黒田日銀総裁は20日の会見で「足元の物価上昇はほとんど輸入物価の上昇を起点とする消費者物価への転嫁で、その影響は来年に入るとだんだん減衰する」と、楽観的な発言に終始しました。しかし来年1月~4月には本格的な値上げラッシュが待っているのは目に見えているので、何とも空疎な発言でした。
この期に及んで波風を立たせずに任期を終えようというのは余りにも虫が良すぎます。日刊ゲンダイは、黒田総裁にとってラストとなる3月9、10日の金融政策決定会合後の会見では“袋だたき”になるだろうと予想しています。
それとは別に現代ビジネスは「日銀『黒田バズーカ』の重すぎる罪…結局、ツケを払うのは日本国民だ その問題点を突く」という記事を出しました。要するにこの10年の日銀の機能は、国際的にも国内的にも果たせなくなりつつあるという指摘です。
併せて紹介します。
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消費者物価指数3.7%上昇の衝撃…日銀黒田総裁「来年、減衰する」楽観見通しは“大ウソ”
日刊ゲンダイ 2022/12/25
黒田日銀総裁の見通しは“大ウソ”じゃないのか。総務省が23日に発表した消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比3.7%上昇の103.8だった。第2次石油危機の1981年以来、40年11カ月ぶりの伸び率となる。
インフレはいつ収まるのか──。黒田総裁は20日の会見で「(足元の物価上昇は)ほとんど輸入物価の上昇を起点とする消費者物価への転嫁で、その影響は来年に入るとだんだん減衰する」と楽観的だったが、その通りになるのかどうか。年明けに値上げラッシュが待っているからだ。
■2月は食品値上げ4000品目超
帝国データバンクによると、来年1~4月の食品値上げは7152品目に上り、2月に4277品目が集中している。値上げ幅も今年通年より4ポイント高い18%。今年より40%以上もの大幅値上げを行う企業が多い。
政府の全国旅行支援が来年から縮小されるのも物価指数の上振れにつながる。11月の物価指数は旅行支援効果で「宿泊代」が20%も下がった。しかし、年明けの1月10日から割引率は40%から20%に引き下げられ、割引上限は交通費込みで8000円から5000円になる。
金融ジャーナリストの森岡英樹氏が言う。
「来年2月から政府の負担軽減策により、電気、ガス代が下がりますが、4月分から電力5社は軽減額を上回る規模の値上げを申請しており、東電も検討中です。春には鉄道運賃もアップします。多くの企業は今年自社で負担したコストアップ分について末端価格への転嫁を加速させます。来年、価格上昇が減衰するとの黒田総裁の見通しはあまりに甘い。客観的ではなく、緩和継続ありきで見通すためこうなるのです」
この期に及んでこんないい加減な見通しを出す黒田総裁は、もはや嘘をついているに等しい。
日銀「黒田バズーカ」の重すぎる罪…結局、ツケを払うのは日本国民だ その問題点を突く
近藤 駿介 現代ビジネス 2022/12/27
とうとう日銀が金融政策を修正
12月20日に開催された今年最後の金融政策決定会合で、日銀は2016年9月から6年強続けて来た目玉政策である「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」、所謂「イールドカーブ・コントロール(以下YCC)」政策の一部修正を決めた。
主な変更点は、長短金利の誘導目標(短期政策金利▲0.1%、10 年物国債金利目標をゼロ%程度)は変えずに、0%付近としてきた10年国債利回りの変動幅を従来の±0.25%程度から±0.5%に拡大した点である。これは日銀が「指値オペ」によって市場から無制限に10年国債を買い入れる水準を、これまでの0.25%から0.5%に引き上げたということなので、実質10年国債の利回りが0.5%まで上昇することを日銀が容認したことになる。
黒田東彦日銀総裁がこれまで「YCCの変動許容幅の拡大は金利の引き上げに当たる」との見解を示してきたことから、日銀によるYCC一部修正は「実質利上げへの政策転換」との思惑を生み、翌12月21日の10年国債利回りは0.48%と日銀の許容範囲の上限に近いところまで上昇した。
こうした市場の「実質利上げへの政策転換」という見方に対して、これまで「YCCの変動許容幅の拡大は金利の引き上げに当たる」との認識を示してきた黒田日銀総裁は「市場機能を改善することで、イールドカーブ・コントロールを起点とする金融緩和の効果が、企業金融等を通じてより円滑に波及していくようにする趣旨で行うものでありまして、利上げではありません」と、「市場機能改善」という新たな目的を持ち出したうえで、「短期の政策金利を▲0.1%、10 年物国債の金利目標をゼロ%程度というYCCの基本」を維持しているのだから「利上げではない」という屁理屈を展開して見せた。
これまでも様々な詭弁を弄して頑なに異次元の金融緩和の意義とその継続を図ってきた黒田日銀総裁は、今回のYCCの一部修正も「利上げではない」と言い張りさえすれば世間を言いくるめることが出来ると考えていたはずである。しかし、今回は黒田日銀総裁の思惑通りにことが進む保証はない。
信頼とコミュニケーションの欠如
それは、これまで黒田日銀総裁が言いくるめる必要のある相手が国内世論だったのに対して、今回はグローバル化した金融市場を相手にしなければいけないからである。
さらに、これまで黒田日銀総裁が導入してきた「異次元金融緩和の拡大」(2014年10月導入)や「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」(2016年1月導入)、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和(YCC)」(2016年9月導入)といった政策は、全て金融政策としての効果が必ずしも定かではないものの、黒田日銀が主体的に導入してきたものであるのに対して、今回の「YCCの運用の見直し」は債券市場での金利上昇圧力に屈服する形で導入せざるを得なかったという点で大きな違いがある。
金融政策は、中央銀行が金融市場や経済の資金の流れを変える意図をもって実施するるものである。従って通常は、金融政策の変更によって中央銀行がどのように資金の流れを変えようとしているのかという意図を汲み取って市場は資産配分を変更するので、結果的に中央銀行の意図した方向に資金は流れていくことになる。ここで重要なことは、中央銀行と市場の間の信頼関係とコミュニケーションが保たれていることである。
問題はこの信頼関係とコミュニケーションの維持を黒田日銀が疎かにしてきたことだ。黒田日銀は基本的に市場との信頼関係とコミュニケーションではなく、政策の規模や実施タイミングによるサプライズで市場を支配しようとしてきた。
しかし、今回市場の圧力に屈する形で「YCCの変動幅拡大」に追い込まれたことで、市場と黒田日銀の立場は逆転してしまった。今回の「YCCの変動幅拡大」という政策変更におけるサプライズは、黒田日銀が白旗を掲げるタイミングが予想より早かったことくらいしかないからである。
コロコロと方針を変える日銀
金融政策としての意義は定かではなかったものの、これまでの政策変更に限って言えば曲がりなりにも日銀の意図は存在していた。しかし、市場の圧力に屈した形で実施した今回の「YCCの変動幅拡大」に、金融的な意図は見当たらない。それは、「YCCの変動幅拡大」方向に動いていた市場の動きを追認するだけなので、資金の流れを変更しようという日銀側の意図が存在しないからだ。
2013年4月から始まった異次元の金融緩和は、金融政策の目標をそれまでの「金利」から「資金量」に変える政策だった。それが2016年9月に導入されたYCCによって実質的に金融政策の目標は「金利」に戻され、「資金量」はYCCに伴う副次的産物に格下げされた。YCCが導入されて以降、金融政策決定会合後に公開される資料「当面の金融政策運営について」の「資産買入方針」という項目のなかから「長期国債について…」という記述は姿を消していた。
しかし、今回「YCCの変動幅拡大」に踏み切った「当面の金融政策運営について」の中では「10 年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う」「本日公表する「長期国債買入れ(利回り・価格入札方式)の四半期予定」では、従来の月間7.3兆円から9兆円程度に増額する」という文言が加えられ、日銀が「金利」と「資金量」の二兎を追う方針であることが明らかにされた。
このように、黒田日銀の金融政策の目標は、日銀側の都合で「金利」から「資金量」へ、そして再び「金利」へ、さらには「金利」と「資金量」へと変遷し、その一貫性のなさは主要国の中央銀行のなかで抜きんでている。
今まで「破綻」しなかった理由
こうした一貫性のない政策がこれまで破綻してこなかったのは、2008年のリーマンショック以降、世界中で異次元の金融緩和が行われてきたからである。
しかし、昨今の世界的インフレと、「景気」よりも「インフレ抑制」を優先するFRB(米連邦準備理事会)による急速かつ容赦ない利上げによって、世界の金融市場の資金の流れは大きく変わってしまった。米調査会社EPFRの報告によると、今年になってから12月21日までに債券ファンドから2570億ドル(約34兆円)もの資金が純流出している。
リーマンショック以降世界が異次元の金融緩和に動く中で、世界の金融市場の資金の主役は兆円単位の資金を運用する年金やソブリンファンドなどになってきている。
こうした大規模な資金を預かる機関投資家の運用の特徴は、インデックス運用あるいはインデックスをベンチマークにした運用が中心になっていることである。
自称「世界最大の機関投資家」である日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の2021年度末時点のインデックス運用(パッシブ運用)の比率は「国内債券」76.6%、「外国債券」79.22%、「国内株式」93.65%、「外国株式」90.82%と高く、大半がインデックス運用になっている。
運用主体がインデックス運用の比率の高い年金資金やソブリンファンドになるということは、インデックスに採用されている国の市場動向は自国の事情にかかわらず世界の情勢から強い影響を受けるようになっているという事である。
世界の主要なインデックスの一つである「FTSE世界国債Index」の構成国とその割合を見てみると、日本の構成比率は16.41%(2022年1月末時点、以下同様)と米国40.05%、EGBI(欧州主要国)32.05%に次いで3番目と高いシェアを占めている。
こうした状況下で世界の国債インデックスに合わせて運用するファンドから資金が流出した場合、通常は構成国の割合に応じて売却することになる。そうしないと残されたポートフォリオ構成がインデックスから乖離してしまうからである。
世界的インフレと世界主要国が利上げに動く中で、世界の国債で運用するファンドから資金が流出することになれば、日本国債にも流出資金の16.41%相当の売が出るという事になる。こうした状況では、黒田日銀総裁が「利上げではない」と国内向けに強がりをいったところで日本国債の売却を止めることは不可能なのだ。
ツケを払うのは誰か?
FRBはインフレを「一時的」だと見誤ったことでインフレを追いかける形での大幅利上げ(Behind the Curve)に追い込まれた。そして日銀は市場の変化を見誤ったことで市場の金利上昇圧力に屈する形で「YCCの変動幅拡大」(Behind the Market)に追い込まれてしまった。
黒田日銀が市場との信頼関係とコミュニケーションではなく規模とサプライズで市場を動かすことができたのは、世界が異次元の金融緩和に向かっていたからである。
円安・株高に貢献したことで国内では「黒田バズーカ」と称賛されてきた黒田日銀の異次元の金融緩和は、世界的異次元の金融緩和の中に咲いた徒花に過ぎなかったのだ。
市場を動かせることを自らの力量であると過信してきた黒田日銀は、これからそのツケを払わされることになる。残念なことはその請求書は来年4月に退任する黒田総裁にではなく、国民に回されてくるということである。