東京新聞が24日に行われた衆院憲法審査会で、自民党の改憲草案(2012年版)の「表現の自由」に関して、中谷元氏が制約を付すことを当然としたことを問題視しました。
自民党改憲草案の第21条は下記のとおりです。
第21条(表現の自由)
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。
(註.現行憲法には2の項はありません)
と、「公益及び公の秩序を害」さない範囲で認めるとしていることについて、自民党の中谷氏は「制限を厳しく限定している」からと理解を求めたということです。
しかし、「公益及び公の秩序」は具体的には法律や政府の見解で定まる(=政権側が決める)ものなので「厳しく限定」などされていません。
しかし、「公益及び公の秩序」は具体的には法律や政府の見解で定まる(=政権側が決める)ものなので「厳しく限定」などされていません。
現実に旧大日本帝国憲法でも
「第29条 日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス」 とされていましたが、実際には「治安維持法」などによって「言論・集会・結社の自由」は徹底的に弾圧されました。
自民党の改憲草案2012年版は2005年版を極右化したもので、先に2012年版は封印して歴史文書化する旨の表明がありましたが、それは表面上のことであって考え方の中では生きていることがこれで証明されました。(⇒2005年版では、21条は現行憲法通りで上記の第2項はありませんでした)
東京新聞の社説も併せて紹介します。
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表現の自由に制約「当然」 自民、改憲草案撤回せず
東京新聞 2016年11月25日
衆院憲法審査会は二十四日、憲法で国家権力を縛る「立憲主義」などをテーマに議論した。自民党の中谷元氏(与党筆頭幹事)は、二一条の表現の自由に制約を加えている同党の改憲草案について「極めて当然のこと」と、一定の制約が必要との考えを示した。草案の撤回にも応じなかった。(清水俊介)
現行憲法の二一条は集会、結社、言論の自由を規定。草案は「公益及び公の秩序を害すること」を目的とした活動は認められないと付け加えた。自民党は憲法審の再開に当たり草案を事実上封印すると表明したが、撤回はしていない。
この日の審議で民進党の奥野総一郎氏は、二一条に触れ「精神の自由の尊重は憲法の基本原理。修正を加えることは改正限界を超える」と問題視した。これに対して中谷氏は「オウム真理教に破壊活動防止法が適用できなかった反省を踏まえた」と説明。「公益及び公の秩序を害すること」という表現が「制限を厳しく限定している」として理解を求めた。ただ、何が「公益及び公の秩序」に当たるかは曖昧との指摘がある。
現行憲法は国民を権力から守るため、国会議員ら権力側だけに憲法の尊重擁護義務を課しているが、自民党の草案は国民にも尊重義務を課す内容。中谷氏は、これについても「国民も憲法を尊重すべきことは当然」と指摘した。
民進などは、草案は立憲主義に反するのに撤回されていないと批判したが、中谷氏は「立憲主義を何ら否定するものではない」と説明。自民党の平沢勝栄氏は草案の九条改憲に関連し、自衛隊の存在を明記することが立憲主義にかなうと述べた。
(現行憲法) 第21条
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
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(自民改憲草案) 第21条(表現の自由)
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。
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<社説>憲法審査会 改憲を前提とせずに
東京新聞 2016年11月25日
憲法をめぐり、国権の最高機関である国会で議論を深める意義は理解するが、必要のない改憲にまで踏み込んではならない。まずは改憲を前提とせず、全国民の代表として議論を尽くすべきだ。
衆院できのう憲法審査会が開かれた。約一年五カ月ぶりに議論を再開した十七日に続き、この臨時国会二回目である。審査会は参院でも十六日に開かれている。
きのうの衆院の審査会では立憲主義、憲法改正の限界、違憲立法審査の在り方について、各党が自由に意見を述べ合った。
民進党の枝野幸男憲法調査会長は、自民党が野党時代の二〇一二年に作成した改憲草案について「立憲主義に反し、憲法を統治の道具であるかのごとく考えている。立憲主義を踏まえたものと(自民党が)認識しているのなら建設的な議論は困難だ」と批判。
これに対し、自民党の中谷元・前防衛相は「人権を保障するために権力を制限する立憲主義の考え方を何ら否定するものではない」と反論した。
自民党の改憲草案は天皇元首化や国防軍創設など国民主権、平和主義の観点から問題が多く、全国民に憲法尊重義務を課すなど立憲主義に反する内容が盛り込まれている。家族の協力義務を定めるなど復古的で時代にもそぐわない。
自民党は憲法審査会の再開に当たり、改憲草案をそのまま提案することは考えていないとして事実上封印したが、草案の考え自体を放棄したか否か明確ではない。
憲法は国の最高法規である。改正は全国民の代表である国会議員の幅広い賛同が前提だ。少なくとも、野党第一党の賛同を得られないような改憲案は、たとえ衆参両院で三分の二以上の賛成が得られるとしても、発議すべきでない。
改憲草案の考え方に、民進党が賛同していない以上、草案自体が憲法論議を深める障害になっていることは否定できまい。建設的な議論のためにも、自民党は撤回するのが筋ではないか。
今国会における衆参三回にわたる憲法審査会での議論で明らかになったのは、改憲に前のめりな自民党の姿勢である。
現行憲法に著しい不備があり、国民の間から改正を求める意見が澎湃(ほうはい)と湧き上がっているのならまだしも、そうした状況でないにもかかわらず、改憲を強引に推し進めるのなら「改憲ありき」との誹(そし)りは免れまい。
「改憲のための改憲」には反対だ。何度でも強調しておきたい。