2016年11月26日土曜日

トランプ氏の孤立主義は日本の対米自立への好機

 安倍首相は当初「戦後レジームからの脱却」を旗印に登場しました。普通「戦後レジーム」と言えば、独立国の日本に米軍が駐留していて事実上日本が属国の状況になっていることを指す筈なので、「対米自立」を指すことになります。従って米側は当初は一瞬緊張した筈です。
 しかしいざ蓋を開けてみると彼の「従米」ぶりは際立っていて、「媚米」と称するのが妥当なくらいでした。そのクライマックスが先年の米議会での演説で、それがあまりにも卑屈であったために真正右翼を称する小林よしのり氏も呆れ返っていました。
 
 なんとも面妖なことに彼の言う「戦後レジームからの脱却」は要するに「戦前回帰」のことでした。
 世界に類のない絶対的天皇制のもとで抑圧されていた人権が、戦後新憲法のもとで一挙に開花したことが安倍首相(ら)にはどうにも我慢ができなかったようで、「万世一系の天皇を元首に」して、人権には制限を掛けて戦前のような社会に戻す・・・というのが彼の目標でした。
 不思議なのは、「対米自立」という国家が本来持つべき最も基本的な理念に全く関心がないことです。結局彼のことを理詰めで考えようとすること自体、意味のないことなのでしょう。
 
 次期米大統領のトランプ氏は、日本が米軍の駐留経費を(全額?)負担しないのであれば引き上げると述べました。
 米軍に日本から引き上げてもらう絶好の機会です。そもそも米軍は日本の防衛のために駐留しているのではありません。米国の世界戦略上の必要から駐留しているのに過ぎません。
 外国の軍隊=米軍が常駐する…こんなことは、日本、韓国そしてドイツを除けば世界に類がありません。心ある人たちは米軍の撤退をこそ目指してきました。米軍が居なくなれば年額7600億円の経費負担もなくなります。それだけの余裕が生まれれば民生の安定に大きく資することになります。
 
 米軍が引き上げるというと「安保で喰う人たち」やネット上の安倍応援団は、すぐに日本の防衛はどうなるのかと騒ぎ立てますが、一体どこの国が日本に攻めてくるというのでしょうか。北朝鮮や中国がそうだというのは、安倍首相が常々口にする「欺瞞」に毒された結果に他なりません。
 北朝鮮は現在世界の約160か国と国交を樹立しています。そういう点では北朝鮮と絶交している日本は特殊な国の部類に入ります。「拉致問題」は決して絶交の理由にはならず、逆に真摯に交渉を重ねるべき相手国になります。日本は米国に迎合するあまり道を誤っていて、現実に拉致問題は何一つ進展していません。
 中国とは文字通り経済的に持ちつ持たれつの密接な関係にあります。安倍首相の中国敵視政策が異常なだけのことで、きっと中国の脅威を煽り立てて軍事力の強化の口実にしたいのでしょう。
 
 日本には幸いなことに世界でも有数の『戦力』をもつ自衛隊がいます。
 「米軍が居なくなれば、憲法9条を掲げ、自衛隊を米軍の従属物から解き放って日本の専守防衛の為に全面的に再構築し、そして、なによりもアジア諸国との平和共存を実現すればいい」
・・・元外交官の天木直人氏はそう述べています。
 
 以下に天木直人氏のブログを紹介します。
 文中に「新党憲法9条」という言葉が出てきますが、それは天木氏が最近設立した党のことで、詳細は下記を参照願います。
 
  新党憲法9条 結成しました!
      代表: 天木直人  (元駐レバノン日本国特命全権大使)
       - 政治団体「新党憲法9条」   2016年8月29日 設立 -
       - 2016年10月29日 HP公開 - http://kenpo9.com/ 
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いまこそ新党憲法9条が必要だと喝破した宮台真司と白井聡
天木直人 2016年11月25日
 きょう11月25日の朝日新聞のオピニオン頁「耕論」で、社会学者の宮台真司氏と政治学者の白井聡氏の二人が、トランプショック後の日本について語っている
 
 二人に共通する認識は、「保護者なき日本」の迷走だ。
 すなわち、宮台氏は要旨次のように語っている。
 僕はトランプの勝利を待ち望んでいたと。
 なぜなら対米従属という日本最大の自明性が崩れるからだと。
 戦後の日本は経済重視の吉田茂ら自由党系も、国権重視の鳩山一郎ら日本民主党系も、対米従属を踏み外せなかった、そしてそれは憲法9条護持を掲げる左派も同じだったと。
 平和主義を掲げつつ、安全保障政策は米国に依存し、負担は沖縄に押しつけて、見たいものしか見ないご都合主義だったと。
 
 そして宮台氏はこう喝破する
 クリントンが当選していたら、既存の自明性への埋没が続き、問題が放置されたに違いないと。
 そして、「ひどい秩序でも壊れかけると、混迷した人々が秩序にすがろうとする。だからこそ新秩序のビジョンを告げる営みが必要だ」という哲学者の言葉を引用し、トランプの米国が登場したいま、日本が混乱するのは当然であり、絶望的な状況の自覚から新しい日本が始まるのだと語っている。
 
 一方の白井聡氏は要旨次のように語っている。
 米国が孤立主義に振れれば、日本は対米従属から対米自立へと向かわざるを得なくなると。
 自分も早く日本が自立してほしいと思うと。
 しかし、官邸や外務省はそのビジョンも意思もないと。
 トランプになったら、ヒラリーになったら、日本の影響はどうだ、こうだ、ばかりだった。これは変でしょう。自分たちはこうしたい、というのが一切なくて、米国はどうなるのかという読み解きばかり。異様です。何も考えずに米国にくっついてさえいればいいと思っている証拠だと。
 
 そして白井氏はこう自らの持論を述べて締めくくっている。
 日本のTPP反対派にはトランプ氏に期待する向きもありますが、(私は)楽観していません。
 ひたすら対米追従するという日本側の本質はなんら変わっていないのだから、米国の国益追及がむき出しになる分だけ、今後、従属の露骨さはむしろ高まると思います。90年前後に冷戦が終わり、敗戦によって生まれた対米従属を続ける必要がなくなったのに、保守政権はそれをやめようとしない。だから私はこれを「永続敗戦論」だと名づけました。この構図がなお続くだけだと。
 
 ここに語られた二人の意見に、私はまったく同感だ。
 そして、私もその事を繰り返し書いてきた。
 しかし、宮台氏の言葉の中には、どうすれば自立できるのかという答えがない。
 白井氏の言葉は、あまりにも悲観的であり、永続敗戦から逃れられない諦めがある。そして永続敗戦論は保守政権の責任だと決めつけている。そうではない。宮台氏が言うように護憲左派もそうだ。いや、メディアも国民も、みな永続敗戦意識から抜け出せなかったのだ。
 
 この両者の課題を克服するものこそ、新党憲法9条をこの国の政治の中に誕生させることなのである。
 米国からの自立、独立の前提は、どうやって日本を自らの手で守るかだ。
 それは決して他の主要国と競い合って、軍事強国を目指す事ではない。
 ミサイルの応酬による核戦争が当たり前のようになった今日、軍事力の強化は際限が無くなり、危険性を高めるだけだ。
 憲法9条を掲げ、自衛隊を、米軍の従属物から解き放って日本の専守防衛の為に全面的に再構築し、そして、なによりもアジア諸国との平和共存を実現する、それを国是とすることしか選択肢はない
 
 これこそが、宮台氏の言葉に答えを与え、白井氏の悲観的な「永続敗戦論」に希望を与えるものだ。
 繰り返して言う。
 米国から自立して、いまこそ平和憲法を掲げて外交の主軸をアジアとの共存共栄に移す、そう国民に気づかせる新党憲法9条こそ、宮台氏の言葉に答えを与え、白井氏の悲観論に希望を与えるのだ。
 
 この二人は、おそらく新党憲法9条の存在を知らないに違いない。
 しかし、それを知れば賛同できないはずはない。
 なぜなら、彼らこそ、いまこそ新党憲法9条が必要だと喝破した言論人であるからだ。
 このような言論人が一人でも増え、そしてメデアでどんどん発言するようになった時こそ、新党憲法9条が現実のものとなる時である(了