2022年4月22日金曜日

22- 濡れ衣をかけられ続けるロシア(田中 宇氏)

 独自の視点で世界の時事問題の分析しているフリーの国際情勢解説者 田中 氏が「濡れ衣をかけられ続けるロシア」とする記事を出しました。これは9日の記事市民虐殺の濡れ衣をかけられるロシア(田中 宇氏)」の続報です。
 ここでは4月8日に起きた「クラマトルスク駅攻撃」に使われた弾道ミサイル「トーチカU」着弾点とその直前に落下したブースター体の位置から得られる弾道から、ウクライナ軍から発射されたと判断するなど説得力があります。
 田中氏の記事には、各節ごとに根拠となる関連記事のタイトル(ほぼ3、4点)が表示されていて、それをクリックするとその記事にジャンプするようになっています。ただし関連記事は殆どが英文であるため本ブログではそのタイトルは省略しました。お読みになりたい方は下記のURLから原文にアクセスしてください。
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濡れ衣をかけられ続けるロシア
        https://tanakanews.com/220421kramatorsk.htm 
                田中宇の国際ニュース解説 2022年4月21日
この記事は「市民虐殺の濡れ衣をかけられるロシア」の続きです。

ウクライナに侵攻したロシアを(根拠薄弱でかまわないから)非難・敵視したいと考える米国側(米欧)は、「ロシア軍の(今のところの)2大戦争犯罪」として、4月4日に大問題になった「ブチャ虐殺」と、4月8日に起きた「クラマトルスク駅攻撃」を挙げている。ドネツク州クラマトルスクの駅に、クラスター弾(9N123K)をつけた弾道ミサイル「トーチカU」が着弾し、50人以上が死んだとウクライナ側が発表している。ブチャとクラマトルスクという2つの事件に共通しているのは、事件が世界に報じられてすぐにウクライナ政府が「ロシア軍の仕業だ」と主張し、米欧諸国の政府がすぐにそれを鵜呑みにして「ロシアが戦争犯罪を犯した」と過激に非難し始め、誰の仕業なのかを判定する第三者機関の現地調査も行われないまま(ロシアが国連で現地調査の必要性を訴えたのに米欧は無視)、一方的で根拠薄弱なロシア犯人説が独り歩きしていることだ。現場はすぐに片付けられ、十分な現地調査は不可能になっている。

スイスの軍人でNATO軍事顧問やスイス諜報部員を歴任し、欧州軍の諜報要員として各地の戦地にも赴任した米国側のロシアなどの専門家であるジャック・ボー(Jacques Baud)は、最近のインタビューで「断定はできないが、わかっていることを総合すると、これらの事件は2つとも、ロシアでなくウクライナに責任があるように見える」と言っている。元NATO軍事専門家が、ロシアへの濡れ衣を指摘し始めたことは、とても重要だ。加えてボーは「何が起きたのか公正な調査もしないまま、米欧諸国の指導者たちがロシアを制裁する政策を決めてしまっているのは、とても当惑する。欧米の戦略決定のやり方は異常な状態になっている」と指摘している。全くそのとおりだと思う。(ボーは興味深いことをいろいろ言っている。それらは改めて書く。英語が読める人は以下を読むと良い)(US, EU Sacrificing Ukraine To "Weaken Russia": Former NATO Adviser) (Former NATO Military Analyst Blows the Whistle on West’s Ukraine Invasion Narrative - Jacques Baud) (“The policy of the USA has always been to prevent Germany and Russia from cooperating more closely”

ボーは、2つの事件の責任がウクライナ側にあるように見える理由について具体的に語っていない(彼の立場上、詳述できないのかも)。しかし、オルテメディアの分析者たちが指摘・考察したものがネット上にいろいろ出ている(グーグルは戦争プロバガンダ機関になっているので、検索してもほとんどロシア敵視文しか出てこない。オルトメディアのサイト群を毎日丹念に見ていくしかない)。そうやって調べて、ブチャ虐殺については以前に少し書いた。今回はクラマトルスク駅攻撃について書く。

クラマトルスク駅攻撃がロシア軍でなくウクライナ軍の仕業と思える最大の理由は、駅に着弾したトーチカUミサイルの胴体部分(ブースター)が、駅から西南西の方向に少し離れたクラマトルスク市街地の公園に落下していたことだ。この胴体部分は、ロシア語で「(このミサイルは)子供たちのため(の贈り物です)」と書かれていたので「ロシアの戦争犯罪」を示すものとして有名になり、マスコミが写真を喧伝している。米国の軍事専門家スコット・リッター(戦争前のイラクの大量破壊兵器を査察した一人)によると、トーチカUは着弾する直前に弾頭と胴体部分が分離し、胴体部分が必ず弾頭の着弾地より少し手前に落下する構造になっている。弾頭の着弾地と、胴体部分の落下地点をつないだ線をずっと延長していった先のどこかにミサイルが発射された地点がある。延長線上に軍事基地などがあれば、そこから発射したと、かなりの確度で推測できる。

そして今回のミサイルの着弾地であるクラマトルスク駅と、胴体の落下地点である市内の小公園をつないだ線を延長していくと、45キロ先のドブロビリア(Dobropillia、Dobropolye)の近くに、ウクライナ軍で唯一のトーチカUの保有部隊である第19ミサイル旅団の基地がある。スコット・リッターは、ウクライナ軍の第19ミサイル旅団がトーチカUを発射してクラマトルスク駅で子供たちを殺したことはほぼ間違いないと結論づけている。地上軍以外がとても貧弱なウクライナ軍にとってトーチカUは貴重な兵器であり、第19ミサイル旅団は軍や政府の上層部と直結する指揮系統にある。クラマトルスク駅攻撃を命じたのはウクライナ政府の上層部だろうとリッターは言っている。

スコット・リッターは4月4日から騒がれ出したブチャ事件についても分析したが、道理の通った分析を発表したので危険分子とみなされて4月6日にツイッターのアカウントを削除されてしまった。言論の自由を剥奪する極悪非道なツイッター。イーロン・マスクに買収してもらって「矯正」されるしかない。マスクとツイッターの戦いについても改めて書かねばならない。マスクがツイッターを買収しようとした途端、ツイッターなどネット大企業とぐるになって歪曲的な言論統制をやってきたマスコミが、テスラの欠陥に対する攻撃を一気に強めている。マスクは潰されるかもしれない。

ブチャ虐殺事件にはウクライナ内務省傘下の諜報機関である国家警察が関与しているふしがあるが、国家警察はウクライナ政府の中で今回の戦争の情報戦(プロバガンダ)を担当しており、その背後には英国の諜報機関(MI6など)がいる。英国軍の特殊部隊SASが開戦後もウクライナにいてウクライナ側を支援していることがわかっている。そしてベラルーシのルカシェンコ大統領によると、虐殺事件が起きる直前のブチャに、英国人が使っている自動車が入ったことが、露ベラルーシ側の諜報で判明している(この件はプーチンも知っているが黙っている)。 

ブチャ虐殺事件は、情報戦でロシアを攻撃する濡れ衣を作るため、今回の戦争で米国側の情報戦担当をしている英国の軍事諜報界が、以前からの傀儡であるウクライナ内務省や、その傘下の極右民兵のアゾフ大隊などを動かしてやらせた可能性がある。そして、クラマトルスク駅への攻撃を第19ミサイル旅団にやらせたのも、ロシア軍に濡れ衣を着せるための策略として、同じ英国とウクライナ内務省の筋だったとも考えられる。英米は、ロシアを潰すために、露側を挑発するところからこの戦争をウクライナにやらせている。英米は、ロシアを潰すためにウクライナ人が殺されてもかまわない。ウクライナ当局が独自にやったと考えると、極右だとしても同じ国民を簡単に殺せるのかという疑問が残るが、英米がウクライナ極右を洗脳した上で同じ国民を殺す策をやらせているのなら、この疑問も消える。

ブチャ虐殺事件に関して、欧米諸国の政府は足並みそろえてロシアが犯人だと言っているように報じられているが実は違う。ゼレンスキー大統領がドイツの新聞に語ったところによると、EUのとある大国(おそらくドイツ)の指導者がゼレンスキーに対して「ウクライナ政府がブチャ事件でやらせを仕組んでいないことを立証せよ」と言ってきた。EUの大国の上層部にも、ウクライナ政府がロシアに濡れ衣を着せるためのやらせの演出としてブチャ事件を仕組んだと疑っている(しかし覇権を握る米国が怖いので公言できない)指導者がいる。これが世界の実情だ。 

落下したミサイルの胴体には、白い手書き文字のロシア語で「子供たちのために」と書かれていた。ウクライナ当局によると、着弾時のクラマトルスク駅には子供や女性を中心に5000人の避難民がいたそうで、その子供たちを殺す目的で皮肉な白文字を描いたミサイルが発射されたことになる。意図的に市民を狙ったことになる。しかし、ロシア語で書かれているとロシアが犯人なのだろうか??。ロシアが犯人なら、むしろウクライナ語で書くのでないか??。ロシア語で書かれているのは、実はウクライナが犯人で、「ロシアの戦争犯罪」に見せかけるために書いたと考えることもできる。着弾から数時間後に米欧マスコミの記者が現場に行った時には、避難民が誰もいなかった。本当に5000人の避難民がいたのかどうか怪しい感じもする(以前の記事に書いたとおり、今回の戦争の難民数は誇張されている)。

クラマトルスクはロシア系が多いドネツク州にある。2014年以降ウクライナの極右政府・民兵団に殺され続けたドネツク・ルガンスクのロシア系住民を守るために、今回ロシア軍が助っ人としてウクライナに侵攻した。ウクライナ系もロシア系の親戚みたいなものなので、露軍は極右民兵団だけを退治して民間人を殺さないように進軍し、2か月間で2千人の市民しか死なせていない(米軍はイラク侵攻後の1か月で数万人を殺した)。そんなロシア軍が、自分たちが守っているロシア系など民間人の子供たちを意図的に殺すことはない。英諜報界に洗脳されたウクライナ側が、ロシアに濡れ衣を着せるためにやらされている可能性の方がはるかに高い。

クラマトルスク駅を攻撃したトーチカUのミサイルについての話はもう一つある。それは、ロシア軍が2019年末にトーチカUを使うのをやめていることだ。露軍はトーチカUでなく、より高性能なイスカンデルを短距離弾道ミサイルとして配備している。今回のウクライナ戦争でトーチカUを使っているのはウクライナ軍だけだ。クラマトルスク駅を攻撃したのは露軍でなくウクライナ軍だということになる。ウクライナ政府とHRWなど米国系機関は、ロシアがウクライナ開戦直後にドネツク州で病院をトーチカUで攻撃したと言っているが、米ウクライナ側は、ウクライナ軍の仕業を露軍の仕業と言いくるめることが多いので、この手の主張は信頼性が低い。

また、ウクライナから分離独立したロシア系が多い東部のドンバスの親露民兵団は、兵器の多くがウクライナ政府軍から寝返った部隊が持ち込んだものだ。親露民兵団がトーチカUを持っていた可能性もある。開戦直後にトーチカUを使ったのは親露民兵団かもしれない。ウクライナ政府軍は、2014年の米国による政権転覆・極右政権成立以降、内部の士気が以前にまして低下し、極右の支配を嫌って逃亡する兵士が相次ぎ、部隊ごと兵器を持ってドンバス民兵団に寝返る部隊が頻出した。ドンバス民兵団の兵器のほとんどは寝返りによって得られたもので、そのためロシアはドンバス民兵団に兵器を密輸出する必要がなかった(私服の軍事顧問団だけ派遣していた)。この話も、前出の元NATOのジャック・ボーが言っていた。 

露軍は、軍内のトーチカUからイスカンデルへの切り替えが終わったのが今年なので、米うっかり傀儡者が露軍はまだトーチカUを使ってるじゃないかと言ったりしている。ベラルーシ軍はトーチカUを持っているらしいし、動画の捏造も多発しており、露軍がトーチカUを使っているかどうかというプロバガンダ戦争がネット上で展開している。こういう話は軍事オタクを引きつけるらしい。露軍は今回の侵攻で目的外の誤爆・民間人殺害をしないよう、最新の精密誘導兵器を使っている。露軍が使うなら、ソ連末期に開発されたトーチカUでなく、新しいイスカンデルを使うはずだ。着弾したのがトーチカUだった時点で、ウクライナ軍がやった可能性が高い

ネット上にたくさん作られた英語などのファクトチェック機関のほとんど(すべて?)も、マスコミとぐるになったロシア敵視のプロバガンダ機関である。彼らは、スコット・リッターやジャック・ボーやその他のオルトメディアの分析者の指摘に対して、詭弁的ないろんな言いがかりをつけて「間違い」「フェイクニュース」のレッテルを貼ることを仕事にしている。マスコミやファクトチェック機関は、道理の通った分析をする者たちを恫喝して人類の思考を止めようとする卑劣なやくざである。

クラマトルスク駅に着弾したトーチカUには「Ш91579」という製造番号(通し番号)がついている。スコット・リッターらによると、ソ連末期の1991年の製造であることが示されている。ソ連はミサイル類を製造番号で管理しており、当時の記録を見れば、どこに配備されたミサイルであるかがわかる。ソ連軍の記録はロシア軍が保管している。クラマトルスク駅を攻撃したトーチカUがウクライナ軍のものだったなら、露政府はそれを知っている。旧ソ連の記録を公開するだけでウクライナ軍の仕業だと世界に示せる。リッターもそう書いている。しかし、露政府は何も発表していない。

ということは、やはり米国側が決めつけているとおり、ロシア軍の仕業なのか??。私の見立ては違う。プーチンらロシアの最上層部は、この戦争が引き起こしている米国側と非米側の劇的な対立を長引かせようとしている。今のような劇的な対立が長引くほど、米国側の経済が資源不足やインフレ、金融バブル崩壊によって自滅し、米国覇権が衰退してロシアなど非米側が台頭する。プーチンは、米国側がロシアに極悪の濡れ衣を着せて劇的な対立を長期化することを、意図的に容認しているふしがある。プーチンはロシア軍に新型の弾道ミサイルを実験させて米露核戦争の懸念を扇動する演技もやって、米国側と非米側の対立を長引かせようとしている。このシナリオに基づくなら、ロシア政府はクラマトルスク駅に着弾したトーチカUの製造番号から配備先を特定する発表をしない方が良い。

ウクライナ戦争は第2段階に入り、ロシアの傘下に入った東部のドンバス2州に駐留するロシア軍と、2州とウクライナ側の新たな国境線に沿って展開するウクライナ軍との戦いになっていく。ウクライナ軍はすでに各地で露軍に包囲されており、戦いは長く限定的なものになる。米国側のマスコミは戦争を誇張し続ける。この戦争が続く限り、米国側と非米側の劇的な対立も続き、米国側の経済が崩壊していく。ロシアは自らにかけられた濡れ衣を放置し、すべてプーチンのせいにされた状態で、米国側の衰退と非米側の台頭が進む