二つの弁護士グループ(升永英俊G・山口邦明G)が1票の格差が大きすぎるとして、7月の参院選の選挙無効を求めた訴訟は26日の仙台高裁秋田支部の判決で、16件すべての判決が出揃いました。
結果は、「違憲・選挙無効」が1件(広島高裁岡山支部)、「違憲・選挙有効」が2件(東京高裁:対山口G、大阪高裁)、他の13件は「違憲状態」でした。違憲状態とは、「格差は憲法が求める平等に反する状態に至っているが、是正に必要な合理的期間はまだ過ぎていない(違憲の一歩手前)」という意味です。
この結果について東京新聞は、「1票の不平等 司法の責任を自覚せよ」と裁判所に注文をつける記事を書きました。
「いまだに“抜本的な制度見直しには相応の時間が必要”などというのは国会に甘い裁定だ」、「“国会の裁量権”に司法が大幅譲歩すれば議員は安住する」、「そもそも、利害の当事者である議員に是正を求めることの方に無理がある」とし、次のように結んでいます。
― それならば、司法権こそ、毅然としなければならない。裁判官は良心に従い、独立して職権を行う。拘束するのは、憲法と法律だけだ。誰かの顔色をうかがうような司法では、失望を買う。― と。
いみじくも「誰かの顔色をうかがう」と書いていますが、それは別に政治家の顔色という意味ではありません。司法のトップは政権の顔色をうかがうのかも知れませんが、一般の裁判官は、直接的には人事を司る最高裁事務総局の顔色をうかがっていると言われています。そこの意向を忖度して判決を出しているということです。
再審請求を何度出しても通らないという事例が沢山あります。世の中の多くの人たちが新しい証拠に着目し、再審判を行うべきだと感じている事案でもなぜか通りません。
再審請求を開始するかどうかを審査するのは裁判官ですが、彼らは先任の判事の裁判を再審査することは出来るだけ避けたがると言われています。
そして一度再審請求が却下されると、今度はそのあとで再審請求を認めると先任の判事の顔をつぶすことになるということで、その後はひたすら再審請求の却下が繰り返されることになります。
まさにかばい合いであり、「司法ムラ」に波風を立てたくないという自己保身です。そんな感情や価値観は人権の重さの前には「ちり・あくた」にも等しいもの、「司法ムラ」の人たちは襟を正すべきです。
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一票の不平等 司法の責任を自覚せよ
東京新聞 2013年12月28日
参院選での一票の不平等をめぐる高裁レベルの判決は、「違憲状態」が大半だった。「国会の裁量権」に大幅譲歩すれば、議員は安住する。司法はもっと責任を自覚し、厳しく臨むべきだと考える。
五・〇倍の格差を是正しなさいといわれ、四・七七倍にした。これを一般の人々は是正とは言わない。努力をしたとも感じられない。格差はほぼ変わらないと思うのが普通だろう。どうやら、その感覚が裁判官にはないらしい。
格差とは、選挙のときに生じる選挙区ごとの一票の重みの違いだ。七月の参院選では、最大四・七七倍あった。鳥取の有権者が「一票」とすると、北海道の有権者は「〇・二一票」しか持たなかった。
全選挙区で提訴され、十四の高裁・高裁支部で、計十六件の判決が出た。十三件は「違憲状態」判決で、「違憲」は、東京と大阪、岡山だけだ。岡山が「選挙無効」としたことは特筆される。
違憲状態とは、著しい不平等は認めるけれど、国会が是正するまで、「合理的期間」が経過していないとする意味だ。その期間は裁判官のさじ加減で決まる。約五倍の格差で推移していた参院選について、二〇〇九年の最高裁は「定数を振り分けるだけでは格差縮小は困難」と抜本是正を求めた。
昨年の最高裁では「都道府県単位で選挙区を設定する現行方式を改めるなどの立法措置が必要」とも踏み込んだ。つまり、〇九年から数えると、三年九カ月もの長い時間があったのだ。
だが、違憲状態判決を書いた高裁の裁判官は、いまだに「抜本的な制度見直しには相応の時間が必要」などという。これほど国会に甘い裁定はなかろう。
衆院選を審査した昨年の最高裁も同じだ。国会の裁量権を大幅に認めて、違憲状態とした。衆院の〇増五減を「見直しが行われた」と評価した。参院は四増四減だったから、高裁の裁判官も、国会の“努力”を追認したわけだ。
常識のある人々は、四増四減を小手先とか、弥縫(びほう)策と呼ぶだろう。是正といっても、国会は何の痛みも伴わないからだ。そもそも、利害の当事者である議員に是正を求めることの方に無理があるのかもしれない。
それならば、司法権こそ、毅然(きぜん)としなければならない。裁判官は良心に従い、独立して職権を行う。拘束するのは、憲法と法律だけだ。誰かの顔色をうかがうような司法では、失望を買う。