2023年7月1日土曜日

日刊ゲンダイ シリーズ『集中企画・マイナ狂騒』(4)~(6)

 日刊ゲンダイの連載記事『集中企画・マイナ狂騒』の(4)~(6)を紹介します。

 今後も3編ずつ紹介する予定です。
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集中企画・マイナ狂騒(4
マイナ保険証ついに“知事の乱”…推進派首長まで「廃止の時期再考を」とポンコツ政権に
                       日刊ゲンダイ 2023/06/27
 底なしマイナトラブル対応のマズさから、支持率急降下の岸田政権。日経新聞の世論調査によると、政府対応は「不十分」が76%に上る。共同通信の調査では7割が来秋の保険証廃止に反対だ。こうした世論の風を読んだのか、“モノ言う首長”が政府に注文をつける動きが出てきた。
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 来年秋に現行の保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化する政府方針について、宮城県の村井知事は26日の定例会見で「国民が不安に思っている以上は丁寧な対応が必要。(政府は)国民の声をよく聞いて、開始時期をよく考えてほしい」と語った。
 村井氏はマイナカードの推進派として知られる。運転免許証との一体化は「必ず携帯するようになる」と大賛成。マイナ保険証も「メリット」を強調していた。昨年10月、河野デジタル相がマイナ保険証への一本化を発表した時、村井氏は「医療や薬のデータが一元管理でき、個人も社会も便利になる。医療費の抑制にもつながる」と県独自の普及策を明らかにした。そんな推進派知事でさえ政府に開始時期の再考を求めたのである。
「マイナ保険証のメリットを高く評価し、普及を進めたい意向の村井知事が“待った”をかけたのは、それだけ来秋のスタートが無理筋だということです」(「共通番号いらないネット」事務局の宮崎俊郎氏)

推進派まで「保険証廃止の時期再考を」
 岩手県の達増知事も23日、「来年秋の保険証廃止は時期尚早。時期にこだわらずしっかり検討してほしい」とクギを刺した。9月投開票の県知事選を控え、世論を気にしたのかもしれないが、7割に上る廃止反対の意見を踏まえ、首長が政府にモノ申すのは当然だ。
 全国知事会の平井会長(鳥取県知事)は先月、河野デジタル相に対し、「国民のマイナンバー制度への信頼を損ないかねない」としてトラブルの再発防止を訴えた。「歯に衣着せぬ」物言いで知られる島根県の丸山知事は相次ぐトラブルに「ざるにも程がある」とバッサリ。世論の風を読むのがうまい小池都知事は、マイナンバー関連の総点検について「秋までは厳しいのではないか」と苦言を呈している。
「住民の声をちゃんと聞いている首長なら、政府のマイナトラブルを巡る対応のマズさについて黙っていられないでしょう。この先、岸田政権の対応に異議を唱える首長が相次いでもおかしくありません」(宮崎敏郎氏)
 “知事の乱”が岸田政権を揺さぶる――。全国のモノ言う首長が、来秋の保険証廃止に「ノー」を突きつければ、岸田政権は窮地に立たされるに違いない。


集中企画・マイナ狂騒(5
「オンライン資格確認」は現行の保険証でも可能 それでもマイナカードと一体化ゴリ押しの愚
                          日刊ゲンダイ 2023/06/28
 ナントカのひとつ覚えのように、岸田政権が「国民の不安払拭」と繰り返している。加藤厚労相は27日、マイナカードと保険証を一体化させた「マイナ保険証」への全面移行に向け、自身をトップとする「オンライン資格確認利用推進本部」の設置を発表。そもそも「マイナ保険証」を導入する前提が破綻しているのに、来年秋の健康保険証廃止の方針をかたくなに撤回しようとしないのはオカシイ
 マイナカードのあり得ない“欠陥”システム!「なりすまし防止」どころか「誰でも顔認証」の大問題
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「一つ一つの課題を洗い出し、具体的な対応策とスケジュールを明確に示し、国民の不安や懸念の払拭を図る」──。加藤は会見で「オンライン資格確認利用推進本部」の役割について、そう強調。「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることによって、より良い医療を国民の皆さまに享受していただく」として、「その実現のためにオンライン資格確認の利用をしっかり促進していく必要があります」などと訴えた。
 そもそもオンライン資格確認とは、医療機関や薬局がオンラインで患者の加入している医療保険や自己負担限度額などの資格情報を確認できる仕組みのこと。マイナ保険証で資格確認した場合に限り、患者の薬剤情報や特定健診などの個人情報が閲覧できる。
 この仕組みに基づき、患者と病院が医療情報を共有することで「より良い医療を受けることが可能となり、医療制度の効率化につながる」(岸田首相)というのが、政府の触れ込みだ。もっとも、資格情報は現行の健康保険証に記載されている被保険者番号を病院などの窓口でオンライン入力すれば確認できる。
 健康保険証でもオンライン資格確認が可能ということは、マイナ保険証に限定している薬剤情報などの閲覧に関して、健康保険証でも本人確認や本人同意を可能にすればいい。実際、厚労省保険局は「オンライン資格確認等システムの検討状況」(2018年12月)で、健康保険証でも薬剤情報などが〈本人同意の下〉で閲覧できるシステムを想定していた。

厚労省は「成りすまし件数」を把握せず
 ところが、1年後には〈マイナンバーカードにより本人確認と本人から同意を取得した上で〉に条件を厳格化。健康保険証に2次元バーコードをつけて読み取る案も検討部会で出たものの、現在のマイナ保険証によるオンライン資格確認の推進へとつながった。
 現行の保険証でも本人確認ができる仕組みを作れるのに、厚労省はかたくなに“拒否”。先月12日の参院地方創生・デジタル特別委員会で、「薬剤情報、医療情報の提供についてはマイナカードによる電子的かつ確実な本人確認を必要としている」などと答弁していた。
 確かに、機微情報の取り扱いに本人確認が必要なのは当然。しかし、厚労省は「確実な本人確認」と力む割に、他人の健康保険証を使い回す「成りすまし」の件数も把握していない。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。
「そもそもマイナカードの取得自体が任意だったはずが、マイナ保険証か現行保険証かの『選択制』すら消えてしまった。マイナ保険証に納得できるメリットがあるなら、強制しなくても取得率は上がっていくはずですが、返上運動まで出てきています。政府は国民の不安を払拭するどころか、メンツのためにゴリ押ししているからこそ批判を浴びているのです」
 政府がマイナカードの利便性を強調するために、国民に不便を強いる──。国民が感じているのは不安ではなく、怒りだ。


集中企画・マイナ狂騒(6)
岸田政権がもくろむ「マイナ漬け」、制度趣旨から逸脱→運転免許証・母子手帳・大学まで“狂気”の紐づけ
                          日刊ゲンダイ 2023/06/30
「一日も早く国民の皆さまの信頼を取り戻せるよう政府を挙げて取り組んでいきます」──。松野官房長官は28日の会見で意気込んだが、「総点検」のさなかでもマイナンバーの活用拡大を止める気配はない。むしろ、拡大をゴリ押ししている。
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 デジタル庁と日本フランチャイズチェーン協会は27日、マイナカードを活用したコンビニのセルフレジでの酒やたばこの販売を推進するとした協定を締結。河野デジタル担当相は「コンビニはカードの活用拠点として大いに可能性を秘めている」と満足げだったが、「総点検」の下での活用拡大が国民の怒りの火に油を注いでいるとは思わないのか。
 政府は今月9日にまとめた「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の中で、非対面での「銀行口座の開設」や「携帯電話の契約」に関し、本人確認をマイナカードに一本化する方針を明記。
 非対面での本人確認として運転免許証や顔写真のない書類を廃止する計画に、ネット上は〈狂気の世界〉〈なんでもかんでも紐づける必要ない〉などと大荒れだ。

制度趣旨から逸脱した活用拡大
 マイナカードをめぐっては、政府は他にも「母子手帳との一体化」や「大学での出席・入退館管理や各種証明書発行における使用」などももくろむ。まさに「すべての道はマイナに通ずる」が、そもそも、マイナンバー制度の活用は「税・社会保障・災害対策など」の“3領域”に限定されていた。「共通番号いらないネット」事務局の宮崎俊郎氏がこう言う。
「マイナンバー制度が憲法に違反するとして、住民が国に利用差し止めを訴えた裁判で、最高裁は今年3月、住民側の上告を棄却する判決を出しました。マイナンバー制度が合憲である理由として、最高裁は『行政機関が利用できる範囲は、税・社会保障・災害対策などに限定されている』ことを挙げました。つまり、マイナンバー制度は本来、その3領域に主に限定されていたのです。
 ところが、今月2日成立した改正マイナンバー法などの関連法によって、最高裁判決が“骨抜き”にされ、活用拡大に歯止めがかからなくなってしまった。現在、私が原告の代表を務める『マイナンバー違憲神奈川訴訟』は、判決言い渡しを待っている状態です。法改正によって3領域という限定性が取り払われた今、マイナンバー活用の前提が大きく変わっており、司法として再度審理する必要があると思います。活用拡大を止めるため、裁判所に審理再開を求めています
“マイナ漬け”を進める岸田政権に、国民はもっと怒った方がいい。


集中企画・マイナ狂騒(7)
マイナ保険証はトラブル解消ならず…病院で作業負担が増える本末転倒、医師が怒りの証言
                          日刊ゲンダイ 2023/06/30
 マイナンバーカードと健康保険証が一体化した「マイナ保険証」のトラブル解消に向け、厚労省は29日、「オンライン資格確認利用推進本部」の初会合を開催。対策がまとめられた。本部長を務める加藤厚労相は「国民の不安や懸念の払拭を図り、安心して活用してもらえる環境整備を進める」と強調したが、むしろマイナ保険証のゴリ押しが強化され、医療現場は辟易している
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 マイナ保険証によるオンライン資格確認をめぐっては、被保険者資格があるはずの患者が「無保険扱い」されてしまうトラブルが続出。患者が医療費10割を請求されるケースが相次いだ。
 その対策として、厚労省は29日の会合で、遅くとも8月から患者負担を本来の3割などにする方針を決定。患者の加入保険が最終的に不明のままでも、病院が医療費を取りはぐれないよう補填するとした。初めてマイナ保険証を使う場合、念のために従来の健康保険証の持参も呼びかけるというから“お笑い”だ。
 新たな対策はあくまでも、国がマイナ保険証によるオンライン資格確認の利用を推進するため。オンライン資格確認はマイナ保険証を使った場合に限り、医師が診察時に患者の薬剤情報や特定健診情報を閲覧できる仕組み。服薬などの機微な情報を患者と医師が共有して診療に生かすことにより、国は「より良い医療が提供できる」とうたう。しかし、利用推進を理由にケツを叩かれる病院はたまったもんじゃない。
 問題は、これらの対策によって病院の“面倒”が増えることだ。医師が患者の薬剤情報などの個人情報を閲覧する際、本人確認と本人同意が必須。薬剤情報などの活用について、厚労省は次のように掲げている。
〈これまでも、例えば、丁寧な問診やお薬手帳による確認等により、本人であることや実際の薬剤の服用状況、併用禁忌等について確認していることから、マイナンバーカードによるオンライン資格確認により閲覧した薬剤情報等を診察等において活用する際も、同様に確認することが考えられる〉

あまりにも費用対効果が薄い
 裏を返せば、マイナ保険証によるオンライン資格確認を使わなくても、「丁寧な問診」「お薬手帳による本人確認等」でコト足りるというワケ。マイナ保険証によるオンライン確認を病院に徹底させる必要はないのだ。
 しかも、患者が初めてマイナカードで受診したり、所属する健康保険組合が変わったりした際、オンライン資格確認で得た情報と、診療申込書や問診票に記入された患者情報とを突合するよう、病院の受付窓口に要請。オンライン資格確認のウリのひとつが「事務作業の手間削減」にもかかわらず、結果として作業負担が増える。まったくもって本末転倒だ。
 そもそも、オンライン資格確認が、国の言う「より良い医療の提供」につながるかどうかさえ怪しい。
 いとう王子神谷内科外科クリニックの伊藤博道院長がこう憤る。
「端的に言って、マイナ保険証やオンライン資格確認を整備して健康保険証を廃止したとしても、医療の質が向上するとは到底、思えません。マイナ保険証によるオンライン資格確認は、CTやMRIなどの画像データをオンライン上で共有・閲覧できるようなイメージを持たれていますが、すでに画像をデジタルデータとして閲覧・共有できる別の仕組みが構築されています。薬剤情報などはお薬手帳で確認できますし、デジタル上で閲覧できてもPDFファイルなので、電子カルテに反映するには、結局、手入力に頼らざるを得ません。オンライン資格確認は言ってしまえば、デジタルデータを使っているだけで、極めてアナログ仕様なのです。メリットがあるとすれば、被保険者番号などを入力する受付窓口の手間が減るぐらい。現行の保険証を廃止してまで強行すべきシステムなのか、あまりにも費用対効果が薄いと思います。国の言う『医療の質の向上』とは一体、何なのでしょうか