2013年12月30日月曜日

日本で台頭する危険な国家主義 NYT社説

 安倍晋三首相が靖国神社を参拝したことで、すでに緊張関係にあった対中国、対韓国との外交関係を一層悪化させることになりました。
 ニューヨークタイムズ(NYT) は27日の社説の中で、「安倍首相がなぜ現在靖国神社を訪問することを決心したかという点について、要旨以下の様な面白い考察をしています。
 
 安倍首相の目標の一つは、どこで領土紛争が発生しても直ちに軍事力を行使できるように軍備や憲法・法律を変えてしまうことである。
 中国尖閣諸島問題について徹底して対決姿勢をとったことは、そうした安倍政権にとって極めて好都合なことで中国の『強硬姿勢』を内外にアピールし続けることで、その目標を隠すことが出来た。
 靖国参拝は、そうした国民に対する宣伝工作がうまくいっているかどうかを確認するための、作業の一部だった。』
 
 「確認作業」の結果はご存知の通りで、中国・韓国は猛反発し折角改善の兆しが見えはじめていた日韓関係も完全に冷え切りました。
 安倍首相にとって痛かったのは、予期に反してアメリカが手厳しく批判する文書を発表したことでした。彼は就任以来一貫してアメリカに尽くし、TPPでも譲歩し続けたうえに年末には普天間基地の辺野古移転を沖縄県知事に飲ませたので、靖国参拝については容認してくれると考えたふしがあります。ですからこのアメリカの反発には落ち込んでいることでしょうが、あとの祭りです。
 
 社説はまた、安倍首相などの国家主義者にとって何より大切な存在である筈の今上天皇が、前代の昭和天皇同様、靖国神社参拝を拒否されてて、天皇が80歳の誕生日を祝う席上、「平和と民主主義の大切な価値」を守り続けるため、1946年に平和憲法を制定した人々に対する「深い感謝の念」を表明されたことにもふれています
 
 そしてアメリカ政府は安倍首相のやり方が北東アジア地区にどんな恩恵も与えないものであることをはっきりとさせる必要があるとし、安倍首相の行動はアジアの国家間の信頼未来を次々と破壊していく行為に他ならないと結んでいます
 
 ニューヨークタイムズは12月16日にも、「特定秘密保護法」の制定を批判する社説 「日本の危険な時代錯誤ぶり」を掲げましたので併せて紹介します。
 
(27日社説の訳文はブログ「星の金貨プロジェクト」を借用しました)
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 ニューヨークタイムズ社説) 日本で台頭する危険な国家主義 
 論説委員会 / ニューヨークタイムズ2013年12月27日
星の金貨プロジェクト admin投稿 2013年12月29日
 
就任以来、『対外危機』を作り上げ煽り続けた安倍政権
靖国参拝は国民に対する宣伝工作がうまくいっているかどうかを確認するための試金石
アジア社会の信頼、平和、そして未来を破壊する安倍首相の政策
 
 権力の座に返り咲いて1年となる12月26日、安倍晋三首相が、日本の戦没者を祀る神社であり、第二次世界大戦中の戦犯を合祀していることで論争の的となっている神社靖国を参拝しました。
 中国と韓国は直ちにこの参拝を厳しく批判、アメリカ合衆国もこれに同調しました。
 
 諸外国が日本の侵略主義、そして植民地支配の象徴とみなす靖国神社への安倍首相の参拝は、すでに緊張関係にあった対中国、対韓国との外交関係を一層悪化させることになりました。
 アメリカ合衆国大使館は、「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している。」との声明を公式ウェブサイトに掲載しました。
 
 問題は、安倍氏がなぜ現在靖国を訪問することを決心したかという点にあります。
 前回日本の首相が靖国神社を参拝してから7年が経ちましたが、中国と韓国がともにその存在自体を快く思わない神社に、参拝すれば中韓両国との外交関係に必ず悪影響を及ぼすと解っていながら、なぜ参拝を行ったのでしょうか?
 中国、そして韓国と日本の外交関係は、2000年代中頃より現在の方が尚悪くなっています。
 
 安倍氏が初めて首相に就任したのは20067の間でしたが、2012年2度目の首相になった時から、中国と韓国の指導者は安倍首相との会見を拒否し続けてきました。
 ひとつは東シナ海に浮かぶ尖閣諸島をめぐる領土問題、もうひとつは第二次世界大戦中、日本軍兵士の性的奴隷とされた韓国の従軍慰安婦の問題のためです。
 
 逆説的に、中国、韓国がこうした態度を明確にして圧力をかけているからこそ、安倍首相が靖国参拝に踏み切ったということが言えます。
 尖閣諸島問題について中国側が徹底して対決姿勢をとったことは、日本国民に中国の軍事的脅威について信じ込ませるために、日本政府にとっては極めて好都合なことでした
 安倍首相の目標到達点の一つは、どこで領土紛争が発生しても直ちに軍事力を行使できるように日本の軍備の形を変えてしまうことです。
 そのために安倍首相はこの一年間中国側が日本に送り続けた様々なサインを無視し続けましたが、中国の『強硬姿勢』を内外にアピールし続けることで、その事実を隠すことが出来たのです。
 靖国参拝は、そうした国民に対する宣伝工作がうまくいっているかどうかを確認するための、作業の一部だったということが言えます。
 
 日本が従軍慰安婦問題に真摯に向き合おうとしない態度に対する韓国側の厳しい批判が延々と続いていること、そしてパク・クネ大統領が安倍首相との会談を拒否し続けている態度は、日本の一般国民に対し、韓国に対する不信感を植えつけることになりました。
 それは世論調査の結果、日本人回答者の約半数が、韓国もまた日本に対する「軍事的脅威」であるとする結果に表れています。
 日本人有権者のそうした意識は、安倍首相に中国政府や韓国政府の反応にとらわれること無く、思い通りに振る舞う自由を与えることになりました。
 
 日本の主要な日刊新聞である毎日新聞、朝日新聞、読売新聞の3紙は、安倍首相の就任以来、靖国参拝には否定的な論調を続けてきました。
 もっと重要な問題、それは安倍首相やその取り巻きの国家主義者にとって何より大切なはずの存在である今上天皇が、前代の昭和天皇同様、靖国神社参拝を拒否していることです。
 安倍首相が最終的に目指すもの、それは現在の平和憲法を書き換えることです。
 この憲法は第二次世界大戦後のアメリカ軍による占領期間に交付されたもので、国家の交戦権を禁じています。
 そして天皇は憲法の定めにより国政に参加する権限は持っていませんが、今上天皇もまた日本が戦争することを認めてはいないのです。
 安倍首相が靖国神社参拝を行う数日前、今上天皇は80歳の誕生日を祝う席上、「平和と民主主義の大切な価値」を守り続けるため、1945年に平和憲法を制定した人々に対する「深い感謝の念」を表明されたのです。
 このような状況を考えれば、中国と韓国は歴史の解釈の問題について、日本国内に賛同者を見つけることは可能です。
 中国も韓国も安倍首相と会談する機会を設け、正面から立ち向かうべきなのです。
 これ以上会談を拒否し続ければ、安倍首相がさらに思い通りの政策を実現するための口実を与えることになってしまいます。
 
 日本の軍事的な冒険は、アメリカの支持が無ければ可能ではありません。
 アメリカ政府は安倍首相のやり方が、北東アジア地区にどんな恩恵も与えないことをはっきりとさせる必要があります。
 アジアの建設的な未来は、国家間の信頼関係を築いていくことの中にこそあります。
 安倍首相の行動は、その信頼と未来とを次々と破壊していく行為に他ならないのです。
 
(ニューヨークタイムズ社説) 日本の危険な時代錯誤ぶり
ニューヨークタイムズ 2013年12月16日
 安倍晋三首相の政府は今月、国会で秘密保護法をゴリ押しして通過させた。この法律は日本の民主主義の理解が根本的に変えられることを示唆している。この法律の文言は曖昧で非常に広範囲にわたるものであり、政府が不都合だと思うものを何でも秘密にすることを許すことになる。秘密を漏らした公務員は10年まで投獄されうる。報道関係者が、「不当」な方法で入手したり、秘密指定されていると知らない情報を得ようとしたりすることでさえ5年まで投獄されうる。この法律は国家安全保障を取扱い、スパイ行為やテロも含まれる。
 
 この法案が通る直前に、与党自民党幹事長の石破茂が、自身のブログで11月29日、秘密保護法案に反対して合法的にデモを行う人たちをテロリストになぞらえた。言論の自由に対するこのような無情なまでの軽視は、安倍政権が本当は何をやろうとしているのかについての懐疑心を大いにかき立てた。日本の公衆はこの法律が報道の自由と個人の自由を侵害することを恐れていることは明確のようだ。共同通信が行った世論調査によると、回答者の82%が、法律は廃案か見直すべきだと答えている。
 
 しかし安倍氏は、傲慢なことに公衆の不安をものともしない。法案通過後に「この法律で日常生活が脅かされることはない」と語った。自民党の古参議員の中谷元は、「政府が関与する事柄と一般市民が関与する事柄は区別されるものだ」と表明し、民主主義についての驚くべき無知を露呈した
 
 この法律は安倍氏の、日本を「美しい国」に作り替える聖戦における不可欠な要素である。それは、市民に対する政府の権力の拡大と個人の権利保護の縮小、すなわち愛国的な人々に支えられる強い国家を想定するものだ。彼が公言してきた目標は、約70年前、占領中に米陸軍に課された国家の憲法を書き換えることである。
 
 昨年4月に発表された自民党の憲法草案は、基本的人権の保証についての既存の条項を取り除いている。草案は、国旗と国歌を尊重しなければいけないとする。また、国民は「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」とする。さらに、総理大臣が緊急事態を宣言し、通常法を一時停止する権限を持つとされている。
 
 安倍氏の目的は「戦後レジームの脱却」である。日本で批判する人々は、彼が1945年以前の国家を復活させようとしていると警告する。時代錯誤的で危険な思想だ。