2024年8月3日土曜日

03- NATO首脳宣言と新保守主義の致命的な戦略(賀茂川耕助氏)

 ワシントンで行われたNATO首脳会議(ゼレンスキーも出席)は7月10日、「NATO首脳宣言」を出しました。それにはウクライナのNATO加盟(に向けての動き)はもはや「不可逆」の段階であり、NATOは来年以降も毎年7兆円以上の対ウクライナ支援を続けることなどが盛り込まれましたが、それは世界を核戦争に近づけるものでした。NATOもまた「戦争マシーン」です。

 NATOを防衛的な軍事同盟と呼ぶ人もいますが、ソ連勢力の拡大を阻止するという設立の趣旨から見ればそうも言えますが、ソ連自体が1991年12月に消失したのですから、目的を達したわけで本来は解体すべきものでした。ところがいまでは逆にNATO圏をロシアの国境に接するまで拡大しようと画策する危険な存在になっています。
 「耕助のブログ」に掲題の記事が載りました。
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NATO首脳宣言と新保守主義の致命的な戦略
                耕助のブログNo. 2226  2024年8月2日
  The Nato Declaration and the Deadly Strategy of Neoconservatism
                            by Jeffrey D Sachs
アメリカの安全と世界平和のために、アメリカは直ちにネオコンによる覇権主義を放棄し、外交と平和共存を優先すべきである

1992年、米国の外交政策は例外主義に走った。米国は常に自らを指導的立場にある例外的な国{1}とみなしてきたが、1991年12月のソビエト連邦の崩壊は、米国が揺るぎない唯一の超大国として世界を支配すべきだと、新保守主義派(ネオコン)と呼ばれるようになった熱心なイデオローグたちを納得させたのである。ネオコンの手による数え切れないほどの外交政策の失敗にもかかわらず、NATO首脳宣言2024{2}はネオコンのアジェンダ⇒計画、実行課題を推し進め続け、世界を核戦争に近づけている。
新保守主義派(ネオコン)は1992年に国防長官だったリチャード・チェイニーに率いられたのが始まりである。それ以来、クリントン、ブッシュ、オバマ、トランプ、バイデンと、どの大統領も米国の覇権というネオコンのアジェンダを追求し、セルビア、アフガニスタン、イラク、シリア、リビア、ウクライナなど、米国を永続的な選択戦争に導き、また1990年に米国とドイツがミハイル・ゴルバチョフ・ソ連大統領{3}に「NATOは1インチたりとも東進しない」と明確に約束したにもかかわらずNATOを執拗に東進させてきた

ネオコンの考えの核心は、米国は世界のどの地域でも潜在的なライバルに対して軍事的、財政的、経済的、政治的に優位に立つべきだというものである。特に中国やロシアといったライバル国を標的にしているため、米国は彼らと直接対決することになる。米国の傲慢さには驚かされる。世界の大半は米国に主導されることを望んでおらず、ましてや明らかに軍国主義、エリート主義、強欲に突き動かされた米国に主導されることなど望んでいないのだ。
米国の軍事的支配を目指すネオコンの計画は、『Project for a New American Century』(新しいアメリカの世紀プロジェクト){4}に明記されている。この計画にはNATOの東方への容赦ない拡張と、NATOを、今は亡きソ連に対する防衛同盟から、米国の覇権を推進するための攻撃同盟へと変貌させることが含まれている。米国の兵器産業は、ネオコンの主要な財政的・政治的支援者である。軍需産業は、1990年代からNATOの東方拡大{5}のロビー活動の先頭に立っていた。ジョー・バイデンは上院議員、副大統領、そして大統領と、最初からネオコン一筋できた
覇権を達成するために、ネオコン計画はCIAの政権交代作戦に依存している。米国主導で選択して行う戦争、 米軍の海外基地(現在、少なくとも80カ国に約750の海外基地がある{6})、 先端技術の軍事化(生物兵器、人工知能、量子コンピューティングなど)、 そして情報戦の執拗な利用である。

米国覇権の追求は、ウクライナにおいて世界を2大核保有国であるロシアと米国の間の戦争に追いやった。ウクライナでの戦争は、ロシアの熱烈な反対にもかかわらずNATOをウクライナに拡大しようとする米国の執拗な決意と、中立的な政府を転覆させた暴力的なマイダンのクーデター(2014年2月への米国の参画、そしてウクライナ東部の民族的にロシア的な地域の自治を求めたミンスク第2合意を米国が台無しにしたことによって引き起こされたものである。
NATO首脳宣言はNATOを防衛同盟と呼んでいるが事実はそうではない。NATOは政権交代作戦を含む攻撃的作戦を繰り返しているNATOはセルビアを二分するための空爆を主導し、コソボの分離独立地域に主要軍事基地を置いた。NATOは米国が選んだ多くの戦争で主要な役割を果たしてきた。NATOによるリビア空爆はカダフィ政権を転覆させるために使われた。
1992年当時は傲慢かつ賢明ではなかった米国の覇権追求は、今日ではまったくの妄想である。なぜなら、米国は戦場や核兵器の配備、先端技術の生産と展開において、米国に対抗できる手ごわいライバルに明らかに直面しているからだ。中国のGDPは現在、国際価格で測定した場合、米国を約30%上回っており、中国はEV、5G、太陽光発電、風力発電、モジュール式原子力発電など、多くの重要なグリーン・テクノロジーを低コストで生産する世界的な供給者ある。中国の生産性は今や、米国が中国の「過剰生産能力」に不満を漏らすほどである。

悲しいことに、そして憂慮すべきことにNATO首脳宣言はネオコンの妄想を繰り返している。
首脳宣言は、2014年のウクライナ戦争勃発につながったのは米国の挑発であるにもかかわらず、「ロシアはウクライナに対する侵略戦争に単独で責任を負う」と虚偽の宣言をしている。
NATO首脳宣言は、NATOの東方拡大はロシアにはまったく関係がないというNATOワシントン条約第10条{7}を再確認している。しかし米国は、1823年のモンロー・ドクトリンで初めて宣言し、それ以来再確認しているように、ロシアや中国がアメリカ国境(例えばメキシコ)に軍事基地を設置することを決して受け入れないだろう。
NATO首脳宣言は、米国国立衛生研究所(NIH)がCOVID-19パンデミックを引き起こした可能性のあるウイルスの実験室での作成に資金を提供したという証拠が増えているにもかかわらず、NATOの生物防衛技術へのコミットメントを再確認した。
NATO首脳宣言は、米国がABM条約を脱退し、ポーランドとルーマニアにイージスミサイルを配備したことで、核軍備管理体制が大きく不安定化したにもかかわらず、対弾道弾用イージスミサイルを配備し続けるというNATOの意向を表明している。(ポーランド、ルーマニア、トルコにすでに配備している)
NATO首脳宣言は、ウクライナの交渉による和平にまったく関心を示していない。
NATO首脳宣言は、ウクライナの「NATO加盟を含む完全なユーロ・大西洋統合への不可逆的な道」を断固として進むとしている。しかし、ロシアはウクライナのNATO加盟を決して認めないだろう。つまり、「不可逆的」は、戦争への不可逆的なコミットメントなのだ。
ワシントン・ポストによれば{9}、バイデンはNATOサミットに先立ち、ウクライナのNATO加盟への「不可逆的な道」を約束することに重大な懸念を抱いていたが、バイデンのアドバイザーたちはその懸念を一蹴したという。
ネオコンたちは、米国と世界に数え切れないほどの災難をもたらした。いくつかの戦争での失敗、何兆ドルもの無駄な戦争による軍事費によって引き起こされた米国の公的債務の増大、中国、ロシア、イランなどとのますます危険な対立などである。ネオコンは、1992年には17分だった終末時計{10}を、真夜中(核戦争)まであと90秒に近づけた。
米国の安全と世界平和のために、米国は直ちにネオコンによる覇権主義を放棄し、外交と平和的共存を優先すべきである。
悲しいかな、NATOはまさにその逆を行っている。
Links:
{1}https://www.amazon.com/New-Foreign-Policy-American-Exceptionalism/dp/023118848X 
{2} https://www.nato.int/cps/en/natohq/official_texts_227678.htm 
{3}https://nsarchive.gwu.edu/briefing-book/russia-programs/2017-12-12/nato-expansion-what-gorbachev-heard-western-leaders-early 
{4} https://resistir.info/livros/rebuilding_americas_defenses.pdf 
{5}https://www.nytimes.com/1998/03/30/world/arms-contractors-spend-to-promote-an-expanded-nato.html 
{6}https://globalaffairs.org/bluemarble/us-sending-more-troops-middle-east-where-world-are-us-military-deployed 
{7} https://www.nato.int/cps/en/natohq/topics_49212.htm#:~:text=NATO’s%20%22open%20door%20policy%22%20is%20based%20upon%20Article%2010%20of,of%20the%20North%20Atlantic%20area%22. 
{8}https://www.commondreams.org/opinion/covid-19-gain-of-function-us-research 
{9}https://www.washingtonpost.com/national-security/2024/07/09/nato-biden-ukraine-membership/ 
{10}https://www.commondreams.org/opinion/nuclear-armageddon 
https://www.unz.com/article/the-nato-declaration-and-the-deadly-strategy-of-neoconservatism/