2023年7月16日日曜日

16- 【集中企画・マイナ狂騒】(16)~(18)

 別掲の記事の通り、宮崎県(だけ)で知的障害者に交付する療育手帳の情報とマイナンバーのひも付けミスが2336人分見つかり、他者の障害程度や手帳番号をマイナポータルで閲覧できる状態にあることが確認されるなど、マイナカード問題は留まるところを知りません。そんな中、河野デジタル相は11日夜から北欧と中東を歴訪する外遊に旅発ちました。延べ10日も留守にするということです。

  日刊ゲンダイの連載記事【集中企画・マイナ狂騒】(16)~(18)を紹介します。
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【集中企画・マイナ狂騒】16
マイナ保険証一本化に地方が「NO」突きつける!岩手県議会が都道府県で初の「意見書」可決
                          日刊ゲンダイ 2023/7/11
「今の保険証でいいというのでは利便性を上げることは難しくなる」――。10日、都内で講演した河野デジタル相は改めてマイナ保険証の必要性を訴えた。しかし、マイナ保険証に一本化し、来年秋に現行の健康保険証を廃止する方針への風当たりは強まる一方だ。地方議会からの異議が相次いでいる
                ◇  ◇  ◇
 岩手県議会は7日の本会議で現行保険証廃止の中止等を求める意見書を賛成多数で可決した。都道府県議会では全国初となる。立憲民主系の希望いわて、共産、社民のほか、中間派のいわて新政会が賛成(計26人)。自民、公明と保守系のいわて県民クラブは反対(計18人)した。
 意見書は世論調査で延期や撤回を求める声が7割あるとして「国民皆保険制度の根幹を破壊する重大問題に発展しかねない」と政府に見直しを求めている。
 岩手では8月17日告示、9月3日投開票の知事選と県議選(8月25日告示)が控えている。県内の保険証廃止反対の世論を受けて、議会が動いた格好だ。
 開業医らでつくる岩手県保険医協会の調査(回答124人)によると、9割の医療機関がオンライン資格確認を実施しているが、62%がトラブルを経験。トラブルの際、84%が現行保険証で対処している
 県内の医療関係者は「意見書に対する候補者の賛否は投票の際、考慮したい」と語った。意見書に賛成した社民党の木村幸弘県議は「来秋の保険証廃止について県民の不安は大きく、切実な問題になっている。県議選では廃止の中止を訴えたい」と意気込む。保険証廃止は選挙の争点のひとつになりそうだ。

1県4市3町に拡大中
 岩手県議会と類似の意見書は他の地方議会でも可決されている。マイナンバーと地方自治を担う総務省はこうした動きをつかんでいるのか――。総務省は地方議会の可決状況について「集計は特段行っていない」(行政課)と回答。地方の声をタイムリーに把握しようとする気概は感じられなかった。
 報道などを元に、日刊ゲンダイが集計したところ、埼玉県三芳町、同鳩山町、神奈川県座間市、長野県松本市、滋賀県東近江市、京都府長岡京市、奈良県河合町の「4市3町」で保険証廃止の見直しなどを求める意見書が可決されている。
「共通番号いらないネット」事務局の宮崎俊郎氏がこう言う。
「地方議会の意見書は地元の住民や医療現場の声を吸い上げたもので、政府は重く受け止めるべきです。『現行の保険証廃止は困る』との世論は日に日に高まりつつあり、草の根で活動する地方議員がどう動くのかが、問われる局面になってきました。岩手県や4市3町以外の地方議会でも、心ある議員が意見書採択に動き、議会の意思を示してほしい」

 ANNの世論調査(7月8、9日実施)によると、来秋に現行保険証を廃止し、マイナ保険証に一体化することについて、「反対」は先月から9ポイント増え、63%に上った。
 地方議会の異議申し立てが広がれば、現行保険証存続も見えてくる。


集中企画・マイナ狂騒(17)
河野大臣まさか“一人二役”答弁? デジ庁に立ち入り検査「個情委」の担当相兼務で大混乱確実
                           日刊ゲンダイ 2023/07/12
 歴史に残る“珍答弁”となるか──。相次ぐマイナンバートラブルを受け、政府の第三者機関である個人情報保護委員会(個情委)は近く、デジタル庁に立ち入り検査を実施する方針だが、大きな問題が残る。実は河野デジタル相、個情委の担当相も兼ねており、利益相反の恐れがあるのだ。まさか、一人二役の“二刀流”で国会答弁に臨む気なのか
                ◇  ◇  ◇
 個情委は国家行政組織法3条に基づく「三条委員会」だ。高い独立性と政治的中立性が担保され、担当大臣から指揮監督を受けず、独自に権限を行使できる
 11日の立憲民主党の国対ヒアリングには個情委事務局が出席。河野氏の兼任について担当者は、個情委が「三条委員会」であると強調し、「委員長や委員が権限を独立して行使すると法的に明記されている。利益相反的な状態になることはない」と懸念払拭に必死だった。
 問題は、個情委の国会答弁がどうなるのかだ。事務局の担当者はこう答えた。
「個情委の委員長は、国会法に定める政府特別補佐人に指定されておらず、答弁できない。事務局が対応するが、大臣答弁を求められた場合は河野大臣が答弁することになる
 同じく「三条委員会」の公正取引委や原子力規制委の委員長は、政府特別補佐人に指定されており、たびたび国会で答弁している。ところが、指定のない個情委の委員長は法的に答弁が許されず、これまでに一度も発言していない。
 検査されるデジタル庁と検査する個情委。どちらに対する質問にも国会答弁に立つのは河野氏という一人二役だ。
 野党議員「トラブルの原因は、河野デジタル相が保険証廃止など強引にカード普及を進めたからだ。河野氏をしっかり調べたのか」
河野大臣「個情委の担当相としてお答えします……」
 そんなやりとりも想定されるが、これでは泥棒が泥棒を裁くようなものだ。情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長が言う。
「独立性の高い個情委の実務内容や方針について、国会で担当大臣がアレコレ答弁したり、させたりすること自体、適当ではありません。大臣が個情委に具体的な実務を指示したり、関与すべきではないからです。もし、国会審議で“責任者”の答弁が欲しいのであれば、政府特別補佐人に個情委の委員長を新たに指名して、国会で答弁できるようにすればいいだけの話です」

■デジタル庁と個情委は対峙する関係のはず
 平井卓也氏、牧島かれん氏、河野氏と歴代のデジタル相は皆、個情委の担当相を兼ねてきた。
 マイナンバー制度の運用を担うデジタル庁と、利用状況を監視する役割の個情委は本来、対峙する関係のはずだ。大臣を兼務させ、ナアナアでやってきたツケが回ってきたのだ。
 26日にはマイナンバー問題の参院閉会中審査が開かれる。河野大臣の二刀流答弁が飛び出す前に、何らかの封印策を講じるべきだ。


集中企画・マイナ狂騒(18)
自治体を襲う“マイナ疲労”で現場はもう限界! 保険証の猶予期間「一律1年間」も廃止ありきの弥縫策
                          日刊ゲンダイ 2023/07/14
 岸田政権の愚策に自治体が振り回されている。厚労省は11日、来年秋に廃止予定の健康保険証の猶予期間について、加入する保険の種類に関係なく一律で「1年間」とする方針を示した。事実上、現行の保険証の廃止時期を1年延長した格好だ。
 大企業の従業員向けの健保や中小企業向けの協会けんぽが発行する保険証と違い、自営業者などが加入する国民健康保険や、75歳以上向けの後期高齢者医療制度の保険証には有効期限が設定されている。有効期限は大体1~2年などバラバラ。厚労省は来年秋の廃止後、猶予期間1年のうちに保険証の期限が切れた場合は、その時点で使用できなくなるとしていた。
 そこで問題となったのが、猶予期間が人によってバラバラになること。例えば、国保に加入する被保険者の保険証が廃止の翌日に有効期限を迎える場合、猶予期間の意味がまったくなくなってしまう。こうした事態を避けるため、厚労省は「じゃあ猶予期間は一律1年間」とブチ上げたのだ。
 被保険者が切れ目なく医療保険を受けられるようにするのは当然としても、厚労省の新たな方針は保険証廃止ありきの“弥縫(びほう)策”。国保の保険者である自治体や組合職員にとっては負担増だ。
 11日に開催された立憲民主党の国対ヒアリングで、参加した議員から「例えば、保険証廃止の2日後に有効期限を迎える国保の被保険者がいた場合、(廃止から猶予期間の)25年秋まで1年間は使えるように有効期限を設定する必要があるのでは」との指摘が噴出。厚労省の担当者は「自治体の事務負担などを検討しながら進めていきたい」と答えるにとどめた。
 国保の保険証の有効期限はバラバラだから、切り替え時期に応じて、保険者である自治体などが「この人は残り1年2カ月有効」「この人は残り9カ月有効」と個別に判断する必要に迫られるのだ。
「厚労省は簡単に言いますが、すでにマイナンバーカードをめぐるトラブルの総点検を丸投げされる自治体の負担は重い。政府は総点検の中間報告を8月上旬に前倒しましたが、具体的な通知をいまだにもらっていません。マイナ保険証を持っていない人のために、被保険者資格を証明する資格確認書の申請・発行についても詳細を明らかにしていない状況です。デジタル化は行政負担の軽減が目的なのに、そのデジタル化のせいで、自治体が新たな業務を強いられるとは何とも皮肉です。現場は疲労するばかりです」(自治体関係者)
 保険証廃止という愚策のせいでコストと手間が増える。まさに本末転倒だ。