「サンデー毎日」にジャーナリスト・鈴木哲夫氏による興味深い記事が載りました。
この10月、民進党首脳部が比例で復活した現職、落選中の支部長などを何日かに分けてひそかに党本部に集めて、総選挙に向けて野党の選挙協力はどうあるべきかについて意見を聞いたところ、驚いたことに初日集められた比例復活議員の全員が「共産党と協力すべき」と答え、2日目も同じ意見だったということです。
「連合がポスター貼りや集会への動員をしてくれるのはありがたいが、それが票にどうつながるのかは不明。共産党は各小選挙区に1万5000から2万票を持っているのでそのほうが確実」というのが理由でした。
そういう実態にも関わらず蓮舫氏は11月16日、共産党の志位委員長が「野党による連立政権構想」を提唱していることについて記者団に問われると、「それは、まだ片思いの話じゃないですか」と答えています。驚くべきギャップです。
ある議員は「蓮舫氏は言葉は強くて勇ましいが空気や世論が読めない」と評しています。正にピッタリの評価です。
さらに鈴木氏は民進党の中に起きている注目すべき兆候に触れています。
10月の衆院補選では、連合が共産党と一線を画すということを強制している中でも、安住代表代行は最終盤になって独自に共産・自由・社民に頭を下げ、野党4党そろい踏みの応援演説を実現しました。
前原誠司氏も自由党の小沢一郎代表を訪ねて以来同氏と頻繁に会って、野党4党共闘を話し合っているということです。
また野田幹事長も天敵とされる自由党の小沢氏からの呼びかけによって10月末に会ったのを皮切りに、野党共闘について数回にわたって話し合いを始めました。
これら安住、前原、野田らはいずれもかつて小沢氏が民主党にいた頃には反小沢グループを結成して徹底的に対抗して、最終的に小沢氏を追い出したメンバーでした。
それがこういう風にして、今では野党の前進を目指して会談を重ねるようになったわけです。
特に つい先般も、「小沢だけは許せない」と公言していた狭量の野田までが、小沢氏と野党共闘をテーマにした会談を行うようになったのは、小沢氏のいわゆる懐の深さということにつきます。
前原氏が小沢氏を訪ねたのも、進退窮まった彼を惹き付けるものが小沢氏にあったからでしょう。
小沢氏はかつて、「真の反体制政権」の確立を阻止しようとした「検察」によって「陸山会事件」をデッチ上げられ、小沢氏追い落としに向けた国を挙げての一大キャンペーンによって、政権獲得の目を摘まれました。それでもいわゆるメディア・リテラシーを持っていた人々のなか(インターネット界)では小沢氏は抜群の信頼と人気を集めていました。
当時小沢氏攻撃の急先鋒だったのは産経新聞と赤旗でしたが、その志位委員長が野党共闘を呼び掛けた時に、最初にそれに賛同したのは小沢氏でした。両者はそれ以来良好な関係にあるようです。
そういう点で小沢氏が雅量のある人であるのは間違いなく、現在も陰ながら非常に重要な役目を果たしています。
鈴木哲夫氏の記事を紹介します。
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蓮舫氏 「裸の王様」 このままじゃ「ヒラリー化」?
ジャーナリスト・鈴木哲夫
毎日新聞 2016年11月22日
(サンデー毎日2016年12月4日号)
▼定まらない「野党共闘」ついにベテラン勢が離反
▼悪評の「野田幹事長」起死回生のラストチャンス
米大統領選で初の女性大統領を目指したヒラリー・クリントン氏(69)は敗北したが、日本に目を転じると、野党第1党の蓮舫代表(48)はどうか。党内では「野党共闘なしに首相になれるのか」と疑問の声が噴出。気鋭のジャーナリストが抉る蓮舫民進党の裏側。
10月のことだ。蓮舫新体制になった民進党本部は、総選挙に向けて比例で復活した現職、落選中の支部長などを何日かに分けてひそかに党本部に集め、意見を聞いた。ところが、その場にいた比例復活議員によるとこんなことが起きた。
聞き取りは、比例復活議員については2日間の2回に分けたが、その初日に参加した一人一人に執行部は選挙協力についてどうあるべきかを聞いたところ、驚くことになんと全員が、「共産党と協力すべき」と答えたのだ。2日目も同じ意見だったという。
ただ、民進党の支持団体の連合は共産党との連携には批判的だ。そこで執行部は「共産党と組むと連合の支持がもらえなくなるが、それでもいいのか」と聞くと、全員が「それでもいい」と答えたという。比例復活議員の一人が話す。
「選挙に強い人は分からないかもしれないが、連合の強い愛知県などは除いて、全国ほとんどの地域で連合の票は期待以上に伸びていない。ポスター貼りや集会で動員してくれるのはありがたいが、それが票にどうつながるのか。共産党は各小選挙区に1万5000から2万票を持っている。そのほうが確実です」
確かに、直近の新潟県知事選挙ではそれをはっきり証明した。連合内の電力総連が原発再稼働推進の立場から、自公候補の支持を決めた。そのため、連合に気を使った蓮舫執行部は、再稼働に慎重な野党3党の候補を推さず、自主投票。せっかく積み上げてきた野党4党の共闘を崩したのだ。ところが、野党候補が勝利。しかも、投開票当日のマスコミの出口調査で民進党支持者で自公候補に投票したのは2割にも満たなかった。
「新潟を見ても、連合に気を使って野党4党の連携を壊すなど考えられない」(同議員)というわけだ。
それでも蓮舫氏はこんなことを公言した。11月16日――。共産党の志位和夫委員長が同日会見で述べた「野党による連立政権構想」について、蓮舫氏は訪問先の神奈川県小田原市で記者団に問われると、
「それは、まだ片思いの話じゃないですか」
と述べたのだ。この発言を巡って、民進党幹部の中から「“片思い”とはあまりにも失礼な言葉」との声が上がった。対して、蓮舫氏に近い民進党議員は「共産党と選挙協力をしないという話じゃない。理念が違うから連立政権は作れないという意味だ」と弁解する。
だが、前出・比例復活議員はこう指摘する。
「蓮舫さんは連合への必要以上の気遣いがある。だから、必要以上に共産を突き放す辛辣(しんらつ)な言い方になる」
さらに、どのグループにも属さない中堅議員は、蓮舫執行部と連合の関係についてこう解説した。
「連合執行部の一部は、『共産党と組むなんてあり得ない。ならば自公を応援する。蓮舫代表や野田佳彦幹事長に言い続ける』などと陰で話している。蓮舫さんは連合しか見ていない。足元の民進党の比例復活や落選している仲間の声、世論や選挙情勢が見えてないのです」
いま蓮舫氏は“裸の王様”になっていると言うのだ。こうした中、民進党内では野党共闘へ向けて、執行部に背を向ける個別の動きが水面下で出ている。
「このままでは人心が離れる一方」
まずは、前原誠司元代表。
「前原さんは変わりました。自由党の小沢一郎代表と頻繁に会い、野党4党共闘で話し合っています」(前原グループ議員)と言う。前原氏は、同グループ議員らにこう語っている。
「理念の違う共産党と同じ政党になることはない。しかし、もっとオープンに政策協議をすれば共通点はいくつも出てくるはず。じゃあ、一緒に戦おうということになれば、共産党アレルギーのある民進党支援者も納得してくれる。自分が代表なら、共産党と真摯(しんし)に話し合って接点を必ず見つける。連合ともとことん話す。その点、蓮舫代表が野田幹事長に任せっきりなのはどうか。今後は野党共闘しかない。自民党の対抗軸の政治勢力を作らなければ、(民進党は)終わりだ」
前原氏は、党の社会保障政策に関する調査会会長に就任したが、「そこで自民党と決定的に違う社会保障をまとめ、他の野党とも勉強会など進め共闘をリードすると話しています」(前出・前原グループの議員)。
また執行部ながら、安住淳代表代行も野党共闘を重要視する一人だ。蓮舫氏が他の野党の推薦を蹴った10月の衆院補選では、最終盤になってなんと安住氏が独自に共産・自由・社民に頭を下げて、野党4党そろい踏みの応援演説を実現。安住氏自らが壇上に立った。
こうした党内の動きに触発され軌道修正を図ったのか、10月末から幹事長の野田氏が天敵とされる自由党の小沢氏と数回にわたって会い、野党共闘について話し合いを始めた。野田氏は首相時代、「消費税などを巡って小沢氏らが離党したため、政権から転がり落ちた」と小沢氏を“最大の戦犯”としてきた。
「蓮舫執行部の方向が定まらず、直近の選挙で失敗した批判をかわすため野党協力のポーズをとっているだけ」(他の野党議員)とのうがった見方もあるが、小沢氏自身は「野田さんは本気だ」と周囲に話している。
野田氏の動きが本気ならば、起死回生のチャンスだろう。野党共闘を推す市民連合幹部は、「共産党や小沢さんと最も対極にいる野田さんが、『覚悟を決めた!変わる』と本気で舵(かじ)を切れば、逆にインパクトがある。蓮舫執行部も求心力を持つだろう」と“本気度”に期待する。
党内のガバナンスが崩れつつあることに、さすがの蓮舫氏は焦りを見せている。
「議員のパーティーには、呼ばれてもいないのに顔を出している」(2回生議員)
野党第1党で女性初の首相候補と期待される蓮舫氏。だが、「選挙力」は定まらず、このままでは人心は離れる一方だろう。
前出の比例復活議員は、「言葉は強くて勇ましいが空気や世論が読めない。初の女性トップを目指しながら敗北したヒラリー氏になってほしくない」
と、したたかな転換を期待するのだが……。