東京・新大久保のコリアン・タウンで定期的に繰り広げられている「在日(韓国・朝鮮人)」バッシングのデモ(在特会=在日特権を許さない市民の会 などが主催)と、その中で連呼されているヘイトスピーチ(憎悪表現)の悪質性がマスメディアで取り上げられるようになりました。
そうしたヘイトスピーチを法律で規制すべきかどうかについて憲法学者の戸波 江二早大大学院教授は、ドイツと日本とでは憲法的に違いがあるのでドイツがネオナチズムを排除するようなわけにはいかないものの、在日の人々に脅迫的に『日本から出て行け』などと叫ぶことは在日の人々の人格を不当に傷つけるものであるから、ヘイトスピーチを規制する法律はやはり必要だと述べました。
以下に「ガジェット通信」の記事を紹介します。
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極端な在日バッシング 「憎悪表現」を規制すべきか?
憲法学・戸波教授に聞く
ガジェット通信 2013年5月31日
ドイツで外国人排斥を唱えるネオナチ(極右組織)が起こしたとみられる連続殺人事件の裁判がスタートした。トルコ人など計10名が殺害された今回の事件は、「世紀の裁判」としてドイツ国内で注目を集めている。
一方、ドイツでは、民主主義を破壊する恐れのある団体の活動が、法律で禁止されている。今回の事件をきっかけに、以前からネオナチとの関係が指摘されているドイツ国家民主党に向けられる目も厳しくなっており、連邦参議院は、同党の活動を禁止するよう裁判にかける方針だという。
日本でも最近は、在日韓国・朝鮮人排斥を唱える市民団体によるデモが繰り返されるようになっており、ドイツにおけるネオナチの台頭となぞらえる向きもある。では、日本では、ネオナチのように極端な排外主義をとる団体の活動を規制することはできるのだろうか。憲法学者の戸波江二・早稲田大学教授に聞いた。
●ナチズムはドイツの社会から徹底的に排除されている
「今回の事件で、外国人を殺害したネオナチが処罰されるのは当然のことですが、そもそもドイツでは、ナチスを支持する思想や団体そのものが禁止されています。それは、ドイツでは戦前のナチスの侵略とユダヤ人大量虐殺を反省して、民主主義を否定する思想には思想の自由を認めないという『闘う民主制』を憲法で宣言しているからです。ナチズムはドイツの社会から徹底的に排除され、ネオナチの存在自体が否定されているのです」
このように戸波教授は、ドイツの制度について説明する。では、日本はどうなのだろうか。
「日本では、戦前の日本の侵略行為に対する反省が不徹底でした。戦前の軍国主義を美化し、正当化しようとする意見がなお根強く、安倍内閣にもその体質がみえます。つまり、日本では『闘う民主制』は取られておらず、そのためにかえって、侵略戦争を反省しない言論がまかり通ることになります。残念ですが、在日韓国・朝鮮人を排斥する思想や団体を法的に規制することはできません」
●「ヘイトスピーチ」を法律で禁止している国は多い
ドイツとは異なる日本の状況。その中で野放しになっているともいえる、極端に排外主義的なデモに対して、どのように向き合えばいいのだろうか。この点、激しい在日バッシングを「ヘイトスピーチ」として規制すべきという意見があるが、戸波教授はどのように考えるのか。
「現在、新大久保などで行われている極端な在日バッシングは『憎悪表現』といえます。ある個人や集団に対して、その民族・国籍や文化・宗教などの属性を人格的に誹謗中傷し、差別する言論であって、それを法律で禁止している国は数多くあります。
一方、言論の自由をできるかぎり広く認めようとする日本の憲法学説は、ヘイトスピーチであっても規制は許されないと解釈しています。しかし、在日の人々を憎み、脅迫的に『日本から出て行け』などと叫ぶことは、在日の人々の人格を不当に傷つけるものです。ヘイトスピーチを規制する法律はやはり必要だと思います」
【取材協力】
戸波 江二 (となみ・こうじ)教授
早稲田大学大学院法務研究科所属。憲法学を専攻し、人権論、違憲審査制を中心に研究している。ドイツ憲法判例研究会を主催し、ドイツ憲法についても造詣が深い。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)