植草一秀氏が「米国こそが『ならず者国家』」とする記事を出しました。
同氏は、「紛争の解決のために武力を用いることは避けねばならず、この意味でロシアの行動は非難されねばならないが、紛争の解決に武力を用いてきたのはロシアに限られていない。紛争の解決に武力を用いてきた筆頭が米国であり、国連決議によらず一方的な軍事侵略を繰り返してきた」として、「ロシアの戦争犯罪を論議するなら米国の戦争犯罪も論議する必要がある」と述べています。
今回の戦乱は、国連安保理で決議され、国際法の地位を獲得した「ウクライナ東部2地域に対する自治権付与を定めた2015年のミンスク合意2」が誠実に履行されていれば起きなかったのに、ゼレンスキー政権は米国と結託してミンスク合意を踏みにじり、ロシアに対する軍事挑発を続けたと述べました。
そして米国の「知の巨人」ノーム・チョムスキー氏が「ウクライナ戦争とアメリカの巨大な欺瞞」について語っている動画(日本語字幕付き)を紹介し、じっくりと視聴されたいと述べています。以下に紹介します。
併せて、レイバーネット日本に掲載された牧子嘉丸氏の「チョムスキーの心頭を突く発言〜動画『ウクライナ戦争とアメリカの巨大な欺瞞』を見る」を紹介します。
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米国こそが「ならず者国家」
植草一秀の「知られざる真実」 2022年4月25日
3月2日の国連総会緊急特別会合における「ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議」採択で、賛成した国は193ヵ国中の141ヵ国。
他方、非賛成は、反対5ヵ国、棄権35ヵ国、意思表示なし12ヵ国の合計52ヵ国。
国の数では賛成が多いが、賛成、非賛成の国の人口合計では様相が逆転する。
賛成国の人口合計は32.2億人。
非賛成国の人口合計は45.3億人。
比率は賛成国41.5%に対し、非賛成国58.5%。
4月20日に米国のワシントンで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議。
米国はロシアを非難し、ロシアに対する経済制裁強化を決定することを目論んだ。
しかし、G20は共同声明を発表できず、ロシア代表発言時の退席も米、英、加、豪の4ヵ国にとどまった。
G20でロシアに対する経済政策に加わっている国は10ヵ国(EUを1ヵ国として)。
経済制裁を実施していない国も10ヵ国。
人口比では制裁参加国が9.0億人で19%であるのに対し、制裁非参加国が38.4億人で81%だった。
衰退する欧米と勃興する新興国。衰退する欧米が対ロシア制裁を行い、勃興する新興国が対ロシア制裁に加わっていない。
紛争の解決のために武力を用いることは避けねばならない。
この意味でロシアの行動は非難されねばならない。
しかし、紛争の解決に武力を用いてきたのはロシアに限られていない。
紛争の解決に武力を用いてきた筆頭が米国である。米国は国連決議によらず、一方的な軍事侵略を繰り返してきた。アフガニスタン侵攻、イラク侵攻など、枚挙に暇がない。
2003年に勃発したイラク戦争は米国による侵略戦争である。
イラク戦争で虐殺されたイラクの民間人は10万人から100万人と推定されている。
ロシアの戦争犯罪が論議されているが、ロシアの戦争犯罪を論議するなら米国の戦争犯罪も論議する必要がある。
また、ウクライナ戦乱におけるロシア軍の戦争犯罪を論じるなら、ウクライナ軍によるドンバス地方における戦争犯罪も論じる必要がある。
ウクライナ政府は2004年と2014年に転覆されている。米国が主導した政権転覆であると見られる。
2014年政権転覆は米国がウクライナの極右勢力と結託して発生させた暴力革命による政権転覆だった。樹立された新政府に正統性がなかった。
この非合法政府の樹立にウクライナ国内の親ロシア勢力が反発した。その結果として東部2地域で内戦が勃発した。他方、クリミアでは住民が住民投票によってロシアへの帰属を決定した。東部2地域で発生した内戦を収束するためにミンスク合意が締結された。
2015年のミンスク2は国連安保理で決議され、国際法の地位を獲得した。このミンスク合意2に東部2地域に対する自治権付与が定められた。
ミンスク2が誠実に履行されていれば今回の戦乱は発生していない。ウクライナのゼレンスキー政権は米国と結託してミンスク合意を踏みにじり、ロシアに対する軍事挑発を続けた。
米国はロシアが軍事行動に踏み切るように誘導した。相手に先に手を出させて、戦乱を発生させる手口は日米戦争と同じ。
米国はロシアを戦争に引きずり込んで、ウクライナを舞台にロシアを疲弊させることを目論んでいる。
戦乱長期化、戦乱拡大で被害を蒙るのがウクライナの市民である一方、戦乱長期化、戦乱拡大で法外な利益を得るのが米国の軍産複合体。
米国はロシアの戦争犯罪を訴えるが、戦争犯罪を裁く国際刑事裁判所の役割を否定し続けてきたのが他ならぬ米国である。
米国の「知の巨人」ノーム・チョムスキー氏が「ウクライナ戦争とアメリカの巨大な欺瞞」について語っている。
⇒ https://bit.ly/3Oy5jEh (日本語字幕付き動画 62分)じっくりと視聴されたく思う。
チョムスキー氏は「米国こそがならず者国家である」と喝破している(チョムスキー氏動画39分06秒の発言)。
『日本経済の黒い霧 ウクライナ戦乱と資源価格インフレ 修羅場を迎える国際金融市場』
(ビジネス社、1870円(消費税込み))https://amzn.to/3tI34WK をぜひご高覧ください。
(以下は有料ブログのため非公開)
チョムスキーの心頭を突く発言〜動画「ウクライナ戦争とアメリカの巨大な欺瞞」を見る
牧子嘉丸 レイバーネット日本 2022-04-26
⇒ ノーム・チョムスキー動画(1時間2分)
この動画を見てすぐに思い出したのは、ロシア映画の話題作「親愛なる同志たちへ」である。これは1962年スターリン亡き後の冷戦下のソ連で起こった「ノボチェルカッスク事件」を女性の視点で描いた作品である。ウクライナに近いロシア南部ノボチェルカッスクの機関車工場で発生した労働者のストライキに端を発したこの弾圧事件は、ソ連崩壊までの30年間隠蔽され続けてきた。
84歳のアンドレイ・コンチャフスキー監督はソ連邦最大の労働者蜂起の悲劇を掘り起こして、歴史の真実と祖国への愛憎を映像で表現し記録した。私がチョムスキーの動画を見て、この作品を思いうかべたのは、何より自国の歴史に真摯に向き合う姿勢が共通しているからだ。
チョムスキーはロシアのウクライナ侵攻を主権国家への重大な侵犯・侵略であるという厳しい批判を前提にして、同時に西側やNATO、またアメリカにそれを糾弾する資格・権利があるのかと問う。特に自国アメリカが、ベトナム・ニカラグア・アフガン・イラク等に侵攻し、独立国家の主権を踏みにじり、政権を転覆させるためにいかに多くの市民を戦闘に巻き込んできたかを振り返る。
その具体的な指摘に、いまさらながらアメリカの戦争犯罪の歴史に慄然とする。その戦争犯罪の張本人が、今プーチンの戦争犯罪を非難できるのか、その資格があるのかと厳しく自国の指導者に問いかけている。
人権問題でも環境問題でも核禁止条約でも、必ず自分たちは免れる特権条項を設けて、他国には厳しく、自国には大甘な対外政策にも言及し、その意外な事実にも驚かされる。
今回の侵攻を受けて、「こんなことが21世紀の現代に起こるとは」という発言を何度も耳にした。たしかにその通りなのだが、イラク・シリア・パレスチナ・ミャンマーと戦火が止んだことはないのも事実だった。そのときは傍観的な姿勢で報道しながら、今の反ロシアの大合唱は人々の思考・懐疑をストップさせ、歴史の真実追求を麻痺させている。
橋下徹や東国原英夫らは論外だが、ロシア・スラブ研究家という女性教授らの発言も現象面だけの説明であり、頻繁にテレビ出演する元自衛隊出身の解説者も要するに軍備の拡張・増強へと向けるように視聴者の不安を煽っている。
ロシアの現在を見て、かつての自国の暴虐・弾圧・侵略の歴史を反省しようなどというコメントはもちろん、ましてアメリカの戦争犯罪の歴史を教訓にしようなどという意見は聞いたこともない。
池上彰は「ロシアはウクライナを今の朝鮮半島のように南北分断化しようとしているのでは」と物知りセンセイらしく発言していたが、その分断化の原因が日本帝国主義の植民地支配にあったなどとは口が裂けても言わない。こんな程度の歴史観で世界情勢の解説を得々とやっているのだ。
芸能人のコメント、大学教授の解説、自衛官出身者の軍事評論と毎日垂れ流される情報のなかで、一元的な善悪論を身に着けていないだろうか。そんな疑問をかすかに感じながらも日常に流されているなかで、このチョムスキーの発言ははっと心頭を突くものがある。
無明のなかの明かりであり、混迷のなかのしるべでもある。最初1時間はちょっと長いなあと正直思ったのだが、インタビュアーとの明確・明晰なやりとりに時を忘れて聞き入ったのである。すぐれた歴史的洞察と公正な知的探求心、そして何によりも旺盛な批判的精神にあふれた内容については私の下手な要約より、ぜひお聞きください。
翻訳の労をとってくださった方や配信していただいた方にお礼申し上げます。(レイバーネット会員)