元経産官僚の古賀茂明氏が掲題の記事を出しました。
古賀氏はまず今回の自民党参院選惨敗で石破首相が引責辞任すべきかについて、「世論が自民党に退場を求めてもおかしくないということではあるが、大敗の責任が石破首相にあると決めつけることが適切だということには必ずしもならない」として、「自民党惨敗の最大の原因は何かについては、裏金問題が大きいということを否定する人はいないだろう」と述べます。
そしてその最大の責任者といえば、安倍晋三元首相と旧安倍派の議員たちであり、自らの責任を明確にしないまま石破氏一人に責任を押し付けるのは間違いであるし、自民大敗のもう一つの主要な原因は「物価高対策への不満」であり、その原因は「アベノミクスの失敗」に帰するとして、この「失われた30年の間の自民党政治全体」への不満が、「安倍政治とそこから脱却できない安倍後継の指導者たちへの強烈なダメ出し」となったのだと断じます。
従って自民党が今後行う「参院選惨敗の総括」では、石破首相には裏金議員やアベノミクスの失敗などに根源的原因があることを「浮き彫りにしたい」という思惑があるのではないかとして、もしもそうなれば「石破に責任なし」という声が広がると見ています。また日米関税交渉がまとまりかけたことで、ある程度詳細が固まるところまで石破にやらせた方が得策だという長老?たちの思惑もありそうだとも述べます。
そもそも党外の人たちにとって石破降ろしに共感が伴わないのは、誰が後継になるのかのイメージが浮かばないからです。次期自民党総裁に関するメディアのアンケートでは 1位が高市で やや差をつけて小泉または石破が続きます。しかし高市・小泉の両氏が果たして首相の器と言えるのかについては大いに疑問だし、高市では日本にとって今後増々重要になる対中関係が破綻に向かうのは明らかで、そうなれば日本の経済も破綻しかねません。
ところで今回の参院選で俄然注目されたのが「参政党の躍進」でした。古賀氏はその点に関しても簡単に触れています。
小見出し「政治的リテラシーがない人たちが投票へ」の項で、「古谷経衡氏」の名前が登場します。同氏は22年の都議選の時点で「参政党」に関する下記の記事を出しています。
『参政党とは何か?「オーガニック信仰」が生んだ異形の右派政党』(YAHOO!エキスパート、2022年7月)
そして今年6月の都議選直後には下記の記事を出して、参政党自体というよりは「参政党支持者の実態」について辛口の評価を行っています。
『参政党支持層の研究(古谷経衡)』 - エキスパート - Yahoo!ニュース
「小見出し」から推測されるように、古賀氏は、参院選で参政党や国民党が躍進したのは「政治的リテラシーがほとんど、いや、全くないと言ってもよい人たちが、その時々のSNSの情報に感化されて、投票に行くという現象が起きた結果」であると酷評しています。そして国民党がこの勢いを維持できるかはいざ知らず、「参政党」に関しては簡単には勢いを減じないだろうと述べています。そのことについては「次期首相問題」に負けず劣らずに関心を抱かざるを得ません。
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立憲・共産党支持者が「石破辞めるな!」と叫ぶ異常事態…参院選の自民党大敗の原因は「裏金議員」と「アベノミスクの失敗」である 古賀茂明
古賀茂明 AERA 2025/07/29
7月23日午前11時16分、毎日新聞が「石破首相、退陣へ 8月末までに表明 参院選総括踏まえ」という見出しの記事をネットで配信した。
さらに同日午後2時過ぎに、読売新聞が、なんと「号外」を配って「石破首相 退陣へ」という大見出しで伝えたため、永田町では、一時「石破退陣は決まった」かのような情勢となった。
しかし、同日午後に行われた石破茂首相と麻生太郎、菅義偉、岸田文雄各氏の3人の首相経験者による会談後に、石破首相が、「会談で私の出処進退については、一切、話は出ていない。そのような発言をしたことは一度もない。報道されているような事実はまったくない」と、辞任報道を強く否定したことで、一転して毎日、読売の報道は「誤報」ではないかということになった。
ただし、読売は、同日午後9時27分にも、「石破首相(自民党総裁)が退陣する意向を固めたことで、自民党内では後継の総裁選びが今後の焦点となる」という記事を配信し、あくまでも誤報ではないという姿勢を貫いた。
確かに、今回の参院選で石破首相が自ら低めに設定した与党で過半数維持という勝敗ラインを下回ったのだから、責任を取るのは当然だということになるのが世の中の受け止め方としては自然ではある。しかし、それは、世論が自民党に退場を求めてもおかしくないということであって、自民党内部で、大敗の責任が石破首相にあると決めつけることが適切だということには必ずしもならない。
今回の自民党大敗の最大の原因は何かについては、色々な要素があるが、なんと言っても、裏金問題が大きいということを否定する人はいないだろう。
例えば、自民党の比例候補で最終当選者となって話題になった鈴木宗男氏は、「選挙期間中、全国を歩いて『裏金問題のけじめがついていない』と非常に厳しい声があり、去年の衆議院選挙や今回の参議院選挙の結果につながったと思う。明確な責任を取らない連中が石破総理大臣に反発するような話は、すり替えの議論で、短絡的に『悪い』と言うのは拙速だ」と述べている。極めて真っ当な論だ。
裏金問題や「ひめゆりの塔」歴史歪曲発言で世論の厳しい批判を浴びた西田昌司・参議院議員は、「筋から考えて首相は責任を取られるべきだし、新しい総裁を選ばなければならない。国民から見放された人が、次々モノを言っても信頼性がない」と石破辞任説を唱えているが、裏金問題の最大の責任者といえば、安倍晋三元首相と旧安倍派の議員たちだ。西田氏もその代表格である。自らの責任を明確にしないまま石破氏一人に責任を押し付けている典型例だ。
民意は「失われた30年と安倍政治へのNO」
自民大敗のもう一つの主要な原因として忘れてならないのは、国民の物価高対策への不満である。これも異論のないところだろう。
特に、野党が要求する消費税減税をバラマキだとして拒否し、当初給付金もやらないと言っていた石破首相が選挙直前になって、一転して給付金を配ると言ったことが、選挙目当てで国民の生活のことを真剣に考えたものではないという強烈な拒否反応を生んでしまった。
これを批判するのは間違いではない。しかし私は、人々が、過去数十年にわたって、ほとんど成長できなかった日本という現実にようやく気づき、物価が上がるのに、賃金はほとんど上がらない、いや、上げられない経済状況だという事実に気づいたということが大きいのではないかと見ている。物価が上がっても、それ以上に賃金が上がっていれば、これほど生活が苦しく感じられることはなかったはずだ。
アベノミクスで不動産と株価は上がったが、賃金の方は、デフレ脱却までもう少し待ってと言われ続けた。そして、ついに物価が大きく上昇してインフレ時代になったが、実質賃金は今も下がり続けている。これからも、高い賃上げを続けられるような産業の競争力はない。将来は非常に暗い。今までのやり方を大きく変えるしかない。そのためには、自民党政治を止めるしかない。ということに国民が目覚めた結果が今回の選挙に表れたのではないだろうか。
つまり、失われた30年の間の自民党政治全体、そして、裏金などを含めて、ダメ押しのように国民を欺き続けた安倍政治とそこから脱却できない安倍後継の指導者たちへの強烈なダメ出しというのが自民大敗の原因だ。
それを象徴的に表せば、今回の参院選で表された民意とは、「失われた30年と安倍政治へのNO」ということになる。
自民党が出直しを図るとすれば、この総括をするのが先決だ。これができない限り、誰が総裁をやっても同じ。安倍政治からの決別をできるのは石破氏しかいないという期待を背負って、自民党総裁、そして首相に選ばれた石破氏が、その期待を裏切ったからこその敗北でもある。だが、石破氏以外の誰が本気で安倍政治との決別をできたのかと言えば、誰にもできなかっただろう。
石破首相が、3人の首相経験者との会談で、党内に新たに立ち上げる組織のもとで、来月中に選挙の総括を行いたいと伝えたと報じられているが、実は、石破首相としては、まさに、参院選敗北の責任は、自分ではなく、裏金議員やアベノミクスの失敗などに、より根源的原因があるということを総括の中で浮き彫りにしたいという思惑があるのではないだろうか。その議論を通じて、「石破に責任なし」という声を広げていきたいのだろう。
ポスト石破のキングメーカーはいったい誰?
一方、3人の首相経験者たちは、石破氏の強い続投意欲を見て、ここで、無理やり引き摺りおろそうとすると、3人の首相経験者には責任はないのかという批判に火がつく可能性があり、また、見苦しい権力闘争と受け取られるので、「分裂は避けよう」という言葉に表れたように、渋々ではあるが、一旦矛を収めたというところではないか。
また、石破ではトランプにいいようにやられてしまうだろうと密かに期待していた元首相もいただろうが、日米関税交渉が、予想外にうまくまとまったことで、ここで性急に総裁を交代させても、その後の交渉でしくじれば、石破の方が良かったと批判されるので、ある程度詳細が固まるところまで石破にやらせた方が得策だという考慮も働いたと思われる。
ただし、彼らが石破続投を認めたわけではなく、むしろ、ポスト石破のキングメーカーになるための工作は一気に加速しそうだ。そこで、仮に石破退陣となった場合にどうなるかを考えてみよう。
次の総裁候補としては、高市早苗・前経済安全保障相、小泉進次郎・農林水産相が有力だ。その他には、小林鷹之・元経済安保相、林芳正・官房長官、加藤勝信・財務相、茂木敏充・前幹事長、さらには、麻生派の鈴木俊一・前財務相などの名前も出ている。
読売新聞の世論調査(21〜22日実施)では、自民党中心の政権が継続する場合に次の首相として誰がふさわしいかという質問に対して、高市氏の26%、小泉氏22%、石破首相8%の順だった。石破首相が3位である。
この3人を除くと、河野太郎・前デジタル相が7%だが、あとは、小林氏3%、茂木氏や林氏が2%、加藤氏1%とほぼ泡沫である。岸田前首相も候補として挙げられたが、やはり2%だった。
読売の調査によれば、野党支持層では、高市氏36%、小泉氏16%、石破首相5%の順だったのに対し、自民支持層では小泉氏32%、石破首相15%、高市氏14%。無党派層では、小泉氏23%、高市氏22%、石破首相5%だった。
自民党総裁選は、任期途中の交代の場合、自民党の国会議員と都道府県連代表が投票を行うので、世論調査とは直接リンクしないが、自民支持層の多くが小泉氏を推しているというのは総裁選にも影響するだろう。また、石破首相と高市氏はほぼ並んだが、石破首相の方がわずかにリードというのは、石破首相には好材料ではある。
一方、いつあるかわからない衆議院の解散総選挙を考えると、全体の支持で高市氏が小泉氏を少しリードしているということが重視されるかもしれない。選挙の顔を選ぶという色彩が強くなるからだ。
野党支持層に圧倒的人気の高市早苗
もう一つ注目されるのは、高市氏は野党支持層に圧倒的に強いという点だ。高市氏が自民党の中の右翼的な位置にいることを考えれば、この野党支持層とは、主に参政党や国民民主党の支持層であると考えられる。高市氏が首相になると、支持層が重なるこの両党との連立という話が一気に現実味を帯びることになるだろう。
逆に、自民党支持層は、そうした自民の極端な右傾化を警戒して、その分だけ高市氏への支持が低くなっていると見ることもできる。
こうしたことは、リベラル色の強い野党支持層の動きにも影響を与える。
立憲民主党は、野田佳彦代表の下で戦ったが、比例の得票数で参政と国民民主に抜かれて野党3位に転落した。しかも、野田氏は、この期に及んでも、いまだに政権交代を目指して解散総選挙を目指すと言わない。
参院選の結果、いま選挙となると、参政と国民民主が伸びて、衆議院で立憲が相対的に野党の中での存在感を落とすことがほぼ確実なので、怖気づいているのだ。トランプ米大統領がいつも怖気づいて後退するTACO(Trump always chickens outの略)と揶揄されるが、野田氏についても、前国会で内閣不信任案を提出しなかったことに続き、今もビビっているとして、Noda always chickens outでNACOという言葉が出てきそうだ。
このまま指をくわえているだけだと、自民党で高市総裁が誕生し、消費税減税と外国人規制強化などの公約を掲げて、参政、国民民主と連立を組む恐れがかなり高くなる。超右翼政権誕生だ。立憲中心の政権交代という夢とは正反対の結果となってしまう。
そこまで危機的状況になっているのに動かない野田氏に苛立ちを強める支持者たちの一部は、とりあえず、高市自民総裁を阻止することが最優先だということで、「石破辞めるな」キャンペーンに乗り出した。7月25日夕刻には、官邸前で、「石破やめるな 官邸前激励2025」と銘打ったデモが行われ、1200人(主催者発表)が参加した。高市・参政・国民民主連合の危機が目の前に迫っているということがさらに拡散されれば、これが大ブレークする可能性は十分にある。
参加者の多くは、立憲や共産党支持者や無党派層の人たちのようだが、中には自民支持者もいたようだ。野党支持者が石破コールを官邸前で叫ぶという異常事態。「極右の星・自民高市vs.リベラルの星・自民石破」という構図だ。しかし、いずれにしても、次の衆院選では、立憲や共産の地盤沈下はさらに明確になるだろう。
なぜそんなメチャクチャなことが起きるのか。
政治的リテラシーがない人たちが投票へ
参政の躍進は一時的現象だ。そういう意見も聞くが、残念ながら、今回の参院選では選挙の構造変化が起きた。それは、古谷経衡氏や玉川徹氏などが指摘しているとおり、政治的リテラシーがほとんど、いや、全くないと言ってもよい人たちが、その時々のSNSの情報に感化されて、投票に行くという現象が起きるようになったということだ。衆議院と参議院の違いも理解していない。どうやって投票すればいいのかもわからないという人たちが大量に政治の世界になだれ込んで、選挙結果を大きく変える時代が始まったという。
「投票に行こう」というのが正しい標語だったが、既成政党から見ると、何もわからずネットのフェイク情報に操られて投票するくらいなら、投票には行かないでくれと言いたくなる現象だ。だが、投票は権利だから、止める方法はない。地道に正しい情報とともに難しい公約をわかりやすく伝える努力をするしかないという真面目な意見も聞くが、昨今のタイパ(⇒タイムパフォーマンス。短い時間で最大限の成果を期待する考え方)重視の流れに押され、そうした努力が実を結ぶ可能性はゼロに近い。
今回の選挙では、これまで政治に参加していなかった無関心層が大挙して参政や国民民主に流れ込み、さらに自民支持層の中の右翼層もこれに続いた。その結果、自民の議席は減ったが、国民民主や参政、保守などの極右的ないし人権無視の権威主義的政党の議席が増え、政治全体で見ると、右傾化と権威主義化が進んでいる。
これにより、立憲中心の政権交代の実現は極めて難しくなり、いきなり連立に進むかどうかは分からないが、石破辞任となれば、自民、さらには公明党までがさらに右傾化し、自公国参に、場合によっては日本維新の会も加わった大右翼連合の政治が実現する可能性が高まる。
だが実は、この結果、政策が大きく変わるのではなく、安倍政治の拡大的リフレイン(⇒繰り返し)へと進み、最後は、何らかの形による日本大敗北へと向かっていく。そう言うと、具体的に何が起きるのかが気になるだろうが、その話は、次回以降に書くことにしたい。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。