プーチン大統領がモスクワ時間の2月24日早朝、ウクライナ侵攻に当たりテレビ演説で「外部から邪魔を試みようとする者は誰であれ、歴史上で類を見ないほど大きな結果に直面するだろう」と語りました。これは核兵器の使用も辞さない構えを示唆したものと受け取られ、いわゆる「核抑止論」の破綻を意味しました。
日本の外務省は、日本が米国の「核の傘」で守られていることを前提に、これまで常に米国と歩調を併せてあらゆる「核兵器禁止」の国連決議や条約に反対して来ました。
その大前提がこうして崩れた以上、今後はどう対処する積りなのでしょうか。そもそも日本の核兵器に対する基本戦略を外務省が決定するという在り方は正しいのでしょうか。
「核軍縮」の権威である黒澤満・大阪大学名誉教授が、「『核抑止』論は架空の概念 ~ 」とする見解を表明しました。
同氏は、国連安保理常任理事国である米、英、仏などの核保有国が、ロシアのウクライナ侵攻を止めることはできなかったのは「核抑止」が効かなかったことを示すものであり、「核抑止」が有効であるなら「核」は拡散した方がいい筈なのに、核兵器の保持を5力国のみに制限しているのは矛盾であるとしています。
そして「核抑止」論は架空の概念であり、事実 現在120カ国ほどの非同盟諸国は「核の傘」がなくても平和に共存していると述べ、ロシアのウクライナ侵攻に乗じて「核共有」や非核三原則の見直し論が安倍元首相ら自民党や「維新の会」などから出ているのは、「核兵器を持っていれば安全だ」という『妄想』にとらわれたもので、危険な動きだとしています。
しんぶん赤旗が報じました。
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「核抑止」論は架空の概念 ロシアの侵略戦争と核兵器禁止条約
大阪大学名誉教授(軍縮論)黒澤満さん
しんぶん赤旗 2022年4月19日
ロシアのウクライナ侵略により明らかになった「核抑止」論の破綻や、核兵器禁止条約と世界情勢について、核不拡散条約(NPT)再検討会議日本政府代表顧問を務めた(軍縮論)に聞きました。 (如来恵子)
黒澤 満 くろさわ・みつる
大阪大学名誉教授、核不拡散条約(NPT)再検討会議
日本政府代表顧問、日本軍縮学会初代会長
1月3日、核保有5カ国は「核戦争に勝者はありえず、核戦争は決してたたかわれてはならないと断言する」などの共同声明を発表しました。同時に核兵器が存在する限り,核兵器は防衛目的に役立ち、侵略を抑止し、一戦争を防止すると言いました。
しかし、核戦争に勝者はあり得ず、核戦争は決してたたかわれてはならないというなら、核兵器をなくそうというのが普通ですが、核兵器を持ち続けると断言しています。これは論理の矛盾です。
この声明を無視し、ロシアのプーチン大統領は2月にウクライナヘ侵攻し、核威嚇も行っています。
国連安全保障理事会常任理事国である米、英、仏の核保有国は、ロシアのウクライナ侵攻を止めることはできませんでした。「核抑止」は効かなかったことを示しています。
イスラエルが核を持っていてもアラプ諸匯はイスラエルを攻撃しました。南アメリカのフォークランド島ではアルゼンチンと核保有国のイギリスとの戦争もありました。核兵器では戦争は止められないのです。
「核抑止」論は架空の概念であり、実態が伴わないことが証明されました。
「核抑止」が有効であるなら、多くの国が核を持った方がいいということになり、核拡散になります。しかし核兵器は5力国のみに保持を制限しており、矛盾が生じます。
「核抑止」は対話と信頼関係という条件があれば、機能するかもしれません。
1985年、米国のレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ書記長は、「ジュネーブ首脳会談に関するソビエト・米国行動声明」で核戦争に勝者はありえず、核戦争は決してたたかわれてはならないと合意しました。両国は「軍事的優位の達成を求めない」と発表し、核兵器を削減させました。軍備競争をやらないと約束しました。ここには対話と一定の信頼関係がありました。
しかし、現在アメリカもロシアも軍備競争を行い、戦略攻撃兵器も戦略防御兵器も増やしています。
国際的責任を果たすどころか、ブッシュ米大統領はイラク戦争をはじめ、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約離脱。トランプ大統領はアメリカ第一主義を掲げ、中距離核戦力(INF)全廃条約の離脱やミサイル防衛強化を行いました。
ロシアは核兵器使用の敷居を下げる政策を発表し、INF条約に違反する政策を新たに発表しました。
力の支配から法の支配に
伝統的に安全保障の概念は国家が中心でしたが、国際的な安全保障に変化し、ここ数年は「人問の安全保障」、核兵器の問題では「人類の安全保障」へと変化しています。
「人類の安全保障」のもとにつくられたのが核兵器禁止条約です。その第1回締約国会議が6月に開かれます。批准国は現在60力国。核兵器禁止条約採択に賛成した国は122カ国なのですから大国の圧力はあるでしょうが、その数に近づけることが重要です。
締約国会議には、NATO(北大西洋条約機構)加盟国のノルウェーやドイツが締約国会議にオブザーバー参加を表明しています。日本もせめてここに参加すべきです。被爆国日本が批准すれば世界に大きな影響を与え、批准国は増えるでしう。
ロシアのウクライナ侵攻に乗じて、「核共有」や非核三原則の見直し論が安倍元首相ら自民党や「維新の会」などから出ています。「核兵器を持っていれば安全だ」という妄想にとらわれており、危険な動きです。
広島、長崎への原爆投下により国内世論は核兵器廃絶、核兵器禁止条約参加を望んでいます。世論と乖離した主張です。
日本政府は、日本を取り巻く厳しい安全保障環境を理由に核兵器禁止条約に参加することに反対しています。
しかし、日本がアメリカの核依存をやめれば、北朝鮮の脅威はなくなるでしょう。北朝鮮から見れば、日本に米軍が駐留しでいるのだから警戒するのは当然です。
かつて日本も、「東洋のスイス(中立国)たれ」といわれたことがありました。現在、非同盟諸国が120カ国くらいありますが、「核の傘」がなくても平和に共存しています。
核の威嚇を含めた今回の戦争を世界が体験し、反動はあっても、「力の支配』から「法の支配」へと、そして「人間の安全保障」や「人類の安全保障」へと時間がかかっても進むべきではないかと思います。
この戦争を週じて、やはり核は危険だという論調が出てきています。核兵器が使われる現実的な可能性が認識され、核廃絶をやらなけれぱならないという方向にいってほしいし、いくべきです。