2023年7月10日月曜日

保険証廃止は財界幹部の圧力 「24年秋の廃止〝納期守れ″」(赤旗日曜版)

 健康保険証を来年秋に廃止しマイナンバーカードの取得を国民に強要することに国民の7割以上が反対するなかでも、岸田政権は保険証廃止を撤回しようとしません。なぜそれほどまでに国民の意向を無視できるのか…、実は5年以上も前から経団連や経済同友会執拗に保険証廃止を求めてきたことが背景にあります。
 しんぶん赤旗日曜版7月9日号の記事「保険証廃止は財界発 『24年秋の廃止〝納期守れ″』世論の大反対に財界幹部が圧力」がその間の経緯と財界の狙いを解説しています。
 一連の「大軍拡」とそれに伴う「将来の大増税」が国民のためではなく米国に迎合するためであったように、マイナンバーカードに伴う一連の無理押しも財界に迎合するためでした。国民がどんなに不便にあるいは不幸になろうとも構わないということです。以下に紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
保険証廃止は財界発
「24年秋の廃止〝納期守れ″」世論の大反対に財界幹部が圧力
                    しんぶん赤旗日曜版 2023年7月9日号
岸田首相 来年秋に保険証廃止
 健康保険証を来年秋に廃止し、マイナンバーカードの取得を国民に強要する岸田政権世論調査で7割以上が反対するなかでも、保険証廃止を撤回しようとしません。じつは保険証廃止を執拗(しつよう)に求めてきだ震源地は、日本経済団体連合会や経済同友会などの財界。国民の声を聞かず、財界要望を忠実に遂行する岸田政権の姿を追います
                                 本田祐典 記者

 病院や薬局で他人の情報が表示された。マイナンバーカードの保険証利用(いわゆるマイナ保険証)で命にもかかわるトラブルが相次ぎ、制度の信頼が失墜しています。ところが岸田政権は保険証を廃止する改悪マイナンバー法を6月に強行。「悪政4党連合」の自民、公明、維新、国民各党が賛成しました。岸田文雄首相は国民の声でなく、いったいの声を聞いているのか-。

何度も提言
 (財界の要望)
 保険証などカード一元化      14年6月 経団連
 保険証交付は最小限に       18年8月 経済同友会
 会社員などの保険証交付反対    21年4月 経団連会長、経済同友会副代表幹事ら
 マイナカードに統合し全国民が携行 22年4月 経済同友会

「各企業の健保組合において、単独の健康保険証交付をとりやめ、(マイナンパーカードと)完全な一体化を実現すべき」2年前の2021年4月、経団連会長だった故・中西宏明氏と、経済同友会副代表幹事だった新浪剛史氏(現代表幹事)らが政府の経済財政諮問会議で、保険証を廃止し、マイナンバーカードを国民に取得させるよう、連名で提言しました。
 財界はマイナンバーカードの導入やカードの保険証利用を求め、制度がスタート。しかし、国民のあいだでカード取得が広がりませんでした。そのため、保険証の廃止を求めたのです。 経済同友会が昨年4月に岸田政権に出した提言は、保険証廃止の本音を語っています。
 -保険証を使い続けることができるため、カードの普及効果はあまり期待できない。
 -保険証と力-ドを続合することで、全国民が常時マイナンパー及びマイナンバーカード
を携行する。
 この直後の昨年6月、岸田政権は「保険証の原則廃止を目指す」と閣議決定。同10月には、カード普及を加速するよう首相から指示を受けた河野太郎・デジタル相が廃止時期を24年秋と示しました。
 大手メディアもいったん立ち止まれ″の大合唱のなか、経済同友会の新浪代表幹事は今年6月28日の会見で廃止の期日を守れ″と岸田政権に念押ししました。
 「ミスが起きると後戻りしていたら、遅れを取り戻せない。保険証廃止は必ず実現するよ
 う、これ(来年秋)を納期としてやっていただきたい」
 なぜ、そこまでして財界は保険証を廃止したいのか-。

マイナ保険証一体化 財界のもうけ最優先 
社会保障削り企業の保険料負担軽減狙う

国民に強制 要求エスカレート
 マイナンバーカードの取得は本来、個人の自由です。2013年のマイナンバー法成立後も政府は一貫して、強制ではないと説明してきました。国民の多くが必要性を感じず、個人情報管理などへの不安もあり、カードの取得は広がりませんでした。「交付開始から3年経過するが、交付率は12%にとどまる」(19年1月、経済同友会の年頭見解)状況でした。
 カード取得を国民に押し付けようと財界の要求はどんどんエスカレートしました。
 健康保険証とマイナンバーカードの体化  保険証の交付を最小  保険証を廃止。
 この要求に自公政権がなし崩し的に応じ、最終的に岸田政権がマイナンバーカード強制へとかじを切りました。
 -安倍政権がカードの保険証利用を決定。
 -管政権が22年度末までにほぼ全国民がカード取得と目標設定。
 -岸田政権が24年秋の保険証廃止を決定。

制度の原点に消費税大増税
 経団連や経済同友会は1990年代半ばから、マイナンバー制度の原型となる「納税者番号制度・社会保障番号制度」を求めてきました。
 理由のつが消費税の大増税です。
 「消費税が10%を超える場合、逆進性対策の導入を検討」「(対策の)導入に向けた社会保障・税共通番号の導入は急務」(2011年3月、経団連)という理屈です。
 消費税を大増税すれば、所得が少ない人ほど負担が重くなる「逆進性」が問題になります。その批判をかわすため、国が番号制度で個人の所得などを把握し、大増税の際は低所得者に個別給付するというのです。
 増税だけではありません。社会保障給付の削減も狙います
 経団連は2000年代半ばに医療や介護、年金などの情報を集約する「社会保障個人勘定」を提言。個人の負担・給付を可視化することで受益者が負担しろ″と圧力を強めようとしました。
 このとき、個人情報を集める道具として、健康保険証や介護保険証、年金手帳を兼ねた「社会保障個人力ド」の導入も求めました。こうした監視・管理の思想がマイナンバーカードに引き継がれています
 マイナンバー制度やカードを通じて国が吸い上げる膨大な個人情報は、財界にとって宝の山です。15年当時、経団連副会長だった中西宏明氏は個人情報のビジネス利用を露骨に求めました。
「情報産業の立場から見ると、国民一人ひとりを正確に特定できるマイナンバーは非常に強力なツール。さまざまな活用方法が想像できる」「医療分野において、ビッグデータの活用は非常に価値がある」(同年4月、経団連の座談会)

個人情報をビジネス利用経団連「非常に価値」

岸田政権で〝言いなり″加速
 自民党宏池会(岸田派)関係者は、国民の声を聞かず財界要望を忠実に遂行する岸田政権の姿勢について「政権の成り立ちも関係している」と解説します。
 21年の同党総裁選で岸田氏支持を真っ先に表明した最大功労者″が甘利明・自民党前幹事長でした。甘利氏は財界との関わりが深く、官邸に財界要望を伝える窓□になっているといいます。
「総裁週後も甘利さんは、岸田さんと自民党・麻生派のあいだを取り持ち、うまく党内バランスを保って政権維持に貢献している。甘利さんの言うことは聞かざるをえない」
 その甘利氏が自民党内で主導してきたのが保険証廃止です。
 菅政権下の20年11月、甘利氏が座長としてまとめた自民党デジタル社会推進本部の提言は「健康保険証の発行義務を緩和し、マイナンバーカードとの一体化を進め、将来的に健康保険証を廃止する」としました。
 岸田首相の最側近・木原誠二衆院議員(現官房副長官)も当時の同本部幹事長として提言に関与。岸田政権を支えるキーマンがそろって保険証廃止を求めていたのです。
 前出の岸田派関係者は「岸田さんは経済界の要望や、分を支える甘利さんらの意見が何より大事。周囲の言いなり″が岸田政権の特徴だ」と語ります。
「要望が通る都合よい政権だから、支持率が低くても岸田おろしの風が吹かない。前政権とはまた違った形で、国民の声を聞かない強権になっている」

根本に「政治のゆがみ」
 岸田政権が強行した改悪マイナンバー法。日本共産党は、2013年にマイナンバー法が成立した当初から、「財界のもうけ最優先」の政治のゆがみとして反対してきました
 改悪マイナンバー法の根本には、財界の二つの要求があります。
 一つは、国民に社会保障の給付削減と負担増を押し付けようというもの。
 もう一つは、大量の個人情報をビジネスに利用しようとするものです。
 財界は早くから、国民の税・社会保障情報を一元的に管理する「共通番号」の導入を求めてきました。
 日本経団連は2000年代から、国民が納めた税・保険料と、社会保障の給付額を比べられるようにしてこの人は負担に比べて給付が厚すぎる″と決めつけ、医療、介護、福祉などの給付を削減していくことを提言しました。
 この提言は、社会保障を、納めた税・保険料に相当する対価″を受け取るだけの仕組みに変質させる大改悪です。
 社会保障を「自己責任」の制度に後退させ、「負担に見合った給付」の名で徹底した給付抑制を行い、国の財政負担や大企業の税・保険料負担を削減していく-。これが政府・財界の最大の狙いです。

消費税で大企業減税を穴埋め
 政府は、マイナンバー制度によって「公平・公正な負担と給付」を実現するとしています。
 しかし、これは大企業優遇税制などを聖域とする一方、「社会保障の財源確保のため」と言って消費税増税を進めることを前提にしたものです。
 実際、財界は消費税増税を一貫して要求しています。1989年の消費税導入から35年間の消費税収は累計508兆円。一方、法人税(地方税を合む)と所得税・住民税は累計609兆円減りました。消費税は「社会保障のため」ではなく、大企業・金持ち減税の穴埋めに消えたのが実態です。
 国・自治体が保有する個人情報は、公権力を行使して取得、申請・届け出に伴い義務として提出されるものです。企業が保有する顧客情報とは比べものにならない、多岐にわたる膨大な情報量です。
 財界は、これを「官業の開放」の対象にし、本人同意なく、目的外に流用し、企業のもうけのために利用しようとしています。
 国民の命と健康、プライバシーと人権をないがしろにして、特定の企業の利益を後押しするマイナンバー制度は廃止すべきです。  矢守一英記者

保険鉦廃止を決めるまでの経緯と財界要望(表)  省 略