2014年11月23日日曜日

安倍首相は自民が88名落ちても政権を維持すると

 安倍首相は18日の記者会見で「自公の与党で過半数(238人)をとれなければ退陣する」と会見で語り、低いハードルを設定して保身に走りました。自公の現有議席は326で公明党はまず議席を減らさないので、自民党議員がたとえ88名減っても政権を維持すると、首相の座に対する執念を示したわけです。
 
 しかしこの「首相の保身にとって安全な数字(238議席)」に対してはさすがに党内でも「あまりに消極的な目標だ。現場の士気にかかわる」と批判が出て、自公両党の幹事長、国対委員長らが19日に会談し、与党で常任委員長を独占し、全委員会で委員の過半数を占める「絶対安定多数」となる266議席⇒270議席以上を目指す方針を確認しました。これは逆算すると自民党が56名~60名落ちてもいいと言う数字です。
 
 この数字が取れなければ安倍氏が退陣するのかはまだ不明ですが、党内における地位が揺らぐことは間違いないでしょう。
 自民党の大島理森議員が19日述べたように「何議席取れればどうなんて話は早すぎる」のですが、安倍首相は続投宣言を急ぎたかったようです。
 
 東京新聞が衆院選「3つの議席数」とする記事を掲げました。
 五十嵐仁の転成仁語「自民党が必ずしも勝つとは言えない・・・」も併せて紹介します。
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衆院解散 12・14投開票 カギとなる「三つの議席数」
東京新聞 2014年11月22日 
 衆院は二十一日の衆院本会議で解散された。政府はその後の臨時閣議で、十二月二日公示-十四日投開票の日程を正式に決定。安倍晋三首相(自民党総裁)は今回の解散を「アベノミクス解散」と名付け、政権の継続を強調。野党側はアベノミクスで格差が拡大したとして転換を訴えた。与野党は事実上の選挙戦に突入した。
 
 四百七十五議席を競い合う選挙戦で国民が選択する「三つの岐路」は、安倍晋三首相が「アベノミクス」と呼ぶ経済政策、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使容認に踏み切った安全保障政策や憲法、原発再稼働を進める政策-の是非だ。三つの岐路の方向に影響を与える三つの数字がある。
 
 最も基本的な数字は、議席の過半数「二三八」だ。これは「安倍路線」の政策が継続するかどうかに直結する。
 自民、公明の与党が二百三十八議席を大きく上回れば、アベノミクスを具体化した二〇一四年度補正予算案や一五年度予算案は、与党の賛成だけで成立させられる。参院でも与党が過半数を持っているためだ。金融緩和を進める日銀の総裁や理事の人事案も同様だ。
 安全保障政策もそうだ。首相は来年の通常国会で、海外での武力行使に道を開く集団的自衛権の行使容認を含む安全保障法制の整備を進める意向だ。憲法の解釈に関わる重大法案だが、過半数の議席で衆院を通過させることができる。ただし、政権を維持しても議席を減らせば、法整備にブレーキがかかったり、修正されたりするのは確実だ。
 
 「三分の二」は衆参両院による改憲の発議に必要な議席数「三一七」だ。二年前の衆院選では、改憲勢力はこれを上回った。
 安倍政権は憲法解釈の変更にとどまらず、改憲を今でも視野に入れている。参院では九条改憲を主張する自民党と次世代の党を合わせても三分の二を下回っており、今回の衆院選で改憲勢力が三分の二を上回っても、すぐに改憲の発議はできない。ただ、三百十七議席を取れば、次の参院選は改憲発議ができるようになるかどうかの重要な局面になる。
 
 「脱原発」の行方に影響する数字は、一二年の前回衆院選で原発ゼロを公約した政党が獲得した議席総数「一二六」だ。
 今回の衆院選では各党の公約がまだ出そろっておらず、どの党が原発ゼロを掲げるのかは確定していない。世論調査では脱原発を求める声の方が多く、国会の勢力とはねじれがある。衆院選で世論と比例した結果が出れば、安倍政権へのプレッシャーとなる。
 
 私たちの投票でこれらの三つの議席数が決まり、政策を動かすことになる。 (金杉貴雄)
 
 
総選挙で自民党が必ずしも勝つとは言えないこれだけの理由 
五十嵐仁の転成仁語 2014年11月22日
 前回の総選挙で自民党は大勝しました。しかし、一皮めくれば、その勝利は極めて脆弱なものです。
 決して盤石な形で与党が勝利したわけではないということ、別の形で言えば、野党にも挽回するチャンスは十分に残されているということを、いくつかの数字をもとに検証してみたいと思います。
 
 まず第1に、前回の自民党勝利は得票数を増やしたためではないということです。過去3回の総選挙を見ると、小選挙区で自民党は、3252万票(05年)→2730万票(09年)→2564万票(12年)という結果でした。
 自民党有利とされる小選挙区で、05年から09年にかけて522万票、09年から12年にかけて166万票と票を減らし続け、あわせて約700万票も支持を失ってきました。総選挙で勝利して政権を取り返した12年でさえ、政権を失った前回から票を減らしていたのです。
 ちなみに、比例代表区での減り方はもっと大きく、05年には2589万票だったものが09年には708万票減らして1881万票となり、さらに12年には219万票減らして1662万票となっています。05年との比較で言えば、政権を奪還した12年総選挙でも約900万票もの減少になりました。
 
 第2に、このように票を減らしてきた自民党が前回の12年総選挙で勝利できたのには、二つの理由があります。一つには、民主党の裏切りと政権交代への幻滅によって投票所に足を運ばなかった人が激増したことであり、もう一つは、日本維新の会・みんなの党・日本未来の党などの「第三極」の台頭によって野党の票が分散したことです。
 12年総選挙での小選挙区の投票率は59.32%で、69.28%だった09年総選挙と比べて9.96ポイントも低下しました。投票数にして1096万票もの減少です。比例代表も同様で、69.27%から59.31%へと9.96ポイント低下し、1020万票の減少となりました。
  12年総選挙で敗北した民主党は、小選挙区でも比例代表区でも前回の09年総選挙より約2000万票減らしましたが、そのうちの半分は棄権に回り、残りは第三極に流れたものとみられます。その結果、自民党が漁夫の利を得たというわけです。
 
 第3に、このような自民党にとって特に有利な結果が出たのは小選挙区制のカラクリによるものでした。小選挙区では相対多数の得票をした候補者が当選しますから、野党が乱立すれば自然に自民党の候補者が有利になります。
 こうして、09年総選挙と比べて自民党は、小選挙区で173議席も増やして237議席を獲得する大勝利となりました。他方、比例代表区では09年の55議席から12年の57議席へと、たった2議席しか増えていません。
 この時の自民党の有権者対比での得票率(絶対得票率)は小選挙区で25%、比例代表区では16%にすぎなかったのです。有権者のたった4分の1の支持しか集めていない政党が巨大な与党になれたカラクリは、小選挙区制という選挙制度にありました。
 
 以上の結果を見れば、前回の総選挙では自民党が勝ったのではなく、野党が負けたのだということが分かります。特に、有権者を失望させて選挙から退出(棄権)させた民主党の責任は大きく、自民党に対抗すべき「第三極」諸党による票の分散も野党の側のオウンゴールを生み出す結果となりました。
 今回の総選挙でこのような問題点を克服できれば、野党の敗北は避けられ、自民党をアシストすることもなくなるでしょう。そのためには、有権者の負託にこたえられるような選択肢が提起されなければなりません。
 そのような選択肢はあるのでしょうか。それを明確に提起できるのか、それを有権者にどのように認知してもらえるかが、今回の総選挙の重要な課題になっています。