安倍首相はペルーでのAPEC首脳会議出席などのため、17日午前日本を飛び立ちましたが、途中ニューヨークに立ち寄り、18日未明にもトランプ次期大統領と会談をする予定です。
首相は、「彼とはうまくやっていけそうだ」と周囲に自信満々に語り、公明党の山口代表には「TPPの重要性を伝えたい」と得意気に語ったと伝えられています。
しかし米国事情に詳しいある議員は、「首相とその周辺は ”トランプを甘く見ている” 可能性があり、何も分かっていないトランプにTPPが中国封じ込めのカギなんだということを教えてやらなくては、くらいに思っているのではないか」と懸念しているということです。
トランプ氏は、TPPの本質がグローバル企業など「1%」の人たちには莫大な利益をもたらすものの、国民のほとんど=いわゆる「99%」の人たちの生活を脅かすという本質を理解しているからこそTPPからの離脱を公約したわけです。そこに安倍首相が上述のような論理を振り回してみたところで何の益もないどころか、認識の浅さを見透かされるだけのことです。
また、安倍首相はこれまでは2012年8月の第3次アーミテージ報告書を文字通りテキストにして、TPP参加、原発再稼働、国家機密保全、PKOの活動範囲拡大などを押しすすめてきました。そうしてジャパンハンドラーズの言うがままの路線を走っていれば『優等生!?』になることができたのですが、今度はその便利な指標を失いました。
この機会に、これまでの対米従属路線から目を覚まして決別できるのかがポイントですが、そうしたものは殆ど期待できないまま漂流しだすのではないかとされています。
高野孟氏の「永田町の裏を読む」を紹介します。
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誇大妄想とジャパンハンドラーの凋落が政権漂流に直結
高野孟 永田町の裏を読む 日刊ゲンダイ 2016年11月17日
トランプ勝利の大番狂わせで慌てふためいているのが安倍晋三首相で、押っ取り刀で17日にニューヨークでの安倍・トランプ会談を設定し、その地ならしのために河井克行首相補佐官を派米した。
しかし、米国事情に詳しい某中堅議員は懸念を隠さない。
「こういう時にバタバタするのは危ない。だって、主要国の首脳で安倍さんだけですよ、いきなり飛んで行って、まだ政権移行チームも動きだしていない次期大統領に面会を求めたのは。それだけで足元を見られるのは必然でしょう」
主な理由は2つ。1つには、安倍やその周辺は「トランプを甘く見ている」可能性があることだと彼は言う。
「安倍は最近、ダメなオバマに代わって自由世界をリードして『中国包囲網』をつくり上げるのは自分だという、一種の誇大妄想に陥っている節があって、何も分かっていないトランプにTPPが中国封じ込めのカギなんだということを教えてやらなくては、くらいに思っているのではないか。よく見極めもせずにそれを持ち出すと、『いや、私はアジアインフラ投資銀行(AIIB)への加盟を検討している』とか言われて、安倍が立ちすくむということだってあるかもしれない」
もう1つは、安倍が頼りにし切ってきたリチャード・アーミテージやマイケル・グリーンなど共和党系のジャパンハンドラーたちは、選挙戦中に「トランプは安全保障政策上、危険。我々はクリントンに投票する」と声明してしまっているので、新政権へのパイプとして役に立たない。
彼らは、「中国の脅威」を言い立てて日米安保を強化させ、オスプレイやF35戦闘機など米国製の高額な兵器を山ほど買わせようとしてきた安保利権集団で、「米軍撤退」を言い出しかねないトランプに早々に見切りをつけて、オバマよりはるかにタカ派のクリントンに乗り換えたのだが、当てが外れた。
今になって慌てて、日本に対しては「いや、トランプは実際にはそんな過激なことはしないから安心しろ。我々が暴走を止める」と、自分らの判断ミスを取り繕うようなことを言い、他方、政権移行チームに対しては「日本とのパイプは任せろ」と言い寄って猟官に必死だが、もはや凋落は免れまい。
周知のように、2012年8月の第3次アーミテージ報告書で、TPP参加、原発再稼働、国家機密保全、PKOの活動範囲拡大、ホルムズ海峡掃海、南シナ海監視、武器輸出などの課題を列記され、その通りに政権運営を図ってきたのが安倍だから、彼らの凋落は安倍の漂流に直結するのである。
高野孟 1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。