政府の「応援団」を名乗り普天間基地の沖縄県内移設を認めた仲井真知事は、同時に県外移設も求めるとの独自理論を振りかざして、記者会見で「公約は変えていない」と開き直りました。
しかし公約通りに知事が県外移設を主張すると信じていた県民は、県内移設を認める流れに驚いて、27日正午ごろから約2000人が県庁を取り囲み、午後5時ごろまで約700人が県庁の1階に座り込みました。
「県外移設」の公約を覆したこと、しかも県民への説明がないままに東京で承認への流れをつくったこと、振興策と引き換えに県民が基地を受け入れたという印象を全国に広めたことなど、この間の知事の言動のすべてが怒りの的になっています。
地元紙は28日、沖縄タイムスが「知事埋め立て承認 辞職し県民に信を問え」とする社説を、琉球新報が「知事埋め立て承認 即刻辞職し信を問え 民意に背く歴史的汚点」とする社説を掲げました。
そこにすべてが語られています。
以下に琉球新報の社説と沖縄タイムスの記事を紹介します。
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社説 知事埋め立て承認 即刻辞職し信を問え 民意に背く歴史的汚点
琉球新報 2013年12月28日
仲井真弘多知事が、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けた政府の埋め立て申請を承認した。「県外移設」公約の事実上の撤回だ。大多数の県民の意思に反する歴史的汚点というべき政治決断であり、断じて容認できない。
知事は、2010年知事選で掲げた「県外移設」公約の撤回ではないかとの記者団の質問に対し「公約を変えたつもりはない」と述べた。しかし、どう考えても知事の説明は詭弁(きべん)だ。政府も当然、知事判断を辺野古移設へのゴーサインと受け止めるだろう。知事は責任を自覚して即刻辞職し、選挙で県民に信を問い直すべきだ。
見苦しい猿芝居
知事の声明は法律の適合性についての根拠が曖昧なほか、安倍政権の基地負担軽減策を恣意(しい)的に評価しており、詐欺的だと断じざるを得ない。
安倍政権の沖縄に対する思いを「かつてのどの内閣にも増して強い」と評価した。政権与党が自民党の県関係国会議員や県連に圧力をかけ「県外移設」公約を強引に撤回させたことなどまるで忘却したかのようだ。知事の政権評価は、県民の共感は到底得られまい。
首相が示した基地負担軽減策で、普天間飛行場の5年以内の運用停止は「認識を共有」との口約束であり、日米地位協定は抜本改定ではなく新たな特別協定締結に向けた「交渉開始」と述べただけだ。
米海兵隊輸送機MV22オスプレイについても、訓練の移転にすぎず沖縄への24機の常駐配備に何ら変化はない。要するに負担軽減の核心部分は、実質「ゼロ回答」なのだ。辺野古移設反対の県民意思を顧みない知事判断は、県民の尊厳を著しく傷つけるものだ。
日米両国が喧伝(けんでん)する自由・民主主義・基本的人権の尊重という普遍的価値の沖縄への適用を、知事自ら取り下げるかのような判断は、屈辱的だ。日米の二重基準の欺まん性を指摘し「沖縄にも民主主主義を適用せよ」と言うのが筋だ。
知事の埋め立て承認判断は、基地問題と振興策を取引したこと一つを取っても、国内外にメディアを通じて「沖縄は心をカネで売り渡す」との誤ったメッセージを発信したに等しく、極めて罪深い。
辺野古移設で取引するのは筋違いだ。振興策も基地負担軽減も本来、国の当然の責務だ。その過大評価は県民からすれば見苦しい“猿芝居”を見せられるようなものだ。
再び「捨て石」に
知事は25日の安倍首相との会談の際、「基地問題は日本全体の安全保障に役立ち、寄与しているという気持ちを持っている。われわれは今(政権の)応援団。ありがとうございます」とも述べた。
強烈な違和感を禁じ得ない。沖縄戦でおびただしい数の犠牲者を出した沖縄の知事が悲惨な歴史を忘却し、軍事偏重の安全保障政策に無批判なまま、沖縄の軍事要塞(ようさい)化を是認したに等しい妄言である。今を生きる県民だけでなく、無念の死を遂げた戦没者、沖縄の次世代をも冒涜(ぼうとく)する歴史的犯罪と言えよう。
知事の言う「応援団」の意味が、軍事を突出させる安倍政権の「積極的平和主義」へ同調し「軍事の要石」の役割を担う意思表明であるならば看過できない。沖縄戦で本土防衛の「捨て石」にされた県民が、再び「捨て石」になる道を知事が容認することは許されない。
知事の使命は、県民の生命、財産、生活環境を全力で守り抜くことであるはずだ。知事は県民を足蹴(あしげ)にし、県民分断を狙う日米の植民地的政策のお先棒を担いではならない。
県民大会実行委員会や県議会、県下41市町村の首長、議長ら県民代表が「建白書」として首相に突きつけたオール沖縄の意思は、普天間飛行場の閉鎖・撤去と県外移設推進、オスプレイ配備の中止だ。県民を裏切った知事の辞職は免れない。
「公約撤回許せない」抗議の声
沖縄タイムス 2013年12月28日
「公約撤回は絶対許せない」「仲井真知事に沖縄の将来を任せられぬ」-。米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けた政府の埋め立て申請を仲井真弘多知事が承認した27日、県内各地で激しい抗議と落胆の声が広がった。
県庁周辺で正午ごろから始まった約2千人(主催者発表)の抗議行動は、県庁を取り囲んだ後、県庁1階に移動。午後5時ごろまで約700人が座り込み、沖縄のトップとして初めて基地建設にゴーサインを出した知事に批判が渦巻いた。
「県外移設」の公約を覆したことへの批判、県民への説明がないままに東京で承認への流れをつくったこと、振興策と引き換えに県民が基地を受け入れたという印象を全国に広めたこと、アセスの違法性…。参加者は口々に不満を口にした。知事は、県民が待つ県庁に姿を見せず、急きょ会見場所となった知事公舎前にも抗議する市民が押し掛けた。
移設先となる名護市や宜野湾市だけでなく、県内各地でも振興策という“アメ”で基地建設を強行する政府や、受け入れた知事に怒りと落胆の声が広がった。知事が安倍晋三首相に担保を取ったとしている米軍普天間飛行場の5年以内の運用停止にも疑問の声が上がった。
知事居直り強弁 公約変えてない 説明不要
沖縄タイムス 2013年12月28日
仲井真弘多知事が名護市辺野古の埋め立て承認を正式に表明した27日、米軍普天間飛行場の県内移設に反対する県民の怒り、失望、落胆が全県に広がった。県外移設の公約は「変えていない」と強弁する知事に、県庁に座り込んだ市民は「うそをつくな」「知事の裏切りを許さない」。悔しさから涙を流す人もいた。この冬一番の寒さとなったこの日、不承認に一縷(いちる)の望みをつないでいた県民の心に、さらに冷たい風が吹き込んだ。それでも「まだまだ諦めない」と、新基地建設阻止へ心を合わせた。(1面参照)
県内移設を認めた知事は記者会見で、「公約は変えていない」と開き直った。過去に基地を受け入れた政治家が使った「苦渋」の言葉すらなく、県外移設も同時に求めるとの独自理論を振りかざした。明らかになったのは、政府の「応援団」を名乗る知事と県民との、決定的な距離だけだった。
車いすでなく、歩いて登場した知事。隣の川上好久副知事の助けを借りてページをめくり、コメントを一語ずつ読み上げていたが、質疑応答になると一転、雄弁になった。
「公約を変えていないから説明する理由がない」「政府はだますものだとは夢、思わない。あなたがたは信用されないんですか」
県外移設公約と県内移設承認の矛盾を、記者から「日本語能力」の問題として指摘されると、目を見開いて反論した。「今のは質問ですか、私に対する批判ですか」「あんた並みには(能力を)持っている」
過去の政治家は基地受け入れ表明で「苦渋の選択」(稲嶺恵一前知事)、「人生で最も困難な選択」(岸本建男元名護市長)などと説明した。比嘉鉄也元名護市長は辞任した。しかし、「自信家」と評される仲井真知事は一切の感情を口にせず、進退を問う質問も「あなたに聞かれる理由は一つもない」とはね付けた。
記者会見は当初県庁で予定されていたが、県庁が抗議の市民に取り囲まれた段階で、「知事の体調不良」などを理由に急きょ知事公舎に変更。県政記者クラブは「県庁で会見すべきだ」と抗議した。結局、知事は上京した16日から11日間、一度も職場に入らないまま、基地を受け入れた。
会見が開かれた公舎の約50畳の一室は報道陣、知事や県幹部、警察官ら約100人ですし詰め状態に。カメラマンの額からは汗が流れ落ちた。開始から37分、司会が会見を打ち切ろうとすると、報道陣が猛抗議。「あと3問」と譲った司会に、知事は「そんなにはないよ」と終了を促した。51分がたち、質問が続く中で立ち上がった。「こんな会見でいいのか」と詰め寄る記者に、「どういう意味ですか」と返し、警護の警察官に守られて会見場を去った。