2023年7月8日土曜日

集中企画・マイナ狂騒(10)~(12)

 マイナカードを巡るトラブルの根本的原因は「河野デジタル相が無理なスケジュールを決めて手柄を立てようとした」ことにあります。その結果がこの有様ですが、それでも政府は決して立ち止まろうとしません。
 いま必要なのは一旦立ち止まることです。それなのに面子のためかそれとも経済界の目が怖いのか、いずれにしてもそうしないのは「頭が悪い」というしかありません。5日の閉会中審査で立民の西村智奈美代表代行は「マイナンバー制度を進める上で、内閣で一番障害になっているのは河野氏なのではないか」と述べました。
 日刊ゲンダイの連載記事『集中企画・マイナ狂騒』の(10)~(12)を紹介します。
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集中企画・マイナ狂騒(10)
現行保険証廃止ゴリ押しなら…医療機関のマイナトラブル「年間600万件」衝撃の推計データ!
                          日刊ゲンダイ 2023/07/04
 医療機関でのマイナカードのトラブルが止まらない。岸田政権は来年秋までにマイナカードと連携した「マイナ保険証」に一本化し、現行の健康保険証を廃止する方針を崩していない。保険証が廃止されたら、どうなるのか──。全国保険医団体連合会(保団連)が3日発表した「トラブル推計」は衝撃的だ。
 マイナ保険証のトラブルについて保団連は5月23日から6月19日に調査。41都道府県約1万の医療機関から回答があった。1万件のうち、8437機関(84%)がマイナ保険証のシステムを運用しており、このうち「トラブルを経験した」は、ナント5493機関(65%)に上る。トラブルは、「無効・該当資格なし」3640件「無保険扱いで10割請求」1291件など。保団連はこの調査をもとに、現行保険証が廃止された場合のトラブル件数を推計した。
 保団連の調査は1万件。現在、全国に18万ある医療機関で発生すれば、トラブル件数は9万8000件(5493件×18)だ。
 現在のマイナ保険証の所持率は約5割だが、来秋の現行保険証廃止後も5割と仮定。残り5割は資格確認書を利用する。最新の外来でのマイナ保険証利用率は4.5%に過ぎないが、保険証が廃止されれば、所持者(5割)は100%マイナ保険証を利用することになる。4.5%から22倍だ。これに所持率5割を反映させれば11倍。全体のトラブルは108万件(9万8000×11)になる。 保団連の調査は2~3カ月間で生じた件数なので年間400万~600万件のトラブルが生じる計算だ.

窓口立ち往生、過大・過少請求、誤診療…
 年間400万~600万件というトラブル件数もハンパじゃないが、保険証廃止後のトラブルの内容も深刻だ。顔認証がうまくいかなかったり、暗証番号を忘れれば、窓口で立ち往生。現在は現行の保険証で確認できるが、廃止後は確認する手だてがない。マイナ保険証は負担割合の表記がなく、費用も確定できない。過大・過少請求が頻発する恐れがある。
 カードに他人の医療情報がひも付けされていれば、誤診療や誤投薬の懸念もある。デジタル化に逆行した光景だ。
 保団連の本並省吾事務局次長はこう言う。
「現在、医療機関でマイナ保険証のトラブルが発生した際、7割以上が現行の保険証で対処しています。現行の保険証があるから何とかなっているのです。現行の保険証が廃止されてしまうと、マイナ保険証によるトラブルが起きても、対処できなくなります。医療機関は所属の保険組合に請求書を送れなくなり、保険診療として成り立たなくなります」
 マイナ保険証の一本化を機に廃院する医療機関も増えている。保団連によると、3月の医療機関の廃業数は約1000件に上る。今年4月にマイナ保険証のシステム導入が義務化されたことが大きな要因だ。さらに、保険証が廃止される来秋までに廃院を予定し、システム導入を見送った医療機関は1000件と推計されている。
 JNNの世論調査によれば、来秋の保険証廃止について「延期すべき」と「方針を撤回すべき」との回答は合わせて73%に上る。
 保険証廃止を貫く岸田政権は正気の沙汰ではない。


集中企画・マイナ狂騒(11)
マイナ保険証「暗証番号なし」の意味不明 もはや政府の方針転換は“異次元のヤケクソ対応”
                          日刊ゲンダイ 2023/07/05
「♪違う違う、そうじゃ、そうじゃない~」──。そんな総ツッコミの“大合唱”を待っているのか。
 マイナンバーカードと健康保険証を一体化する「マイナ保険証」をめぐり、政府が申請・交付の方針を転換。安全性を担保していたはずの「暗証番号」を設定しなくても、マイナ保険証として利用できる措置を打ち出した。ますます、現行の保険証を廃止する意味が分からなくなってきた。
                ◇  ◇  ◇
 松本総務相は4日の閣議後会見で、マイナカードの管理に不安を感じる高齢者などを対象に、今年11月ごろから暗証番号の設定がなくても交付できるようにする方針を表明。「認知症などで暗証番号の管理に不安がある方が安心してカードを利用でき、代理人の負担軽減にもつながる」と胸を張った。
 新たな方針について、松本氏は「福祉関係をはじめ、関係されると思われる方々の声を聞いてきた」と“聞く力”を強調。確かに高齢者施設から入居者のマイナカードや暗証番号の管理に苦慮する声が上がっていたが、まさかの「暗証番号なし」とは、異次元のヤケクソ対応だ。河野デジタル相がマイナカードの「名称変更」に言及したのに続き、もはや“ツッコミ待ち”のボケをかましているとしか思えない。
 大前提としてマイナ保険証の利用には、カード申請の際、電子証明書の発行と暗証番号の設定が必須。暗証番号「なし」だと、カードの個人向けサイト「マイナポータル」や、各種証明書のコンビニ交付サービスなどは利用できなくなる。
 つまり、保険証としては使えても、マイナカードを持つ意義はほぼ失う。メリットがあるとすれば、医療機関の窓口でオンライン資格確認ができるぐらい。暗証番号なしでも、顔認証か目視で確認可能だ。

「持つ持たないにかかわらず、質の高い医療を担保するのが政府の役目」
 マイナ保険証でオンライン資格確認を行えば、病院側が患者の薬剤情報や特定健診などを閲覧できるため、政府は「より良い医療につながる」とうたうのだが、このサービスだって閲覧情報が限られることなどから、現場の医師に「医療の質の向上につながるとは思えない」と指摘されるシロモノだ。
 メリットが薄いばかりか、暗証番号を不要にしたところで、カードを管理する側の負担は決して減りはしないのだ。
 マイナ保険証に必要な電子証明書は5年に1回、わざわざ役所窓口に行って更新しなければならない。有効期限2年の現行の保険証よりも長いが、現行の保険証は有効期限が切れる前に、黙っていても保険組合から新しい保険証が届く。役所窓口での更新が必要なマイナ保険証の方が面倒くさいのは言うまでもない。
「正直、デメリットしか感じられません。そもそも、認知症の方にまでマイナカードを持たせること自体、おかしな話です。持つ持たないにかかわらず、質の高い医療を担保するのが政府の役目です。カードを持たせることが政府の目的になっているのは本末転倒。こんなむちゃくちゃなデジタル化が、豊かな社会の実現につながるでしょうか」(「共通番号いらないネット」事務局の宮崎俊郎氏)
 現行の保険証が廃止された場合、マイナカードを持たない人は毎年、被保険者資格を担保する「資格確認書」を申請しなければならない。これまた面倒極まりない。
 公明党の山口代表は4日、資格確認書について、本人からの申請を待たずに「プッシュ型でお届けするということも検討していただきたい」と政府に注文を付けた。「プッシュ型で送付する」なら、現行の保険証のままでいい。意味不明だ。
「政府は『保険証廃止は、国民の不安払拭が大前提』と繰り返していますが、本気でそう思うなら、現行の保険証を維持すれば済む話です」(宮崎俊郎氏)
 保険証廃止の方針を曲げない“大ボケ”政権には、ツッコミを入れまくるしかない。


集中企画・マイナ狂騒(12
マイナ保険証「割安加算額」の落とし穴! 非のない患者と医療機関に“いわれのない負担増”は大問題だ
                          日刊ゲンダイ 2023/07/06
「大変申し訳ない」──。5日の衆院閉会中審査で河野デジタル相は一連のマイナカードのトラブルについて陳謝したが、火種は尽きない。医療費負担をめぐって新たな問題が浮上している。マイナ保険証を利用しようとした患者に、“いわれのない負担”が生じる可能性が出ているのだ。
                ◇  ◇  ◇
 マイナカードの普及をもくろむ厚労省は、今年4月から現行保険証を使うと医療費が割高になる“ムチ政策”を拡充させた。マイナ保険証なら初診時の加算は20円(3割負担の場合6円)、再診時はゼロだが、現行保険証を利用すると、初診時60円(同18円)、再診時20円(同6円)と大きな価格差がついている。
 割高になるのはバカらしいとマイナ保険証を登録した国民も多いはずだ。
 ところが、システムのポンコツぶりが次々と露呈し、マイナ保険証が使えないケースが続出。全国保険医団体連合会(保団連)の最新調査(1万医療機関が回答)によると、システムを運用している8437機関の65%にあたる5493機関がトラブルを経験している。
「無効・該当資格なしと表示」が3640件、「マイナ保険証の不具合で読み取り不能」が1101件、「カードリーダー等の不具合で読み取り不能」が2660件も発生している。
 トラブル発生時、「現行の健康保険証を確認してトラブルへ対処」は74%に上る。

厚労省「近く方針を示す」
 問題なのは、マイナ保険証を使おうとしたが、システムにはじかれ、現行保険証を利用した場合、初診や再診の加算額は「マイナ」と「現行」のどちらが適用されるのか、ということだ。もし、現行保険証が適用されると、マイナ保険証を取得したのに、患者は割高な料金を請求されることになる。厚労省に聞いた。
「今のところ、医療機関の判断で対応しています。現段階では厚労省からは方針は示していません。現在、過去の支払い分に遡るのかも含めて検討しており、近いうちに基準を示したい」(保険局医療課)
 驚くべき回答だ。厚労省が方針を示さないため、本来、どこの医療機関で受診しても一律のはずの加算額が、医療機関によってマチマチになってしまっているようなのだ。
 今後、厚労省が割安である「マイナ適用」という方針を示せば、現行保険証の加算額を払った患者は払い過ぎになり、割高の「現行適用」になるなら、「マイナ保険」扱いにしていた医療機関が取り損ねることになる。医療関係者が言う。
「厚労省の方針が示された場合、過去の支払いに遡って請求額を修正するのは実務上、不可能に近い。患者が本当はマイナ保険証を利用しようとしたのか、それとも最初から現行保険証を利用したのか、など記録もなく、検証できません。ただ、過去に遡らないとなると、どこの医療機関で診てもらったかで加算額に差が生じ、患者間で不公平が起きてしまう。どちらにしても大問題です」
 このままだと、マイナ保険証を持っているのに従来保険証の加算額を払った患者は、何ら責任がないのに大損を食らうことになる。
「共通番号いらないネット事務局」の宮崎俊郎氏がこう言う。
「医療機関と患者に全く非はなく、政府のカード普及政策と厚労省の後手対応が引き起こした人災です。そもそも、マイナ保険証と現行保険証との間で医療費に差をつけること自体、問題だと思います。システムがうまく回っていない以上、加算額に差を設けるのは直ちにやめるべきです」
 このまま突き進めば、河野デジタル相、加藤厚労相、松本総務相の“ポンコツ推進3大臣”は陳謝を繰り返すことになりそうだ。