東洋経済オンラインが、スタンフォード大学のダニエル・スナイダー氏の「トランプ大統領の ”トンデモ発言” には信念が込められている(要旨)」とする記事を載せました。
その中で、今度の選挙演説でトランプが述べた「日本は米軍の駐留費を負担していない」などに関しては、彼は約30年前に既にニーヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、ボストン・グローブ紙に、「米国が日本の防衛のためにカネを出しているすきに、意図的に安くされた円を基盤に日本は強い経済を築いた」と日本を非難する全面広告を出し、その翌年にはテレビ番組の司会者として、「われわれは、日本に何でもかんでも安売りさせている。こんなのは自由貿易じゃない」と述べたこと、そして日本人がニューヨークの不動産を買いあさっていた1990年には、プレイボーイ誌のインタビューで「日本は信用できない、二枚舌の同盟国である」、「日本人は最も優秀な科学者にクルマやビデオ機器を作らせている。米国は最も優秀な科学者にミサイルを作らせて日本を守らせている。なぜわれわれは支払った費用の補償を受けていないんだ? 日本人は米国を食い物にしている」と非難したことなどをあげて、日本への不信の念は一貫していると述べています。
日本には、彼は安保条約の成立の過程について無知であるとか、米軍駐留経費として日本が年間約7000億円を負担していることを知らないのでは・・・というような論調もありますが、トランプは「歴史は歴史、現実は現実」と考えているのでしょう。
TPPについても、トランプは大富豪ではあってもグローバル企業家ではなく、また彼らに対してその恩義を感じる立場にもないので、オバマやヒラリーのように推進する気がないどころか国民・労働者と同じ立場でその害悪を実感しています。
それだけではなく以前に結ばれた北米自由貿易協定(NAFTA)を利用すべく、日本企業がメキシコに工場を設立して米国に自動車などを輸出することになったとして、NAFTAの廃棄を謳っているということです。
この17日に安倍首相は早速トランプの元に「伺う」ということです。まだオバマ大統領の任期は3ヶ月もあるというのにです。一体何を話しに行くのかは分かりませんが、世界はトランプの元に早速「馳せ参じる」と見ることでしょう。
そこでもしもTPPの批准を手柄顔にしたり、TPPの必要性を説くことなどを考えているとすればそれは全くのピント外れです。トランプは本来は有能でタフなビジネスマンなので、次期大統領として言下に拒否するようなことはしないでそれなりの受け答えはするでしょうが、心中では大いに軽蔑されることでしょう。
トランプの考え方の一端に触れることができる記事です。
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日本人は、「トランプ大統領」を甘くみている
過去の「トンデモ発言」には信念がある
ダニエル・スナイダー 東洋経済オンライン 2016年11月11日
スタンフォード大学APARC研究副主幹
ドナルド・トランプ氏が米大統領選で衝撃的な勝利をはたしてから3日。安倍晋三首相がトランプ氏と電話会談し、米ニューヨークで現地時間17日に会談することが決まった。「緊急会談」の目的は明らかにされていないうえ、政権移行の準備も本格化していない中での会談がはたして良いアイデアかどうかもわからない。ただ、ひとつだけハッキリしていることがある。今回の会談を通じて安倍首相が、米国でいったい何が起きているのか、そしてこれが日米関係にどう影響するのかを知りたがっているということだ。
トランプ氏の勝利は、民主党、エリート層、さらには共和党員の多くが大敗を喫したというような単純な話ではない。それよりも衝撃的なのは、同氏の当選により、冷戦以降二大政党共通の外交政策の柱となってきた、介入による国際協調主義が明確に否定されたということだ。
■「米国は日本にやられてばかりだ」
2015年6月16日にトランプ・タワーで行った立候補表明の冒頭から、トランプ氏はグローバルな自由貿易システムや、欧州、アジアでの同盟体制の堅持、独裁政治への反対といった国際協調主義の根幹部分のいくつかをやり玉に挙げていた。
インタビューや演説、討論会、さらにはツイートに至るまで、トランプは繰り返し自らの世界観、すなわち孤立主義へと至るナショナリズムを明確に表明していた。排他主義や人種差別ともとれる言動の対象は、メキシコ人にかぎらず、イスラム教徒、アジア系、最終的にはすべての「外国人」に及んだ。11月8日には相当数の米国人がこのイデオロギーを受け入れ、トランプ氏に票を投じたのである。
さて、「トランプ大統領誕生」は日本にとって、さらにはすべてのアジア諸国にとってどういうことを意味するのだろうか。それを知るにはまず、トランプ氏の立候補表明演説を思い出してもらいたい。
「わが国は深刻な事態に陥っています。米国はもはや負けてばかりです。以前は勝っていましたが、今は違います。米国が最後に勝ったのはいつのことでしょうか――強いて言えば、中国と貿易協定を結んだときでしょうか。米国は中国のせいで破綻しています。私はつねに中国をたたいています。ずっとです。米国が日本に勝ったためしがあるでしょうか? 日本は何百万台単位で(米国に)自動車を送り込んで来ますが、それに対して米国はどう対処しているでしょうか。東京をシボレーが走っているのを最後に見かけたのはいつでしょうか。皆さん、シボレーは消えたのです。米国は日本にやられてばかりなのです」
今回の選挙戦中、トランプ氏は、環太平洋経済連携協定(TPP)を中止し、協定を破棄しないとすれば、再交渉を行うと誓い、北米自由貿易協定(NAFTA)も同様に破棄すると宣言した。NAFTAのせいで日本企業がメキシコに工場を設立し、米国に輸出するに至ったと言うのが彼の言い分だ。
その数カ月後、英エコノミスト誌とのインタビューで、トランプ氏は日本についての見解を詳しく述べ、米国が軍事同盟を結ぶ必要性に疑問を呈し、貿易不均衡と「雇用流出」について非難。なぜ米国が中国から日本を守っているのか理解に苦しむとして、こう述べている。
「米国が日本と結んでいる条約は興味深い。なぜなら米国がどこからか攻撃されても、日本には米国を助ける義務はないのだから。それでいて、もし日本がどこからか攻撃されたら、米国は日本を守らなければいけない。そんな取引を米国はしているのだ」
また、今年3月には、トランプ氏はニューヨーク・タイムズ紙の記者に「もし日本と韓国がさらなる自衛措置を行わなければならない事態が生じたとき、中国と北朝鮮に対処するために日韓が核の開発をしたとしたら反対するか」と質問されている。このときの同氏は、「核兵器拡散に反対」という長年に渡る米国の立場を捨て去ることにほとんど無頓着で、米国の状況次第では、「日韓の核兵器保有はあり得る」と答えている。
■外交政策関係者はすでにトランプシフト
こう見ていくと、トランプ氏が米国と北東アジアの間で結ばれている同盟の歴史的な成り立ちについて、ほぼ無知であることがよくわかる。米メデイアでも指摘されてきたように、日韓が自国に拠点を置く米軍の支援に多大な貢献をしているのを、トランプ氏は無視している。さらに深刻なのは、東アジア全体の平和の維持と安定のために、こういった軍事力が果たす戦略的役割を、どうやら理解していないらしいということだ。
トランプ氏のこうした見解は、日本ではすでによく知られており、選挙中には米国の外交関係者らが、日本やアジア諸国の指導者・関係者に対して、「(トランプ氏やヒラリー・クリントン氏の言動は)選挙活動のために誇張されているだけ」と伝え、安心させる努力をしてきた。
彼らはもともと、クリントン氏が当選することを前提に動いていたが、選挙結果が判明した数時間後には、トランプ氏の「後援」にまわり、同盟国や友好国に対して「トランプはああ言っているが、結局は戦後の国際主義に戻る」と伝えると同時に、進行中の外交政策を共和党ベテラン勢に引き継ぐ作業を始めた。たとえば、知日派で知られるリチャード・アーミテージ氏は選挙中トランプ氏を批判していたが、すでに接触可能なトランプ陣営の高官たちに歩み寄ろうとしているようだ。
これは非常に堅実なアイデアであるうえ、トランプ氏側がこれを受け入れる可能性もある。同氏の側近には、外交や安全保障、そして国際経済政策を担える人材も少なからずいる。が、多くの役職を埋めるには、共和党の保守本流の人材(その多くは独断的な米国による介入など、いまだに古典的な外交政策の原則を支持している)を使わなければならない。
一方で、トランプ氏が外交政策において、共和党保守本流に「外注」を頼むことはないだろうという、理由もいくつかある。第一に、トランプ氏はこうした高官たちから何も恩恵を受けていない。同氏は彼らから資金援助を受けていないし、選挙スタッフにも共和党の中核派は含まれていない。同氏は、自ら共和党の支持基盤やイデオロギーを変えることで同党のリーダーになったのである。
もうひとつの理由は、少なくとも1980年代後半の日米貿易摩擦の時代から一貫して、トランプ氏は上記に述べたような見解を示してきたことだ。つまり、彼が言っていることは、選挙対策でペンシルベニア州の元製鉄所工員たちにアピールするために作られたスローガンではない。これは、トランプ氏の強固な信念であり、それを放棄する気配は今のところ見られない。
■「日本人に食い物にされている」
トランプ氏のゴーストライターが書いた『The Art of the Deal』(1987年)では同氏がどのようにビジネスを行うのかが説明されているが、その中で同氏は日本人とのビジネスがどれだけ難しかったか不平をもらしている。その年、同氏はニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、ボストン・グローブ紙に、日本の防衛のために米国がカネを出しているすきに、意図的に安くされた円を基盤に日本が強い経済を築いたと、日本人を非難する全面広告を出した。
さらに翌年、テレビ番組の司会者として彼はこう言った。「われわれは、日本を祖国に入れて、何でもかんでも投げ売りさせている。こんなのは自由貿易じゃない。もし日本に行って何か売ろうとしているなら、そんなことはやめちまえ」。
さらに、日本人がニューヨークの不動産を買いあさっていた1990年に行われたプレイボーイ誌のインタビューでは、トランプ氏は日本を信用ができない、二枚舌の同盟国であると辛らつな表現を使って非難した。
「日本人は最も優秀な科学者にクルマやビデオ機器を作らせている。そしてわれわれは最も優秀な科学者にミサイルを作らせて日本を守らせている。なぜわれわれは、支払った費用の補償を受けていないんだ? 日本人は米国を2重に食い物にしている。まず米国人に消費財を売ってカネを得て、そのカネを使ってマンハッタンを丸ごと買おうとしている。どちらにしても、われわれの負けだ」。
彼の最近の言動から見ると、トランプ氏の考えや日本への見解は1980年代からまったく変わっていない。変わったのは、中国や韓国、ベトナムに対しても同様の見解を持つようになったことくらいだ。
ここで重要なのは、実際にトランプ氏がこうした見解を維持したまま大統領に就任し、この見解に基づいた政策を実行するかどうかである。まず、貿易については、トランプ氏がTPPの批准を支持するとは考えがたい。続けるとすれば、振り出しに戻して交渉を再び行うことを求めるだろうが、最悪の場合はTPP自体を単純に拒否するだろう。
さらに最悪な場合は、NAFTAの撤回もありうる。そうなった場合、日本政府は現実を受け入れなくてはならない。メキシコやカナダに工場を持っている企業も、大きな戦略転換を迫られるかもしれない。
■中国は「プーチン化」する?
より予測が困難なのは、日本と米国の安保体制だ。米首都ワシントンの当局者たちは間違いなくトランプ氏に、日米同盟が、台頭する中国を押さえるために必要不可欠であることを説明するだろう。すでに、トランプ政権による準孤立主義を利用して、中国がより積極的な行動に出るのではないか、との憶測が広がっている。米フォーリン・ポリシー誌のジェームス・パルマー記者は、「中国は、トランプの中国に対する無知につけ込みながら、プーチン風にトランプを褒めそやすかもしれない」と書いている。
これによって、アジアのいくつかの国は、時流に乗って中国側につくかもしれない。また、日本、韓国、台湾のような国が、米国に見捨てられる恐れに駆り立てられ、米国の抑止力による保証の代わりとして、自ら核兵器の開発を目論むこともまったくないとは言い切れない。
一方、強烈な国家主義のレトリックに身を包んだ人物がトランプ政権にいて中国を挑発しようとした場合、日米同盟の価値が再び明白になるだろう。そもそも、トランプ氏自身、中国と南シナ海問題でもめることは望んでいないだろうし、ましてや東シナ海の防衛力増強など考えていないはずだ。中国にしたって、中国製品に巨額の関税を課し、米国企業の工場を中国外に移転すると話しているトランプ氏を刺激したくないはずだ。
当選以降、トランプ氏の「軟化」が取りざたされているが、同氏が早々に自らの考えを捨てたと考えるのは早すぎるだろう。