日経新聞が22~24日に実施した世論調査で、「防衛費のGDP比2%以上への増額」について聞いたところ、賛成が55%で反対は33%でした。18~39歳の若い世代の賛成は65%で、60歳以上でも50%が賛成でした。
現行の防衛費は約5・5兆円/年ですが、それには海上保安庁費と旧軍人恩給費が除外されている(NATOは含めている)ので、金子勝・立正大名誉教授氏によれば「それらを含めると実は日本の防衛費はすでに米国、中国に次いで世界3位」だということです。
軍事費を増額するなら、その分は社会保障費や文教費などの民生費から回すしかないので、軍事費が増えればその分国民生活は貧しくなります。
世論が防衛費倍増賛成に傾いた背景には、ロシアのウクライナ軍事侵攻が起きているなかで自民党が敵地攻撃能力の保有や防衛費の倍増を当たり前のように提言し、メディアもそれを当たり前のように報じているという実態があります。
ところで国を守るには万全の軍備体制を整えるしかないのでしょうか。それではいつか来た道で、第二次世界大戦前の日本に戻るだけです。あのときの反省はどうなって、9条の精神はどこに行ったのでしょうか。
平和主義の9条の精神は、諸外国とりわけ近隣諸国とは友好関係を維持するということをベースにしています。その点でウクライナは余りにも米国に偏り過ぎて、隣国ロシアへの敵意があからさまでした。またロシア語住民に対して迫害しました。
現在の悲惨なウクライナの現状をみれば批判がましいことは言いたくありませんが、少なくともゼレンスキーは指導者としてロシアとも友好関係を維持する道を採るべきでした。
いずれにしても本当に防衛費をそんなに増やさなくてはならないのか、憲法9条を持っているのにメディアは何故問題提起をしないのでしょうか。自民党がウクライナ戦争を奇貨として、日本を戦争のできる国に作り替えようとしているいま、その暴走に歯止めをかけるのがメディアの役割である筈です。
政治評論家の森田実氏は「戦後積み上げてきたものが、こんなに一瞬にして崩れ去るとは。政治はもちろんのこと、あまりのメディアの惨状に戦中を知る世代として怒りが込み上げます」と述べています。
日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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今度の参院選には明確な争点 「戦争する国」にするかしないか
日刊ゲンダイ 2022年月27日
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
来たる参院選の前哨戦だった参院石川選挙区補選(24日投開票)は散々だった。2カ月後に迫る本番での共闘が期待される野党の動きはバラバラ。結果、野党第1党の立憲民主党が擁立した新人は当選した自民党候補にトリプルスコアの大惨敗。2012年以降、自民が衆参両院の全選挙区を押さえる保守王国とはいえ、ひどすぎた。立憲民主トップに就任後、初の国政選挙となった泉代表は「力量差が与党とある中、ベテランから新人までが精力的に応援に入って一体感につながった。間違いなく活気につながる」と強がっていたが、五輪じゃあるまいし、野党のドンが「参加することに意義がある」なんて調子じゃ先が思いやられる。
泉が「兄弟政党」と秋波を送る国民民主党は、自民にあからさまなスリ寄り。野党としてはあり得ない今年度予算案に賛成したほか、参院山形選挙区(改選数1)をめぐっては事実上の候補者一本化を画策。そうしたことから、石川補選で共同通信が実施した出口調査によると、国民民主支持層の45%が自民候補に投票していた。溝は埋めがたい。
昨秋の衆院選で議席を増やし、“最大ゆ党”として勢力を伸ばす日本維新の会にも急接近し、参院静岡選挙区(改選数2)や京都選挙区(改選数2)で相互推薦をまとめようとしている。京都は泉のお膝元だ。国民民主は立憲民主にとって、もはや縁戚とも言えないだろう。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。
「ホンモノの野党は一体どこへ行ってしまったのか。野党の追及で国会審議が止まることはほぼなく、野党の存在感はどんどん希薄になっている。野党も政策実現の一翼を担いたいとの思いが勘違いを増幅させているのかもしれませんが、大政翼賛会の再現に加担しているようなもの。本来の野党の仕事は権力の監視、政府与党の追及です。それができずに、野党第1党の立憲民主党が党勢を立て直せるわけがない。参院選向けのキャッチコピー『生活安全保障』も言わんとすることは分からないでもないですが、有権者に響くのかどうか。民主党時代の『国民の生活が第一』の方がよほど分かりやすかった」
「世紀の愚策」を拡大延長
野党のダメさは目を覆うばかりだが、嘆いてばかりもいられない。この国を「戦争する国」にするか、しないか。参院選には明確な争点があることを忘れてはダメだ。
岸田首相は26日、ようやく物価高騰対応の緊急対策を発表。コロナ禍からの経済回復に伴って昨秋から原油や穀物などの価格が高騰する中、日米金利差による円安進行で拍車がかかり、ロシアのウクライナ侵攻がダメ押しになった。ありとあらゆる生活必需品が急ピッチで値上がりし、暮らしを直撃。「悪いインフレ」によって実質賃金は目減りしているのに、対策の取りまとめを指示したのは先月29日のこと。そうして出てきたのは、参院選を意識した中途半端なバラマキだ。
国費投入は総額6・2兆円。ガソリンなどの燃油価格抑制策などが柱で、新たに1・5兆円を投じ、「激変緩和策」として実施している石油元売りへの補助金支給を9月末まで延長する。上限額も1リットル当たり25円から35円に引き上げ、支援対象はガソリン、軽油、重油、灯油、航空機燃料だという。立教大大学院特任教授の金子勝氏(財政学)が日刊ゲンダイ連載で〈「ガソリン補助金」なんて世紀の愚策だ。石油元売り大手は便乗値上げで暴利をむさぼっているのに、なぜそこにカネを回すのか〉と書いていたが、臆面もなく拡大延長する破廉恥には恐れ入る。財源は22年度予算の予備費から1・5兆円を引っ張るほか、補正予算案を通して2・7兆円規模を捻出。民間資金も合わせた対策の事業規模は13・2兆円としている。
独立国の最低限の備え「食料安全保障」は無頓着
一方で、食料の安定供給確保策は5000億円ポッキリ。パンや麺類などの値上げに直結する食用小麦対策として、輸入品から国産の米粉や小麦に原材料を切り替える取り組みや、国産小麦の生産拡大を後押しするというが、“やってる感”演出の弥縫策に過ぎない。
安倍元首相を筆頭に、自民の連中は「安全保障」「戦略物資」「国家戦略」といった威勢のいいフレーズが大好物なのに、なぜ食料安全保障には無頓着なのか。欧米各国の食料自給率(カロリーベース)は軒並み100%を超えているが、日本は2020年度が37%。1965年の統計開始以降最低で、半世紀で半減した。先進国で自国民の食料を賄えないのは、この国くらいのものだ。その背景について、東大大学院教授の鈴木宣弘氏(農業経済学)は日刊ゲンダイのインタビューでこう話していた。
〈食料の安全保障に対する姿勢の違いです。自国民向けの食料を十分に確保した上で輸出力も蓄えておけば、世界的な災害で物流が止まっても国民が飢えることはない。戦略物資としても価値があり、褒められた話ではありませんが、兵糧攻めにも利用できる。国家戦略として食料を輸出しているのです。だから多額の補助金を投じて農業を守る。「攻撃的保護」と言ってもいいかもしれません。命を守り、環境を守り、国土や国境を守る産業は国が支える。それが諸外国の覚悟です。食料自給は独立国の最低限の備え。世界の常識が日本の非常識なんです〉
〈さかのぼれば対日占領政策に行き着きます。日本の農業をズタズタにし、米国産に依存する構造をつくれば、日本を完全にコントロールできる。総仕上げの段階にきていると言っていいでしょう。主要穀物の自給率は小麦15%、大豆6%、トウモロコシ0%〉
今年で戦後77年。有事に国民を食わせる力もなければ、備える知恵もないのに、岸田自民は軍拡にシャカリキだ。参院選で大勝させたら、海の向こうの敵基地や中枢を先制攻撃する国へと確実に変わっていくだろう。
米国見据える27年に向け躍起
自民の総務会などは政府の外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」(NSS)など3文書改定に向けた党安保調査会の提言を了承。党内手続きを終え、27日にも岸田に提出する。「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換えて保有を提言し、攻撃目標に敵の司令部などを想定した「指揮統制機能等」を含むと明記。防衛費についても、GDP比2%以上を念頭に5年以内に抜本的な防衛力強化を図るという内容だ。「防衛装備移転三原則」の緩和も打ち出した。岸田は「国家安全保障戦略」を含む安保関連3文書を年内に改定する方針で、丸のみ前提である。
参院で審議中の経済安全保障推進法案は、平たく言えば軍事研究を加速させるための国策。先端技術開発に協力する研究者を集め、多額の国費を投じて官民一体で軍民両用(デュアルユース)が可能な技術開発に取り組むというもの。参院でもあっさり可決されれば、「経済安保」の名のもとに企業活動や学術研究にも国が関与、介入し、息苦しい戦時下監視社会になっていくだろう。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)は言う。
「自民党政権の基本方針は一貫して日米安保条約の強化です。バイデン米政権は足元ではウクライナ戦争の対応に追われていますが、最も注力しているのは中国包囲網の構築。昨年3月、上院軍事委員会公聴会でインド太平洋軍司令官が中国による台湾侵攻の可能性について〈6年以内に危機が明らかになる〉と証言したことを契機に、27年を見据えて一気に動き出しました。日米豪印による枠組み『クアッド』が本格始動し、米英豪の『オーカス』が発足。昨年末には約110カ国・地域の首脳を招いた『民主主義サミット』を開催した。自民党の提言が防衛費引き上げを『5年以内』としたのは27年を目標としているからで、台湾有事が発生した場合に集団的自衛権を行使し、米軍が求める戦力を提供するためです。軍拡と並行し、米国と一緒に戦争ができる経済体制づくりを進めているのです。憲法9条をなし崩しにする緊急事態条項の創設に躍起なのも然り。岸田政権が参院選に勝ち、国政選挙のない『黄金の3年間』を手にすれば、この国は根底から変わってしまいかねない」
第2次安倍政権が強引に通した特定秘密保護法、共謀罪、安保法制の「戦争3法」によって、この国は米国と共に戦う国に変貌した。岸田政権を「信任」すれば、確実に有事体制へと向かっていく。
ウクライナの惨劇を目の当たりにすれば、阻止以外に道はない。