先に民進党の玉木雄一郎議員がTPP関連法案について政府に質問を行いました(TV中継あり)。
この度その概要を玉木氏がブログに発表しました。
それを読むと同氏が綿密に調べた上で政府に質問をしているのに対して、政府は殆ど何の知識も持たないままで、実にいい加減な答弁をしていることがよく分かります。その極めつけはまたしても安倍首相で、指名もされていないのにしゃしゃり出てきて、何の具体的根拠は示さないまま、「安全でないものが食卓に届くことは絶対にない」と断言したということです。これほどTPPを理解していない首相というのも珍しいです。
それはともかく、玉木氏は安倍総理がTPPの委員会採決を強行したのはTPPの真実が明らかになることを避けたかったからではないかと述べています。その意味が良く分かるブログです。
(図表の説明部分は省略しましたので、原文を参照ください)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
安倍総理がTPPの強行採決を急いだもう一つの理由
玉木雄一郎ブログ ハフィントンポスト 2016年11月07日
■真実を隠すためのTPP強行採決
TPP関連法案の採決が強行されました。
安倍総理は「結党以来、強行採決など考えたことがない」と大見得を切りましたが、結局は、絵にかいたような強行採決となりました。
議会の運営に責任を持つ自民党の佐藤勉・議院運営委員長さえ、
「相談は全くなかった。与党の議運筆頭理事にもなかった。驚きを隠せない」
と述べています。憲政史上に汚点を残す強行採決だと言えます。
ではなぜ、こんな無茶苦茶な強行採決を行ったのでしょうか。
よく言われるのは、TPPに否定的な新しい大統領が選ばれる前に衆議院を通過させておけば、米国議会が批准手続きを進める「後押し」になるというもの。
また、安倍政権が進めようとしている日露交渉に対するアメリカ側の不満を和らげるための代償だと指摘する声もあります。
ただ私は、国会審議を通じて、国民に知られたくない「TPPの真実」が次第に明らかになってきたことも理由の一つだと考えます。
特に、「食の安全」に関して、TPPの問題点が見えてきました。
■ホルモン剤肉、「二重基準」で国民の安全を守れるか
私も2回にわたって、肥育ホルモンや塩酸ラクトパミンなどの飼料添加物を使った輸入牛肉や輸入豚肉の安全性の問題を国会で取り上げました。
そもそも、日本は、肥育ホルモンや飼料添加物の国内での使用は認めていないのに、それらを使用した牛肉や豚肉の輸入は認める「ダブルスタンダード(二重基準)」の珍しい国です。
EUなどでは、使用も輸入も禁止されています。
(図表省略)
そして、肥育ホルモンを使用した輸入牛肉の消費と、乳がんや卵巣がんなどホルモン依存型ガンとの関係を指摘する研究もあります。
今後、TPPで牛肉・豚肉の輸入が増えるのであれば、こうした健康への悪影響の可能性も考えた万全の対策を講じなくてはなりません。
そこで、消費者及び食品安全を担当する松本大臣に、EUと同様、肥育ホルモンを使用した牛肉等の輸入を禁止するか、少なくとも、使用を国民に知らせる食品表示規制を新たに導入すべきではないかと質問しました。
これに対して松本大臣は、肥育ホルモン等は、一定期間で体外に排出されてしまうので検出が困難であり、検出できないものは規制できないと答弁しました。
しかし、検出できないから規制しないというのは、ある種の敗北宣言です。
例えば、EUはアメリカと合意を結んで、米国農務省(USDA)が農家の生産方法や手続きを認証し、肥育ホルモンを使っていないとの認証を受けた牛肉等の輸入だけを認めるプログラム(NHTC Program)を作っています。
EUにできることは、日本もできるはずです。
石原大臣は、科学的な立証ができればEUのような規制も可能だと答弁しました。
しかし、TPPが発効すれば、新たな規制を設けることは事実上できなくなる可能性が高いのです。
その理由は後で詳しく述べます。
ちなみに、TPP大筋合意で、日本からオーストラリアに輸出される牛肉の関税は撤廃されることになりましたが、現時点で日本からオーストラリア向けの牛肉の輸出見込みはゼロです。
なぜなら、オーストラリアは厳しい動植物検疫を残しているからです。
各国とも、貿易自由化を進める一方で、自国民の健康と命を守るため、厳しい動植物検疫制度は維持しています。
甘いのは日本だけなのです。
さらに、現在の水際でのチェック体制も心もとない状況です。
塩崎厚労大臣に対して、肥育ホルモンを使った肉がどのくらい輸入されていて、そのうちどれくらいを検査しているのか、検査率はどのくらいかと質問したら、なんと把握していないとの答え。
こんなことで効果的な検査ができるはずもありません。
検査すべき対象数量や件数を把握しないで、統計的に有意な検査サンプル数を割り出すことはできないはずです。
TPPによる輸入拡大を云々する前に、現在の検査体制の見直しや拡充を急ぐべきです。
■遺伝子組み換えサケ「フランケン・フィッシュ」
また、肉に加えて、遺伝子を組み換えられた魚についても質問しました。
米国食品医薬品局(FDA)は昨年11月、深海魚の遺伝子を組み込み、2倍のスピードで成長するサケの消費を認可しました。
植物以外で世界初の認可で、一部では「フランケン・フィッシュ」と呼ばれているようです。
しかも、遺伝子組み換えであるとの表示義務もかかりません。
(図表省略)
この遺伝子組み換えサケは、アメリカでも反対の声が強く、パブリックコメントで200万人以上の人が反対の声を上げ、ウォルマートを除く8000店以上のスーパーマーケットが販売を拒否する事態になっているそうです。
今後、こうした魚やそれを使った加工食品が日本にも入ってくる可能性も否定できません。
そこで、TPPが発効した場合、こうした遺伝子を組み換えた魚の輸入を日本は禁止することができるのか質問しました。
これに対して、石原大臣は「(危険性について)科学的に立証できれば規制は可能である」と答弁しました。しかし、この認識は甘いと言わざるを得ません。
■「予防原則」による食の安全規制がTPPで困難に
なぜなら、「科学的立証」をしろと言っても、輸入国側や消費者側が、遺伝子組み換えを行ったサケなどの危険性を科学的に証明することは極めて難しいからです。
実は、この科学的立証の問題に関して、世界貿易機関(WTO)の衛生植物検疫措置(SPS)協定では「予防原則」という考えが一定の条件の下で認められています。
「科学的根拠が不十分な場合でも、...衛生植物検疫措置を採用することができる」
(WTO SPS協定 第5条第7項)
(図表省略)
しかし、TPP協定のSPS章には、WTOのような「科学的根拠が不十分な場合」の規定はありません。
そればかりか、TPPには、輸入国側が規制に必要な科学的根拠を「確保(ensure)」すると規定されており(第7・9条第2項)、WTOに比べて、非常に厳格な科学的立証を輸入国側に求める形となっています。
つまり、TPPの下では、十分な科学的根拠がない段階で、輸入国側が「予防原則」に基づく規制をかけることが難しい体系となっているのです。
それは、遺伝子組み換え食品の表示義務規制についても同じです。
そこで、TPPが発効すると、「予防原則」に基づいて(遺伝子組み換えサケであるという)表示義務を課すことができなくなるのではないか、松本大臣に改めて確認しました。
ところが、松本大臣の答弁は全く要領を得ず、たまりかねた安倍総理が、指名もされていないのに飛び出してきて、「安全でないものが食卓に届くことは絶対にない」と断言する始末。
ただ断言するだけで、その具体的根拠は示されませんでした。
安倍総理や石原大臣の答弁に共通しているのは、TPP協定におけるSPS章や貿易に対する技術的障壁(TBT)章は、WTOと「同様」なので、我が国の現行規制の変更はないというものです。
しかし、TPPとWTOは「同様」であっても、大事な部分で「同じ」ではないのです。
■過去だけでなく将来も「秘密」のTPP
一つ例をあげると、TPP協定のSPS章第7・17条は、自国の貿易に悪影響を及ぼすおそれがあるときは、輸出国は「技術的な協議(CTC)」を要請できるとされており、その協議内容はすべて秘密にすることになっています(同条第6項)。
要は、日本の規制が自国の輸出にとって不利だと思えば、輸出国がいくらでも文句を言う権利が確保されているのです。しかも、秘密裏に。
2016-11-06-1478421355-3708740-41.jpg
そもそも、なぜ、食の安全に関する協議をすべて秘密にする必要があるのでしょうか。
このような規定はWTOのSPS協定にはありません。
TPPの徹底した秘密性がここにも表れています。
過去の交渉過程はすべて「黒塗り」でしたが、TPPが発効した将来にもおいても、国民の健康や命に関わる問題が、国民の知らないところで決められ、そのやりとりや根拠が永遠に秘密にされる可能性があるのです。
健康や命などお金にかえられない価値を守ることこそが、国家の果たすべき重要な役割です。
しかし、TPPは、こうした国家の役割・機能を縮小させる性格を有しています。その意味で、TPPは単なる自由貿易のルールではないのです。
こうした問題点がようやく明らかになってきた段階での強行採決。
強行採決によって、冷静に議論を深める機会が奪われてしまいました。
極めて遺憾であり、強行採決を主導したとされる官邸とそれを実行した自民党に強く抗議します。
参議院での議論の深まりを期待しますが、良識ある自民党議員の皆さんにもお願いしたいと思います。
我が国の国益を守るために、もう少しキチンと議論しませんか。
国会は官邸の下請け機関ではありません。