田中宇氏が掲題の記事を出しました。
田中氏は、ロシアのプーチンはウクライナ戦争を今のテンポで5年以上続けるようとしているのではないかと述べています。その間にプーチンは、BRICSや上海機構、G77+などとして結束し 米国に依存しない非米・多極型の世界システムの構築を、着実に且つ有利に進めることが出来ると考えているのだと見ています。
要するに米国の単独?覇権主義は簡単には退場しないだけでなく、それなりに「非米組織」の成長を妨害しようとするので、ウクライナ戦争を継続しつつ徐々にその道を整備しようとしているということです。
ウクライナにとってこれほど迷惑な話はありませんが、元々 米国と歩調を合わせてドンバス地区へのロシア侵攻を煽った責任はウクライナにもあります。
ウクライナ戦争を引き起こした米国の本心が一体何であるのかをもう一度考えて、ウクライナは今後の針路を判断すべきでしょう。
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ウクライナ戦争の永続
田中宇の国際ニュース解説 2024年8月27日
最近、ウクライナ戦争がずっと続くのでないかと思い始めている。「ずっと」とは、5-25年とか。
これまでは、トランプが米大統領に返り咲いたら和平交渉を仲裁して停戦和解を実現するとか、ゼレンスキーが習近平に頼んで和平交渉が始まるとか、ロシア軍がオデッサなどに進軍・占領してウクライナが分割されて戦争当事者がいなくなって終わるとか、いろんな戦争終結への道が予想されていた。
NATOとロシアの直接交戦に発展して、核戦争の第三次世界大戦になる説もありえた。
(Kursk Attack Derailed Partial Ceasefire Deal)(習近平がウクライナの停戦を仲裁しそう)
しかし、露軍がドンバスからオデッサの方に占領を拡大していかない現状や、8月6日からのウクライナ軍のクルスク侵攻へのロシアの対応を見ていると、プーチンのロシアはウクライナ戦争を膠着したままできるだけ長期化したいのだろうと感じられる。(Ukraine Sends One Of Largest Ever Drone Attacks On Russian Capital)(ノボロシア建国がウクライナでの露の目標?)
2022年春のウクライナ開戦は、米欧(米国側。G7やNATO)が、ロシアやその仲間たちを徹底的に経済制裁し、世界を、露敵視の米国側と、露敵視に乗らない中国などBRICS・非米側とに決定的に分裂させた。
それまでの世界は、経済も政治も、英米がこの200年間で作ったシステムで動いていた。米国側のシステムが世界を席巻・支配しており、新興諸国や途上国は米欧にピンハネされっぱなしだった。(米露の国際経済システム間の長い対決になる)
米国が理不尽な侵攻や政権転覆を乱発した2001年以降のテロ戦争や、米国中心の金融システムが崩壊(ゾンビ化)したリーマン危機以降、中露など非米側は、米覇権の衰退や不合理化を感じ取り、対策として、BRICSや上海機構、G77+などとして結束し、米国に依存しない非米・多極型の世界システムの構築を目指した。
だが、既存の米国側のシステムに依存し続けた方が便利であり、非米側の独自システムはなかなか構築されなかった。
ウクライナ開戦は、こうした非米側の行き詰まりを吹き飛ばした。米覇権・米国側は衰退期に入っており、中露や非米側がウクライナ開戦後の新事態を利用して非米的な独自の世界システムを構築して移行しない限り、いずれロシアだけでなく中国など他の諸大国も、米覇権を延命させるために米国側から制裁されて弱体化されてしまう。
中露BRICSは、団結して非米的な新しい世界システムの構築と利用開始を急ぐことにした。原始的なものであるが非ドル決済体制が作られ、BRICSの拡大も実現した。
今年のBRICSサミットは10月にロシアで開かれる予定で、BRICS諸国の通貨を使った非ドル決済体制が発表されると予測されている。
ウクライナ開戦直後、露中などBRICSは、金地金や石油ガスなどの価値に依拠した「金資源本位制」の通貨体制を模索していると言われていた。世界的に、資源類の利権や保有量は、米国側から非米側に移りつつある。
だが、金地金や石油ガスの価格は、米英が管理(支配)する市場で相場が決定されている。非米側は価格決定権を奪えない。米英は、非米側の通貨体制を破壊するため、金資源類の相場を抑止ないし乱高下させる。ドルや債券の究極のライバルである金地金の価格は、ずっと前から米英当局によって抑止され続けてきた。
そんな感じで、非米側のシステム構築は難問が山積しており、当初に考えられていたよりも長い時間がかかる。新システム構築の内情が漏れると米国側に対策をとられるので、非米側はシステム構築について何も語らなくなった。構築の進捗度も不明になった。
(BRICS共通通貨の遅延)
ウクライナ戦争の態勢(米国側の露敵視)が続く限り、非米側は米国側から隔絶されたまま、独自の世界システムの構築や改善を継続できる。
逆に、和解交渉と停戦によってウクライナ戦争の態勢が終わると、非米側が米国側の世界システムを再び使えるようになる。まだ非米側より米国側のシステムの方が便利なので、非米側の一部が米国側のシステムに戻り、結束が崩れかねない。
米国側システムは便利だが、非米側からピンハネする体制であり、米国が気に入らない非米諸国を勝手に経済制裁できる体制でもある。非米側の長期的な発展のためには、米国側との再統合を避け、非米側の独自システムの構築を完遂した方が良い。
だが、ウクライナ戦争が早めに終わったら、そうした理想よりも、日々の利便性が優先されて非米システムが放棄されかねない。ほとぼりが冷めたら、ロシアは再び制裁される。
それを防ぐため、プーチンはウクライナ戦争を犠牲の少ない膠着状態で永続させることを考え続けている。これは、ロシアを発展させる策でもある。
(ウクライナ戦争で米・非米分裂を長引かせる)
米国側は、ロシアを敵視するほど、ロシアと非米側を強化し、米国側を自滅させてしまう。米国は、この構図を知らずにロシアを敵視しているのか??。そうではない。米覇権を運営する諜報界は、この構図を熟知した上で、意図的に自滅策を続けている。
なぜか。いつもの説明になるが、米中枢(諜報界)の覇権運営勢力は、当初から、他の大国の台頭を許さない単独覇権主義者(勝利と支配が大好きなアングロサクソン・英国系)と、世界経済の発展を極大化するため諸大国が並び立つ多極型世界になった方が良いと考える多極主義(ロックフェラーとか資本家)の勢力がいて暗闘している。多極主義者は単独覇権主義者の裏をかくため、単独覇権戦略を稚拙に過激にやって意図的に失敗させる策を繰り返してきた。
暗闘の中心は、露中と米国との関係をめぐるものだ。米国(多極派)は、2度の大戦に協力する見返りとして英国から覇権を譲渡された時、国際連合を作って覇権を機関化し、国連の最上部に、露中と米英が並び立つ多極型の安保理常任理事国(P5)を置いた。
英国系は、この体制を壊すため冷戦を起こし、露中と米英を恒久対立させた。多極派は40年かけて冷戦を終わらせ、ソ連が崩壊したが、英国系は冷戦後のロシアを延々と混乱・弱体化させ、敵視し続けた。中国も天安門事件を誘発され、トウ小平は対米自立を30年先送りした。
英国系は世界が多極型に転換するのを阻止し続けた。多極派は、新たな対策が必要になった。
英国系は、冷戦後の米国覇権を金融主導に転換し、多極派はそれを甘受して10年待った後、覇権の金融化で冷や飯を食わされていた米軍産複合体を誘って自作自演の911テロ事件をクーデター的に起こし、軍産が傀儡組織のアルカイダISに各地でテロをやらせ、稚拙で過激なイラク戦争など覇権浪費の政権転覆を続発した。
2008年には、金融覇権のバブル崩壊であるリーマン危機も起きた。米国の凶暴化と覇権自滅を尻目に、露中は結束して上海機構やBRICSを作り、多極化の準備を進めた。
単独覇権派のふりをして過激に稚拙にやって自滅させる多極派が米諜報界を握る傾向が強まり、米欧自滅が隠れた目的である地球温暖化対策(石油ガス禁止。非米側への利権移動)や新型コロナの超愚策(都市閉鎖で経済自滅。中国は独裁強化)、欧米のリベラル全体主義化などが連発された。
そして極めつけが、ロシアを陥れて潰すはずが強化し、非米側を結束させ、欧州やNATOを自滅させていく隠れ多極化策のウクライナ戦争だった。
ウクライナ戦争は、米国側を握る隠れ多極派と、プーチンのロシアの両方が永続化を画策している。戦争構造が長期化するほど、露中・非米側が台頭し、米国側の自滅が加速し、世界が米覇権から多極型に転換する。
ウクライナ自体は、ロシアとの勝てない戦争を延々とやらされて潰れていく捨て駒だ。ゼレンスキーが習近平やトランプに和平仲裁を頼みたいと考えていたのは事実だろう。ハンガリーのオルバンは、ゼレンスキーに頼まれて世界を回った。
だが、ウクライナを傀儡化して戦争させている米諜報界の隠れ多極派は、停戦でなく戦争永続を画策している。彼らは、ゼレンスキーを迂回してウクライナ軍を動かしてロシア側のクルスクに侵攻させ、和平の機運を潰した。
(West risking WWIII - Italian deputy PM)(対露和解を望み始めたゼレンスキー)
ウクライナ軍は、米欧から支給された兵器でロシアを攻撃し続けている。米欧は、直接ロシアを侵攻している状況に近い。ロシアは、報復として米欧諸国の本土を攻撃できるが、それやると米露の世界大戦になりかねない。
実際は、ロシアが米欧の本土を報復攻撃することはない。プーチンはウクライナからの攻撃を放置するだけで、ロシア本土を攻撃するウクライナと和解できるはずがないと言って和平交渉を拒否できる。(Don't Expect A Radical Response From Russia To Washington's Involvement In Ukraine's Invasion Of Kursk)
米欧のマスコミは、ウクライナがクルスク侵攻など露本土を積極攻撃し始めたことで、ウクライナが窮地を挽回する新境地に入ったと喧伝している。
本当は、ロシアがウクライナからの攻撃を放置する恒久化策を採っているだけなのだが、米欧が好戦的な誤報を重ねるほど、米欧からの敵視が永続化され、ロシアやBRICSは非米世界システムの構築・強化に必要な時間を長くとれて好都合だ。
クルスクを占領するウクライナ軍に対し、露軍が反撃して追い出そうとしていると、毎日ロシアで報じられている。実のところプーチンの露政府は、戦争状態の長期化を企図しており、露軍の反撃はふりだけだ。(The hazards of Ukraine's incursion into Russia)
しかし、このまま何週間も露軍がクルスクのウクライナ軍を追い出せないと、ロシア国内で、軍はもっとしっかりやれと苛立つ世論が出たりしないのか??。
たぶん出ない、というか、そうした世論は抑止されている。開戦から2年以上が過ぎ、膠着状態が続いているが、それについて軍や政府やプーチンの能力を批判する世論はほとんどない。
露当局は、世論操作をうまくやっている。このまま何年間もこの状態を続けられるなら、ウクライナ戦争が低強度で5年以上続くことも十分考えられる。
(Ukraine’s Kursk offensive marks Putin’s third major humiliation of the war)
ドナルド・トランプは、選挙に勝ったらすぐにウクライナ停戦を実現すると豪語している。私はこれまで、彼のこの手の発言を真に受けて分析記事を書いてきた。
だが現実を見ると、ウクライナ停戦はクルスク侵攻によって難しくなった。
難しくなったからこそ、トランプによる停戦仲裁を望む米国の世論が強まり、ポピュリズムに乗ってトランプが、自分が当選したらすぐ停戦を成功させると豪語している。
(Here’s why Russia doesn’t care about Trump)
このような流れと、実際にトランプが停戦を実現できるかどうかは別物だ。トランプの目的は当選だ。当選後、頑張って仲裁しても停戦が実現しない場合、トランプの人気が急落するかといえば、多分そうでない。
米国が抱えている問題はたくさんあり、経済や違法移民など国内問題で改善があれば、支持者はトランプを称賛し続ける。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。