「〇〇基金」と呼ばれるものは予算編成の「単年度主義」の例外として、複数年度にわたる中長期的な事業向けに積み立てる資金のことで、府省庁が独立行政法人や国立研究開発法人といった団体を運営主体に選定し、事業者や生産者らに補助金などを交付する基金が多いそうです。24年6月時点の基金数は実に200、その残高は17兆4千億円に上ります。
「基金」の設立自体が官僚の作文によって可能なのに加えて、一旦設立されれば国から予算が投じられた後の国会のチェックが行き届きにくく、必要以上にため込まれることもあり「埋蔵金」「たんす預金」などと批判されています。要するに官僚にとってこれほど旨味のある予算取りはありません。
23年3月10日の東京新聞によれば、21年度で27もの「休眠基金」があり、その残高は248億円、しかも維持管理費だけで年間12億円が掛かっていることが分かりました。
この問題は東京新聞の山口哲人記者が追及して来ました。以下に4つの記事を紹介します。
・管理費だけ計12億円超たれ流し…国の「休眠基金」が27も 原資は国費 識者「早期に清算し国庫返納を」 東京新聞 2023年3月10日
・利用申請わずか1件、経費は5300万円 経産省所管の基金、ずさんな実態浮かぶ 「省内調整できてなかった」 東京新聞 2023年3月22日
・「休眠基金」やはりムダだった 政府やっと11件廃止…5466億円が戻ってくるが「18基金は存続」 東京新聞 2024年4月23日
・河野太郎氏「カネ余り7兆円」を国庫返納させる考えなし 国の基金残高 理由は「次に金が必要になった時…」 東京新聞 2024年6月3日
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管理費だけ計12億円超たれ流し…国の「休眠基金」が27も 原資は国費 識者「早期に清算し国庫返納を」
東京新聞 2023年3月10日
国の府省庁が国費で設立した基金のうち、補助金交付などの本来の事業を全く行わず、事業費がゼロで支出が人件費などの管理費だけだった「休眠基金」が2021年度で27に上ることが、本紙の調べで分かった。休眠状態の残高は計248億円で、21年度だけで12億円超の管理費を支出。ほぼ機能していない基金の維持に国民の税金が使われている状態で、識者は「役目を終えた基金は早期に清算すべきだ」と対応を問題視している。(山口哲人)
◆経産省所管が17と突出
基金は地方自治体に設立されたものを除いて、21年度に12府省庁で計176あり、うち経済産業省と農林水産省が創設したものが全体の6割超を占める。残高は全基金の合計で12兆9228億円も積み上がっている。
本紙が全176基金を調べたところ、支出の全てが基金を運営する経費だけという「管理費率100%」で、本来の目的である補助金交付などを行わずに「事業費」がゼロだった基金は全体の15%にあたる27。経産省の所管が17と突出し、農水省と国土交通省がそれぞれ4、防衛省と復興庁が一つずつだった。
◆休眠基金はなぜ存続している? 担当者の説明は
例えば、革新的なサービスの創出や画期的な試作品の開発などを促す「ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援事業基金」(経産省所管)は、16年3月に新規の申請受け付けを終了。17年度以降の5年間は補助金を交付せず、管理費だけ計83億1900万円を支出した。
同じく経産省所管の「円高・エネルギー制約対策のための先端設備等投資促進基金」も14年3月で新規の申請受け付けを停止し、事業者への補助金支払いも16年度に終えた。それでも清算せず、管理費だけを支出し続けている。
農水省の所管では、国産畳の市場価格が下落した際、生産者に一定額を補填ほてんする事業を行う基金が「畳の価格が安定し、補填金を支払う必要がなかった」などとして、管理費のみの支出だった。
経産省の担当者は「休眠基金」を多数存続させていることについて、本紙の取材に「補助事業が終わっても数年間は事業の成果把握や補助金の事後手続きなど、事務作業が発生する場合がある」と説明している。
白鴎大の藤井亮二教授(財政学)は「基金はカネの流れが不明瞭になりやすい」とした上で「実質的に機能していない休眠状態の基金は管理費の支出を続けるのではなく、残った管理業務は所管省庁に移管するなどして清算し、残高を国庫に返納すべきだ」と指摘している。
国の基金 複数年度にわたる中長期的な課題に対応する事業を行うため、独立行政法人や国立研究開発法人といった団体を運営主体として設立される。単年度主義を原則とする予算の例外になる。弾力的な補助金の交付など柔軟な運用が可能だが、国会の監視が行き届きにくく、使用見込み額の過大な算定や似通った事業の実施など無駄遣いの問題も相次ぐ。2013年から所管する省庁が基金の収支や残高、事業の状況を定期的に公表している。
利用申請わずか1件、経費は5300万円 経産省所管の基金、ずさんな実態浮かぶ 「省内調整できてなかった」
東京新聞 2023年3月22日
中小企業や先端的な研究に取り組む機関などを支援する国の基金の中に、1件しか利用申請がないまま受け付けを終え、成果目標とした金額に対する達成率が0.048%にとどまった基金があることが、本紙の調べで分かった。最大360万円の支出見込み額に対し、経費としてかかった管理費は約15倍の5300万円で、本末転倒といえる結果となっている。利用申請が別の基金の補助事業に流れたのが主な理由で、ずさんな計画で安易に国費を投入している実態が浮かび上がる。(山口哲人)
国の基金 複数年度にわたる中長期的な課題に対応する事業を行うため、独立行政法人や国立研究開発法人といった団体を運営主体として設立される。単年度主義を原則とする予算の例外になる。弾力的な補助金の交付など柔軟な運用が可能だが、国会の監視が行き届きにくく、使用見込み額の過大な算定や似通った事業の実施など無駄遣いの問題も相次ぐ。2013年から所管する省庁が基金の収支や残高、事業の状況を定期的に公表している。
この基金は、経済産業省が所管する「先端低炭素設備導入促進補償制度推進事業」。太陽光発電や電気自動車など二酸化炭素(CO2)排出量が少ない設備の普及を目的に、設備を購入して貸し出すリース業者に損失が出た場合、補填ほてん金を支払う事業だ。2020年度第3次補正予算で、国費37億5800万円を投じて基金が設置された。
ところが、制度の利用申請があったのは21年度の1社のみで、補填金の支出見込み額は最大360万円。この損失補填はまだ発生しておらず、ほかに利用申請もないまま22年3月に新規の受け付けを終了した。基金は21、22年度に5300万円の管理費のみ支出。結局、今後支払う可能性がある補填金360万円だけを残し、37億100万円を22年9月に国庫に返納した。
この基金は当初、リース業者による1500億円規模の設備導入を目指した。ただ、導入実績は1社の7200万円分の設備だけで、目標に対する達成率は0.048%だった。
経産省の担当者は基金が機能しなかった理由について、同じ経産省が同時期に「事業再構築補助金」を交付するとして、別の基金(国費額計1兆8000億円)を設立したことを挙げる。事業者が損失確定時ではなく設備導入時に補助を受けられる制度で、「使い勝手の良い補助事業を多くの事業者が選択した。省内での擦り合わせや調整ができていなかった」と認める。
国の基金を巡っては全176のうち、補助金交付など本来事業を行わず、支出が人件費など管理費だけの「休眠基金」が21年度に27あったことが本紙の調べで分かっている。「先端低炭素設備導入促進補償制度推進事業」も1つで、21年度に補填金の支出はなかった。176基金には同年度末で総額約13兆円の残高が積み上がる。
白鷗大の藤井亮二教授(財政学)は「近年、経済対策を実施するために安易に基金を新設する傾向がある。類似の組織や重複する仕組みを新たに作るのではなく、既存の枠組みを活用し、財政を効率的に使うことができないかを探るべきだ」と指摘する。
◆「休眠基金」の3分の2が「管理費率100%」
国の府省庁が国費を投じてつくった基金に関し、2021年度に人件費などの管理費のみ支出した27の「休眠基金」のうち、3分の2にあたる18基金が「管理費率100%」を3年以上続けていたことが分かった。基金は、事業者らへの補助金交付などを目的に設立されており、休眠状態のまま多くを存続させることの是非が問われそうだ。
基金に関する政府の公表資料を本紙が分析したところ、18基金が19〜21年度に事業費を全く支出せず、中でも経済産業省所管の「低炭素型雇用創出産業立地推進事業」は15年度以降の7年間、管理費しか計上していなかった。
本紙は3月10日朝刊で、27基金が休眠状態にあると報じた。国側は存続させる理由として「補助金交付後の事業の進捗しんちょく確認」などを挙げているが、白鷗大の藤井亮二教授は「残った管理業務は所管省庁に移し、早く基金を清算すべきだ」と問題視している。(山口哲人)
「休眠基金」やはりムダだった 政府やっと11件廃止…5466億円が戻ってくるが「18基金は存続」
東京新聞 2024年4月23日
税金などを原資に中長期的な政策の推進に充てる国の基金のうち、本来業務の補助金交付などを行わず支出が管理費だけの「休眠基金」が多数存在する問題で、政府は11の休眠基金を2024年度末までに廃止する。22日のデジタル行財政改革会議で報告した。休眠基金を含む22年度末の基金全体の残高は約16兆6000億円にまで膨らんでいる。このうち5466億円を不要額として国庫返納させる。過大な国費を基金に投じてきたことが裏付けられた。
◆事業が終了しているのに管理費だけ支出
休眠基金を巡っては、補助金や損失補てん金の交付といった事業が終了しているのに、長期にわたり人件費などの管理費のみ支出し続ける基金が21年度に27あったことを本紙が昨年報じた。管理費は21年度に12億円超、22年度は約6億円に上り、識者らが「役目を終えた基金は清算すべきだ」と問題視し、国会でも野党が追及していた。
政府は23年12月、全ての基金の点検や見直しに着手。休眠基金は22年度末で29あり、23年度中に3基金が閉鎖され、8基金も本年度末までに解消し、残高を国庫返納させる。残り18の休眠基金は存続させる。
◆9基金は経産省が設立
廃止の11基金のうち、9基金は経済産業省が設立。同省所管の「円高・エネルギー制約対策のための先端設備等投資促進事業基金」は新設備を導入した事業者への補助金の支払いを16年度に終了。事業の効果分析を行う費用などの名目で管理費支出を続けていた。
存続する18基金について、政府の行政改革推進会議の担当者は「事業費の支出がまだ始まっていないものや、損失補てんのための基金でたまたま損失が出ず、管理費率が100%になったものだ」と説明する。
◆134基金には成果目標の設定なし
同会議が最新の全200基金を点検した結果、23年度に計約4342億円、本年度は計約1124億円が支出の見込みがないとして国庫に返納させる。新型コロナ対策の関連基金で過大な予算投入が目立った。
また、成果目標が設定されていない基金が134に上ったことから、今後は全ての基金に成果を検証できる目標を設けさせる。(山口哲人)
国の基金 ⇒ 年度ごとに予算編成する「単年度主義」の例外として、複数年度にわたる中長期的な事業向けに積み立てる資金。府省庁が独立行政法人や国立研究開発法人といった団体を運営主体に選定し、事業者や生産者らに補助金などを交付する基金が多い。国から予算が投じられた後は国会のチェックが行き届きにくく、必要以上にため込まれることもあり、「埋蔵金」「たんす預金」などと批判される。
河野太郎氏「カネ余り7兆円」を国庫返納させる考えなし 国の基金残高 理由は「次に金が必要になった時…」
東京新聞 2024年6月3日
残高が約17兆4000億円に膨れ上がっている国の基金を巡り、立憲民主党の城井崇氏は3日の衆院決算行政監視委員会で、「3年分の事業に必要な額を除き、残りを国庫返納するよう提案する」と求めた。河野太郎行政改革担当相は、今後は「3年分以上の予算措置はしない」としつつ、既存の基金の余剰額については「3年分以上のものが残っていても、機械的に『返納しろ』とはしていない」と拒否した。
政府の行政改革推進会議は昨年12月、「基金への新たな予算措置は3年程度とする」との方針を決定。これを受け、城井氏は「3年ルール」に基づく全200基金の余剰額の試算を衆院調査局に依頼し、少なくとも7兆4164億円は国庫返納の必要があるとの回答を得た。さらに、試算の条件次第では約9兆2247億円にも上った。
城井氏は3日の委員会で、既存の基金にも3年ルールを適用すれば「相当額の国庫返納が可能だ」と迫った。河野氏は「3年分を超えているとして(国庫に)返しても、次に金が必要になった時は国債発行で(基金に)金を入れなければならない」と説明。「金利上昇の局面で国債を発行するのはいかがなものか」と否定的な考えを示した。(山口哲人)