沖縄県八重山地区竹富町の中学校公民教科書問題に対する文部省の干渉は、ついに文科省の意向どおりに動かない沖縄県教委を飛び越えて、直接竹富町に対して是正要求を行うという、前代未聞の固めたということです。
もともと文科省の県教育委員会に対する干渉自体、地方分権一括法案についての国会付帯決議にも違反するものです。
同法案の審議に際しては、衆参両院において、「自治事務に対する是正の要求の発動に当たっては、地方公共団体の自主性及び自立性に極力配慮すること」(衆院)、または「自治事務に対する是正の要求については、地方公共団体の自主性及び自立性に極力配慮し当該地方公共団休め運営が混乱・停滞し、著しい支障が生じている場合など、限定的・抑制的にこれを発動すること。国はこの地方公共団体の判断を尊重すること」(参院)という付帯決議がなされています。
そもそもこの問題は、中学の公民教科書に保守色の強い育鵬社版を採択したい玉津石垣市教育長による八重山地区採択協議会の規定無視や意図的な運営に端を発したもので、竹富町の教委は、その後八重山3市町教委の全教育委員による採決で当の育鵬社版教科書採用の否決を受けて、地方行政法に基づき東京書籍の教科書を採択したものです。したがってそこには何らの違法性はないと見られてきました。ところが文科省はあたかも制裁を加えるかのようにして、竹富町を教科書無償措置法の対象から除外したために、町は住民から寄付を募って教科書代を負担しながら使用してきたのでした。
文科省も当初は、「地方公共団体が自ら教科書を購入し、生徒に無償供与することまで法令上禁止されていない」(2011年10月26日、中川正春文科相)としていました。その見解を覆し竹富町に育鵬社版を露骨に強要するようになったのは、侵略戦争を正当化する「つくる会」系教科書の採択を推進してきた安倍首相が政権についてからです※1。
※1 2013年10月24日「文科省の教科書是正要求は撤回されるべき」
いうまでもなく東京書籍の教科書も文科省の検定をパスしたもので、教科書の教育的意味は等しい筈です。しかもそれが採用された竹富町の中学校ではいま静謐な環境のなかで授業が行われているのに、そこに繰り返し政治的干渉を行いその度合いを強めて混乱をもたらそうとしているのは、安倍政権に他なりません。政府は、八重山地区の教科書問題を、沖縄で平和的に行われている教育に政治が介入し、それに服させるための橋頭堡にしようとしているといわれる所以です。
以下に琉球新報の社説を紹介します
追記1
本ブログではこれまで十数回に渡りこの問題を取り上げてきました※。ブログ上の関連記事の検索は次のようにすれば出来ます。
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追記2
11月20日作成の「是正要求の指示に対する対応について(経過報告)」(沖縄県教育委員会)は下記でご覧になれます。
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社説 国の直接是正要求 問われるべきは文科省だ
琉球新報 2013年12月21日
国の命じることは、何がなんでも従えということのようだ。八重山教科書問題で、県教育委員会が文部科学省の是正要求に対する疑問点をまとめた質問書を送付する方針なのに対し、同省は「教科書無償措置法に反しており、早急に竹富町に対して是正要求を行うべきだ」と回答する方針を固めた。
さらに県教委が指示に従わない場合は、竹富町への直接是正要求を検討するという。国が都道府県を介さず、市町村に直接是正要求するのは、前代未聞の異常事態だ。
県教委がまだ出してもいない質問書に文科省が「是正要求を行うべきだ」とする回答方針を決めたことは、質問書に挙げる疑問点に目を通し、一つ一つ誠実に答える意思がそもそもないと受け取るほかない。また回答後に県教委が従わない場合は、その後に竹富町への直接是正要求という国の強権発動ともいえる方針をこの時点でちらつかせるのも異常であり、極めて乱暴だ。
県教委が抱く疑問として挙げている根拠の一つが衆参両院の国会付帯決議だ。「是正の要求の発動に当たっては、地方公共団体の自主性及び自立性に極力配慮すること」(衆院)とある。さらに「地方公共団体の運営が混乱・停滞し、著しい支障が生じている場合など、限定的・抑制的にこれを発動すること」(参議院)とある。
今回の是正要求は地方公共団体の自主性と自立性に極力配慮しているとは到底思えない。さらに現場が混乱、停滞、著しい支障が出ている状況も生じているとも言い難い。竹富町の中学校では静謐(せいひつ)な環境の中で授業が行われているではないか。
文科省は是正要求の指示を地方教育行政法ではなく、地方自治法に基づいて実施した。地方教育法の是正要求は児童生徒の教育機会の妨げや権利侵害がある場合に限っており、文科省も規定に該当しないと判断している。現場に混乱が起きていないことを認めているのだ。そうであれば文科省の是正要求は国会の付帯決議に反するではないか。
むしろ竹富町に国が直接是正要求することこそ、現場に混乱を起こし、児童生徒の教育を受ける機会を妨げることになるはずだ。文科省は恫喝(どうかつ)ともとれる強硬姿勢を取り続けるのではなく、国会付帯決議にあるように、地方公共団体の自主性に極力配慮すべきだ。