2023年7月1日土曜日

日刊ゲンダイ シリーズ『集中企画・マイナ狂騒』(1)~(3)

 別掲の記事でも紹介しましたが、日刊ゲンダイは現在『集中企画・マイナ狂騒』をシリーズで掲載しています。その(1)~(3)を紹介します。
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集中企画・マイナ狂騒(1
マイナカードのあり得ない“欠陥”システム!「なりすまし防止」どころか「誰でも顔認証」の大問題
                                                      日刊ゲンダイ 2023/06/2
「新型コロナウイルス対応並みの臨戦態勢で、国民の信頼を一日も早く回復するべく全力を尽くしてほしい」──。
 岸田首相は21日、マイナンバーに関する省庁横断の情報総点検本部を設置。その初会合でハッパをかけたが、拙速なマイナカード普及がトラブルを招いているのに、何が「臨戦態勢」だ。信頼回復を目指すなら、まずは来年秋に現行の保険証を廃止してマイナンバーカードに一体化する方針を撤回したらどうか。
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 総点検の対象は、マイナ保険証なども含め、マイナンバーと紐付けられた全29項目に及ぶ。岸田首相は秋までの点検完了を関係省庁に命じたが、実はマイナ保険証の“存在意義”が揺らぐ重大問題が発生している。
 全国保険医団体連合会(保団連)が21日、マイナ保険証をめぐるトラブルについて会見。マイナ保険証のオンライン資格確認システムを導入した医療機関の65%が、保険証を読み取れないなどのトラブルを経験したとの調査結果を発表した。
 マイナ保険証をカードリーダーにかざした際、「無効・該当資格なし」と表示されたり、ICチップの破損などの不具合によってマイナ保険証を読み取りできなかったり、トラブルの内容はさまざま。なかでも大問題なのがナント「誰でも顔認証」できてしまうあり得ないトラブルだ。
 保団連の竹田智雄副会長は会見で、マイナ保険証をカードリーダーで読み込んで本人確認をする際に「他人の顔認証でも認証できるケースが複数報告されている」と指摘。実際、千葉県保険医協会によれば、「ある医療機関がオンライン資格確認を導入するにあたり、スタッフ同士で顔認証を試したところ、マイナカードの所有者本人ではない人が認証されてしまった」(事務局)という。
 そもそも、マイナ保険証を使ったオンライン資格確認の導入は、健康保険証のなりすまし利用防止が理由のひとつ。受付スタッフがマイナカードの写真と本人の顔を照らし合わせる手間を省くことで、受付業務の負担軽減にもつながるとの触れ込みだった。

■「政府は実際に何が問題なのか把握して」
 ところが、実態は他人でも顔認証されてしまうユルユル過ぎるシステム。オンライン資格確認を導入している天台歯科医院(千葉市)の石毛清雄院長がこう指摘する。
「本人確認は、カードに記憶されている本人の顔と、カードリーダーに映した顔とを機械が照合する形で行われます。私のマイナカードをカードリーダーに読み込み、試しに女性の顔で顔認証したところ、結果的に認証されてしまいました。カードに入っている顔と、カードリーダーに映した顔が不一致のため暗証番号の入力画面に遷移するのですが、顔が違っていても、暗証番号を入力すれば認証されてしまったこれでは、わざわざ顔認証を導入している意味がありませんし、なりすまし防止に役立ちません。暗証番号を共有すればいいわけですからね」
 ポンコツなうえ、逆に医療機関の業務負担になりかねない。

「受診者の多くは高齢者。カードリーダーに顔を映しながら、画面の操作をするだけでも一苦労です。当医院では健康保険証の持参をお願いしていますので、トラブルがあってもすぐ対応できますが、カードリーダーだけで認証している医療機関では本人確認の操作に手間取って長蛇の列ができてしまった、なんてことになりかねません。患者さんには、『練習としてウチで使ってみたら』と呼びかけていますが、なぜ受診者や医療現場が苦労を強いられなければならないのか。政府には、きちんと現場に寄り添い、実際に何が問題なのか把握してもらいたいです」(石毛院長)
 なりすましを防止できない欠陥システムでも、岸田首相はマイナ保険証への全面移行を止めない。今こそ、ご自慢の「聞く力」を発揮すべき時じゃないか。


集中企画・マイナ狂騒(2
国民の“マイナ離れ”が岸田政権を直撃! 拡大するカード自主返納、申請・利用登録も減少
                           日刊ゲンダイ 2023/06/24
 マイナンバーのトラブルが後を絶たない。岸田首相は「新型コロナ対応並みの臨戦態勢で国民の信頼を一日も早く回復する」と鼻息が荒いが、国民の“マイナ離れ”は日に日に加速。マイナカードの自主返納の動きが広がる一方、カードの新規申請が減少している。
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 マイナカードは国外転出や有効期限切れの場合に返納する必要があるが、「使いたくない」「保有するのが不安」など自分の都合で「自主返納」することもできる。自主返納しても、いったん付与されたポイントは利用可能だ。
 石川県金沢市ではマイナカードの自主返納が急増。4月1件、5月3件とほとんどなかったが、6月は21日時点ですでに19件に上る。「6月以降、連日、マイナンバー関連のトラブルが報じられ、不安を抱き返納するケースが多い」(市民課の担当者)と答えた。
 神奈川県平塚市でも4月1件、5月0件だったが、6月(22日時点)は7件が自主返納されている。
 人口の多い東京・世田谷区や大阪市にも問い合わせたが、自主返納として集計していなかった。総務省も全国の件数を把握していないという。ただ、金沢や平塚のように、全国的にも自主返納が増えている可能性が高い。

運用しながらの総点検はあり得ない
「共通番号いらないネット」事務局の宮崎俊郎氏がこう言う。
「いったんカードを返却してしまうと、再発行には1000円の手数料がかかる。健康保険証の資格確認を毎年取得する手間も生じる。それでもカードを返すのはよほどのことです。切実に不安を感じているからでしょう。あるいは抗議の意思が込められているケースもあるのかも知れない。メリットを期待してカードを取得したが、デメリットばかりと感じ自主返納する動きが広がっているのでしょう。今後さらに増えると思われます」
 厚労省が5月に実施した調査によると、マイナ保険証の利用者の56.5%が「メリットなし」と回答。トラブルが表面化した6月以降なら、メリットどころか、デメリットを感じる利用者が増えているのは間違いない。
 岸田首相は総点検を指示したが、今、起きている混乱は政府がマイナンバーをゴリ押ししたからだ。自分で炎上させ、“火消し”するのはマッチポンプに他ならない。
 岸田首相の指示を受け総務省は22日、会合を開いた。
走りながらの総点検はあり得ない。いったん、マイナンバー関連のシステムはすべて運用を中止してから、総点検すべきです。例えば、このまま運用を続ければ、他人の医療情報をもとに診療や投薬をしてしまう恐れもある。発覚していないだけで、すでにそのような事案が起きている可能性も否定できません」(宮崎俊郎氏)

 全国保険医団体連合会もマイナ保険証の「運用停止」を訴えている。
 マイナ離れを示す数値は他にもある。デジタル庁が公表しているデータによると「マイナカードの申請」「健康保険証としての利用登録」「公金受取口座の登録」の件数(6月5日の週)は、いずれも減少傾向だ。
 コロナ禍とは違い、岸田首相が運用停止を決断すればマイナ禍は収束する。「令和の一揆」は岸田首相を動かすか。


集中企画・マイナ狂騒(3
自治体「マイナ激務」で早くも悲鳴…無責任政権“総点検”丸投げ、尻ぬぐい仕事が次々発生
                          日刊ゲンダイ 2023/06/27
 マイナカードのトラブル続出を受け、岸田首相が立ち上げた「マイナンバー情報総点検本部」(本部長・河野デジタル相)は「秋までの総点検」を掲げている。そのため、膨大な点検作業を担う自治体などからは悲鳴が上がっている。
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「マイナカードの総点検は岸田政権の命運がかかっている。確実に秋までに完了させ、しかも点検後にトラブルが発覚することも許されない。国は迅速かつ精度の高い点検を自治体側に求めていくことになります」(霞が関関係者)
 総務省が自治体との連絡役として60人の職員を設置したのも“お目付け”ということだ。しかし、岸田政権が無責任なのは、総点検を自治体に“丸投げ”していることだ。
国は期限だけを示し、手法や基準は示さず、現場に丸投げ。どうやって作業を進めるのか、自治体は頭を抱えています」(都内自治体関係者)

■小池都知事や保坂世田谷区町もカンカン!
 早速、かみついたのが小池都知事だ。「現場の多くは区市町村で非常に膨大な量になる。『秋まで』は、なかなか厳しいのではないか。(国は)作業の方針を明確に示してほしい」とチクリ。さすが、風を読むのに長けている。
 世田谷区の保坂区長も「自治体の資源を短期的に集中させ、人海作戦で検証してくれというのは筋が違う。どう考えても不合理だ」とカンカンだ。

引っ越しシーズンは大混雑が必至…
 総点検以外にも自治体ではマイナンバー関連の負荷が山積みだ。
【自主返納】
 保有することへの「不安」からマイナカードの自主返納が急増している。広島市は23日、自主返納が5月以降、107件に上ったと発表。石川、富山、神奈川県平塚市でも自主返納が急増している。返納対応は信頼されるカードなら、発生しなかった業務だ。
【資格確認書】
 来年秋に予定されている現行の健康保険証の廃止後、マイナ保険証を持たない人に発行される「資格確認書」は、膨大な件数になりそうだ。現在、マイナカード保持者は人口の約73%。このうち健康保険証として利用登録しているのは約7割で人口の半分程度だ。仮に登録数が横ばいで推移すれば、自治体は毎年、住民の半数に資格確認書を交付するハメになる。世田谷区なら約45万人分だ。「資格確認書発行課」のような新部署がつくられるかもしれない。
【引っ越し】
 引っ越しの際、新自治体への「転入届」の提出は、マイナポータルでは行えないため、引っ越す日から14日以内に来庁し、提出する必要がある。「これを怠れば、マイナカードは失効します」(デジタル庁の担当者)。
 カードが失効すれば、再発行に費用は1000円、期間は1カ月以上かかる。病院に行けば、「無保険者扱い」になり、10割負担を請求される。失効を避けたい住民が押しかけ、引っ越しシーズンの役所は大混雑が必至だ。
「共通番号いらないネット」事務局の宮崎俊郎氏がこう言う。
「岸田首相が精度の高い総点検をしたいなら、マイナンバー制度の運用をいったん、停止してから行うべきでしょう。スケジュールについても自治体と相談し、無理のないものにする必要がある。結局、来秋の保険証廃止の方針を維持しているので、逆算して今秋までの総点検となっているのでしょう。時間ありきの点検ではうまくいくはずがありません」

 “マイナ激務”に追われる自治体の職員が気の毒でならない。