしれない。簡単に言えば、相手が実際にミサイルを撃っていない状態であっても、攻撃に着手しさえすれば、日本に対する武力攻撃が発生したと見なすことができるということだ。
 野党第1党である立憲民主党はこの「着手」について、「【代表声明】政府が示した「安保三文書」の問題点について」(12月16日)の中で、次のように指摘している。
「政府見解では、『我が国に対する攻撃の着手』があれば、先制攻撃にあたらないとされているが、正確な着手判断は現実的には困難であり、先制攻撃とみなされるリスクが大きい」「専守防衛を逸脱する可能性がある」
 立憲民主党の懸念も当然の部分があるだろう。ミサイルが発射されていない、実害が発生していない段階(着手の段階)で、日本は相手国を攻撃することが理論上、可能だ。また着手したかどうかの判断も日本政府が行うため、判断を誤れば国際法違反の先制攻撃になる危険性もある。

「このままいけば2027年には
世界屈指の防衛能力を持つ国になる」
 先述の自民党議員は次のように課題を挙げる。
「国際法では、相手国が武力攻撃をこれからすることが客観的に明らかな状態であれば、武力の行使と見なされます。これをたたくことは、先制攻撃とは呼びません。今回の安保改定で新しいのは、まだ日本に被害が出ていない状態でも、武力行使が明らかであれば相手国へミサイルを撃ち込める点です」
「着手の判断は、確かに課題が多い。今の日本が持っている人工衛星の能力や情報収集能力からすると、着手かどうかを判断するのは、ほぼ無理といってもいい段階です。結局、アメリカのインテリジェンスの支援を受け、アメリカに相談しながら、着手の判断をすることになる」
「とはいえ、この反撃が理論上でもできるようになったのは、非常に大きな成果です。よくこんなに大きなことが憲法解釈の変更もせずに、すんなり通ったなというのが本音です。このままいけば、2027年には世界屈指の防衛能力を持つ国に、日本はなります」
 さて、この革命的な安保改定に、関係国や周辺国はどのような反応をしたのだろうか。
 まず、手放しで喜んでいるのが同盟国である米国だ。

 ジョー・バイデン大統領は、「米国はこの重要な瞬間に日本とともにある。われわれの同盟は、自由で開かれたインド太平洋の礎であり、平和と繁栄への日本の貢献を歓迎する」とツイート。ロイド・オースティン国防長官は、「われわれは、日本が反撃能力を含む地域の抑止力を強化する新たな能力を獲得するという決定を支持する。また、日本が防衛費を大幅に増加させ、2027年にはGDPの2%に達するという決定を支持する」と談話を発表した。
 他にも、米国ではナンシー・ペロシ下院議長とラーム・エマニュエル駐日大使などが、他の国や地域ではオーストラリア、カナダ、台湾も今回の改定を高く評価し、支持を表明している。

激怒する中国
日本の朝鮮半島介入を恐れる韓国
 一方、激怒しているのは、中国だ。
「日本側は事実を顧みず、両国関係に対する日本側の約束および中日間の共通認識に背いて、中国の顔にいわれなく泥を塗った」(中国外交部)として、外交ルートを通じて日本側に厳正なる申し入れを行ったのだという。また、「中国の脅威を誇張し、自らの軍事力増強のために口実を探すたくらみは実現できないだろう」と強くけん制した。
 米中の態度とは違って、日本の方針に戸惑っているのが、韓国だ。
「日本の防衛安保政策が、平和憲法の精神を堅持しつつ、地域の平和と安定に寄与する方向で、透明性を持って策定されることが望ましいとの立場である。朝鮮半島を対象とした反撃能力行使のように、朝鮮半島の安全保障および韓国の国益に重大な影響を及ぼす事案は、事前に韓国との緊密な協議および同意が必ず必要だとの立場にある」(韓国外交部)のだという。
 敵国が今にもミサイルを撃つというタイミングで、事前に同意を得ろというのは、現実的に無理ではないかと思うが、前述の自民党議員は次のように解説する。
「現実的には無理な要求だが、それぐらい韓国は、朝鮮半島有事が起きた際に日本が介入することを恐れている」

 増税か、否か――。そんな財源議論が沸騰し、中身についての議論が一切深まらなかったが、同盟国や周辺諸国にとって極めて大きな関心事項となっている、今回の日本の安保改定。大きな軍事力を持つことは、日本だけでない周辺諸国の安全についても大きな責任が伴うということである。

 私たち日本人は今一度、平和の意味や防衛の意味、戦争の意味を見つめ直していく必要があるだろう。 

消費者物価指数3.7%上昇 黒田総裁の「来年は減衰する」見通しは大ウソ

 黒田日銀総裁は20日の会見で「足元の物価上昇はほとんど輸入物価の上昇を起点とする消費者物価への転嫁で、その影響は来年に入るとだんだん減衰する」と、楽観的な発言に終始しました。しかし来年1月~4月には本格的な値上げラッシュが待っているのは目に見えているので、何とも空疎な発言でした。

 この期に及んで波風を立たせずに任期を終えようというのは余りにも虫が良すぎます。日刊ゲンダイは、黒田総裁にとってラストとなる3月9、10日の金融政策決定会合後の会見では“袋だたき”になるだろうと予想しています。
 それとは別に現代ビジネスは「日銀『黒田バズーカ』の重すぎる罪…結局、ツケを払うのは日本国民だ その問題点を突く」という記事を出しました。要するにこの10年の日銀の機能は、国際的にも国内的にも果たせなくなりつつあるという指摘です。
 併せて紹介します。
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消費者物価指数3.7%上昇の衝撃…日銀黒田総裁「来年、減衰する」楽観見通しは“大ウソ”
                         日刊ゲンダイ 2022/12/25
 黒田日銀総裁の見通しは“大ウソ”じゃないのか。総務省が23日に発表した消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比3.7%上昇の103.8だった。第2次石油危機の1981年以来、40年11カ月ぶりの伸び率となる。
 インフレはいつ収まるのか──。黒田総裁は20日の会見で「(足元の物価上昇は)ほとんど輸入物価の上昇を起点とする消費者物価への転嫁で、その影響は来年に入るとだんだん減衰する」と楽観的だったが、その通りになるのかどうか。年明けに値上げラッシュが待っているからだ。

■2月は食品値上げ4000品目超
 帝国データバンクによると、来年1~4月の食品値上げは7152品目に上り、2月に4277品目が集中している。値上げ幅も今年通年より4ポイント高い18%。今年より40%以上もの大幅値上げを行う企業が多い。
 政府の全国旅行支援が来年から縮小されるのも物価指数の上振れにつながる。11月の物価指数は旅行支援効果で「宿泊代」が20%も下がった。しかし、年明けの1月10日から割引率は40%から20%に引き下げられ、割引上限は交通費込みで8000円から5000円になる。

 金融ジャーナリストの森岡英樹氏が言う。
「来年2月から政府の負担軽減策により、電気、ガス代が下がりますが、4月分から電力5社は軽減額を上回る規模の値上げを申請しており、東電も検討中です。春には鉄道運賃もアップします。多くの企業は今年自社で負担したコストアップ分について末端価格への転嫁を加速させます。来年、価格上昇が減衰するとの黒田総裁の見通しはあまりに甘い。客観的ではなく、緩和継続ありきで見通すためこうなるのです」
 この期に及んでこんないい加減な見通しを出す黒田総裁は、もはや嘘をついているに等しい。


日銀「黒田バズーカ」の重すぎる罪…結局、ツケを払うのは日本国民だ その問題点を突く
                      近藤 駿介 現代ビジネス 2022/12/27
とうとう日銀が金融政策を修正
12月20日に開催された今年最後の金融政策決定会合で、日銀は2016年9月から6年強続けて来た目玉政策である「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」、所謂「イールドカーブ・コントロール(以下YCC)」政策の一部修正を決めた。
主な変更点は、長短金利の誘導目標(短期政策金利▲0.1%、10 年物国債金利目標をゼロ%程度)は変えずに、0%付近としてきた10年国債利回りの変動幅を従来の±0.25%程度から±0.5%に拡大した点である。これは日銀が「指値オペ」によって市場から無制限に10年国債を買い入れる水準を、これまでの0.25%から0.5%に引き上げたということなので、実質10年国債の利回りが0.5%まで上昇することを日銀が容認したことになる。
黒田東彦日銀総裁がこれまで「YCCの変動許容幅の拡大は金利の引き上げに当たる」との見解を示してきたことから、日銀によるYCC一部修正は「実質利上げへの政策転換」との思惑を生み、翌12月21日の10年国債利回りは0.48%と日銀の許容範囲の上限に近いところまで上昇した。
こうした市場の「実質利上げへの政策転換」という見方に対して、これまで「YCCの変動許容幅の拡大は金利の引き上げに当たる」との認識を示してきた黒田日銀総裁は「市場機能を改善することで、イールドカーブ・コントロールを起点とする金融緩和の効果が、企業金融等を通じてより円滑に波及していくようにする趣旨で行うものでありまして、利上げではありません」と、「市場機能改善」という新たな目的を持ち出したうえで、「短期の政策金利を▲0.1%、10 年物国債の金利目標をゼロ%程度というYCCの基本」を維持しているのだから「利上げではない」という屁理屈を展開して見せた。
これまでも様々な詭弁を弄して頑なに異次元の金融緩和の意義とその継続を図ってきた黒田日銀総裁は、今回のYCCの一部修正も「利上げではない」と言い張りさえすれば世間を言いくるめることが出来ると考えていたはずである。しかし、今回は黒田日銀総裁の思惑通りにことが進む保証はない。

信頼とコミュニケーションの欠如
それは、これまで黒田日銀総裁が言いくるめる必要のある相手が国内世論だったのに対して、今回はグローバル化した金融市場を相手にしなければいけないからである。
さらに、これまで黒田日銀総裁が導入してきた「異次元金融緩和の拡大」(2014年10月導入)や「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」(2016年1月導入)、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和(YCC)」(2016年9月導入)といった政策は、全て金融政策としての効果が必ずしも定かではないものの、黒田日銀が主体的に導入してきたものであるのに対して、今回の「YCCの運用の見直し」は債券市場での金利上昇圧力に屈服する形で導入せざるを得なかったという点で大きな違いがある。
金融政策は、中央銀行が金融市場や経済の資金の流れを変える意図をもって実施するるものである。従って通常は、金融政策の変更によって中央銀行がどのように資金の流れを変えようとしているのかという意図を汲み取って市場は資産配分を変更するので、結果的に中央銀行の意図した方向に資金は流れていくことになる。ここで重要なことは、中央銀行と市場の間の信頼関係とコミュニケーションが保たれていることである。
問題はこの信頼関係とコミュニケーションの維持を黒田日銀が疎かにしてきたことだ。黒田日銀は基本的に市場との信頼関係とコミュニケーションではなく、政策の規模や実施タイミングによるサプライズで市場を支配しようとしてきた。
しかし、今回市場の圧力に屈する形で「YCCの変動幅拡大」に追い込まれたことで、市場と黒田日銀の立場は逆転してしまった。今回の「YCCの変動幅拡大」という政策変更におけるサプライズは、黒田日銀が白旗を掲げるタイミングが予想より早かったことくらいしかないからである。

コロコロと方針を変える日銀
金融政策としての意義は定かではなかったものの、これまでの政策変更に限って言えば曲がりなりにも日銀の意図は存在していた。しかし、市場の圧力に屈した形で実施した今回の「YCCの変動幅拡大」に、金融的な意図は見当たらない。それは、「YCCの変動幅拡大」方向に動いていた市場の動きを追認するだけなので、資金の流れを変更しようという日銀側の意図が存在しないからだ。
2013年4月から始まった異次元の金融緩和は、金融政策の目標をそれまでの「金利」から「資金量」に変える政策だった。それが2016年9月に導入されたYCCによって実質的に金融政策の目標は「金利」に戻され、「資金量」はYCCに伴う副次的産物に格下げされた。YCCが導入されて以降、金融政策決定会合後に公開される資料「当面の金融政策運営について」の「資産買入方針」という項目のなかから「長期国債について…」という記述は姿を消していた。
しかし、今回「YCCの変動幅拡大」に踏み切った「当面の金融政策運営について」の中では「10 年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う」「本日公表する「長期国債買入れ(利回り・価格入札方式)の四半期予定」では、従来の月間7.3兆円から9兆円程度に増額する」という文言が加えられ、日銀が「金利」と「資金量」の二兎を追う方針であることが明らかにされた。
このように、黒田日銀の金融政策の目標は、日銀側の都合で「金利」から「資金量」へ、そして再び「金利」へ、さらには「金利」と「資金量」へと変遷し、その一貫性のなさは主要国の中央銀行のなかで抜きんでている。

今まで「破綻」しなかった理由
こうした一貫性のない政策がこれまで破綻してこなかったのは、2008年のリーマンショック以降、世界中で異次元の金融緩和が行われてきたからである。
しかし、昨今の世界的インフレと、「景気」よりも「インフレ抑制」を優先するFRB(米連邦準備理事会)による急速かつ容赦ない利上げによって、世界の金融市場の資金の流れは大きく変わってしまった。米調査会社EPFRの報告によると、今年になってから12月21日までに債券ファンドから2570億ドル(約34兆円)もの資金が純流出している。
リーマンショック以降世界が異次元の金融緩和に動く中で、世界の金融市場の資金の主役は兆円単位の資金を運用する年金やソブリンファンドなどになってきている。
こうした大規模な資金を預かる機関投資家の運用の特徴は、インデックス運用あるいはインデックスをベンチマークにした運用が中心になっていることである。
自称「世界最大の機関投資家」である日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の2021年度末時点のインデックス運用(パッシブ運用)の比率は「国内債券」76.6%、「外国債券」79.22%、「国内株式」93.65%、「外国株式」90.82%と高く、大半がインデックス運用になっている。
運用主体がインデックス運用の比率の高い年金資金やソブリンファンドになるということは、インデックスに採用されている国の市場動向は自国の事情にかかわらず世界の情勢から強い影響を受けるようになっているという事である。
世界の主要なインデックスの一つである「FTSE世界国債Index」の構成国とその割合を見てみると、日本の構成比率は16.41%(2022年1月末時点、以下同様)と米国40.05%、EGBI(欧州主要国)32.05%に次いで3番目と高いシェアを占めている。
こうした状況下で世界の国債インデックスに合わせて運用するファンドから資金が流出した場合、通常は構成国の割合に応じて売却することになる。そうしないと残されたポートフォリオ構成がインデックスから乖離してしまうからである。
世界的インフレと世界主要国が利上げに動く中で、世界の国債で運用するファンドから資金が流出することになれば、日本国債にも流出資金の16.41%相当の売が出るという事になる。こうした状況では、黒田日銀総裁が「利上げではない」と国内向けに強がりをいったところで日本国債の売却を止めることは不可能なのだ。

ツケを払うのは誰か?
FRBはインフレを「一時的」だと見誤ったことでインフレを追いかける形での大幅利上げ(Behind the Curve)に追い込まれた。そして日銀は市場の変化を見誤ったことで市場の金利上昇圧力に屈する形で「YCCの変動幅拡大」(Behind the Market)に追い込まれてしまった。
黒田日銀が市場との信頼関係とコミュニケーションではなく規模とサプライズで市場を動かすことができたのは、世界が異次元の金融緩和に向かっていたからである。
円安・株高に貢献したことで国内では「黒田バズーカ」と称賛されてきた黒田日銀の異次元の金融緩和は、世界的異次元の金融緩和の中に咲いた徒花に過ぎなかったのだ。
市場を動かせることを自らの力量であると過信してきた黒田日銀は、これからそのツケを払わされることになる。残念なことはその請求書は来年4月に退任する黒田総裁にではなく、国民に回されてくるということである。