2023年7月5日水曜日

05- 日刊ゲンダイ シリーズ『集中企画・マイナ狂騒』(7)~(9)

 日刊ゲンダイの連載記事『集中企画・マイナ狂騒』の(7)~(9)を紹介します。

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集中企画・マイナ狂騒(7)
マイナ保険証はトラブル解消ならず…病院で作業負担が増える本末転倒、医師が怒りの証言
                          日刊ゲンダイ 2023/06/30
 マイナンバーカードと健康保険証が一体化した「マイナ保険証」のトラブル解消に向け、厚労省は29日、「オンライン資格確認利用推進本部」の初会合を開催。対策がまとめられた。本部長を務める加藤厚労相は「国民の不安や懸念の払拭を図り、安心して活用してもらえる環境整備を進める」と強調したが、むしろマイナ保険証のゴリ押しが強化され、医療現場は辟易している
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 マイナ保険証によるオンライン資格確認をめぐっては、被保険者資格があるはずの患者が「無保険扱い」されてしまうトラブルが続出。患者が医療費10割を請求されるケースが相次いだ。
 その対策として、厚労省は29日の会合で、遅くとも8月から患者負担を本来の3割などにする方針を決定。患者の加入保険が最終的に不明のままでも、病院が医療費を取りはぐれないよう補填するとした。初めてマイナ保険証を使う場合、念のために従来の健康保険証の持参も呼びかけるというから“お笑い”だ。
 新たな対策はあくまでも、国がマイナ保険証によるオンライン資格確認の利用を推進するため。オンライン資格確認はマイナ保険証を使った場合に限り、医師が診察時に患者の薬剤情報や特定健診情報を閲覧できる仕組み。服薬などの機微な情報を患者と医師が共有して診療に生かすことにより、国は「より良い医療が提供できる」とうたう。しかし、利用推進を理由にケツを叩かれる病院はたまったもんじゃない。
 問題は、これらの対策によって病院の“面倒”が増えることだ。医師が患者の薬剤情報などの個人情報を閲覧する際、本人確認と本人同意が必須。薬剤情報などの活用について、厚労省は次のように掲げている。
〈これまでも、例えば、丁寧な問診やお薬手帳による確認等により、本人であることや実際の薬剤の服用状況、併用禁忌等について確認していることから、マイナンバーカードによるオンライン資格確認により閲覧した薬剤情報等を診察等において活用する際も、同様に確認することが考えられる〉

あまりにも費用対効果が薄い
 裏を返せば、マイナ保険証によるオンライン資格確認を使わなくても、「丁寧な問診」「お薬手帳による本人確認等」でコト足りるというワケ。マイナ保険証によるオンライン確認を病院に徹底させる必要はないのだ。
 しかも、患者が初めてマイナカードで受診したり、所属する健康保険組合が変わったりした際、オンライン資格確認で得た情報と、診療申込書や問診票に記入された患者情報とを突合するよう、病院の受付窓口に要請。オンライン資格確認のウリのひとつが「事務作業の手間削減」にもかかわらず、結果として作業負担が増える。まったくもって本末転倒だ。
 そもそも、オンライン資格確認が、国の言う「より良い医療の提供」につながるかどうかさえ怪しい。
 いとう王子神谷内科外科クリニックの伊藤博道院長がこう憤る。
「端的に言って、マイナ保険証やオンライン資格確認を整備して健康保険証を廃止したとしても、医療の質が向上するとは到底、思えません。マイナ保険証によるオンライン資格確認は、CTやMRIなどの画像データをオンライン上で共有・閲覧できるようなイメージを持たれていますが、すでに画像をデジタルデータとして閲覧・共有できる別の仕組みが構築されています。薬剤情報などはお薬手帳で確認できますし、デジタル上で閲覧できてもPDFファイルなので、電子カルテに反映するには、結局、手入力に頼らざるを得ません。オンライン資格確認は言ってしまえば、デジタルデータを使っているだけで、極めてアナログ仕様なのです。メリットがあるとすれば、被保険者番号などを入力する受付窓口の手間が減るぐらい。現行の保険証を廃止してまで強行すべきシステムなのか、あまりにも費用対効果が薄いと思います。国の言う『医療の質の向上』とは一体、何なのでしょうか


集中企画・マイナ狂騒(8
マイナ総点検“突貫工事”が招くトラブルのさらなる量産 岸田首相いきなり中間報告前倒し指示
                          日刊ゲンダイ 2023/07/01
 岸田首相が「コロナ並みの臨戦態勢」と銘打った「マイナ総点検」。大風呂敷を広げ、今秋までの完了を掲げるが、具体的な中身はいまだに示されていない作業を担う自治体は準備すらできない状況なのに、岸田首相は中間報告の前倒しを指示。日程ありきの突貫工事は新たなトラブルを量産しかねない。
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 岸田首相は6月30日、河野デジタル相、松本総務相、加藤厚労相と官邸で面談。総点検の中間報告を8月上旬に繰り上げ、併せて国民の不安を取り除く対策を取りまとめるよう指示した。岸田首相は21日にマイナポータルで閲覧できる全29項目を対象に、ひも付けの誤りがないかを点検し、8月末に中間報告をまとめる方針を示していた。

 二転三転の総点検に、自治体はついていけるのか──。東京・世田谷区に聞くと「今のところ(30日夕方)、国からは点検の仕方や対象について何も指示はありません。中身が見えない中で準備もできません。中間報告の前倒しも報道で初めて知りました。そもそも、これまで総点検のスケジュールすら国からは何も指示されていない状況です」(マイナンバー担当課の担当者)と困惑を隠せない様子だった。

「カード普及ありき」と同じ過ちを繰り返すだけ
 自治体には国から何ら具体的な指示はなく、報道で情報を収集するしかないのである。
「自治体への思いやりに欠けるひどい対応です。今、続出しているトラブルは、政府がマイナカードの普及を急ぐあまり、自治体の業務が膨れ上がったから生じました。その反省もなく、総点検も自治体を追い込む形で進めている。これでは同じ誤ちを繰り返すだけ。詰めの甘いチェックになり、ミスも起きてしまう。点検後にトラブルがなくなるとは到底思えません」(「共通番号いらないネット」事務局の宮崎俊郎氏)
 マイナトラブルがしぶといことも分かってきた。富士通の証明書交付サービスでトラブルが再発。28日に福岡県宗像市の端末で別人の住民票が交付され、再点検のため同じシステムを使う全自治体でサービスを停止した。松本総務相は「本当に申し訳なく思っている」と陳謝に追い込まれた。
 同サービスは今年3月以降、トラブルが相次ぎ、5月からシステムを停止。富士通は再発防止策を施し、6月18日から再開したばかりだった。
「相次ぐトラブルを受け、富士通は“汚名”を返上すべく、入念に対策を実施し、サービス再開にこぎつけたはずです。それでもすぐに再発してしまった。一方、総点検はシステムを止めず、しかも極めてタイトな日程で行おうとしている。いったん、マイナ関連のシステムをすべて停止し、自治体が無理なく作業を行えるようなスケジュールで実施すべきです」(宮崎俊郎氏)
 マイナ保険証のシステムもトラブルが後を絶たないが、厚労省はシステムを継続しながらの弥縫策に終始している。突然の総点検前倒しに付き合わされる自治体や国民は、ますます不安になる。


集中企画・マイナ狂騒(9)
河野大臣マイナカード“名称変更”発言で蒸し返し…麻生太郎氏「必要ねぇもん」大放言の中身
                         日刊ゲンダイ 2023/07/03
 秘書に対する暴言が話題を集めた元衆院議員じゃないが、「違うだろー!」とツッコミを入れたくなる。河野デジタル担当相は2日のNHK「日曜討論」で、マイナンバーカードの名称変更に言及。来秋の健康保険証の廃止は「国民の不安払拭」が大前提と繰り返している割に、カードの名称変更が有効策だとでも思っているのか。
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 河野大臣は「日曜討論」で、「マイナンバー制度とカードが世の中で混乱している」と指摘。2026年中にも実施するカードデザインの変更を念頭に、「次の更新でマイナンバーカードという名前をやめた方がいいのではないか」と主張した。
 別にカードの名前を変えたところで、政府に対する国民の不信感が払拭されるわけではない。問題の本質は、被保険者情報の誤紐づけなどのトラブルが相次ぐ中でもマイナカードの活用拡大をゴリ押ししたり、カード普及のために健康保険証の廃止を掲げたりする岸田政権の強硬姿勢だ。
 しかし、世論調査で国民の7割超が「マイナカードと健康保険証の一体化」に「反対している」との結果が出ても、河野大臣に反省している様子はない。「国民の不安払拭」を繰り返す一方、トンチンカンぶりを日頃の大臣会見でも発揮している。
 先月27日の会見で、河野大臣は記者から「どういう状況に至ったら『国民の不安払拭』と言えるのか」と問われ、次のように答えた。
「3月に比べて、4月、5月、(マイナ)保険証を使って下さる方、どんどん増えていますので、多くの方に使っていただいて『特に問題ないね』ということが確認されれば、だいぶ不安も和らいでいくというふうに思います」

この親分にしてこの子分あり
 河野大臣が所属する派閥の会長、つまり“親分”の麻生自民党副総裁も負けていない。マイナカードをめぐる放言は、“子分”より強烈である。
 安倍政権の副総理兼財務相だった麻生氏が当時、定例会見(2019年9月3日)で言い放った一言がSNS上で注目を集めている。マイナポイント事業の意義を問われた麻生氏は、記者団に「(マイナカードを)持ってる人?」と確認。「半分以下だな」「その程度なんだよ」と続け、こう言い放った。
「持ってるって手を挙げた人? 何に使った? (記者から『使った機会ないです』) 持ってるけど、使ったことないんだよね。ほとんどないはずだね。俺に言わせたら、必要ねぇもん」
 麻生氏は当時、政権のナンバー2。「必要ねぇ」と分かっているのだったら、さっさとマイナカードの普及を止められる立場だったはずだ。
 ところが、麻生氏は会見で「使う必要がないものにいくらカネをかけているか、知ってますか?」と問いかけた後、「これ(マイナンバー制度)をやり始めるときに、(メディアが)個人情報の漏洩になるからって言って普及しないようにしちゃったのだよね」と責任転嫁。挙げ句に「俺も正直言って、(マイナカードを)使ったことは1回もない」などと、あっけらかんとしていた。
 ジャーナリストの横田一氏がこう言う。
「マイナカードの申請率は現在、人口の8割弱に達していますが、政府がマイナポイントで国民を釣って増やしたのであり、必要性に迫られたからではありません。麻生さんの『必要ねぇ』発言はある意味、正論ですが、自分で必要ないと言っているものを普及させようとしてきたのだから無責任極まりない。河野さんも『国民の不安払拭』と言いつつ、何をもって『不安払拭ができた』と言えるのか、具体的な数値目標や基準は決して答えようとしない。まるで本気度が感じられず、秋までに完了するとしている『総点検』は単なるアリバイづくりに終わりそうです」
 麻生氏も河野大臣も、どちらも引けを取らない無責任ぶり。“この親分にして、この子分あり”だ。