2023年7月15日土曜日

安倍元首相は銃撃されて亡くなる前、ウクライナ問題で何を語っていたか

 外交評論家の孫崎享氏が掲題の記事を出し、昨年、ロシアのウクライナ侵攻直後の2月27日に安倍元首相がフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」で語った内容を紹介しました。

 それは「ロシアの侵攻には道理がある」という内容のもので、いわゆる体制側の人物の発言としては極めて珍しいものでした。
 安倍氏は当時まだ隠然とした権力を持っていたので、普通であれば広く流布されても不思議はなかったのですが、日本の言論・報道界では完全に無視されました。それは米国の意図に反する内容だったからと思われます。

 この記事では触れていませんが、孫崎氏は別の動画などで、銃撃された直後に安倍氏を治療した医師が、「弾丸は安倍氏の右側の喉から入り左肩に抜けている」と説明したこと受けると、それは山上容疑者の位置から発射された弾丸ではあり得ないので、真犯人は別にいるのではないかと暗示しています。
 そうなるとケネディ大統領暗殺事件並みの謀略事件ということになります(この事件の関連文書公開は当初の期限が再延期されたためまだです)。興味のある方はネットで関連の動画などを検索してみてください。
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日本外交と政治の正体 孫崎享
安倍元首相は銃撃されて亡くなる前、ウクライナ問題で何を語っていたか
                      孫崎享 日刊ゲンダイ 2023/07/13
                        (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 岸田首相は安倍元首相一周忌に際し、「安倍氏の遺志をしっかり継いでいく」と挨拶した。報道では、安倍元首相の遺志として憲法改正や軍備費増強などに言及している。
 さて、今、世界の最重要課題といえば、ウクライナ問題であろう。では、安倍氏はウクライナ問題で何を語っていたか。
 安倍氏は銃撃されて亡くなる前、派閥の領袖として約100人の国会議員を率いる政治家だった。安倍氏は首相時代、ロシアのプーチン大統領と27回も会談し、西側の政治家の中で最もプーチン氏の考えを知っている政治家であった。
 ロシア軍が2022年2月にウクライナに侵攻した時、日本のマスコミは連日のように「プーチン大統領の意図は何か」と報じていた。当然、安倍氏の考えが報じられると思っていたが、それはなかった。なぜだろうか。当時、わずかにみられた報道を振り返りたい

 安倍氏は22年2月27日のフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」でこう発言していた。
▽プーチンの意図は、NATOの拡大、それがウクライナに拡大するということは絶対に許さない。東部2州の論理でいえば、かつてコソボが分離・独立した際には西側が擁護したではないか。その西側の論理をプーチンが使おうとしているのではないかと思う
プーチンとしては領土的野心ということではなくて、ロシアの防衛、安全の確保という観点から行動を起こしていることだろうと思います。

 さらに5月、英国の「エコノミスト」誌の取材を受けて、こうも語っていた。
▽侵略前、ロシアがウクライナを包囲していた時、戦争を回避することは可能だったかもしれません。ゼレンスキー氏が、自国がNATOに加盟しないことを約束し、東部の2州に高度な自治権を与えることができた。しかし、断った

 そして、岸田内閣は安倍氏の意向を踏まえ、ウクライナ問題にどう対応しただろうか。結論を言えば、安倍氏とは全く異なる。22年6月、次のような報道があった。
▽G7を中心とする西側民主主義陣営が結束してロシアに経済制裁を科し、ウクライナへの軍事支援を強化する中で、それに同調する日本の岸田文雄首相に背後から弓を引くに等しい。

極めてロシア寄りの発言だ。知米派の政府関係者は「自分の失態を棚に上げて米国を批判する安倍氏の脳内が理解できない」と憤りを隠さない。
「知米派の政府関係者」が安倍元首相に「憤りを隠さない」という状態はまさに、その後の展開を理解するキーワードである。

孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。