PKO駆けつけ警護を閣議決定
15日に南スーダンPKO(国連平和維持活動)に派兵される第11次自衛隊部隊に対し、「駆け付け警護」の新任務を付与することを閣議決定しました。宿営地共同防護の新任務も付与されるということです。
しかし、現地の状況はPKO参加5原則を満たしているものなのでしょうか。
国連のディエン事務総長特別顧問は11日、5日間現地を視察したのちジュバで記者会見し、「政治的な争いとして始まったものが、完全な民族紛争になりうるものへと変質している」、「行き詰まった和平合意の履行や現在の人道危機、経済の停滞、武器の拡散など、暴力が激化するすべての要素が存在している」と、極めて危険な状況にあると訴えました。
また国連は1日に、現地のPKO部隊が7月の事態への対処に「失敗」したとする報告書を発表しています。
それに対して安倍首相は15日の参院特別委で自民党の佐藤正久氏の質問に答えて、「南スーダンの情勢に関する国連の調査報告書内に潘基文事務総長の所見として、現地情勢について「混沌」との記述があったことについて国連に真意を照会したところ、国連から「安全保障理事会が行動を取らなければ深刻な状況になるという趣旨で、現在の状況ではない」と回答したと述べました。
いかにも「現時点では問題はない」ことを無理強いした感じに受け取れます。
政府は、反主流派のマシャール元第1副大統領が南スーダンに不在であることを以て、「系統だった組織性を有していない(戦闘ではない)」とし、同派が「支配を確立した領域はない」ことも挙げて、PKO5原則に背反していないとしていますが、南スーダンにいるのは戦車や機関砲を持った強い実力組織で、恐るべき戦力を持っているのは事実です。
第11次自衛隊のPKO活動実施計画書には、停戦合意などPKO参加5原則が満たされている場合でも、「安全を確保しつつ有意義な活動を実施することが困難」な場合には陸自部隊を撤収することを明記し、活動地域も首都ジュバ周辺に縮小しました(医官も3人から4人に増員。但し手術要員はゼロ)。
このことは政府が現地の危険性を十分に認識していることの現れです。
しんぶん赤旗は、安全性に根拠はないので直ちに自衛隊は撤退すべきであるという主張を掲げました。
日刊ゲンダイの記事も併せて紹介します。
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(主張) 南スーダン派兵 国民欺く説明で新任務許せぬ
しんぶん赤旗 2016年11月16日
安倍晋三政権は15日、南スーダンPKO(国連平和維持活動)に20日から派兵を始める自衛隊部隊(第11次隊)に対し、戦争法(安保法制)に基づく「駆け付け警護」の新任務を付与することを閣議決定しました。政府は、「駆け付け警護」について、南スーダンに滞在する日本人を守るためとか、他国軍の兵士を対象にすることは想定されないなどと、その「必要性」や「安全性」を強調しています。しかし、南スーダンの情勢や政府の説明に照らしても、「駆け付け警護」によって自衛隊員が「殺し、殺される」事態に巻き込まれる危険は明らかです。
「安全性」に根拠なく
政府は、南スーダンに派兵する自衛隊部隊に「駆け付け警護」の新任務を付与する「必要性」について、首都ジュバには現在、約20人の日本人が滞在しており、「邦人の安全に資する」と強調しています。あたかも警護対象は日本人のみだと思わせる説明です。
しかし、戦争法の一環である改定PKO法は、「駆け付け警護」について、「国連平和維持活動」や「人道的な国際救援活動」などを行う「活動関係者」を保護することと明記し、そのための武器の使用を認めています。PKO部隊の他国軍兵士やNGO関係者などが襲撃された際、自衛隊が武器を持って現場に駆け付け、救助するというのが「駆け付け警護」のそもそもの任務であり、警護対象は日本人だけに限られません。
実際、安倍政権が閣議決定した「実施計画」では、南スーダンPKOでの自衛隊の任務に「駆け付け警護」を追加しただけで、日本人のみを警護するなどという限定はどこにも書かれていません。
政府は、PKO部隊(国連南スーダン派遣団=UNMISS)の他国軍兵士に対し、自衛隊が「駆け付け警護」を行うことは「想定されない」と説明し、「安全性」を強調しています。他国軍兵士を保護するのは、基本的に南スーダン政府軍とUNMISSの歩兵部隊だからだというのが理由です。
しかし、「実施計画」には自衛隊の「駆け付け警護」の対象に他国軍兵士を含まないという記述は一切ありません。しかも、南スーダン政府軍は、UNMISS兵士への襲撃など敵対行為が多数報告されています。UNMISSの歩兵部隊だけで対応できない場面も当然想定され、自衛隊に「駆け付け警護」が要請される可能性は十分あり得ます。ごまかしの説明で新任務を付与することは決して許されません。
南スーダンでは、内戦状態の悪化、UNMISS部隊への事実上の先制攻撃の権限付与によって、停戦合意や中立性など自衛隊の「PKO参加5原則」は既に崩壊しています。
自衛隊は直ちに撤退を
自衛隊が駐留するジュバでは、7月に大統領派(政府軍)と副大統領(当時)派武装勢力との大規模な戦闘が発生し、数百人が死亡しました。政府は停戦合意の崩壊などをかたくなに認めようとしませんが、「実施計画」では自衛隊が「有意義な活動を実施することが困難と認められる場合」の「撤収」を初めて規定し、内戦状態の深刻化を事実上認めています。
「駆け付け警護」の新任務付与は論外であり、自衛隊は南スーダンから直ちに撤退すべきです。
国連文書が暗示 自衛隊と南スーダン政府軍“交戦”の現実味
日刊ゲンダイ 2016年11月16日
15日、南スーダンPKOの陸上自衛隊への新任務「駆け付け警護」が閣議決定された。
政府は南スーダンの現状を「落ち着いている」と繰り返している。13日のNHK日曜討論で稲田防衛相は、「反政府勢力のマシャール前副大統領は海外にいて、現在、南スーダン国内では、国家組織に準じたような系統だった反政府勢力は存在しない」と発言していたが、とんでもない。今や南スーダンでは、政府軍の方が国連側の“敵”みたいなものなのだ。
「UNMISS(国連南スーダン派遣団)についての国連文書」(以下「国連文書」)を読むと、政府軍とUNMISSの関係悪化がよく分かる。
「国連文書」にはUNMISSへの妨害行為(Violation)が報告されている。派遣団の財産押収、業務への介入などの他、逮捕、拘留、襲撃、脅迫、盗みもあり、昨年4月から最新号の今年6月までの5回分を集計すると297件。そのうち軍や警察など南スーダン政府関係者によるものは実に268件と9割を占める。反政府勢力はたった14件で、今年2月以降は1件もない。
他にも「国連文書」では、濡れ衣で拘束されている国連スタッフに面会が許されないなど、南スーダン政府へのグチがつづられている。
■敵味方不明な武装勢力だらけ
軍事ジャーナリストの世良光弘氏が言う。
「南スーダン政府の中には、UNMISSが反政府勢力を支援しているとみている人もいて、疑心暗鬼です。妨害行為はその表れ。7月にジュバで起きた“大規模衝突”の際、政府軍とUNMISSのPKO部隊との間で、一時交戦があったと南スーダンのルエス情報相が認めています」
一方、反政府勢力も大将は海外でも、戦車や機関砲を持った強い実力組織は残っている。つまり、南スーダンには敵か味方か不明な武装勢力だらけで、自衛隊が救援要請を受けて駆け付けても、どの勢力から襲われているか行ってみないと分からない状況なのだ。すでに中国やケニアなどは救援要請をネグレクトするケースが出てきている。
「司令官を解任されたケニアは、国連の問題すり替えだと怒って撤退を決めました。そういう中、駆け付け警護の新任務を付与された自衛隊が出発するのです。現地で活動を始めるのは12月。救援要請をいきなりネグレクトはできないでしょう。市民を襲っていたのが政府軍なら、南スーダンとの交戦になります」(世良光弘氏)
自衛隊が政府軍と交戦になり、犠牲者でも出たら、稲田大臣はどう“言い訳”するのか。