2016年11月19日土曜日

19- 改憲をめぐる各党の意見分布の構図と問題点(五十嵐仁氏)

 16日と17日に両院で憲法審査会が開かれました。
 各党が表明した基本的見解を元大原社会問題研究所長の五十嵐仁氏が整理するとともに、問題点を指摘しました。
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再開された憲法審査会で明らかになった改憲をめぐる意見分布の構図と問題点
五十嵐仁の転成仁語 2016年11月18日 
 参院憲法審査会は16日、今年2月に中断され開店休業状態になって以来、9カ月ぶりに審議を再開しました。翌17日、衆院憲法審査会も1年5カ月ぶりに実質的議論を再開しています。
 いよいよ、「3分の2国会」において改憲に向けての具体的な動きが始まったことになります。ここで注目されるのは、改憲をめぐる意見分布の構図と問題点が明らかになり、改憲をめぐっては与野党間に大きな違いがあるだけでなく「改憲勢力」とされている政党などにも無視できない違いがあるということです。
 
 第1に、改憲については党内がまとまっていないとされる民進党です。参院で白真勲さんは「現行憲法を正しく評価し、守ることが今、求められている」と表明し、衆院で武正公一さんは、権力を制限し、個人の自由を守る「近代立憲主義」の認識を衆参憲法審で共有することが「3分の2以上の発議の大前提」として、自民党の改憲草案に関し「個人よりも国家が前面に出ている。近代立憲主義の共通の土俵に立てるのか」と懸念を示しました。
 当面、安倍政権による改憲に反対する立場であることは明らかです。共産党や社民党、自由党とも共通するもので、憲法問題でも野党4党が共通の立場で共闘できることがはっきりしました。
 これは今後の野党共闘にとって極めて重要な意味をもちます。衆院選に向けての共通政策を作成するうえで、共通の憲法観は前提条件になるものですから。
 
 第2に、「改憲勢力」とされている政党などの間でも違いが明らかになっています。とりわけ公明党は、参院で西田実仁さんは「決して一方的な押し付けではない」と述べ、衆院でも北側一雄さんは憲法を「国民に広く浸透し支持されてきた」と評価し、必要な条文を加える「加憲」がふさわしいとするなど、自民党との憲法観の違いを鮮明にしました。
 公明党は、以前から憲法の3大原理を守ることを主張しています。また、9条改憲についても反対するなど、自民党との違いを明らかにしていました。
 このような違いは、今後の憲法審議では大きな意味を持つ可能性があります。しかし、集団的自衛権の行使容認でも「認められない」としていた当初の立場を覆して「部分的容認」に道を開いた「前科」がありますので、途中で腰砕けになって裏切る可能性も皆無とは言えません。
 
 第3に、「押し付け憲法論」や「9条改憲論」などについても、違いが明らかになっています。「押し付け憲法論」については日本のこころを大切にする党以外は特に主張せず、「9条改憲論」についても自民党以外で明言した政党はありませんでした。
 自民党でも、中谷さんや船田さんなどはこのような主張を抑制していたように見えます。しかし、個々の自民党議員の発言となると事情は別で、東京新聞は「本紙の集計では、2日間で計6人(衆院2人、参院4人)の自民党議員が9条改憲を訴えた」と報じています(18日付)。
 このような違いが生じたのは、9条改憲についての意見の違いというより任務分担ではないかと思われます。幹部は野党との合意を優先して改憲論議の本格化を狙い、個々の議員は右派的な支持者の反発を招かないように「本音」を主張するという形で役割を分担したのでしょう。
 
 衆院の憲法審査会で自民党を代表して意見表明した中谷元さんは、制定後70年を経た憲法と社会の間に「ずれが生じている」と指摘し、国民主権などの基本原理を維持した上で改正する必要性を論じました。しかし、この「ずれ」を生じさせたのは、ほかでもない長年にわたる自民党政権による「反憲法政治」の結果ではありませんか。
 憲法9条の理念に反して自衛隊を創設して増強させ、憲法との「ずれ」を意識的に拡大しておきながら、その「現実」を振りかざして今度は憲法の方を変えようというわけですから「盗人猛々しいにもほどがある」と言うべきでしょう。変えるべきは憲法ではなく、すでに世界有数の軍事力を保持し安保法によっていつでも海外に派遣可能な「外征軍」となりつつある自衛隊の方ではないでしょうか。
 同時に、「国民主権などの基本原理を維持した上で改正する」と言明した点は重要です。憲法の3大原理を壊すような「壊憲」ではないと明言したわけですから、この3大原理の破壊を主張していた長瀬元法相を処分し、自民党改憲草案を撤回するべきでしょう。
 
 また、中谷さんが「改正ありきではなく、改正の必要性が指摘されている項目について、改正の要否という観点から議論を深めていくべきだ」と述べた点も重要です。こういわざるを得なくなったのは、「改憲が自己目的化しているのではないか」という批判を考慮したからでしょう。
 「改正ありきではなく」というのであれば、今なぜ改正が必要なのか、国民はそれを求めているのか、求めているのは安倍首相など一部の自民党議員などにすぎないのではないのか、などについても「審査」していただきたいものです。
 さらに、国民のどれだけ多くが現行憲法に不都合を感じているのか、安保法の制定は憲法に反し立憲主義を破壊するものではないのか、憲法の理念や条文がどれほど現実の政治に活かされ実現しているのか、アベノミクスが破たんして国民生活の危機が高まっている今日、改憲に多くの政治的エネルギーを費やす必要があるのか、このようなことを行っている場合なのか、政治にはもっと優先して取り組むべき課題があるのではないのか、などの点についてもきちんとした「審査」をお願いしたいものです