2023年7月15日土曜日

15- ロシアと中国に関する西側の偽りの物語(賀茂川耕助氏)

 外国記事を紹介する賀茂川耕助氏による「耕助のブログ」に、掲題の記事が載りました。
 原記事は発信が昨年8月とやや古いですが…
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No. 1855  ロシアと中国に関する西側の偽りの物語
                       耕助のブログ 2023年7月14日
             The West’s False Narrative about Russia and China
               by Jeffrey Sachs https://www.jeffsachs.org (August 22 2022)

世界が核による破局の淵に立たされているのは、西側の政治指導者たちがエスカレートする世界紛争の原因について率直でなかったことが少なからず影響している。西側諸国は崇高であり、ロシアと中国は邪悪であるという執拗な西側の説明は愚かで非常に危険である。それは世論を操作するための試みであり、非常に現実的で差し迫った外交に対処するためのものではない。
西側の物語の本質は、米国の国家安全保障戦略に組み込まれている{1}。米国の考えの中核は、中国とロシアは「米国の安全と繁栄を侵食しようとしている」和解できない敵であるというものだ。米国によれば、これらの国々は「経済をより不自由で不公正なものにし、軍備を増強し、情報やデータを統制して社会を抑圧し、影響力を拡大しようとしている」というのだ。

皮肉なことに、1980年以来、米国は少なくとも15回は海外で戦争をしているが(アフガニスタン、イラク、リビア、パナマ、セルビア、シリア、イエメンなど)、中国は参戦しておらず、ロシアは旧ソ連以外では1回(シリア)しか参戦していない。米国は85カ国に軍事基地を持ち、中国は3カ国、ロシアは旧ソ連を以外では1カ国(シリア)にしかない。

ジョー・バイデン大統領はこの筋書きを推進し、現代における最大の課題は、「自国の力を高め、世界中に影響力を輸出・拡大しようとし、今日の課題に対処するためのより効率的な方法として自分たちの抑圧的な政策や慣行を正当化している」独裁国家との競争だと宣言している{2}。米国の安全保障戦略は一人の米大統領の仕事ではなく、主に自律的で厳重な秘密の壁の背後で運営されている米国安全保障機構の仕事である

事実を操作することによって中国とロシアに対する過剰な恐怖が西側諸国の国民に売り込まれている。30年前、ジョージ・W・ブッシュ・ジュニアは米国の最大の脅威はイスラム原理主義であるという考えを国民に売り込んだが、その際、アフガニスタンやシリアなどで米国の戦争に参加させるためにジハード⇒聖戦主義者を作り、資金を提供し、配備したのはCIAサウジアラビアなどであったことは言及されなかった。

あるいは1980年のソビエト連邦によるアフガニスタン侵攻は、西側メディアではこの侵攻はいわれのない攻撃だと描写した。しかし数年後、実際にはソビエトの侵攻は、侵攻を誘発するCIAの計画によるものだったことを私たちは知ったのだ!{3}同様の誤情報はシリアでもあった。2015年以降、西側の報道機関はプーチンがシリアのバッシャール・アル=アサドに軍事援助を行ったことを報じたが、米国が2011年からアル=アサド打倒を支援し、ロシアが到着する何年も前に、CIAがアサド打倒のための大規模な作戦(ティンバー・シカモア)に資金を提供していたことは触れなかった。

また最近では、ナンシー・ペロシ米下院議長が中国の警告にもかかわらず無謀にも台湾に飛んだとき、G7のどの外相もペロシの挑発行為を批判せず、G7の閣僚はそろってペロシの訪中に対する中国の「過剰反応」を厳しく批判したのである。

ウクライナ戦争に関する西側の物語は、プーチンがロシア帝国を再建するためにいわれのない攻撃をした、というものだ。しかし実際の歴史は、西側がソビエト連邦のミハイル・ゴルバチョフ大統領に対してNATOが東方に拡大しないという約束をしたことから始まり、その後、4波のNATO拡大が行われた。1999年には中央ヨーロッパの3つの国が組み入れられ、2004年には黒海およびバルト諸国を含む7つの国が組み入れられ、2008年にはウクライナとジョージアの拡大を約束し、2022年には中国を狙い撃ちするためにアジア太平洋地域の4人の指導者をNATOに招いた

西側のメディアは、ウクライナの親露派大統領ヴィクトル・ヤヌコビッチの2014年の打倒における米国の役割、ミンスク合意の保証国であるフランスとドイツ政府がウクライナに対してその約束の履行を迫らなかったこと、トランプ政権とバイデン政権が戦争の前にウクライナに膨大な量の武器を送り込んでいたこと、さらにはNATOのウクライナへの拡大についてプーチンとの交渉を拒否した米国の姿勢についても触れていない。

もちろんそれは純粋に防衛的なものであり、プーチンは何も恐れるべきではないとNATOは言う。言い換えれば、アフガニスタンとシリアにおけるCIAの作戦、1999年のNATOによるセルビア空爆、2011年のNATOによるモハンマル・カダフィの打倒、15年間にわたるNATOによるアフガニスタン占領、プーチンの失脚を求めたバイデンの「失言」(もちろんこれは失言などではない){4}、ウクライナにおけるアメリカの戦争目的はロシアの弱体化であると述べたロイド・オースティン米国防長官の発言{5}などにプーチンは注意を払うべきではない、ということだ。

これらの中核には米国が世界の覇権国であり続けるために中国とロシアを封じ込む、あるいは打ち負かすために、世界中で軍事同盟を強化していこうとする米国の試みがある。これは危険で妄想的で、時代遅れの考えだ。米国は世界人口のわずか42%であり、世界のGDP(国際価格で測定)の16%にすぎない。実際、G7のGDPの合計はBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のそれを下回っており、人口はG7が世界の6%であるのに対し、BRICSは41%を占める。
世界の覇権を握ることを夢見る国は米国だけである。米国は真の安全保障の源泉を認識する時が来ている。それは内部の社会的結束と世界各国との責任ある協力であり、覇権という幻想ではない。このような外交政策の見直しによって、米国とその同盟国は中国やロシアとの戦争を回避し、世界が環境、エネルギー、食糧、社会のさまざまな危機に立ち向かうことができるだろう。

何よりも重要なのは、この極めて危険な時期にヨーロッパの指導者たちは真のヨーロッパの安全の源泉を追求すべきである。米国の覇権ではなく、すべてのヨーロッパ諸国、特にウクライナを含むすべての国の合法的な安全保障利益を尊重するヨーロッパの安全保障体制である。そこには黒海へのNATOの拡大に抵抗し続けるロシアも含まれる。ヨーロッパはNATOの非拡大とミンスク合意の履行がウクライナでのこの悲惨な戦争を回避できたという事実について反省するべきである。現段階では、軍事的なエスカレーションではなく、外交こそが真のヨーロッパと世界の安全保障の道なのである。

Links:
{1} https://trumpwhitehouse.archives.gov/wp-content/uploads/2017/12/NSS-Final-12-18-2017-0905.pdf
{2} https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2021/12/09/remarks-by-president-biden-at-the-summit-for-democracy-opening-session/
{3} https://dgibbs.faculty.arizona.edu/brzezinski_interview
{4} https://www.npr.org/2022/03/26/1089014039/biden-says-of-putin-for-gods-sake-this-man-cannot-remain-in-power
{5} https://www.washingtonpost.com/world/2022/04/25/russia-weakened-lloyd-austin-ukraine-visit/