2024年8月21日水曜日

21- 傲慢さが自らの破滅を招いた西側諸国 (櫻井ジャーナル)

 櫻井ジャーナルに掲題の記事が載りました。
 欧州はロシア制裁の名のもとに、ロシアからのノルドストリームによる廉価な天然ガスの供給を早々に停止しました(その後ライン自体を破壊)。しかしそれによってもたらされたものは、燃料であるとともに工業原料でもあった天然ガスの大幅な高騰であり、それらに起因する大インフレでした。
 ウクライナ軍は6日ロシアのクルスクへ軍事侵攻しました。その部隊はアメリカ、イギリス、フランス、ポーランドの特殊部隊各国から集められた傭兵が参加していると見られています。
 クルスクには石油基地がありそこから欧州に送油していたのですが、そのラインを破壊するが目的だとも言われています欧州への送油は制裁対象外)。

 ガザの悲劇が象徴的ですが、いまや西側の論理?=価値観? を「尊重する」グループは限定されています。そんな風に次々と自分たちの首を絞めてどうしようというのでしょうか。
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傲慢さが自らの破滅を招いた西側諸国  
                          櫻井ジャーナル 2024.08.21
 8月6日にウクライナのスーミからロシアのクルスクへ軍事侵攻した部隊はウクライナ兵だけでなく、アメリカ、イギリス、フランス、ポーランドの特殊部隊、そして各国から集められた傭兵が参加していると見られている。
 アメリカをはじめとする西側諸国がウクライナ制圧作戦を本格化させたのは2004年から05年にかけての「オレンジ革命」からだ。それまでの中立政策を変えさせ、西側の私的権力に従属する体制を築こうとしたのだが、彼らの傀儡だったビクトル・ユシチェンコの新自由主義政策でウクライナ人の怒りを買い、2010年の大統領選挙でもビクトル・ヤヌコビッチが勝利。そこで2013年から14年にかけてネオ・ナチを利用したクーデターを実行、西側資本の属国にしたわけである。

 このクーデターをヤヌコビッチの支持基盤だった東部と南部は拒否、クリミアはロシアの保護下に入り、ドンバスでは武装闘争を始めた軍や治安機関の約7割は新体制を拒否したと言われているが、クリミアの場合は9割近い兵士が離脱したと伝えられている。アメリカに従属することを当然だと考えている人びとはウクライナでの動きを受け入れられないようだ。
 こうした状況にあるため、クーデター軍はドンバスのクーデター軍を制圧できない。そこでアメリカをはじめとする西側諸国はクーデター軍を強化するための時間が必要になる。そのためのミンスク合意(I、II)だったことはドイツの首相だったアンゲラ・メルケルやフランス大統領だったフランソワ・オランドも認めている。
 8年かけて西側はウクライナへ兵器を供給、兵士を訓練、ドンバスの周辺に地下要塞を建設、それを軸に要塞線を築いた。その間、ナチズムを少年少女に叩き込んでいる。12歳の子どもは8年後に20歳だ。

 2022年に入るとクーデター軍はドンバスへ軍事侵攻する動きを見せ始め、砲撃も激化するのだが、キエフ側が動く前にロシア軍が動いた。2022年2月だ。
 ロシア軍は2月24日からウクライナに対する攻撃を開始。ミサイルなどでドンバス周辺に集結していたウクライナ軍の部隊を攻撃、航空基地やレーダー施設、あるいは生物兵器の研究開発施設を破壊し始める。これでロシア軍の勝利は確定的だった。
 そこでイスラエルの首相だったナフタリ・ベネットを仲介役として停戦交渉を開始、双方とも妥協して停戦の見通しが立ち、ベネットは3月5日にモスクワへ飛ぶ。彼はウラジミル・プーチンと数時間にわたって話し合い、ゼレンスキーを殺害しないという約束をとりつけることに成功した。
 その足でベネットはドイツへ向かい、オラフ・ショルツ首相と会うのだが、その3月5日にSBUのメンバーがキエフの路上でゼレンスキー政権の交渉チームに加わっていたデニス・キリーエフを射殺している。クーデター後、SBUはCIAの下部機関だ。
 停戦交渉はトルコ政府の仲介でも行われた。アフリカ各国のリーダーで構成される代表団がロシアのサンクトペテルブルクを訪問、ウラジミル・プーチン大統領と6月17日に会談しているが、その際、プーチン大統領は「ウクライナの永世中立性と安全保障に関する条約」と題する草案を示している。その文書にはウクライナ代表団の署名があった。つまりウクライナ政府も停戦に合意していたのだ。

 こうした停戦交渉をアメリカとイギリスが壊してしまう。4月9日にイギリスのボリス・ジョンソン首相はキエフへ乗り込んでロシアとの停戦交渉を止めるように命令し、4月30日にはアメリカのナンシー・ペロシ下院議長が下院議員団を率いてウクライナを訪問、ゼレンスキー大統領に対し、ウクライナへの「支援継続」を誓う。
 それ以降、ロシアとの戦闘にNATOが関与していく。武器弾薬を提供し、軍事訓練を施すだけでなく、ISR(情報・監視・偵察)データを提供、さらに作戦を立てるようになる。ウクライナの敗北が明確になるにつれ、西側は高性能兵器を供与するようになるのだが、ウクライナ側の状況は悪化するばかりだ。

 パレスチナでも言えることだが、西側は泥沼にはまりこみ、抜け出せなくなっている。こうした状況に陥った原因は自分たちを過大評価し、相手を過小評価したことにある。その傲慢さが自らを追い詰めることになり、核戦争の危険性を高めているのだ。
 外交問題評議会(CFR)が発行している定期刊行物​「フォーリン・アフェアーズ」の2006年3/4月号に掲載されたキール・リーバーとダリル・プレスの論文でも、その傲慢さがわかる。ロシアと中国の長距離核兵器をアメリカ軍の先制第1撃で破壊できるようになる日は近い、つまり核戦争で中露に勝てるとしているのだ。
 それによると、ソ連の消滅でアメリカは核兵器の分野で優位に立ち、近いうちにロシアや中国の長距離核兵器を先制攻撃で破壊できるようになるだろうと主張している。
 リーバーとプレスはロシアの衰退や中国の後進性を信じ、アメリカが技術面で優位にあるという前提で議論している。自国の教育システムが崩壊し、知的水準が低下している現実に気づいていない。
 そうした現実をアップルのスティーブ・ジョブスは理解していた。論文が出た2年後、2010年の秋にバラク・オバマ大統領から彼は工場をアメリカで建設してほしいと頼まれたのだが、それを拒否している。ジョブスによると、アップルは中国の工場で70万人の労働者を雇っているのだが、その工場を機能させるためには3万人のエンジニア必要。アメリカでそれだけのエンジニアを集めることはできないというのだ。アメリカで工場を作って欲しいなら、それだけのエンジニアを育てる教育システムが必要だということである。

 ソ連消滅後、ボリス・エリツィン時代のロシアは西側の私的権力に支配され、惨憺たる状態なったものの、欧米の本性にロシア人は気づいて復活への道を歩み始めたのだ。ネオコンたちはそれに気づかなかった。現在では製造力の面でも科学技術の面でもロシアや中国は欧米を上回っている