経済は本質的に弱肉強食の世界であって政治がそれを緩和する役割を担っています。しかし日本では税の配分=所得の再分配 後においても貧困率が改善されないという珍しい国(アムネスティーも指摘しています)で、それこそは「政治の貧困」を象徴するものです。
政府が、大企業がより儲かるように努める一方で、国民には「いずれそのしずくが回るから」とうそぶいているだけでは貧富の差は拡大する一方です。
「ワーキングプア」が言われてからもう久しくなりましたが、事態は一向に変わりません。それどころがその状態は今後さらに悪化する方向にあります。
いま政府が提出している労働者派遣法改正案は、野党側の猛反対にもかかわらず12日にも衆院厚労委で採決され、早ければ週内にも衆院を通過する見通しになっています。
同改正案は、一部の業務を除いて最長3年までと制限されている派遣期間の規制を撤廃するのが柱で、それでは派遣労働者はいつまでもそこから脱出できないし、派遣労働はますます増えることになります。
YAHOOニュースに10日、『一生ハケンは社会の時限爆弾』とする記事が載りました。
6人に1人が貧困といわれる日本では、当然社会保障制度の役割が非常に大きくなります。
財務省の資料によれば、2000年に78兆円だった国の社会保障費は、2012年には110兆円、10年後の2025年には149兆円になるということです。確かに驚くべき増加ですが、経済弱者を放置している以上は仕方のないことです。
上記のYAHOOの記事は、問題はそれにとどまらずに派遣労働者は「社会保険に入れない」ために、30~40年後には、生活保護が急増し社会保障費が爆発的に増大すると述べています。
政治の無為が必然的にもたらす破局、時限爆弾のスイッチはもう入っているということです。
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一生ハケンは社会の時限爆弾
大西連 YAHOOニュース 2014年11月10日
現在、国会で労働者派遣法の改正案が議論されています。この派遣法改正、成立したら「一生ハケン」が当たり前の社会になってしまうかもしれないということで、今国会の大きな争点となっています。
ここでは、もし「一生ハケン」が当たり前になったら、私たちの社会に、特に社会保障にどのような影響を与えるのかを考えていきたいと思います。
派遣法改正案の問題点
派遣法改正案の中身に関しては、すでに問題点等がさまざまな形で指摘されています。
上の各記事によれば、派遣法が改正されると、3年で人か事業所を変えれば、企業は永続的に派遣雇用を続けることが可能になり、
・企業にとっては派遣労働者を雇う期間制限が撤廃され、雇いやすく切りやすくなる。
・派遣労働者にとっては3年で就労先が切り替わる可能性が高く不安定な短期雇用から抜け出しづらくなる。
などの問題があるそうです。
もちろん、政府は「派遣労働者のより一層の雇用の安定、保護等を図る」と述べていますが、具体的にどのような対策がなされるのかは不透明です。
私たちはどのように生計をたてているの?
では、こうした懸念のように派遣労働者が増加したら、日本社会にはどのような影響があるのでしょうか。
私たちは、正社員も派遣も、また自営業者だろうが、基本的には、
. A. 働いてお金を稼ぐ
B. 家族や親族等の援助
C. 資産を活用する(貯金・相続・民間の保険等も含む)
D. 社会保障制度を利用する(年金・生活保護など)
のような方法で、またこれらを組み合わせて、何とか暮らしています。多くの人がいっぱいお給料をもらっていたり、家族が大金持ちだったりすると心配はないのですが、実際はそういうわけにはいきません。
少子高齢化が進み、6人に1人が貧困といわれる日本では、近年、Dの社会保障制度(公的な制度)の役割が非常に大きくなっています。
実際に10月8日に公表された財務省の資料によれば、2000年に78.1兆円だった国の社会保障費は、2012年には109.5兆円、2025年には148.9兆円にも膨らんでしまうとのことです。
なので、国の財政を考えると、社会保障制度にかかる費用をできるだけ減らさないとな、という話になるのですが、ここでもし「一生ハケン」が現実のものになってしまうと、むしろ、国の社会保障費が将来的により増加してしまう可能性があるのです。
ハケンの問題点は?
では、ハケンで働くことの問題点はなんでしょうか。
派遣労働も含めた「非正規労働」というくくりで考えると、ざっくり言うと、
・雇用が不安定
・賃金(お給料)が低い
・社会保険に入れない可能性がある
などが挙げられます。
まず1つめの「雇用が不安定」に関しては、それこそ今回の派遣法改正案にあるように、短期で派遣先を転々としなければならないように、企業側の都合で仕事を辞めることになったり、変わることになってしまうことがある、ということがあげられます。
そして、2つめのお給料に関しても「雇用形態別賃金カーブ」というものをみると、正社員・正職員は年齢とともにお給料が上昇していくにもかかわらず、正社員・正職員でない人たちは何年働いてもお給料はあがらず、また、総じて正社員よりも低い金額となっています。
ハケン(非正規)だとずっと低所得
非正規労働ですと、ボーナスがでないこともほとんどですし、厚労省の統計によれば、月給も平均して20万円をこえず、毎日の生活にやっとで貯金をすることが難しい人も多いことが予測されます。
ハケンで仕事をしていて、何年働いてもお給料があがらない。ギリギリの生活で貯金もなかなかできない。核家族で養ってくれる家族もいない。そうなると、その人は将来、どうやって生きていったらいいのでしょうか。
そう。そういう時のために「年金」がある。のですが、ここで3つめの「社会保険に入れない」という問題があります。
例えば、細切れの雇用契約だったり、労働時間が短かったりすると、社会保険に加入することができない場合があります。
年金を例にとると、社会保険が適応されている場合は、企業も負担する「厚生年金」に加入することができますが、もし適応されない状況でしたら、国民年金のみになります。
仮に、生涯、国民年金のみだった場合は、日本年金機構のHPによれば、満額でも(滞納がなくても)月に約65000円しか支給されません。
これでは、老後は不安だらけ。というよりも生活ができません。
一生ハケンが当たり前になると社会保障費が増える?
高齢で働けない、貯蓄もない、家族もいない、年金も少ない、となってしまうと、それこそ生活保護制度しか支えられる制度がなくなってしまいます。
そして、近年、実際に、高齢者の低・無年金世帯の生活保護利用者が急増しており、11月8日に公表された最新の統計では、生活保護世帯のうち約47%を占めています。
特に若年層にハケンをはじめ、非正規労働が拡大している状況では、いまは大きな問題としては表にでなくても、彼ら・彼女らが65歳以上になる30年後~40年後などには、生活保護の急増などの社会保障費の爆発的な増大という形で、日本社会に大きなインパクトを与える可能性があります。
一生ハケンは時限爆弾
もちろん、厳しいグローバルな競争のなかで、企業が人件費を削減したい、社会保険料負担を減らしたい、というのは自然な発想かもしれません。また、短期的には派遣労働などの非正規労働者の雇用によってコストをカットし、業績が回復するかもしれません。
しかし、中長期的には非正規労働の拡大は、特に社会保障費の増大という形で、企業ではなく、私たちの社会全体、国の財政に大きな負担として重くのしかかります。まさに時限爆弾のように。
もちろん、企業が負担しない分を税金でなんとかすればいいじゃないか、というような太っ腹な財政状況であれば問題はないのですが、実際にはそうはいきませんよね。
個人と企業と国とが、それぞれどのように負担し、どのように必要な人に分配していくのか。一生ハケンという働き方・働かせ方が一般的になったら、私たちは将来的に大きなリスクをおってしまう可能性があります。
私たちがどのように働くのか、どうやって生計を立てていくのか。企業と国はどのように役割と責任を分担していけるのか。いま、重要な岐路に立っているのかもしれません。
大西 連
認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい
1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わっています。東京プロジェクト(世界の医療団)など、各地の活動にも参加。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言しています。